ランス再び   作:メケネコ

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始まりの時

「とうとう始まるな」

「おうよ、まさかこんな事になるたぁ俺も予想もしてなかったけどな」

 2体の大きな妖怪が目の前にある人の陣を見る。

 今までのようにただ無闇に人間に対して暴れるのとは訳が違う。

 自分の後ろには自分を信じてついてきている妖怪達が整列している。

 そして今までの事ではありえない光景が見られる事に思わず笑みが溢れる。

 そこには妖怪に混じって、粗末ではあるが鎧を纏った人間の姿があるからだ。

 人間達が緊張しているのは2体の妖怪―――黒部と窮奇には手に取るように分かる。

「縮んどるぞ! 出陣前だ! しっかりしろ!」

「ひゃっ!!」

 そこで窮奇がニヤニヤと笑いながら緊張している人間の股間を掴む。

「何やってやがる」

 黒部が思わず笑うと、妖怪たちもげらげらと笑う。

 股間を掴まれた人間は顔を赤くし、そんな様子を見て人間達の緊張も少し解れた様だった。

「おう、準備はいいか」

「ランスか。こっちはもう大丈夫だぜ」

 そこにランスとレダとエルシールが現れる。

「で、どうよ。いつ攻める」

「もう少しだな。ほのかが戻ってきてからだな」

「彼女待ちね。それよりも…今回の戦いは何よりも私達の力を見せ付ける必要がある。そうする事で妖怪王黒部が帝レースの表舞台に立ったことがこのJAPANに広まるわ」

 ランスの剣から姿を現したスラルが薄く笑う。

 今ランス達の目の前には、妖怪達は勿論少数ながらも人間が並んでる。

 彼らこそ、妖怪王黒部…そしてその妖怪王に協力し、黒部を帝にしようとしている人間であるランスに仕える事を決めたJAPANの民だ。

(やるとは思ったけど…本当にランスは凄いわ。やっぱり私の目は確かね)

 スラルはそんなランスの横に並び立ち、改めてランスという人間を高く評価した自分を褒める。

 自分は確かに魔王としてはアレだったかもしれないが、それでも自分の目は確かであったと。

「ランス」

 そこに音も無く一人の女性―――忍者が音も無く現れる。

「おう、ほのか。どうだ」

「特に動きは。藤原家も平家もまだこちらの動きには気づいていません」

「うむ。よくやった」

「ハッ!」

 ほのかと呼ばれた忍者は立ち上がるとそのままごく自然にランスの横に立つ。

「おう、本当にもう大丈夫なんだな」

「私に呪いをかけていたあなたがそれを言いますか…あ、長い間日光を浴びてたから立ちくらみが…」

 ほのかはそのままヘロヘロになると顔を青くして倒れる。

「かっこつけてるからよ。まだ本調子じゃ無いんだから大人しくしてなさい」

「はい…」

 レダの言葉にほのかはそのまま木の下の日の当たらない場所に移動する。

「窮奇さん。もう少し言葉には気をつけたほうがいいと思いますよ」

「…悪かったよ」

 エルシールの言葉に窮奇はバツが悪そうに頬をかく。

 ほのかを呪い付きにしていたのは窮奇であり、人間の中では最初に妖怪王黒部に協力してくれたJAPAN人である。

 ただ呪いの後遺症か、今でも日差しの下にいると立ち眩みを起こしてしまうようだ。

 そしてここにいる人間達は、ほのかと同じ様に妖怪によって呪い付きにされてしまった人間や、その親族や友人達だ。

 こうして戦場に立てるのはまだ200かそこらだが、それでもそこにいる将はスラルの目に適った者達だ。

「でもランスさん…本当に凄いですね。こうして人を集めるだなんて…」

「そうね。確かに只者じゃ無いわよ。でもそれも全て女のためだけどね」

 エルシールの言葉にレダも呆れながら応える。

 全てはスラルのため…ランスの行動原理には全て『女』が絡んでいる。

 最初に自分がランスと出会ったときも、女悪魔を消そうとした時だった。

 そしてランスを守るために女神ALICEに派遣され、共に行動をして来たがランスの行動の基本は全て『女』にある。

 カラーを助けたのは勿論ランスがカラーとHしたいからであり、その結果がケッセルリンクだ。

 シャロンにしてもそうだし、そもそもこの状況になったのも聖女の子モンスターとHしたいというのが当初の目的。

「でも…ランスさんが呪い付きの人を助けたのは」

「それも全部女のためでしょうね」

 ランスは勿論呪い付きになってた綺麗な女性達に手を出している。

 それも自分が呪いを解くように黒部へ進言したという言葉の元に。

 確かに間違ってはいないのだが、人としてはやっぱり最低の部類に入るのではないかと思ってしまう。

「がはははは! お前も緊張してないか? 綾」

「…大事な一戦の前です。緊張はしていますが大丈夫ですから」

 そして自分が手を出した女性の体に触れようとするが、その手が叩かれる。

「普通にしてれば優しいですし、頼りになるんですけど…」

「普通にしてる期間が短すぎるのよね。欲望に正直すぎて敬遠されるタイプよ」

「それが魅力…というのは変ですよね」

「確かに強いし間違いなく人間で言うところの英雄の資質はあるんだろうけどね」

 レダとエルシールが話していると、そこにスラルが入ってくる。

「まあそれがランスよ。乱世の奸雄、治世の暴君…それがランスよ」

「…それは褒め言葉なのでしょうか?」

「褒めてるつもりよ。それにランスは…永遠の命とかには興味が無いみたいだし。ランスにとっては権力とかも自分が好き勝手するための道具。そして飽きたら放り投げるタイプよ」

「ええ…」

 スラルの言葉にエルシールは眉を顰める。

 確かに性格的には少しアレだが、魔人に対して臆する事無く立ち向かい、あの強力な神にも向かっていくほどの勇気と胆力を持つ男だ。

 並外れて女好き…いや、女しか好きじゃないのは気になるが英雄色を好むという言葉もある。

 今まさにランス達に協力を表明してくれている女性達に手を出して、手を叩かれているランスを見ると、スラルの言葉が少し疑わしくなってしまう。

「自分の欲望に正直すぎて痛い目に会いそうな気がしますけど」

「それも含めてね。そして痛い目にあっても懲りないのがランスという男なのよ」

「…それって学習能力が無いだけじゃない?」

 一人頷くスラルを横に、レダとエルシールは目を合わせて同時にため息をついた。

(でも…まさか本当に人間達と協力体制を築くなんてね)

 レダはこうなるまでの事を思い出す。

 

 

 

 それはランスが妖怪達の纏め役の一体である窮奇を倒し、その力を認められた夜の事。

「という訳で連れて来たぜ、黒部、ランス」

「ムグー! ムグー!」

「…早いな」

 その窮奇の方には簀巻きにされた黒尽くめの人間が暴れている。

 猿轡もされているようで、そこからは声にならない悲鳴かあるいは罵声かが漏れている。

「まあ幸いにも近くだったからな」

 窮奇はそのまま担いでいた人物を床に下ろす。

 まだ粗末なあばら屋といった感じだが、そこには確かに家と呼べる物が出来ていた。

 スラルの指導の下、妖怪王のための仮の住まいを作っていたのだが、やはり一日では出来るものでは無く、家と呼ぶにはあまりにも粗末なモノが出来ただけだ。

 勿論こんなものは妖怪王の住まいには相応しくないため、もっとしっかりとした住処を作らなければならない。

「こいつが呪い付きの人間か。何でこんな黒尽くめなのだ」

「ああ…それは俺のかけた呪いの影響だな。俺は鵺と呼ばれる種族でな…俺のかけた呪いが光を浴びる事が出来なくなるっていう呪いなんだよ」

「光を?」

「ああ。太陽の光は勿論、蝋燭の灯りとかもな。だから俺に呪いをかけられた奴はこうして光を浴び無いようにしているって事さ」

「じゃあ光は消した方がいいか」

 レダはそう言ってこの部屋の灯りを全て消す。

 そして倒れている人間に近づくと、その猿轡を外す。

「プハッ! 窮奇…どういうつもり」

 光が無いため、ランスにはその声しか聞こえないが、声の主は明らかに若い女というのが理解出来る。

「どういうつもりな…俺は妖怪王であり、帝候補である黒部の命でお前をここに連れてきただけさ」

「…妖怪王黒部!?」

 女は驚愕の声を出す。

 妖怪王黒部が帝候補になったのは、このJAPANに居る者ならば誰もが知っているだろう。

 藤原石丸、平清盛と同じく帝候補にしてこのJAPANを震撼させる人食いの妖怪。

「とりあえずよ、窮奇。呪いを解くぜ。お前の呪いにかかってると俺達はともかく人間にゃあ不便だからな」

「おうよ」

「は!?」

 その言葉に女は更なる驚きの声を出す。

 妖怪の呪いは、己の存在力を削って行うものであり、妖怪とてそう簡単に呪いをかける事は無い。

 しかしかけられれば最後、様々な障害を引き起こしまともに生きることも難しい。

 自分が窮奇にかけられた呪いは「光を浴びることが出来ない」という単純にして恐ろしい呪いだ。

 そして呪いを解く方法は今現在はその呪いをかけた妖怪が消滅しなければ解けることは無い。

「よっと」

 黒部はただそう言うと、ほのかの頭巾が外され妖怪王黒部の姿がぼんやりとだが見えてくる。

「スラル、頼むぜ」

「分かったわ」

 そして何者かの言葉と共に、真っ暗だった部屋に明かりが灯る。

 その光の量にほのかは思わず目を閉じる。

(光が…見える?)

 これまでは光を浴びるだけでも鋭い痛みが感じられた。

 窮奇の呪いは光を浴びると火傷が出来、日の下を歩く事など夢のまた夢だった。

 勿論恩恵として、夜でも問題無く見通せるという事もあるが、デメリットの方が非常に大きい。

「がはははは! どんな顔をしているのか見てやるか!」

 その言葉と共に一人の人間の顔がほのかの前に映る。

 目の前にいたのは、明らかにJAPANの者では無い人間だった。

(どうしてここに人間が…?)

 自分は妖怪である窮奇に攫われ、妖怪王黒部の元に連れてこられたはず。

 目が慣れてくると、周囲の様子が分かってくる。

 まず目の前にいる明らかにJAPANの者では無い人間。

 そして少し豪華な敷物に腰を下ろしているのが、妖怪王黒部だろう。

 その隣には自分に呪いをかけた、蛇の尾を持つ虎である窮奇がいる。

 黒部の隣には半透明の巫女の衣装を着た幽霊がいる。

 何よりも驚いたのは、その幽霊の隣にいる鮮やかな金色の髪をした、絶世の美女が居る事だ。

「がはははは! 95点! 少し変わった目をしているが、それも良いではないか!」

(えっ…)

 男の言葉にほのかは驚く。

 呪い付きになってしまった自分は夜でも問題なく見える分、その瞳が本来の色である黒からくすんだ灰色に変わってしまっている。

 それはかつての友からも不気味な色として敬遠されてきた。

 それまでは順風満帆とはいかないが、それなりの人生を歩んできたほのかから、これまでの生活を奪ってしまった。

 呪い付きとは、それほどまでにその人間の人生を狂わせてしまうものなのだ。

「はいはい、ちょっといいかしら。ランス」

 そう言って前に出てきたのは幽霊の女性だった。

「はじめまして。私はスラル…黒部の協力者よ」

「妖怪王の…」

 目の前の女性はほのかの目から見ても非常に落ち着いた高貴な人物に見えた。

「その妖怪王の協力者が何の用ですか」

 ほのかの言葉は非常に硬い。

 それもそのはず、今現在において人間と妖怪は敵対しており、さらには妖怪王黒部が帝の候補の一人ともなれば警戒して当然だ。

「まあ簡単な事だ。お前にはこの話を広めてもらおうと思ってな。この俺の所に来れば全ての呪い付きを解除してやるってな」

「な…」

 それはほのかにとっても意外すぎる一言。

 まさか妖怪王が、全ての呪い付きを解除するというのはまさに青天の霹靂だ。

 しかし実際に妖怪王黒部は自分の呪いを解除した。

 普通は妖怪の呪いは、その呪いをかけた妖怪を消滅させるか、名のある陰陽師や僧兵に解除してもらうしかない。

 自分に呪いをかけたのは、妖怪王と並ぶほどの大妖怪である窮奇…その自分の呪いを解除するなど不可能だと思っていた。

 だが確かに黒部はその呪いを解いた…それもいとも簡単に。

「決して悪い話じゃ無いと思うわよ。何しろあなたは妖怪を憎んでいたのだから」

「それは…」

 幽霊の女性の言葉にほのかは揺らぐ。

 自分の呪いは自分の人生を大きく狂わせた。

 普通の少女でしかなかった自分は、日に当たることも出来ずに暗い夜の中を忍者として生きるしかなかった。

 もし自分に呪いが無ければ…と考えた事も一度や二度では無い。

「…約束は違えませんか。妖怪王黒部」

「おう。帝候補の名に誓ってな」

 黒部の答えにほのかは少しの間沈黙していたが、

「分かりました…あなたの意図は分かりませんが、私の呪いを解いてもらったのも事実。呪いに苦しんでいるのは沢山いる…その者達を救えるのならあなたの言葉を信じましょう」

 ほのかはそう決心する。

 このJAPANには妖怪の呪いに苦しんで居る者は無数にいる。

 その呪いを受けた者は、酷い者では同じ人間によって駆除されてしまう。

 そんな人間を救えるのであれば、救われるべきだと考える。

「がはははは! その前に助けてやった礼に一発…」

「落ち着きなさい、ランス。まだそんな事してる場合じゃないでしょ」

 自分に詰め寄ってきた男が金色の髪の女性によって止められる。

「あなたも気にしないで早く行きなさい。出来れば早く広めてちょうだいね」

 幽霊の女性の言葉にほのかはうなずくと、その場から一瞬で消える。

「む、あいつは忍者か。部下に出来れば便利なんだがな」

 忍者…それはランスの女である見当かなみもランスにとってはハンデではあるが、それでも一応は忍者だ。

 実際にランスがJAPANを制圧した際には、多くの忍者と呼べる者も多く部下にしてきた。

 その中でもとびきり優秀だったのが、今はもういない鈴女だ。

「で、これでいいのか?」

「十分よ。後は黙っていても人が増える…呪い付きは自分だけでなく周囲も不幸にする…だとすると黒部に感謝するはずよ。そして中には黒部に協力してくれる人間も出てくるわ」

「そんなものか?」

 黒部にはやはりピンと来ないようだが、スラルには確信がある。

 人間とは現金なもので、自分を無償で助けてくれる者には弱いのだ。

 中にはランスのようなとびきり強いのもいるが、そんなのはこの世界にはごく僅かしかいない。

「さて、彼女の言葉を聞いて藁にも縋る思いでここに来る人間がいるはずよ。それまでに少しはここをまともにしましょ」

 

 

 

「しかしまさかアイツが協力してくれるたあな。呪いをかけた俺が言うのも何だけどよ」

 ほのかは確かにその後人間達にこの話を広め、そして実際に呪い付きであった彼女自身が呪いを解かれた事も有り、黒部の元には多くの人間が詰め寄せてきた。

 まさに藁にも縋るというもので、中には同じ人間にも命を狙われた者も存在する。

 そしてスラルがした事は、まさにその人間を懐柔する事だった。

 黒部に呪いを解かせ、スラルが説得する…中にはただのクズも居たが、そんな奴がこの妖怪の集団の中で生きていられるはずもない。

 中にはランスの怒りに触れて斬られた人間も居る。

「そこは素直にスラルに感謝だな。後はランスか」

 ランスに声をかけられて満更でも無い顔をしている女性を見てスラルは少し呆れたように笑う。

「そうね。何よりも…あれだけの強さを持つランスがあなたと一緒に居るからというのもあるかもね。ランスには人を纏める力があるから」

 カリスマとでも言えばいいのだろうか、不思議とランスはこの男なら何とかしてくれるという気にさせる何かを持っている。

 その強烈なリーダーシップは、これまで不幸な目に合ってきた者達にはさぞ眩しく映るだろう。

「あ、あの…ランスさん。ボクはいつでも…」

 ランスが女性に声をかけていると、一人の弓を持つ女性が頬を染めながらランスに近づいていく。

 普通ならばランスはその声に鼻の下を伸ばしながら飛びつくだろう。

 

 ゴンッ!

 

 しかし帰ってきたのはランスの鉄拳だった。

「いたっ!」

「やかましい! 気持ちの悪い事を言うな! 大体お前は男だろうが!」

「ボクは長い間女性として生きてきました! 体は男でも心は女です!」

「…アレは呪いを解かない方が与一にとってもランスにとっても良かったでしょうね」

 レダはため息をつきならがらランスの鉄拳を食らっている者を見る。

 彼は与一―――絶世の美女に見えるが、男だ。

 だが男だ。

「やかましい! お前の呪いを解いたのが俺様一生の不覚だ!」

「そんな…あんなにボクの事を可愛がってくれたのに!」

「うがーーーーー! それ以上言うな!」

 与一にかけられた呪いは性別が反転する事―――そのままの容姿で。

 そして彼にとって不幸だったのは、彼が皮肉にも女性とも言える容姿をしていた事だ。

 彼もまた黒部に呪い付きを解除してもらった者だが、ランスは呪いが解除されるまえに当然の如く手を出した。

 悪い事に、長年女性として生きてきた与一にとって、ランスは好みのタイプでありあっさりとランスに抱かれた。

 そしてその呪いが解かれた時―――ランスから上がったのはこの世のモノとは思えない悲鳴だった。

「ランスさん。そんなに与一さんをいじめてはだめですよ。そ、それにJAPANには衆道というものがありまして…」

「俺様をそんな道に引きずり込もうとするな!」

 少し顔を赤くしながら武士の女性―――綾がランスをたしなめる。

 彼女もまた黒部に、そしてランスに協力を表明した人間の一人であり、ランス同様に部隊の指揮を任せられるほどの人材だ。

 彼女自身は呪い付きでは無く、彼女の友人が呪い付きだった。

 滅多に起きることが出来ないという呪いにかけられた友のため、彼女は黒部の元に来たのだ。

 そしてそのままスラルにスカウトされ、人間の纏め役になってくれている。

 かなり良い所のお嬢様だが、その刀の技術は一級品であり、流石にランスには及ばないものの下手な武将よりも余程強いだろう。

「与一を見て俺様の目が汚れた。顔を見せろ。…うむ、可愛い」

 ランスが綾の顔を見て安心したようにため息をつく。

「ランスって何かあの手の存在にトラウマでもあるのかしら」

「あの時のランスさんの悲鳴は凄かったですから…」

 与一の本来の性別が男だと判明した時、その場には当然レダとエルシールも居合わせていた。

 その時のランスの悲鳴は本当にあのランスが放ったものなのかと今でも疑うほどだ。

「まあ女好きの人間が本来は男だった人間を抱いたらね…」

「私、ランスさんがショックで気絶したのを初めてみました」

 ランスは本来は男である与一を抱いたのを自覚した時、そのまま少しの間寝込んでしまった。

 その反動で、レダとエルシールはランスに無茶苦茶に抱かれた。

 まるで悪夢を払拭するかのような激しいセックスに、エルシールの体がガタガタになってしまったものだ。

 自分よりも遥かに体力のあるレダでも最後の方はヘロヘロになっていたため、ランスにとっても相当なショックだったのだろう。

 そして性質の悪い事に、与一は男に戻ってもランスに対して一途な心を持っているため、ランスとしても気が気じゃ無いだろう。

 何よりも…与一は弓の名手であり、もしかしたらこのJAPAN一の弓使いなのかもしれないと言われている。

 だからこそ、ランスも与一を斬らないでいるのだ。

 もし役に立たなければ、とっくの昔にランスに斬り殺されているだろう。

「さて…そろそろ時間よ、ランス」

「もうそんな時間か」

 レダの言葉にランスはニヤリとどこか猛禽類を思わせる獰猛な笑みを見せる。

 そのランスの横顔を見てまた与一は頬を赤らめているのだが、幸いにもランスの目には入っていないようだ。

「始まるな、ランス」

「フン、俺様ならば楽勝だ」

 黒部とランスが互いに笑う。

 ランスがこちらを振り向くと、その場にいる妖怪と人間達は自然と言葉を発しなくなる。

「おいお前ら、ようやくこの時が来たぞ」

 ここまで来るのにはやはり長い時間が必要だった。

 ランスとしてもよく我慢した方だろう…しかしそれでも尚我慢が必要な時間だった。

 その甲斐あって、今ランスの前には妖怪、そしてまだ少ないがランスと黒部を助ける事を表明した人間達が居る。

「いいかお前ら。こいつが帝になるにはまだまだ足りないものがある。金も足りんし戦力も足らん」

 前よりも集まったとはいえ、それでも他の帝候補に対抗できるほどの力はまだ無い。

 しかし、ようやくここに帝レースに参加できるほどの地力を蓄えたのだ。

「しかーし! 足りないなら奪えばいい! 誰もがやってる事だ!」

 ランスの言葉に妖怪達が獰猛な笑みを浮かべ、人間達は生唾を飲み込む。

「そしてこいつが帝になればお前達は勝ち組だ! 後は分かるな!?」

「「「おおおおーーーーーー!!!」」」

 妖怪と人間の声が重なる。

 全てはランスの言うとおり、勝てば全てを得られるが、負ければそれまでだ。

 普通に考えれば、他の帝候補の方が有利なのは明らかだ。

 しかしそれでもここに居る者は黒部を帝とする事を選んだ。

「俺は帝になる! そしてこのJAPANを統一する!」

「「「おおおおーーーーーー!!!」」」

 黒部の言葉にも皆の言葉が重なる。

 その言葉にどこか満足そうに黒部が笑みを浮かべる。

 これまでには考えられなかった皆の…そして人間の声に黒部もまた充実感を感じていた。

「行くぞお前ら! まずはあそこにいる奴らを蹴散らして、この地を制圧するのだ! お前ら俺様についてこい!」

 今ここに、一人の英雄と妖怪王が帝レースへと名乗りを上げる。

 ランスという規格外の男が起こす嵐が、このJAPANを飲み込もうとしていた。




一部のキャラは本当に古い作品が元ネタのキャラだけど、分かる人居るのかな…
そういう自分もそのゲームをやったのは相当に後でしたけど
オリキャラあまり出したくないとか偉そうな事言ってたくせに出さざるを得ない…
本当はもう少し出したいキャラもいたけど、自分ではそれだけのキャラを扱う実力が無い事に気づいて大幅に削りました

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