ランス再び   作:メケネコ

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帰還

「がはははは! ラーンスアターーーーーック!!」

「グオオオオオオオ!!」

 ランスの一撃で遂にグナガンが倒れる。

「あー…しんど」

「ようやく倒せたか…」

 ケッセルリンクもその顔には疲労がにじみ出ている。

 魔神グナガン…それは魔神の名に相応しく、魔人であるケッセルリンクでも苦戦を強いられた。

 だが、それでもランス達は地道にレベルを上げる事でようやく撃退する事が出来た。

「レベル上げも本当に苦労したな…ランスが愚痴るのも分かる気がするな」

 スラルも肩で息をしながらグナガンが消えた跡を見る。

 そこには一つの宝箱が鎮座されている。

「あー! 宝箱ですよ宝箱!」

 加奈代が少し興奮気味にその宝箱を指さす。

 何しろこれだけの力を持つ魔神を倒したのだ。

 その分、報酬もさぞかし豪華なものだろうと期待するのはある意味当然の事と言えた。

「私もちょっと興味あるかな…じゃあ開けてみようか」

 バーバラも少しわくわくしながら、その宝箱の所に向かう。

 その様子に、スラルは不思議そうな顔をランスに向ける。

「ランス、いいのか? 普段ならお前が真っ先に宝箱に向かっているだろう?」

 ランスが冒険の楽しみの一つはやはりお宝だ。

 こういったダンジョンには貴重なアイテムが置いている事が有り、これほどの魔神が護る宝ならば中身も期待できるというものだ。

 しかし、ランスは複雑な表情をしたままだ。

「いや…いい。こいつを見て思い出した。こいつ、前に俺様の城に出て来たやつだ…」

 ランスは魔神グナガンを見て、どこかで見た事のある奴だと今になって思い出した。

 そして、グナガンが落としていった宝箱を見て、非常に残念な気になったのを思い出してしまったのだ。

「さーて、御開帳ー!」

「何が入っているのかしらね…」

 それを知らない加奈代とバーバラは宝箱を開ける。

 すると、わくわくしていたその顔が一気に微妙な表情に変わる。

「どうしたの? 加奈代、バーバラ」

 見るからに変な顔になっている二人を見て、パレロアもその宝箱の中身を目にすると、二人同様にやっぱり微妙な顔をする。

 そこにあるのは、何が何だか分からない変な絵だった。

 果たしてそれに美術的な価値があるのかと問われれば、間違いなく誰もが首を横に振るだろう。

 それだけ微妙すぎる絵をグナガンは後生大事に持っていたのだ。

 ケッセルメイド達はその絵を微妙そうな顔でランスの所に持ってくる。

「あの…ランス様。いりますか?」

「いらん」

「そうですよね…ケッセルリンク様。これはお城で飾りましょうか?」

「…いくらなんでもそれは無いな。元の場所に戻してあげなさい」

 ケッセルリンクの言葉にメイド達は頷くと、宝箱の中に絵を戻す。

 すると、宝箱は忽然とその姿を消す。

「おお…グナガンを倒せたぎゃ! 流石は勇者殿ですぎゃ!」

 怪獣王子は消えたグナガンを見て、嬉しそうな声を上げてランスの手を取る。

「ランス殿! この礼は怪獣王子の名に懸けて必ずお返ししますぎゃ!」

「それはいいからとにかく寝させろ…流石の俺様も疲れたぞ」

 魔神グナガンは流石に強く、今現在のレベルのランスでは手に余る存在だったと言っても良い。

 この戦いで最も戦果を挙げたのは、間違いなく魔人ケッセルリンクだ。

 だからこそ、ランスもその体に大きな疲労を感じ、そのまま意識を手放した。

 

 

 

 そしてグナガンを倒した事で、ランス達は怪獣王国から盛大なパーティーを開かれ、ついに元の世界に帰る時が来た。

「ランス殿。我らの世界を助けてくれた事、感謝しますぎゃ」

「おう。精々感謝しろ。で、集めたアイテムは俺様が貰って行くが構わんな?」

「それは勿論ですぎゃ。ランス殿が手に入れたアイテムはランス殿の物ですぎゃ」

 怪獣王子が差し出した手を、意外にもランスはその手を取った。

「それよりもお前も一度こっちの世界に来ればいい。今度は俺様が色々と連れて行ってやろう」

「ありがたいお言葉ですぎゃ。ランス殿の危機には、この怪獣王子が何をしても駆けつけますぎゃ」

「がははははは! まあ俺様が苦戦するなどありえんがな」

 楽しそうに笑う二人を前に、シャロン達は少し苦笑いをして見ていた。

「凄い仲がいいですよね…あの二人」

「グナガンを倒した後も、二人で冒険をしていたみたいですからね…冒険が好きな者同士、気が合ったのでしょう。ただ、ランスさんがあそこまで好意的なのは驚きましたけど」

 何しろ怪獣王子は、ランスから友達認定を受けていた。

 二人とも非常に冒険好きで、互いの趣味のアイテムを見せ合っただけでなく、その交換もするという気の合いようだ。

「で、どうやったら戻れるんだ」

「それは問題無いですぎゃ。用意はいいぎゃ?」

 怪獣王子が部下の怪獣神官に尋ねると、怪獣神官は恭しく一礼する。

 そして何かの呪文を唱えると、そこに黒い渦が出現する。

「ハウセスナース様の力で、この世界とランス殿の世界をもう一度繋げましたぎゃ。これで戻る事が出来ますぎゃ」

「うむ、ようやくか」

 ランスとしては結構長い足止めだったが、こうして元の世界に戻れるというのであれば、中々有意義な足止めだったというものだ。

「がはははは! 待ってろよジル! 今からおしおきじゃー!」

「待て、ランス」

 ランスが意気揚々と黒い渦に飛び込もうとした時、それを止めたのはケッセルリンクだ。

「何だケッセルリンク。まさか邪魔する気じゃないだろうな」

 ケッセルリンクをジロリと睨むが、当のケッセルリンク本人は真剣な表情でランスを見る。

「先に戻るのは私達だ。お前とは別に戻った方がいい」

「どういう事だ」

「お前は人間、私は魔人…そういう事だ」

 ケッセルリンクの表情を見て、スラルの顔が歪む。

「ケッセルリンク…お前のそういう所は我は非常に好ましい。しかし…どうあっても魔王の元に戻らなければならないのか?」

「何だと? どういう意味だスラルちゃん」

「ケッセルリンクは…魔王ジルの元に戻ると言っている。例え、自分が殺されようともな」

 魔人は魔王の命令には絶対服従、それこそ死を命じられても従わなければならない。

「ちょっと待て。もしかしてお前が殺されるという事か。駄目だ、お前は俺の女だ。勝手に死ぬとか許さんぞ」

 ランスは少し慌てた様子でケッセルリンクを見る。

 そんなランスを見て、ケッセルリンクは嬉しそうに微笑む。

「いや、どのみち一度私は魔王と顔を合わせなければならない。それは魔人としての義務だ」

「駄目だ。許さんぞ。お前が死ぬくらいなら俺様がジルの所に直接乗り込む」

 その言葉にケッセルリンクはランスを抱きしめる。

「ありがとう、ランス。しかし、お前が魔人になってはそれこそジルは救われない…それに、お前が助けなければいけないのは私では無い。そうだろう」

「うるさいうるさい。お前もジルも俺様の女だ。勝手に何処かに行くなど絶対に駄目だ」

「フッ…実にお前らしい言葉だ。だからこそ、お前を守らなければならない」

 ケッセルリンクはランスから離れると、黒い渦の側にいる使徒達の所に戻る。

「さらばだ、ランス。私が生きているならば…必ずお前の元へと顔を出す。だから…お前はジルを救ってやってくれ」

「ランスさん、絶対に彼女を救ってください」

「ここで諦めるランス様ではないのでしょう?」

「そうですよ。あの時のJAPANの時みたく、不可能を可能にして下さいね」

「大丈夫ですよー。私達は意外としぶといですから」

「…あんたにこんな事を言うのは変かもしれないけど、アンタなら出来るんじゃない?」

 その言葉を最後に、ケッセルリンクとその使徒達の姿が消えていく。

「ま、待て!」

「ランス! ケッセルリンクの覚悟を無駄にするな!」

 彼女達の後を追おうとするランスの体を、スラルは必死に抑える。

「離せ! スラルちゃん!」

「ケッセルリンクは…お前とジルになら殺されても仕方が無いと言っていたんだ…お前の子供を殺してしまったと…」

「あれはあいつの意思じゃないだろ! 全部魔王が悪いんだ!」

「そうだ! そして…我もまた元魔王だ!」

 スラルの言葉にランスはその足を止める。

 ランスはスラルの顔を見るが、彼女は涙を流していた。

 その顔を見て、ランスも何も言えなくなる。

「…分かった分かった。だから泣くな」

 ランスはスラルの頭を撫でると、改めて目の前にある渦を見る。

「で、どれくらい待てばいいんだ」

「それは分からないが…どうなのだ、怪獣王子。正直、我にも想像もつかない」

 スラルの言葉に怪獣王子は首を捻る。

「それは…わかりませんぎゃ。ただ、ランス殿達と、ケッセルリンク殿達が来るのには結構な時間差がありましたぎゃ」

「我等とケッセルリンクの間にそれ程の差が…確かに、我とランスはひっついていた状態だったな…」

 スラルとランスは確かにあの時引っ付いていた。

 だからこそ、一緒の時間軸にここに来たのかもしれない。

「ランス。お前が望むなら今すぐにでも行ってもいいが…」

「だったら悩む必要は無いな。行くぞ、スラルちゃん」

 ランスはスラルの手を握ると、そのまま迷う事無く黒い渦へと向かって行く。

「ランス殿! 御武運をお祈りしますぎゃ! そして! ランス殿が危機の時は間違いなく駆けつけますぎゃ!」

「おう。その時は俺様が案内してやろう」

 怪獣王子の言葉にランスは楽しそうに答え、そのまま黒い渦に飛び込んでいった。

「お兄ちゃん…」

「ランス殿なら絶対に大丈夫だぎゃ」

 怪獣王子と怪獣王女はランスが消えた跡を何時までも見ていた。

 

 

 

「ようやく戻って来たか…」

 ケッセルリンクとその使徒達が黒い渦を抜けると、そこには何時もの自分達の居る大陸がある―――はずだった。

「え…何…これ…」

 バーバラが呆然とした様子で呟く。

「何が…起きたんですか」

 メイド長として、常に冷静な態度を心がけているエルシールもこの状況には思わず呆然とする。

 そこに広がるのは瓦礫の山だ。

 そしてそこに居るはずの人間の姿は何処にも無く、魔物の姿も見当たらない。

「ケッセルリンク様…」

 不安そうなパレロアの顔に、ケッセルリンクもまた覚悟を決める。

(これが…魔王『ジル』の治世だというのか…)

 魔人最年長のケイブリスや、自分よりも前から魔人をしているカミーラやメガラス程ではないが、自分も現状の中では古参の一人だ。

 魔王スラル、魔王ナイチサの治世を見てきた。

 基本的にスラルもナイチサも人間は放置してきたと言っても良い。

 ナイチサは思い出したかのように人間を虐殺するが、それは一過性のものであり、気が乗らなければ人間は放置してきた。

 藤原石丸が大陸を支配しようとした時も、魔人ザビエル1体だけを動かしただけだ。

「まずは…魔王の所に向かうか…」

 ケッセルリンクの言葉に、使徒達は不安そうな顔で頷く。

 そしてケッセルリンクが歩みを進めていくと、その目に広がる光景は異質だった。

 適当な魔物を捕まえて話を聞き、今のこの世界の現状に呆然としてしまった。

 人間牧場…まさかそんなものが造られているとは思いもしなかった。

 そして魔物牧場…魔物すらも繁殖させられているというのは、それこそ信じられない事だ。

 更には毎週のように行われる魔物の処刑。

 魔物同士の殺し合いを見て、魔王は楽しんでいるらしい。

(ジルに…一体何が起きたというのだ)

 ケッセルリンクの知るジルは、思慮深く使命感に溢れた人間だ。

 そして、ランスの奴隷であり…ランスを深く愛した女性だ。

 そんな彼女が今の世界を作り上げたなど、到底想像できるものでは無かった。

 それでもケッセルリンクは魔王の元へと戻るべく、現在の魔王城に向かって歩き続けた。

 そして荒廃した世界の中で、一つの城を見つける。

 それこそが、この世界を支配する魔王の城だ。

「何者だ!? 人間…では無いよな…?」

 魔物兵がケッセルリンクを見て武器を構える。

 そこにあるのは恐怖と困惑。

「魔人ケッセルリンクだ。魔王に…現魔王であるジル様にお目にかかりたい」

「魔人…? も、もしやあなたが魔人ケッセルリンク様!?」

 ケッセルリンクの事は魔人の中でも有名だ。

 魔人カミーラと並んで美しく、そして恐ろしい程の強さを持つ魔人であると。

 そして、何年か…いや、何百年も行方不明であった魔人でもある。

「お通り下さい!」

「ああ…」

 魔物兵の言葉にケッセルリンクは魔王城の中へと入っていく。

 その城は非常に豪華であり、まさにこの世を支配する魔王の居城に相応しい。

 後にリーザス城と呼ばれる城をケッセルリンクは歩いていた。

 そこを警護するであろう魔物兵が居るが、その全てが疲れ切っているように見える。

「!」

 そして魔王の気配が強くなっていき、とうとう魔王ジルの居る広間にやってくる。

 椅子に座る魔王を見て、ケッセルリンクの使徒達は声にならない悲鳴を上げそうになるのを必死で堪える。

 それだけ、魔王ジルの放つ魔王の気配が濃厚だったからだ。

「ジル様。ケッセルリンク、戻りました」

 ケッセルリンクはジルの前に跪く。

 そこには恐れも何も無く、まさに魔人四天王としての堂々たる態度と言えるだろう。

 そしてケッセルリンクは、ジルの背後に控えている一体の魔人を見る。

(…こいつは)

 その魔人は非常に強い気配を発していた。

 それこそ自分と互角…いや、もしかしたら夜の自分よりも強いかもしれない。

 もし戦うとなれば、夜にしか本領を発揮できない自分が負けるだろうと思わせる程の強者だった。

「戻ったか…ケッセルリンク…」

 ジルの声は非常に落ち着いてた。

 そこには怒りの感情は全く感じられない…だが、そんなものは当てにならない。

 何故なら、彼女は魔王なのだから。

「今まで…何処に居た…?」

「ハウセスナースの力で異世界へと飛ばされ、今帰還いたしました。300年以上も申し訳ありませぬ」

 ケッセルリンクは正直に答える。

 魔王の前に嘘は意味が無いし、何よりもケッセルリンクは既に覚悟を決めている。

 自分がどんな目にあっても、文句を言う事は出来ないのだ。

「そう…か…だが…ランスは…どうした」

「ランスは…私達とは逸れました。今何処に居るのか、私には分かりません」

 ケッセルリンクの言葉にジルは何も答えない。

 だが、その水色の眼だけがケッセルリンクを見据えていた。

「ならば…いい…お前に…命令をする気は…無い。好きに…しろ」

 魔王ジルの言葉にケッセルリンクは驚く。

 自分は殺されてもおかしくない立場なのだ。

「宜しいので…ジル様」

 ジルの後ろで控えていた魔人がその声を開く。

 その重厚な声は、その容姿に違わぬ威厳を持っている。

「よい…ケッセルリンク…お前は…好きにしろ…だが…これだけは言っておく…人間は…殺すな」

「分かりました…」

 ケッセルリンクはジルに一礼してから魔王の間から去っていく。

 残されたのは魔王ジルと、ジルに絶対的な忠誠を誓う魔人ノスだけだ。

「戻ったか…ならば…ランスも戻っている…だが…そう簡単には…捕まるまい…」

 ジルは魔王の顔で非常に楽しそうに笑う。

 今でもランスの事を克明に覚えているジルは、ランスがそう簡単に見つからないと確信している。

 何よりも、ケッセルリンクが戻ってきたのが今だとすると、ランスはもっと後で戻って来る可能性が高い。

 今まで300年も待っているのだ、ランスが戻って来るのを待つのは別に苦痛でも無い。

 寧ろ、ケッセルリンクが戻って来た事でジルの顔には歓喜の表情が浮かんでいる程だ。

「さて…どうするか…」

 ランスを『探す』という行為をするよりも、ランスを自ら『動かす』という手段を取る方が早い。

 だが、元魔王のスラルが居るのであれば迂闊な行動はとらないだろう。

 しかし、そんなランスが動く状況を作り出す事は出来る。

「ククク…ならば…これで行くか…」

 魔王ジルはどこまでも楽しそうな笑みを浮かべていた。

 

 己の城に約300年ぶりに戻ってきたが、その城の現状は酷いものだった。

 荒らされては居ないが、それでも主がいなかったその城は汚れてしまっている。

「久しぶりの我が城と言いたいが…やはり荒れているか」

「そうですね…流石に300年以上経てば仕方が無いですね。メイドさんをお借り出来ればいいのですが…」

 本来であればメイドという立場の使徒がやるべき事なのだが、流石にこのそれなりに大きな城を綺麗にするには人手が足りない。

 それならば、女の子モンスターのメイドさんに頼めば綺麗にしてくれるので、その方が手間がかからない。

「うむ…まさかこんな時代になっているとは思ってもいなかったからな…」

 ケッセルリンクは重いため息をつく。

 この時代の変化…それは正に暗黒の時代と言っても過言では無い。

 人間も魔物も等しく地獄を見る時代…それこそが魔王ジルが作った時代なのだ。

 それに関しては1魔人に過ぎないケッセルリンクが出来る事など何もない。

 ただ、亜人であるカラーに関しては見逃されているようで安心してしまった自分がいる。

「戻ったか…ケッセルリンク」

「カ、カミーラ様!?」

 突如としてベランダから魔人カミーラが入ってくる。

 突然の訪問にメイド達は緊張してしまう。

 いくらケッセルリンクとは仲が良いと言っても、やはり相手は魔人なので、恐ろしさが有るというのも事実だ。

 ましてや初めて魔人カミーラを見る加奈代は、その圧倒的な存在感に倒れそうになる程だ。

「カミーラ…見ての通り、今私の城は客人を持て成す余裕が無いのだがな…」

「構わん…今回は私が持ってきた」

 カミーラや手に持っていたワインと、二つのグラスをテーブルに置く。

 その様子を見て、シャロンは慣れた手つきで二人の魔人が座る椅子を綺麗にする。

 それを見てカミーラは椅子に座ると、ワインをグラスに入れその味と香りを堪能する。

「ランスと一緒だったな…? お前は何を見た」

「お見通しという訳か…あまり言いたくない事ではあるのだがな…今回はお前にも詳しい話を聞きたい。私も見た事を話そう」

 そしてケッセルリンクは己が見てきた事を全てカミーラに話す。

 魔王ナイチサがジルを無理矢理魔王にした事。

 そしてそれを見ている事しか出来なかった自分。

 そして魔王ナイチサにすら怒りをぶつけたランスの事。

 それを聞いて、カミーラは実に楽しそうに笑みを浮かべる。

「ククク…ナイチサめ。最後の最後で詰めを誤ったか」

 ナイチサへの侮蔑を隠そうともしないカミーラだが、ケッセルリンクはそれを咎める事は無い。

 ケッセルリンクにとってもどうでもいい魔王だったが、カミーラがナイチサを嫌っている事は周知の事実だからだ。

 それに所詮は元魔王、最早過去の存在でしかない。

「そして…ランスはとうとう魔人を倒したか。実にいい…次こそ奴を私の前に跪かせるには丁度良い…」

 カミーラの眼光は非常に鋭い。

 そこには何れ訪れるであろう、ランスとの戦いが見据えられており、その好戦的な気配にメイド達は皆緊張で汗を垂らしている。

「今度はお前の話を聞こう。一体何が起きた」

「フン…実にくだらぬ世界よ…」

 カミーラの話を聞き、ケッセルリンクは顔を歪める。

 自分の想像以上の世界に頭が痛くなってくる。

(これが…ジルを救えなかった罰だというのか…)

 人間牧場、魔物牧場、そして毎週のように死んでいく魔物達。

 それはまさにこの世の地獄としか言い様がない。

「もう一つ聞こう。ジル様の後ろに居た魔人は誰だ。アレは只者では無い…お前と同じくらいに強いだろう」

 ケッセルリンクの言葉に今度はカミーラが顔を歪める。

「………以前にお前にも話しただろう。アレがノスだ。アレほど私を忌み嫌っていた奴が魔人になるとはな…」

「そうか…アレがノスか」

 ノスの話はカミーラから、そしてランスから聞いた事がある。

 それはまだ自分が魔人になりたての頃、カミーラがランスを連れてドラゴンの住まう山に行ったことがあった。

 その時にランスが戦ったのが、ノスという名のドラゴンだと聞いている。

「お前の事だ…当然ぶつかったのだろう」

「フン…」

 ケッセルリンクの言葉にもカミーラは答えない。

 だが、その態度で何があったかケッセルリンクには理解出来る。

 大凡、魔王に闘う事を止められたのだろう。

「しかし…ジルがランスの奴隷か…」

 現在の魔王がランスの元奴隷…それを考えてカミーラはその唇に弧を描く。

「カミーラ…お前、何を考えている」

「お前と同じ事だ…ランスは必ずジルの元に現れる…無論、何らかの手段を用意してな」

「お前が闘うとすればその時、か?」

「さあな…だが、ついに魔人を倒したとなれば…私としては面白くなるというだけだ」

 カミーラは何処までも楽しそうにワインの味を堪能していた。

 

 

 

 GL400年―――GL期は全ての生き物に対して地獄であり、人間も魔物も好きに動く事が許されない世界だ。

 人間は魔物の目を恐れ、息を潜めて生きてきた。

 魔物は魔王の目に止まらぬ様に、人間と同じように息を潜めている個体もいる。

 だが、世の中には予想外の行動をする者も多く、それは人間でも魔物でも例外は無い。

 その男は秀でた力を持っていた。

 この時代にも関わらず、堂々と世界を歩き、そして暴れる日々を過ごしていた。

「な、何だこの人間は!? つ、強すぎる!」

「ば、バカ野郎逃げるな! 逃げても俺達に先は無いんだぞ!?」

 魔物兵は次々に倒されていく仲間を見て完全に怖気づいていた。

「何だ。詰まらねえな。てめえら雑魚共じゃあ楽しめねえな」

 男は襲ってくる魔物兵を蹴りあげる。

 どれ程の力が込められているのか、その魔物兵の頭が宙を舞い地面に叩きつけられる。

 本当に詰まらなそうな声を出す男に対し、魔物兵は怒りを覚えるよりも先に恐怖を覚える。

 それは目の前の男にでは無く、このままこの男を逃がした時に下される魔王の処罰にだ。

 魔物兵は人間牧場、そして魔物牧場での仕事以外にも一つの仕事が義務付けられていた。

 それこそが、絶対的な強者…それも人間を探すという途方もない仕事だ。

 その命令に何の意味があるかは分からないが、魔物である以上それに従わなければいけない。

 そして見つけた…いや、見つけてしまったのがこの男だ。

 薄い紫色の髪をした男を囲んだ魔物兵だが、男が無造作にこちらに突っ込んでくるだけで魔物兵の体が宙を飛んだ。

 凄まじい腕力で殴られた魔物兵の心臓を砕き、その蹴りは容赦なく魔物兵の頭を跳ね飛ばす。

 そこには技術も何も無い、ただ無造作な暴力があるだけだ。

 そして男の拳はついに魔物隊長の体すらも貫く。

「ハッ! 弱いな。退屈凌ぎにもならねえか」

「た、隊長がやられた!」

「に、逃げろー!」

 魔物隊長が倒れたのを皮切りに、全ての魔物兵が一目散に逃げ出していく。

 その光景を詰まらなそうにしながら、男は苛立ち気に魔物隊長の死体を蹴り飛ばす。

「全くくだらねえ…」

 この男には恐れるものなど何も無い。

 下らない連中は全てこの拳で黙らせてきた。

 それは人間だろうが魔物だろうが関係無い。

 だが、その胸の中には常に虚無感が存在していた。

 どんな連中を倒しても全く満たされない思いが、更に男を苛立たせた。

「そろそろ別の所に行くのもいいか。JAPANに行くのも良いかもしれねぇな…ん?」

 男が何か変な気配を感じて宙を見上げた時、

「ぐおっ!?」

 男は宙から降って来た何かに押しつぶされる。

「ちょ、ちょっとランス! 誰かの上に落ちたぞ!?」

「誰かだと? 何だ、男か。どうでもいいわ」

 突如として降って来た人間に男は押しつぶされ、好き勝手な事を言う男に対してただでさえ短い導火線に火がつく。

「何時まで人の上に乗ってやがる! とっととどきやがれ!」

「何だこいつ」

 宙を降って来た男―――ランスも男に乗る趣味は無いので早々に男から離れる。

「突然降ってきて好き勝手言ってくれるじゃねえか」

「そんなのは知らん。むしろ俺様のクッションになれたんだから光栄に思え」

「んだと!? 何処までも人を馬鹿にしてくれるじゃねえか…」

 ランスは突如として怒り始めた男に呆れるしかない。

 ランスにとって、男の扱いなどその程度のものでしかない。

「大体お前は誰だ。いきなり人様につっかかってきおって。あ、ヤンキーの変異種か?」

「誰がヤンキーだ! 俺はレイ! レイ・ガットホンだ!」

 こうしてランスには新しい出会いが待っていた。

 だが、生憎とその出会いは女ではなく、男だったのでランスにとっては只管にどうでもいい出会いでもあった。

 

 




アレフガルドっていつ頃使徒になったんだろ…
それ次第で展開は変わるんだけどどうしよう

そして二次創作を考える上で思うことは、第二次魔人戦争でランス以外で勝つ事は出来るのかという事を考える

藤原石丸
ランスより強いので多分余裕 あれだけ女好きならカオスも使えそう

MMルーン
闘神があれば余裕 無くても何とかなりそう

アリオス
微妙 ランスが居ないならヒロインは01~03まではアリオスが何とかしたらしいしその辺がどうなるか

健太郎
どう考えても無理 ランスのような卑怯作戦は思い浮かばないだろうし

ただ何れも第二次魔人戦争は何とかなるかもしれないけど、その後が無理っぽいんですよね
魔王がどう考えてもどうしようもない…

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