ランス再び   作:メケネコ

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魔人達の事

 魔人レキシントン―――鬼から魔人となったこの存在は戦いの権化だ。

 酒、戦、セックス、酒、戦、セックス…これがレキシントンの全てであり、ある意味存在意義でもある。

 そんなレキシントンだが、かつては地獄で働く鬼の一体であった。

 鬼というのは基本的に真面目で、地上で悪さをする鬼は、鬼の中でも一部だけだ。

 ただその闘争本能は凄まじく、相手を殺す事、己が殺される事、どちらも変わらない。

 そんな鬼の中で、レキシントンは魔王ナイチサと出会う事で魔人となった。

 そして今はこの地上で好き勝手生きているが、地獄で鬼と酒を飲んだりもする。

 それが関係してか、レキシントンは鬼達からオヤジと呼ばれていた。

 とにかく、魔人レキシントンは何故か奇妙なカリスマ、そして人気がある存在だ。

「小僧! 久しぶりだな!」

「一々声がうるさい。喋るな」

 ランスのぞんざいな扱いにもレキシントンは楽しそうに笑うだけだ。

「まあ、レキシントン様に対して何て口のきき方かしら」

「別にいいんじゃない? レキシントンだってそんな事くらいで怒ってはいないさ」

 全裸の使徒二人も口元に弧を描きながらランスを見る。

 ランス達は既に臨戦態勢を取っているが、意外にもレキシントンはそんなランス達を見ても金棒を構える事は無い。

「まあまて。確かに儂はお前達ともやりあいたいが、それ以上に旧友に会いに来ただけだからな」

 レキシントンはランス達を無視する形でセキメイの近くに腰を下ろすと、そのままセキメイの前に酒樽を置く。

 そして自分も酒樽に口をつけると、そのままの勢いで一気に酒を飲み干す。

「ぷはーーーーっ! 確かに美味いが、今は人間共が酒を造れんから量に限りがあるのが難点だな」

 そう言いながらもレキシントンはどんどんと酒を飲み干していく。

「何だあいつ」

「ああ、悪いね。レキシントンも昔の喧嘩相手がこうして封印されてるのを見て、何か思う事があったんじゃないかな」

 ランスの疑問に、何時の間にかランスの隣に移動していたジュノーが答える。

「それよりも…本当に久しぶりだね。前に会ったのが確か600年くらい前か。しかし本当に時間を移動してるんだね」

「…どういう意味だ」

 ジュノーの言葉に警戒の色を強めたのがスラルだ。

(こいつ…ただの変態じゃないな)

 全裸にマフラーという尋常では無い格好だが、その眼光は意外にも鋭い。

 お町を助けるときにレキシントンから非常にアホな手段で逃げたが、この使徒は間違いなく気づいていた。

 気づいていて、こちらを態と見逃している。

「やだねえ。そんな怖い顔をする必要は無いだろ。俺が恐れるのは君達が持っているその胸だからね。特にその金髪の女は…前よりも胸が大きくなってるんじゃないか。醜くていやだねえ」

「な、何いってるのよ!」

 レンは顔を真っ赤にしてジュノーを睨むが、ジュノーはどこ吹く風と言わんばかりに肩をすくめる。

「少しはそこの少女を見習うべきだよ。やっぱり余計な脂肪はいらないね。この少女みたいなつるぺたが」

「電撃」

「あばばばばば!」

 お町のある部分に視線を向けていたジュノーだが、お町の電撃を受けて倒れる。

「いきなり酷いじゃないか。俺は君の美を褒めているだけなのに」

「やかましい! ランスのようにため息をつかれるよりもよっぽど腹が立つわ!」

「腹が立つ? フッ…それは美が足りない証拠だよ。俺の様に完璧な美を身につければ…ぬあっ!?」

 すぐさま起き上り、再びポーズを取りながら美について話し始めるジュノーに、お町の蹴りが美の極致に突き刺さる。

「だいたいそんなモノを見せながら話しかけるな! い、嫌でも目に入るじゃろうが!」

 顔を真っ赤にしながら荒い息を放つお町に、レンとスラルはある意味納得する。

 身長が小さい彼女の視線では、どうしてもジュノーの股間が目に入ってしまうのだろう。

「フ…お、俺の美の極致に一撃を加えるなんて…でもランス、そんな俺も『美』だと思わないか?」

「やかましい。それ以上ぬかすとぶっ殺すぞ」

 ランスも剣呑な雰囲気で剣に手をかけている。

「つれないねえ…まあいいさ。で、それよりも…君達は俺に聞きたい事があるんだろう? レキシントンを楽しませてくれたお礼に、俺が話せる範囲で話してやるよ」

 突如としてまともな事を言いだすジュノーには、スラルも引かざるを得ない。

 スラルにはこの使徒の行動が全くと言っていい程読めなかった。

「ちょっとジュノー。何勝手な事言ってんのよ」

 そんなジュノーにアトランタが咎めるような視線を向けるが、

「いいんだよ。それにこいらに色々と教えた方が、レキシントンが楽しめると思わないか?」

「んー…それもそうね。レキシントン様が楽しめるならそれでいいか」

 ジュノーの言葉にあっさりと同意する。

「…何を考えている?」

 スラルの探るような視線にも、ジュノーとアトランタは肩を竦めるだけだ。

「裏なんて無いわよ。確かに私達は魔王の命令には逆らえないけど、常に魔王から命令を受けてるわけじゃないしね」

「俺達はレキシントンが楽しい事が一番の楽しみなのさ。そしてレキシントンが楽しむ為には、ランス達に動いてもらうのが一番だと思っただけさ」

 二人の使徒の意図は全く読めないが、それでも魔軍…それも使徒の言葉は信じられるとスラルは判断する。

 ここで嘘をつく理由は無いし、そもそも自分達を騙す理由が全く無い。

「ならば、魔王ジルが創った今現在の世界について教えてもらおうか」

「別にいいわよ。それはね…」

 そしてアトランタとジュノーは今現在の世界について話し始める。

 それを聞いていくうちに、スラルの顔がどんどんと歪んでいき、ランスも不愉快そうな顔をしている。

「…それが今の世界だというのか」

「ああそうだよ。魔王ナイチサと違い、人間にも魔物にも辛い時代…だけど」

 一度言葉を切って、ジュノーは笑う。

 それは今までのような笑みでは無く、確かな迫力のある笑み。

「ジルはどちらかというと魔物に憎しみを抱いてるね。何でジルが人間牧場を作ったのかは知らないけど、魔物に対する扱いの方が酷いさ。俺らに言わせればね」

「………」

 ジュノーの言葉にスラルは何も答えることが出来ない。

 確かにジルは魔王だ。

 それも恐らくは人類の…いや、この世界にとって最悪の魔王として名前を残すであろう存在だ。

(これも全て、我が無敵で有る事を望んだからか…)

 魔王スラルは何者かに無敵で有る事を願った結果、魔王は無敵の存在となった。

 その過程で、魔人もまた無敵結界の恩恵にあずかれた。

 だが、魔王スラルは魔王としての実力不足故に、魔王の血に飲み込まれて消滅するはずだった。

 しかしランスのおかげで、こうしてまだこの世界に存在できている。

 その結果、魔王の血は他の者に受け継がれ、そして今まで続いてきている。

「他にはあるかな?」

「魔人の事を教えろ。居る限り全部だ」

 ランスの言葉にジュノーは楽しそうに笑う。

「魔人の事を知りたいか…変わってるねえ。でもランスは人間なのに何処か魔人の事を知っているような空気があるからね」

「ケッセルリンクとも親しいみたいだしね。それとカミーラとも」

「そんな事はどうでもいい。さっさと教えろ」

 ぞんざいな言葉にも二人の使徒は全く気に留めた様子は無い。

「じゃあまずは魔人ケイブリスかな。一番古い魔人らしいけど、実はあんまり会った事が無いんだよね」

「ケイブリスの事は知っている。常に強者に媚びを売ってきた存在だ。何しろ魔王ククルククルの時代から生きている唯一の存在だ」

「で、男か?」

「リスの魔人だから当然男だよ」

「何だ下らん。そんな奴の事はどうでもいい。それよりも他の奴等を教えろ」

 ランスの言葉に二人の使徒は少し考えると、

「じゃあ次は魔人メガラス。ホルスという種族らしいけど、詳しくは知らないね。何しろ話した事も無いからね。レキシントンもメガラスと戦いたがっているけど、直ぐ何処かへ行ってしまう」

「魔人…いや、世界最速なのかもしれないわね。戦う所を見た事無いけど、絶対強いわよ、あいつは」

「メガラス…ああ、あの時の紫色の奴か。まあ男なんぞどうでもいい」

 ホルスの魔人と言われてランスは思い出す。

 何しろ古代遺跡で出会った連中がホルスという種族だった。

 その女王とやらに会いに行く途中で、ランスはレンやベゼルアイ、そしてサテラとも出会い、更にはセラクロラスに出会い今ここに居る。

「次は魔人カミーラだけど…カミーラに関してはそっちの方が詳しいんじゃないかな?」

「そうだな。あいつはいい加減しつこい。まあいい女だから許す」

 ランスの言葉にジュノーは笑う。

「しつこい女って嫌だよねえ。それにカミーラって無駄におっぱいでかいし」

「無駄では無いぞ。まあ中々触らせてくれんが…」

 カミーラとは何度かセックスはしているが、ランスが好き勝手に出来る事は少ない。

 プライドが非常に高い魔人なので、ランスとしても中々自分が好きに出来ないのは歯がゆい。

 だが、ランスとしてもあのカミーラが自分から動いているという事には興奮している。

 何しろ、ゼスでカミーラを犯した時はカミーラが動けないので、ただただランスが動いているだけだったからだ。

(もうちょいこう…ケッセルリンクみたいにやれればいいんだが。でもカミーラだしなあ…)

 ケッセルリンクはカラーだった時からランスとセックスをしまくっていたので、魔人になってもランスが完全に主導権を取れる。

 しかし、流石にあのカミーラが男に甘えてくる光景はランスでも想像できなかった。

(うむ…これは志津香みたいに雰囲気で押すか…カミーラ相手だと想像もできんが)

 ランスでも悩むのが、魔人カミーラという存在。

 流石にあのプライドの高い女王様気質の存在は難しすぎた。

「次は…そうだね、ガルティアかな。人間の魔人」

「ガルティア…誰だ?」

「ランス…お前、本気で言ってるのか? 我はガルティアにお前とレンの事を頼んでいたから面識は絶対に有るはずだぞ」

 スラルの咎めるような視線にランスは考える。

「ガルティア…ガルティア…」

「腹に大きな穴が開いたムシ使いの魔人だ」

「あ! 思い出したぞ! あの味音痴野郎か!?」

 腹に大きな穴が開いた、ムシ使いの魔人と聞いてランスはようやく思い出す。

 思い出すと言っても、ランスが直接戦った魔人では無いため、ようやく思い出せたという程度なのだが、ガルティアは忘れてもあの時の料理の記憶は忘れない。

 何しろランスにとっても命の危機だからだ。

「あ、味音痴…?」

「そうだ! スラルちゃんの作った料理が好物だというゲテモノ好きだろうが!」

「そ、それはどういう意味だ!? いや、確かに我の料理が一般的に見てアレだというのは理解しているが…」

 ランスの言葉にスラルはランスに詰め寄るが、確かに自分の作った料理を顧みて声が小さくなる。

「スラルは料理を作ってはいけない。これだけは揺るがないわね」

 レンにも言われて、スラルが目に見えて落ち込む。

「違うのだ…我は悪くないんだ。美味しくならない料理が悪いんだ…」

「そして次は…ケッセルリンクかな。まあこれに関しては俺よりもランス達の方が詳しいだろうね」

 とうとういじけ出したスラルを無視して、ジュノーは話を続ける。

「ああ、アレは俺様の女だ」

 躊躇いなくそう言い放つランスを見て、ジュノーはニヤリと笑みを浮かべる。

 繋がりは確信していたが、そういう関係だとは流石に気づいては居なかった。

「あ、そうだ。あいつは今何してる」

「さあ…俺はレキシントンの使徒だからね。正直他の魔人が何をしているかなんて一々気にもしてないよ。ただ、自分の城で大人しくしているとは聞いているよ」

「そうか」

 ジュノーの言葉を聞いて、ランスは内心で安堵する。

 ケッセルリンクは魔王ジルに逆らった…それ故に、処罰されるのではないかという考えもランスには存在していた。

 だが、その心配はどうやら杞憂だった様だ。

(これは俺様に対して迷惑をかけたという事で、一発や二発じゃきかんな。そうだな…丸一日耐久セックスもいいな)

「次はレッドアイかな。超イカれた魔人で、何よりも殺しが好きっていう魔人さ」

「レッドアイ…あいつか」

 レッドアイの名前を聞いて、スラルが苦い顔をする。

 レッドアイ…本体は宝石であり、人や魔物、果てにはドラゴンにすら寄生してたとんでも無い存在だ。

 NC期にランスとも戦い、シャロンが使徒になるきっかけとなった魔人だ。

 魔人になったとなると、あの時に殺せなかったのが非常に悔やまれる。

「あのキ○ガイか…」

 ランスも流石にアレほどのインパクトがあるとなると覚えている。

 何しろあのアニスに匹敵する魔法使いの上、アニスとは別のベクトルで狂っている。

 扱いとしてはどっちもどっちになるが、人間の町に対して躊躇わずに攻撃魔法をぶちかましてくる分、アニスよりも性質が悪い。

「へー…レッドアイの事も知ってるのね」

 アトランタは、レッドアイの本質を言い当てたランスに感心したように声を上げる。

(こいつ…それだけ魔人と関わってるのに、こうして生きてるんだ)

 人間が魔人と関われば、待っている結末はほぼ死だ。

 だが、この男はそれでもまだ生きているどころか、ケッセルリンクを自分の女だと躊躇いなく言い放つ。

 非常に面白い人間だとアトランタも、そしてジュノーもある意味感心してしまう。

「後はパイアールかな。と、言っても俺はパイアールに会った事が無いから、どんな魔人かは分からないけどね」

「ああ、あいつか。そういやあいつの姉ちゃんは治ったのか?」

「そうね…ルートは病気だったけど、それは治ったのかしらね…いや、治ったとしてもその後どうしたんだろ」

 パイアールが魔人になったという事は既にパレロアからは聞かされていた。

 魔物大将軍と戦った時、それを聞かされた時は非常に驚いたが、スラルはある意味納得していた。

(あいつは間違いなく天才と呼ばれる存在だ。魔王に見出されてもおかしくはないな…)

 何しろランスの持っているバイクを作ったのはパイアールだし、魔法ハウスを快適に改造したのもパイアールだ。

 間違いなく次元が違う天才だが、姉であるルートが不治の病を患っていた。

 その後どうなったのかは気になってはいたが、どうやら今でも魔人をしているようだ。

「そして魔人ザビエル…これはランス達も知っているだろう?」

「JAPANで封印されてる奴だろ。今度こそ俺様がぶっ殺すはずだったんだがな…」

 魔人ザビエル…ランスにとっても因縁のある存在で、一度は完全に滅した存在。

 ランスもその疑問については完全に解けてはいるが、やはり魔人ザビエルはランスが殺したい魔人の一人だ。

「豪気だねえ…ザビエルはアレでも魔人四天王の一人なんだけどね。まあ俺もあいつは嫌いだからどうでもいいんだけどね」

 魔人ザビエルは誰からも嫌われており、重用していたナイチサですらもザビエルを見限った。

 今の時代…GL期になっても誰一人ザビエルを救おうとしないのが、ザビエルの人望を現してた。

「魔人ますぞゑは…話した事が無いから分からないな」

「ますぞゑ…ああ、あのハニーか」

 魔人ますぞゑ…それは誰が魔人にしたかも分から無い、唯一のハニーの魔人。

 その強さは魔人四天王にも匹敵すると言われ、何の因果かランスも魔人ますぞゑとは戦う事になってしまった。

 その時のますぞゑの強さはやはり魔人と言うべきもので、連続して放たれるますぞゑフラッシュや、こちらの攻撃を差し押さえるという厄介な攻撃を使ってきた。

 ランスは何とかますぞゑを倒したが、その魔血魂を飲み込んだハニーがますぞゑに乗っ取られ、再び何処かへと消えてしまった。

「ますぞゑは本当に意味が分からない魔人だったな…魔王の言葉ですら動かん奴だった…」

 スラルも魔王にすら非協力的であったますぞゑの事を思い出す。

 結局奈落から一歩も出る事も無く、完全に不干渉を貫いてた。

(だが…何故か我の作ったコロッケであんな事に…)

 その後、何故かJAPANの地獄で出会い、ハニーキングにせがまれてコロッケを作った結果…まさに地獄絵図になってしまった。

 スラルは怒りに身を任せてハニーだけでなくランスにすらコロッケを口に押し込み…その後の事はスラルも良く覚えていない。

「レキシントンもますぞゑに戦いを挑んだんだけどねえ…今はその時では無いとか言ってはぐらかされたよ。勿論通訳したのはハニーだけど」

 アレは相当に強い魔人だが、こちらの言葉に全く興味を示さない存在だった。

 レキシントンも戦闘を断念して、大人しく帰ってしまったほどだ。

 その後でジュノーは他の魔人の事を話してきたが、ランスはその魔人については全く聞き覚えが無かった。

 恐らく、長い人類の歴史においてもランス程魔人と戦い、そして倒してきた人間は居ないだろう。

 そのランスでも、ジュノーが話している魔人については全く心当たりが無かった。

「そしてここからが重要かもしれないね。特にランスに関してはね」

 そしてジュノーとアトランタは意味深な笑みを浮かべる。

「魔人ノス…多分、現在の魔人の中でも1、2を争うほどの強さを持つ魔人さ」

 魔人ノスの名前を聞いて、ランスは少し考え込む。

(そういやあの化物ジジイがいたな…本当に厄介な奴だったな…)

 魔王ジルの印象があまりにも強すぎて、ランスはノスの事を忘れていたくらいだったが、以前にカミーラに連れられてノスと戦った。

 あのカミーラとも互角に戦うのを見て、ランスもようやくリーザスで戦ったドラゴンの魔人の事を思い出した。

 そして、ここがランスの想像している世界ならば、当然あの化物ジジイが居てもおかしくは無い。

「ノス…以前にカミーラと戦ったドラゴンと同じ名前ね」

 レンは自分の思ったことを口にする。

 ある程度人類の歴史を調べたといっても、そこまで詳しく調べた訳ではない。

 なので、彼女が居た時代において、もう完全消滅しているノスの事は調べてもいなかった。

「魔人ノス…アレは本当に強いわね。そして何よりも…ジルの狂信者よ。ジルのやる事なす事は全て正しいと思っているわね」

「ふーん。そうなのか」

 ランスとしては、ノスは魔王ジルを復活させるためにヘルマンを利用した魔人という事、そしてやたらと硬くて強い奴だったとしか覚えていない。

 LP期においても、魔人といえばノスと有名な存在だが、生憎とランスはそんな事は気にも留めていなかった。

 それに、魔王ジルもノスの死に対しては何も言わなかった。

 何の感情も見せる事無く、ランス達を排除しようとした恐ろしい魔王だった。

「ノスはレキシントン様もカミーラも何度かぶつかってるけど…おかげで魔王から止められちゃったのよねー。だからレキシントン様は凄い退屈してたのよ」

 アトランタはケラケラと笑いながらランスを見る。

「でもアンタが現れてくれて、レキシントン様も非常に楽しんでるわ。だからアンタもレキシントン様を楽しませなさいな」

「断る。何で俺様が男なんぞを楽しませねばならんのだ。時間の無駄だ」

 ランスの言葉にアトランタは気分を害する事も無く笑い続ける。

「まあアンタがどう思おうが、レキシントン様は自由に行動するだけよ。アンタの気持ちなんてどうだっていいのよ」

「何て迷惑な奴なんじゃ…」

 アトランタの言葉にお町はげんなりした顔を見せる。

 そしてあんなのに絡まれた自分は大丈夫なのだろうかと、一抹の不安も覚える。

「次は魔人ジーク。魔人のくせに紳士とか言われてる奴よ」

「ああ…あのなめくじ野郎か」

 ランスの言葉にジュノーの目がギラリと光るが、それは別に敵意があった訳では無いため、ランス達はそれには気づかなかった。

「ジークは魔人のくせに紳士だからね。同じく淑女と呼ばれてるケッセルリンクとは親しいみたいだよ」

「何だと? あのなめくじ野郎が俺様の女に手を出すだと!?」

 怒りの表情を浮かべるランスだが、

「大丈夫だよ。ジークってそういうタイプじゃないから。言っただろ? 紳士だって」

「そんな事は俺様は知らん。とにかく、俺様の女に手を出したらぶっ殺す」

 魔人ジークの事はランスは一応は覚えていた。

 その使徒のオーロラが印象的過ぎたのと、身体的な特徴があった事…そしてトーマ・リプトンや魔王ジルに変身するというインパクトがあったからだ。

 そしてその最後は、ランスに己の能力を逆手に取られ毛虫に変身した結果、カオスで潰されたというあっけない最後。

 その事があって、ランスはジークの事は何故か覚えていたのだ。

「そして魔人メディウサ…こいつはランスが尤も嫌いそうな魔人かな」

「魔人メディウサ…知らんな」

 魔人メディウサはランスが聞いた事が無い名前だ。

 かなりの数の魔人と戦ってはいるが、ランスが知らない魔人もまだ多い。

「へびさんの魔人でね…股間の蛇で女を犯し殺すっていうとんでもない奴さ」

「…何だと?」

 ジュノーの言葉にランスの声が低くなる。

「魔王ジルは人間を殺す事を禁じてるんだけどね…だけど何故かメディウサだけ許されてるんだよ。勿論メディウサだって表立って人間を殺してる訳じゃ無い。陰でコソコソやる分には見逃されてるって感じかな」

「それも結構悲惨でねぇ…本当に死ぬまで犯されるのよ。それも楽には死ねない、って感じにね」

「噂だと…ケッセルリンクやその使徒を狙ってるって話だよ」

 使徒の言葉を聞いて、ランスから言葉が無くなる。

(あっ、これランスが本気で怒ってる)

 スラルがランスの態度を見て少し不安になる。

 確かにランスは短気だが、こうして口数が少なくなるのは本気で怒っている証拠だ。

 そしてそのメディウサの狙いがケッセルリンクとその使徒と聞いて、ランスが怒らない訳が無い。

「で、そのメディウサとかいう奴は何処に居るんだ」

「知りたいのかい?」

「ああ。教えろ。ぶっ殺してやる」

 ジュノーは笑うと、何処からか地図を取り出す。

「…何処から取り出したのよ」

「細かいことは気にしないほうが良いよ。それよりも…これがこの大陸の地図さ。尤も、これは俺が人間の居た所から見つけたものだから、正しいかは分からないけどね」

 ジュノーは地図を開くと、そのままその地図に色々と書き込んでいく。

 そしてランスから見て、ゼスのある方向に『メディウサ』と書く。

 それ以上にランスが気になったのは、今現在の魔王城…即ち、リーザス城の位置にあった事だ。

(そういやジルはリーザスに封印されてたな。じゃあ昔の魔王城がリーザス城だって事か?)

 事実はその通りなのだが、勿論そんな事に興味が無かったランスにはそれが分からない。

 それよりも重要なのは、自分の女であるケッセルリンクとその使徒を狙う不届き者が居るという事だ。

「ああ、それと話の続きだけど他の魔人は…」

 ジュノーとアトランタが残りの魔人について話し始めるが、ランスはその魔人には心当たりが無かった。

 ランスが戦った魔人アイゼル、魔人ラ・サイゼル、魔人カイトの名前は出てこなかったが、その中でランスが覚えているのは魔人サイゼルの事だけだった。

 男に関しては、特徴が無ければ本当に記憶から忘れてしまうのがランスという男なのだ。

「とりあえず俺達が話せるのはこの辺かな。この後どうするかはお前達次第さ」

「…随分と親切に教えるのだな。意図は何だ?」

 この全裸の使徒達が言っているのは嘘とは思えない。

 それはスラルも良く分かっている。

 スラルが知る魔人の特徴をそのまま言っていた事からも、こちらを騙そうとする意図は無いはずだ。

 スラルの言葉に二人の使徒は笑う。

「俺はレキシントンが好きに暴れるのを見るのが好きなだけさ。そしてお前達が動けば動くほど、レキシントンは退屈しないだろうしね」

「そうよ。私達は他の魔人がどうなろうが興味無いしね。レキシントン様が好きに出来るのならそれでいいのよ」

 この使徒達の全てはレキシントンのためにある。

 それは使徒としては何も間違っていないが、そのためならば何をしても良いという事では無いはずだ。

「まあここは素直に俺達の親切を受けていても損は無いと思うよ。それに、俺はランスが気に入ってるからね。俺程では無いが、中々の美だよ」

「そうねー。アンタはどう見てもワルのオーラがプンプンしてるからね。私としてもアンタは嫌いじゃないわ」

 ジュノーとアトランタは実に楽しそうに笑う。

 その笑みには確かに何の裏表もない、それを確信させる陽気さがあった。

「じゃあ素直に今は帰りなよ。レキシントンもそろそろ酒を飲み終わると思うし」

「そうよ。今はレキシントン様はセキメイと酒を飲んでるけど、それが終わったら即アンタ達と戦いたいと思うでしょ」

「…ならば、お言葉に甘えさせてもらうか」

 スラルはその二人の使徒に不気味なものを感じるが、それでも素直にランスから受け取った帰り木を折る。

 そしてランス達の姿がこのダンジョンから消えていく。

 残された使徒はそれを見て実に楽しそうに笑う。

「随分と煽ったわねー。あれは間違いなくメディウサを狙うでしょ」

「それでいいのさ。そうすればレキシントンも動きやすくなるだろ。それに…今の退屈な世界はレキシントンには詰まらないだろ?」

「それもそうねー。別にメディウサがどうなろうが私達の知った事じゃ無いしね」

 ジュノーとアトランタは今も酒を飲んでいるレキシントンを見て笑う。

「さーて、これから忙しくなるかもしれないな」

「世界をレキシントン様の望む世界にしないとね…まあアイツ等にはこの世界を引っ掻き回して貰いましょ」

 それは何処までも楽しそうな笑いだった。

 

 

 

 

「よーし、じゃあまずは俺様の女を狙う不届き者をズバッと倒してオシオキだな」

「魔人が相手か…いいじゃねえか」

 ランスの言葉に乗り気で応えたのはレイだ。

 どんな相手かは知らないが、強い奴と戦えればレイはそれで満足なのだ。

「また簡単に言うわね…どうやって魔人の所に行くつもりよ」

 レンは呆れた様子でノリノリで魔人を殺しに行こうとする二人を見る。

「そんなのは後で考える」

 相も変わらず直感的に動くランスにレンは呆れるが、同時にランスの直感はやたらと良い方向に動くのを思い出し悩んでしまう。

 行く先々でトラブルを起こすが、結果としてそのトラブルを自分の味方につけるのがランスなのだ。

「…我も付き合わねばならんのか?」

 お町は突如として話がどんどんと大きくなっているのに困惑するしかない。

「がはははは! 俺様に任せておけば全て上手くいく! だから俺様についてこい!」

 人類がこの世の地獄と称したGL期。

 その時代であっても、ランスはランスのまま全く変わることは無かった。




今回は全く話が進まないです
筆者にとってもおさらいみたいな感じで書きました
こう見るとGI期の魔人が結構多いんだな…

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