東方現代物語 〜最強の相談屋が華麗(物理)に事件を解決します〜 作:ミズヤ
それでは前回のあらすじ
飛鶴が幼いながらに一輝に対して黒い感情を抱いた
それではどうぞ!
side一輝
俺は飛鶴を追いかけるため、家を飛び出した。
飛び出し、そして走り出す。
飛鶴は地味に足が早かったからか俺が立ち上がる時間でもう見えない所まで走って行ってしまったようだ。
これは俺がこんな時間まで帰らなかったせいだ。その責任は俺が負わないとな。施設のみんなにも顔向け出来ねぇや。
どこに行ったか分からない。飛鶴はこの街に来てあまり日が経ってないからきっと何処も彼処も分からず走ってるんだろうか? じゃあ検討はつかない。
だけども大体の検討はついた。俺は長年の付き合いだからだ。飛鶴の考えることが大体わかる。
飛鶴は良い子ちゃんだから路地裏は通らない。そして、困ったらまず左に向かう。
飛鶴はここら辺近辺しか知らないだろうし、多分ずっと迷ってばかりだろう。飛鶴が心配だ。早く探し出さねぇとな。
とりあえず家から出て左の方向に走り出す。
確か左にはコンビニとかがあったはずだ。その先は何も無いし、こっちに来ているならばコンビニに居る可能性が高い。
だが、ここら辺は知っている場所。もしかしたら右、もしくは直進した可能性がある。
心配だ。こんな夜遅くに女の子一人で飛び出していくなんて……。どんな目に合うか分からない。出来るだけ早く見つけ出せないと。
その一心で走り続け、左端にあるコンビニまでたどり着いた。
もしかしたらコンビニの中に居るかもしれないと思い、コンビニへと入る。
コンビニの中へ入ったら一番最初に気がついたのは商品の少なさだ。まぁ、この時間だから売れ残り商品しか無いのだろう。
今日は食える飯は無かったからな。最低限おにぎり位買って行くか。あとぶどうジュース。
「これお願いします」
「はい。二点で410円です」
俺は百円玉を四枚、十円玉を一枚出して支払った。
買い物袋を持って最後にもう一度店内を見回す。だが、ここには飛鶴の姿は無かった。
「どこに行ったんだ?」
時間が経てば経つほど不安が俺を支配してくる。
「ちょっと本気で探すかね」
俺は買い物袋を持って来た道を全力疾走した。
次は家から見て右側に走る。
確かこっちにはスーパー等の大きな建物もあって人通りも多い。人が少ないよりは多い方が安心だ。裏路地には行かないと分かってるけど人通りの少ない所で何かがあったらと思うと……。
「待ってろよ」
side飛鶴
「ここはどこだろう」
私は家を飛び出して右も左も分からない状況でひたすら走った。
もう二度とお兄ちゃんに会えないかもしれない。だけどお兄ちゃんが悪いんだよ。私というものがありながら他の女の人と臭いが移るくらいの距離まで近づくなんて。
「……悪いのは私か」
お兄ちゃんの返事も聞かずに勝手に荷物を送り付けて押しかけて。勝手にお兄ちゃんの一番になった気になって。
馬鹿みたいだよね。お兄ちゃんだってお友達が居るし、彼女さんだって居ないとは限らない。それだと言うのに私は……。
自分勝手だ。お兄ちゃんに嫌われて愛想つかされてもおかしくないよね。
「お兄ちゃん。昔から面倒臭いのは嫌いだって言ってたもんね」
『俺は面倒なのが嫌いだ。特に人助けって奴が。でもやる事でこっちの益が上回るなら考えんことも無い』
私、面倒臭い女だよね。お兄ちゃんだって自由はあるのにそれを勝手に縛り付けて、勝手に嫉妬して。
ごめんね、お兄ちゃん。
「あれ、飛鶴ちゃん?」
その時、突如として後ろから声が聞こえてきました。弾かれるようにそちらを見ると大人びたお姉さんが立っていました。
そしてあの帽子。黒いハット、見た事があるような気がする。そこまで考えた所で繋がりました。
体こそ大きくなってお姉さんになっているものの、私にはその顔に見覚えがありました。
その人は多分、
「宇佐見……さん?」
「やっぱり飛鶴ちゃんだぁっ!」
宇佐見さんは私が篠川 飛鶴である事を確信すると私に飛びついて来ました。
私は少し驚きましたが、直ぐに抱擁を交わします。
「飛鶴ちゃん。この街に居たの!?」
「私も今知ってビックリしました」
宇佐見さんがある時に突然居なくなったのは知っていました。それもお兄ちゃんにも伝えずに。
しかしお兄ちゃんはその後、『宇佐見を探しに行ってくる』と言って後を追うように私に告げて去って行きました。
しかしまさか本当に後を追えてたなんて。同じ街に来れてたなんてビックリでした。
「飛鶴ちゃん大きくなったね」
「宇佐見さんもすっかりお姉さんです!」
「あはは。私ももう二十歳だもんね。そりゃあ大人になるよ」
笑いながら言う宇佐見さんですが、性格は変わってなさそうなのがイマイチですね。どうせ今でもお兄ちゃんの事を振り回しているのでしょう。
「それよりもなんで宇佐見さんはこの時間にここに?」
「それはこっちの台詞だけど、たまたま家の窓から外を見ると走って行く飛鶴ちゃんっぽい姿が見えたからかな?」
さすがですね。昔とは随分姿形は違うはずなのに一瞬で見抜いてしまうなんて。宇佐見さんは一度覚えた人は忘れないって言う特技があったのでそれのおかげでしょう。
「あ、待って。今輝山君も呼ぶから」
この夜遅くにお兄ちゃんを召喚しようとする宇佐見さん。お兄ちゃんだからまだしも完全に迷惑ですよ……。やっぱりこっちに来てもお兄ちゃんは振り回されているようです。
「待ってください」
だけどここは私が止めました。なぜなら私はもうお兄ちゃんに合わせる顔がないからです。
「私、お兄ちゃんと喧嘩してしまって。走って飛び出してきてしまったんです」
「なるほどなるほど。飛鶴ちゃんのお兄ちゃんってのは輝山君の事だったよね。……えっ? ちょっと待って」
途中まで納得しかけていた宇佐見さんですが直ぐにその表情は疑問と驚きに染まりました。
この会ってない数年間の間に顔芸でも覚えたんでしょうか? 物凄い顔をしています。
「飛鶴ちゃん、この時間に喧嘩して家を飛び出す関係って……」
「はい? 一緒に住んでますが」
「何やってるのよ!?」
宇佐見さんは今度は驚き過ぎて仰け反ってしまいました。何を驚くことがあるんでしょうか?
「年頃の男女が同棲だなんて!? 不健全よ!」
「でも私達は兄妹ですし」
「兄妹って、あなた達の中ではね!? 世間的には血縁関係でも無いし、戸籍でも他人なのよ!?」
何がダメなのか分かりません。いえ、分かってます。分かっててあの家に居たのですから。
襲ってくれるなら襲ってくれるで本望でした。私はお兄ちゃんが好きですから。ですけど少し暮らしてみてお兄ちゃんはそういう事をする人じゃないって気が付きました。
「とにかく、輝山君にも話を聞かないと」
宇佐見さんはお兄ちゃんに電話をかけます。
プルルルと呼び出し音が一回鳴って直ぐに繋がりました。
『なんだ宇佐見! 俺は少し急いでんだ。後にしてもらっても』
「いいから今すぐこっちに来なさい」
『ちょっと待て! どうし――』
そこで宇佐見さんは電話を切ってポケットに携帯を仕舞いました。
やっぱりお兄ちゃんは大変だなぁとしみじみ思います。
その時、ふわりと宇佐見さんから匂いがしてきました。
甘くて爽やかな。さっきお兄ちゃんの体から感じた匂いです。
って事は、お兄ちゃんの恋人って……っ!?
「宇佐見さん」
「え、何?」
「お兄ちゃんと上手くやってますか?」
「え、どういう事!?」
上手くやれてるならそれでいいです。お兄ちゃんは私の全てですから。
数分後、お兄ちゃんを待っていると、
「悪ぃ待たせた」
そう言って宇佐見さんの家の屋根から飛び降りて来ました。
「お兄ちゃん!?」
私はビックリしました。まさか屋根から飛び降りてくるなんて思いもしなかったからです。
流石に屋根から飛び降りたら怪我は避けられません。私は一瞬焦りに感情を支配されました。しかしそれは杞憂に終わったのです。
ドン、大きい音を立てて無事、私達の目の前に着地しました。
「輝山君。幾らあなたの家から見て裏側の道路に面してる家だからっていつもいつも屋根から飛び降りてこないで……」
「だってちけぇじゃねぇか。……って飛鶴!?」
やっと私に気がついたようです。あわあわしている私を見てホッと安心したのか私を抱きしめてきました。
お兄ちゃんが抱きしめてくれた。それだけで私の心は安心します。
「もう、どこにも行くな。俺にとってお前はかけがえの無い存在なんだからな」
「お、兄ちゃん」
私も抱き返します。
かけがえの無い存在なんだからな。その言葉が頭の中で木霊します。
ああ、やっぱり私はお兄ちゃんが居ないとダメなんですね。お兄ちゃん無しでは生きていけない体にされました。これは責任を取ってもらうしかありませんね。
「ごめんなさいお兄ちゃん。もうお兄ちゃんに心配をかけません」
「こっちこそごめんな。これからはもっと帰る時間に気をつけるから。心配だったんだよな」
「はい。ですがもう大丈夫です」
お兄ちゃんにかけがえの無い存在って言って貰えたから。
「……あの、お二人さん? 良い雰囲気の所悪いんだけど、輝山君借りても良いかな?」
あ、そうだった。お兄ちゃんを呼び出したのは宇佐見さんにとってはそっちが本命だったっけ……。
「ちょ、宇佐見さん!? 離してくれ! 何がどうなのか知らんが話せば分かる!」
「はいはい。話は家でじっくりと聞くからね〜」
あ、お兄ちゃんが宇佐見さんに引きずられて行きました。元はと言えば私が原因です。見届けないといけませんね。
はい!第16話終了
序盤は一輝の視点でしたが中盤以降はやはり飛鶴視点。
あまりネタが思い浮かばなかったので悪足掻きです。
それでは!
さようなら