東方現代物語 〜最強の相談屋が華麗(物理)に事件を解決します〜 作:ミズヤ
それでは前回のあらすじ
飛鶴と一輝はこうして出会った。
それではどうぞ!
side飛鶴
それから毎日私の元へ来ては雑談を披露してくれた。
「んでさ、宇佐見がさ」
「ふふふ」
私も自然と彼の隣だと笑みが溢れるようになった。
次第に彼が隣に居るのが普通になっていて、その人が居ないと落ち着かないようになった。
「飛鶴ちゃん、最近色々と楽しそうだね」
だけどまだ施設の人とは会話をする事が出来ません。あの人が居たら自然と話せるのに。
初めて自分から話したいと思った人でした。
そんなある日、その日は私の所には来てくれませんでした。
少し離れたところでお友達と話しているようです。私も混ざりたい。そう思ったけどあそこに居るのはあの人だけじゃありません。なので勇気が出ませんでした。
そんな所に新たな人が訪ねてきました。
「飛鶴ちゃん?」
「ひゃあっ」
どこからともなく、気配もなく近付いてきた女の子に驚いて小さな悲鳴を上げてしまいます。
その子は黒いハットを被って大人びた雰囲気です。ちょっと怖いです。
ですが思い出しました。この人はあの人とよく一緒にいる人です。
確かあの人がよく話題に上げていたような気がします。名前は確か……、
「宇佐見……さん」
「え!? 私の事覚えててくれたの? 嬉しいな〜」
さっきの大人びた雰囲気は何処へやら年相応の可愛らしい喜び方をします。
「改めて自己紹介するね。私は宇佐見 蓮子、ってまぁ、よくあの馬鹿が私の事を話題にしてるっぽいから知ってるよね」
はい、あの人が逐一何があったのかと話題に出してくれるのでこの人がどのような人なのかは良くわかっています。
オカルト好きで探検するのが大好き。よくあの人を連れ回して放課後は山に探検に行くのを趣味としている。
「それで、何の用ですか?」
「ん、まぁさ? 酷いと思うんだよね」
「何がです?」
「前は私だけの輝山君だと思ってたのにいつの間にか友達を沢山作っちゃって……何これ、浮気?」
輝山……君?
私はその人物の事が分からなくて首を傾げました。すると宇佐見さんは私の気持ちを読み取ったのかその人について話してくれました。
「ほら、いつも飛鶴ちゃんにうざ絡みして行ってるじゃん。ってあの馬鹿、自己紹介もせずにあんなにうざ絡みをして言ってたの……」
呆れた様子であの人を見る宇佐見さん。
「ほら、あいつよあいつ。何を考えてるのか分からないあいつ。名前は輝山 一輝」
あの人、輝山さんって言うんだ。良い名前だなぁ。
そしてそんな輝山さんの事を考えていると顔が熱を帯びていくのが分かりました。
「へぇ、ほぉ? へぇ〜」
「なんですか?」
「いやさ? 飛鶴ちゃん、今恋する乙女の顔になってたからさ」
「こ、きょい!?」
初めての指摘に困惑しました。
恋なんてそんなんじゃないのに。ただ、向こうから話しかけてくれるから話しやすいだけで……でも今はとてつもなく自分から話しかけに行きたい。
「ふふ、飛鶴ちゃん顔真っ赤。可愛い〜」
「…………宇佐見さん、嫌いです」
ぷいっとそっぽを向くと「ごめんねぇ〜」と抱きついて来ました。こう言うのを類は友を呼ぶって言うのでしょうか? 輝山さんとは別の意味でうざいです。
「あ、宇佐見。篠川と一緒に居る?」
そこへ解散した輝山さんが来ました。やっとこの時が来たと胸のドキドキが収まりません。
「そうね。可愛らしいね」
「……あんまりいじめてやんな――ごぶァ」
輝山さんが回し蹴りで蹴り飛ばされてのびてしまいました。
この状況、どうしたらいいのでしょうか?
「全く、失礼しちゃうわ。私、別にいじめてないよね?」
「…………」
私は宇佐見さんから目を逸らして輝山さんの方を見ます。
蹴られた時の悲痛の叫びを聞くだけでどれ程の威力だったのかってのがすぐに分かります。
痛そう。私は自然と輝山さんの元へ近づき、蹴られたところを摩ります。
「ガーン。飛鶴ちゃんが私をシカトした!?」
宇佐見さんが何か言ってますが、私にとって一番大事なのは輝山さんなのでこっちの介抱に専念します。
そう言えば聞いた事があります。介抱するときに人工呼吸なるものを行う場合があると。
ゴクリと生唾を飲みます。
輝山さんの唇。それに私は徐々に引かれていきます。
「……輝山さん。いえ、お兄ちゃん」
あと数センチ、その所で私は呟きました。その瞬間、
「お兄ちゃん!?」
ガバッとお兄ちゃんが起き上がります。それによって私のおでこと輝山さんのおでこが勢いよくぶつかって少し痛いです。
「いてて……大丈夫か?」
「はい。大丈夫です」
私が大丈夫と言うと輝山さんは目をキラキラさせてこっちに詰め寄ってきました。正直怖いです。
「もう一回お兄ちゃんって呼んでくれ!」
この時、初めて人の土下座を見ました。どれ程呼ばれたいのでしょうか?
ですが恥ずかしいのでもうこれっきりにすることにします。
それにしてもさっきまでの私、何をしようとしていたのでしょうか。自分でも無意識でした。
「き、す」
宇佐見さんが耳元で囁いてきたのでゾクゾクっとしてしまいます。
キス、その単語を聞いて恥ずかしさがマシマシです。
私は恥ずかしすぎてその場を逃げ出して走って外に出て行きました。
その時です。
ドン、私は何か壁のような物にぶつかってしまいました。
見てみると私より何倍も大きい男の人でした。
恐怖で動けなくなります。
「あ? 何だこのチビ。今俺にぶつかってきやがったよな」
「兄貴にぶつかるなんて命知らずなガキっすね」
「ギャハハ。恐怖でガタガタ震えてやがるぜ」
怖い。助けて、そう思ったけど近くには今、大人の人は居ないので助けを呼べません。
「取り敢えず、お前がぶつかってきたから俺のズボンに砂が着いたんだ。どうしてくれんだ? ああん?」
私の事を睨み付けて来ました。怖くて口も思うように動きません。
今でももう叫びたいのに喉から声が出ません。人は本当に恐怖した時は声が出なくなるそうです。
「だんまりかよ。このクソガキ」
私の髪の毛を掴んで私を立たせてきました。頭が痛いです。プチプチと何本か抜けた音がしました。
私はボコボコにされる事を覚悟しました。
――走ってた私が悪いんだ。
「おいテメェら」
「あん?」
男の子の声がしました。
一斉にそっちの方を見るとそこに居たのは、
「篠川!」
「輝山……さん」
輝山さんだった。
私にはヒーローに見えました。ですが、それと同時に心配でなりませんでした。
輝山さんはいつも宇佐見さんに蹴り飛ばされてるか関節技をかけられてるイメージしか無いので強いって言うイメージがわかないのです。
なので、逃げてください。
「んじゃあテメェが落とし前を付けてくれんのか? ああん?」
男は輝山さんの目の前でしゃがみ、下から覗き込むように睨みつけます。
普通は恐怖するでしょう。しかし輝山さんは至近距離で睨まれているって言うのに目が座っています。じっと男の方を見つめています。
「ち、恐怖で何も言えねぇのか? ああん?」
「……テメェら。知ってるか? 髪は女の子の命なんだぞ? それを鷲掴みにするだけじゃ飽き足らず引っ張るなんて……クズが」
そんなに煽ったら!
「決めた! テメェを殴る」
男は拳を振りかぶりました。しかし、その拳は輝山さんに振り下ろされる事はありませんでした。
「ぐ、」
輝山さんはノーモーションで蹴りを放ち、それが男の腹にクリーンヒットしました。
「あんたら、喧嘩し慣れてないだろ? 喋る前に手ぇ出さなきゃ」
何やら輝山さんは喧嘩に慣れている様子。男の先を読んで男を圧倒しました。
「このガキ、強いぞ」
「残念ながら俺は空手を習っているもんでな。まぁ、宇佐見には勝てないがそれでもかなりの力はある。大人しく帰れ」
「こいつ! 覚えてろよ!」
男達はそんな悪役みたいなセリフを吐き捨てて逃げていきました。
それを見て輝山さんは地面に座り込みました。
「はぁ……怖かった」
「輝山さん?」
「実はハッタリだったんだよな。怖いもんは怖いわ。だって自分より大きい相手だぜ?」
輝山さんは胸を貼る訳でもなく、正直な気持ちを吐露してくれました。
胸を張っても良いと思いますがそれをしなかった事で私はこの人の事がカッコイイと思いました。
自分を助けてくれたヒーローに見えました。
なので、
「これはご褒美ですよ? お兄ちゃん♪」
ガバッ、立ち上がって私に詰め寄ってくる輝山さん。嬉しそうで何よりです。
「もう一回!」
「ふふ、お兄ちゃん。これでいいですか?」
「も、もう一回!」
「お兄ちゃん。助けてくれてありがとうございます!」
「く、これで明日も元気に生きていけそうだ!」
お兄ちゃんが嬉しそうなので私も嬉しくなります。
今回はお兄ちゃんに助けて頂きました。ですけど次は私がお兄ちゃんを助けられたらいいなと思います。
だって私もお兄ちゃんと一緒で、お兄ちゃんの笑顔が見たいから。
だからその為ならなんでもするよお兄ちゃん。例え全世界を敵に回したとしても。
この時、初めて飛鶴の心に黒い感情が生まれた。
「お兄ちゃんは私のお兄ちゃんなので飛鶴って呼んでください」
「え、なんでだ?」
「呼んでくれないともうお兄ちゃんって呼びません」
「飛鶴!」
「はい! お兄ちゃん♪」
『………………何があったんだ』
はい!第15話終了
これで回想終了です。
一輝は昔は今ほど化け物では無いですが、そこそこ強かったって設定です。
戦いに不慣れな人ならば自分より大きい相手でも余裕で勝てますが怖いっていう感情はあります。
それでは!
さようなら