東方現代物語 〜最強の相談屋が華麗(物理)に事件を解決します〜   作:ミズヤ

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 はい!どうもみなさん!ミズヤです



 それでは前回のあらすじ

 蓮子とメリーの事を庇った一輝。

 そして、次の日。蓮子とメリーに伝えられたのは一輝の退学だった。

 しかし、校長は一輝はこの大学には彼が必要だといった。

 その事を聞いた蓮子は一輝を見つけるために講義を受けずに大学を飛び出した。



 それではどうぞ!


第最終話 その日まで

side蓮子

 

 私は感極まってしまって輝山君に抱きついてしまった。

 少しだけ恥ずかしいけど、今はそれどころじゃなかった。

 

「やっと見つけた」

 

 そう。自分から退学を申し出て、カッコつけて出ていったこの輝山 一輝を漸く見つけることが出来たのだ。

 もう会えないんじゃないかとすら思った。だけど、こうして見つけることが出来た。

 

「お、落ち着けよ」

「落ち着けるわけがない」

 

 さっきまで不安で胸が押しつぶされそうになっていた。そんな状態で落ち着けと言う方が無理がある。

 それにしても、このバカは何も分かっていないようだ。

 いつもは察しが良く、洞察力に優れている彼。だけど、まだまだダメみたい。

 

「何してるのよ、このバカ。勝手にカッコつけて出ていって……」

「……すまん」

 

 輝山君の口から小さく謝罪の言葉が出てきた。

 でも、分かっている。これらのことは全部、私たちの事を思っての行動だったんだって。だからそんなに強く責めることが出来ない。

 輝山君は昔からそうだった。昔から、自分の事を犠牲にして誰かを守ろうとしていた。

 

 昔は今とは違って弱くてひょろひょろだったのに無理して大きい人達に立ち向かって行って……本当に馬鹿なんだから。

 

「確かに自己犠牲は立派だと思う。だけど、今回の件に関しては許さない」

「そうか……」

「許さないんだから……だからもう絶対に離さない」

「そうか……ん?」

 

 私は抱きつくのを一旦やめて、輝山君の手を両手で取った。

 必死だった。輝山君を引き留めようと、ここで引き止めることが出来るのだとしたらなんでもする覚悟だった。

 今まで助けられたのだから、今度は欲しいのは助ける。

 

「離さないか……」

「うん、もう絶対に。だって、帰る場所はあるんだよ」

「……そうなのか?」

「世の中の人達全員が敵になったとしても、輝山君には飛鶴ちゃんがいる、メリーがいる、進奏君がいる、結乃ちゃんがいる。もちろん私も――」

 

 だから……

 

「だから、帰ってきて。輝山 一輝!」

「……」

 

 しかし、輝山君は俯いたまま何も話してくれない。

 その雰囲気はかなり異様なもので、直ぐに何かあったのだろうと気がつくことが出来た。

 

「退学、多分だが、受理されていないんじゃないか?」

 

 俺からその事を知っていたようだ。だったらなんで、退学なんてして飛び出してきたのだろう。

 その次の瞬間だった。

 

「が、はっ」

 

 輝山君が突然、吐血した。

 

「き、輝山君!?」

「ごめん、宇佐見。やっぱり俺は戻れなさそうだ」

「ど、どういうこと?」

 

 私が聞くと輝山君は神妙な声で話し出す。

 

「俺は二人を逃がしたあと、奴らと戦っていた。何とか応戦していたんだがな、かなりのダメージをおってしまったんだ。あいつらはかなりの手練だった……俺としたことが、な。おかげでこんなことになってしまった」

 

 輝山君は服の裾に手を伸ばすと捲りあげる。それによって、服の下に隠れていたものが顕になったのだが、その様子を見て私は思わず絶句してしまった。

 なにせ、包帯を何重にも巻いていて、それでも血が染み出してきている。

 

「一応閉じたんだが、臓器の損傷が激しくてな。たまに、こうやって傷口が開くんだ」

 

 頑張って笑顔を作ろうとする輝山君だったが、かなり無理しているのが目に見えてわかった。

 輝山君は優しいから、出来るだけ心配をかけないようにしたのだろう。

 

 私はこの傷を見てしまったら自分のせいだと苛まれてしまう。実際に今がその状態だ。

 そうなったらさらなる心配をかけてしまう。だから、輝山君は黙ってこの大学を去ることを選んだのだろう。

 

「だけど、ちゃんと治療してもらったら治るんじゃ――」

「ダメだった。どこに行ってもこの傷じゃ治せないって」

「そんな……」

 

 私のせいで輝山君が死ぬ? そんなのは嫌だ。

 そんな未来、私は認めない。どんなことがあろうと、そんな未来、認めてはいけない。

 

「まだ諦めちゃダメ。どうにかして治す方法があるはず」

「方法って言ったってなぁ……」

 

 輝山君は完全に諦めモード。しかし、私は絶対に諦めない。諦めない限りチャンスはあるはず。

 

「とりあえず大学に戻ろう」

「大学に?」

「そう、あの校長先生は無駄に物知りなところがあるから」

 

 校長先生は暇さえあれば雑学を披露するほどに博識なのだ。だから、校長先生に聞けば、何かいい方法があるのでは無いかと思ったのだ。

 そして、私と輝山君は勢いよく校長室に入っていく。

 

「校長先生。どこかいい病院を知りませんか?」

「どうしたんだ、藪から棒に」

 

 一瞬、驚いた様子だったが、校長先生は察しがいいので直ぐにどういう状態なのかを察したようで、真剣な面持ちでこちらを見てくる。

 少し迫力があるので緊張してしまうが、何とか耐えて校長先生に説明を始めた。

 

「なるほど……これはかなり酷い傷だね」

 

 包帯の上からでもどれだけ酷い傷をおったのかがよく分かる。なにせ、包帯の上から血が染み出してきているのだから。

 

「でも、何とか出来ないでもない」

「本当ですか!」

「近いぞ」

 

 私は興奮のあまり、校長先生に詰め寄ってしまった。だけど、少し考えればそんなに詰寄るのは失礼だったなと思う。

 

「実は、アメリカの方にものすごく腕のいい医者がいるんだ」

「アメリカに?」

「そうだ、アメリカに行けば治る可能性はあるだろう」

 

 でも、アメリカってことはかなり治療費がかかるだろう。だとしたらかなり厳しい。

 やっと助かる方法を見つけたと思ったのに……。

 

「治療費の事を考えているだろう」

「……はい」

「心配するな。治療費に関しては私がだそう」

「え、校長先生が?」

「あぁ、今君に居なくなられても困るのでね」

 

 最初は怖いと思っていたけども、校長先生って意外と優しい人なのかもしれない。

 これで、輝山君が助かる。そう思って私は喜んだ。だけど、輝山君はあまり気乗りしない様子だった。

 

 私たちはお礼を言って校長室をあとにする。

 それから、私たちは近くの公園に向かった。

 

「どうしたんだ、急にこんな所に連れてきて」

「……輝山君、助かるかもしれないのに、全然嬉しそうじゃないから」

 

 今も沈んだ表情を浮かべている。そのことから分かるに、恐らく輝山君は負い目を感じてしまっているのだろう。

 自分がこんな傷を負ってしまったせいでみんなに迷惑をかけている――そう思ってしまっているのだろう。

 

「……ごめん……心配かけて、迷惑かけて……ごめ――」

 

 私は輝山君が言い終わる前に体が勝手に動き、輝山君の事を抱きしめていた。

 

 そして、とある感情がふくれあがる。

 

「バカ、どれだけ私たちの事を信用していないの。私たちはそれくらいのことでは迷惑だなんて思わない。むしろ迷惑上等よ」

「宇佐見……ごめ――」

「ごめん禁止!」

 

 そういう私に対して輝山君は苦笑いをした。でも、さっきと違うのは何かが吹っ切れた様子で、暗い表情ではなくなっていた。

 死と、私たちに迷惑をかけるという重りが外れたからだろう。

 

「輝山君、私はあなたが好き」

「……え?」

 

 私からの突然の告白に輝山君は驚いた様子。

 しかし、私は輝山君の整理が着く前にどんどんと自分の気持ちを輝山君に吐露していく。

 

「いつも私たちのために戦ってくれて、そして傷ついても自分よりも私たち優先で……そんなかっこいいところを見せられたら、好きになるのも当然」

「え、と……宇佐見?」

 

 しかし、私は輝山君が何かを話し出す前に回れ右をして歩き出した。

 

「返事は帰ってきてからでいいよ。じゃあね」

 

 私は逃げるようにその場をあとにした。置いていかれた輝山君はかなり状況が掴めていない様子で惚けていたけど、それどころじゃなかった。

 私は恥ずかしくて、返事を聞く覚悟がなかっただけだったのだ。

 

 その翌日、輝山君はアメリカに飛び立つことになった。

 

「お兄ちゃん……大丈夫でしょうか」

「多分大丈夫よ」

 

 飛鶴ちゃんは意外と冷静だった。

 飛鶴ちゃんは輝山君依存性なので、かなり取り乱すかもと思っていたけども、飛鶴ちゃんの口から出てきた言葉は「いつかこうなる気はしていました」だった。

 確かに、あの性格上、こうなってもおかしくなかったと言えばおかしくなかった。

 

 もうすぐで飛行機は出発する。暫くのお別れになるだろう。

 

 そう思って、もう帰ろうとしたその時だった。

 

「うーさーみー」

 

 もう暫く聞くことはなくなると思っていた声が聞こえてきた。

 

 声の方向に弾かれるようにして見ると、そこには輝山君が居た。

 傷が痛むはずなのに、走って戻ってきたのか、息が上がっており、肩が小さく上下している。

 そんな様子に私はビックリしてしまった。何かあったのだろうか。

 

「宇佐見!」

「な、何!?」

「俺も、好きだ!」

 

 私はその言葉を聞いた瞬間、頭の中が真っ白になった。

 そんな私を見て輝山君はイタズラが成功した子供のように笑みを浮かべて飛行機の方に戻って行った。

 私の横では飛鶴ちゃんがものすごい笑みを浮かべながらどす黒いオーラを出していた。

 

「羨ましいです」

 

 いつか、飛鶴ちゃんに刺されないか心配になってきた。

 

 漸く頭の中で整理が着いて、顔が熱くなっていくのを感じる。

 

 どうやら私は帰ってきてからでもいいと言ったのにわざわざ輝山君は帰ってきて私に答えを言ったようだ。

 本当に馬鹿なんだから。

 

 あとは信じて待とう。輝山君が帰ってくるその日まで。




 これにて完結です。

 来週にエピローグを公開します。

 それでは!

 さようなら

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