龍姫絶唱シンフォギア Sister of Dragonslayer   作:漣華

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とりあえず投げて剣を殴るのって格好いいですよね。


第零話 竜殺しと共に

「良かっ…た。ほんとに…良かった。」

 

誰かが声をかけてくれてる。

もう目を開けることすらしんどいし、声も掠れて誰かも分からない。

だけど声にこもった優しさを、私はこの優しい声を知っている。

 

「姉…さん?」

 

「あぁ…そうだ。姉ちゃんだ、ほんとに…生きててくれて…ありがとう。」

 

「姉…さん、私…」

 

「喋るな、頼むから喋らず大人しく…しててくれ。」

 

私は最後の力を振り絞り少しだけ目を開けた。

そこには私の大好きな姉さんの顔があった。だけど姉さんの顔は真っ赤な血で染まっていた。

姉さんの後ろには黒い鎧にマントを羽織って、右手にはエメラルドグリーンに輝く剣を持ったメガネをかけた男の人が悲しそうな目で姉さんを見つめていた。

 

「マスター…すまない。当方がもっと早く気が付いていれば…こんなことには…」

 

「謝んな。これは…あたしの責任だ。関係ないこいつを巻き込んだあたしの。」

 

「だがマスター…いや、分かっているのだろう。」

 

私には二人の言っていることが全くわからなかった。

そして二人がどうしてこんなにも悲しそうな顔をしているのかも。

私は、姉さんの顔に触れようと手を伸ばそうとするけどその指先に力が入らなかった。

それと同時にものすごい眠気が襲い掛かってきた。

少しずつ開けていた目が閉じ始めた。

 

「ッ!?おいっ!しっかりしろ!意識を強く持て!寝るな!」

 

「姉…さん、私ね。姉さん…と姉妹で…良かったって…思ってる。」

 

「喋るな!頼むから喋らないでくれ!お願いだから…これ以上私を独りぼっちにしないでくれ!」

 

「ふふっ…姉さんに泣き顔…なんて似合わない…よ?だから…笑って…ね?私が姉さんを…一人にするわけ…ないじゃ…ん。」

 

「もう、もういいから。頼むから…お願いだからぁ…」

 

姉さんの声が少しずつ遠のいてくる。

目はもうすでに閉じきってしまった。聞こえている姉さんの声だけが私の傍に姉さんがいることを教えてくれる。

 

「姉…さん、ごめんね。あの時…姉さんの言うことを聞か…なくて。」

 

「だから、頼む。もう」

 

「マスター…もう分かっているのだ。」

 

「シグルド!お前は黙ってろ!」

 

「マスターァ!」

 

二人の喧嘩する声が聞こえた。

だけどもう眠気が抑えきれなくなってきた。

 

「姉…さ…ん。」

 

「……なんだ?」

 

「姉…さ…ん、大好き…だ…よ。」

 

私の意識はその言葉と共に眠りについた。

 

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 

 

「なんで…なんでこいつなんだよ。なんでマスターのあたしじゃなくてなんで…なんで!!」

 

死ぬべきはこいつじゃない。呪われたあたしのはずだ。

なのに何故だ。こいつに罪はないはずだ。なのに何故!

 

「いい加減にしろマスター!今更悔やんだとてマスターの妹は帰ってくるのか!!」

 

「あん…だと?」

 

「俺が契約したのは…そんな軟弱なマスターではないと言っているのだ!いつもの気迫はどうした!ウグッ!」

 

胸倉を思いっ切り掴まれ大声で怒鳴られる。

その言葉にあたしは殴ろうと思った瞬間にはもうあいつの顔を殴っていた。

 

「てめぇに何が分かる…早くに親を亡くして二人っきりで今まで頑張ってきて…その唯一の血を分け合った家族を、この世で一番愛していた人を失った気持ちが!ただこのクソッタレの戦争で呼び出された使い魔のお前に何が分かんだよ!あぁ!?」

 

怒りに任せて逆に胸倉を摑み返しこれまで共に戦ってきた相棒、シグルドの事を使い魔と言ってしまいあたしはすぐに後悔する。

だがシグルドはその事を気にもせず、黙ってあたしに胸倉を掴まれていた。

 

「当方にもマスターの気持ちが分かるなどと気休めの言葉を言うつもりはない。だが当方にも愛した者はいた。彼女は、ブリュンヒルデは当方にとってかけがえのない者だった。彼女は当方の知らぬ事を教え与えてくれた。このメガネも二人の叡智の結晶だ。だが当方達は、結局結ばれる事は出来なかった。そして、当方は彼女に殺された。だが当方は今でも彼女の事を愛している。例えそれが二度と愛し合えぬ仲だとしても、当方は永久に彼女を愛し続ける。」

 

「シグルド…」 

 

シグルドの言葉にあたしは摑んでいた胸倉を離す。

そして俯きながら両手の拳に力を込める。

 

「だからマスター、例えどんな事になろうと決して妹の愛を絶やすな。そして必ず聖杯を掴み取れ。いいか、()()()()()()()()()()()!」

 

あたしはその言葉を聞いて作っていた拳で自分自身を殴った。

殴った影響か口の中に鉄の味が広がるが地面に吐き捨てて今度は頬を両手で挟んで叩く。

 

「悪かったシグルド。お前の気なんか知らずにあたしばっかり愚痴って。」

 

「気にすることはない。サーヴァント(相棒)としての当然の義務を果たしただけだ。」

 

メガネを指で上げ微笑みながらそうシグルドは言ってくれた。

あたしは、そんな彼に微笑み返した。そして今度は誰かを殴るためでも自分を殴るためでもない拳を作りシグルドに向ける。

シグルドはすぐに意図をくみ取り同じように拳を作ってあたしの拳と合わせる。

 

「さぁ行こうぜ、相棒!」

 

「応っ!」

 

私達は互いの叶えたい目的のため、最後の戦いへと繰り出した。

最後のマスターとサーヴァントを倒すために。

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 

 

 

 

 

 

「はぁ…はぁ…はぁ」

 

一人の少女が炎が取り巻きもはや人が住んでいた時のような影も形も残さずただの瓦礫の山となった町を進んでいた。

怪我をした左足を引きずり、使い物にならなくなった右手の傷から止めどなく溢れ出す血をぼろぼろとなった服越しに抑えてただ一点に向かって歩き続ける。

その隣には信頼できる相棒として仲間として共に歩いていたサーヴァントの姿はなく、そこ名残りの彼のメガネが力なく右手で握られていた。

 

「だ、誰か…たす、助けて。殺される。嫌だ。し、死にたくない!」

 

彼女の目指す先にはもはや歩くこともままならないほどにボロボロになった足を必死に引きずり彼女と距離を離そうとしている男の姿があった。

少女は焦らずゆっくりと男に近付く。

 

「ヒッ!?く、来るなぁ!や、やめろぉぉ!?」

 

ゆっくりと近寄る自身の死を男は拒否し、手に魔方陣のような物を出現させそこから小さな火の玉を少女に向かっていくつもの放つ。

その数発が少女に当たるが少女はまるで効いていないかのように体にいくつも火傷を作りながらも男へ近付く。

 

「いい加減…ウッぜぇ…んだよ!!」

 

「ゴブッ!?」

 

手が届く距離まで近付いた少女は魔方陣を展開していた手を左手で払い、左手に白い刀身の剣を作り出し男の胸に突き立てる。

男は何度か口をパクパクと動かしそれきり動かなくなった。少女は胸に突き立てた剣から手を離した。

 

「終わ…った」

 

少女がそう呟くと、ポツリと一滴の雫が少女の血塗られた頬を流れて地面に落ちた。

少女の涙を具現化したように雨が降り始め町を包んでいた火を消し去っていった。

 

「うっ…ううっ…あぁ…アアアアアアアァ!!!」

 

この時の少女の咆哮は、喜びや嬉しさよりも悲しさの一色で染め上げられていた。そしてそれはしばらく続きようやく収まった時には雨も止み町の炎は消え去っていた。

少女は再び道を歩き始める。その先には誰かが置いていったのか一つの金色の杯が瓦礫の上に置かれていた。

 

「聖杯…」

 

万能の願望機、それが聖杯。

先程の男もこの少女も、全てこの聖杯を得るためにこの殺し合い、聖杯戦争をしていた。

その理由はただ一つ、自身の願いを叶えるため。

 

「待ってな…今、姉ちゃんが何もかも終わらしてやっからさ。」

 

少女はそういってまだ無事な左手で聖杯に手を翳す。

 

「聖杯よ、我が願いを叶えよ。」

 

すると聖杯から光が放たれその光は町を、日本を、そして世界を包み込んだ。

その中心で少女はこれまでにないくらい優しく微笑んでいた。

 

「あばよ、クソッタレな世界。そして、最愛のいも…うと…」

 

その言葉を区切りに世界は作り替えられる。

たった一人の少女の願いのために。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「静江~!朝よ~!」

 

お母さんの言葉で私は夢から覚めた。

 

「う…うぅん。分かった~!ふわぁ~。」

 

目を擦りながら起きて時計を見るともう八時を過ぎていたので布団から体を起こす…うん?八時?

 

「ってやばい!?このままじゃ遅刻じゃん!!」

 

急いで布団から跳ね起きクローゼットから今日から通う学校、リディアン音楽院の制服を取り出して身につける。

そして慌ただしく階段を下りて洗面所に向かって寝癖を直して玄関へと向かう。

 

「全くもう!何回も声かけたのに。」

 

「ごめんなさい!遅刻しそうだから朝御飯はいい、ムグッ!」

 

「そう言うと思ってパンにしてあるから早く行きなさい!十分前には未来ちゃんは行ってたわよ!響ちゃんもらしいけど、うちは遅刻したらどうなるか分かるわよね?」

 

お母さんが恐怖の笑顔をした。

私はソレを見て絶対に遅刻なんぞ出来ないと心に決めて玄関を飛び出した。

 

「じゃあ行ってくる!」

 

「気をつけてね!」

 

今日から私の新しい生活が始まる。

憧れのリディアン音楽院へと入学して歌手になるって夢を実現するために私は頑張って行くんだ!

 

 

 

 

 

 

 

 

だけどこの時の私は知らなかった。

私のこの生活は大いなる犠牲の元で作られたということを。

 

 

 




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