ランス再び   作:メケネコ

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戻らぬ者達

「ここから先に痕跡は見当たりません! ここで消えています!」

「ふむ…」

 魔物兵の報告に魔物将軍ドーイクスは頭を悩ませる。

 例の人間達の痕跡を追い続けてかなり時間が経過したが、この川岸の付近でその痕跡が消えてしまっている。

「もしや人間達が我々の追跡に気づいたのでは?」

「その可能性も無くは無いが…それにしても全ての痕跡が消えるなどありえぬ事だ」

 魔物隊長ラドゲフの言葉をドーイクスは否定する。

 これまでドーイクスは徹底して隠密に徹してきた。

 今回の任務は人間を見つける事だが、一番の問題はその人間を捕獲する事だ。

 たかが人間、と考えている兵士達は多いだろうが、ドーイクス以下魔物隊長たちは七星からこう言われている。

『相手は魔人にすら対抗できる存在です。あなた達はカミーラ様への報告を第一に考えなさい。迂闊に手を出してはならぬ』

 まさかあのカミーラの使徒である七星がそんな事を言うとは思っても居なかったが、カミーラ本人が出て来た事によって、七星の言葉を厳命してきた。

 それ故に魔物兵としては思えぬほどの追跡、そして隠密を心がけてきたのだが、とうとうここで完全に痕跡が無くなってしまった。

「もしや既に連中は向こうの大陸に渡ったのでは?」

「いや…それこそありえぬ。人間がうし車も無しにそれ程の速度で移動できるとも思えぬ。それにうし車ならば必ず跡は残る」

 取り逃がした、とは思いたくは無い。

 だが、現実として人間達の姿は忽然と消えてしまった。

「ドーイクス将軍。まさかとは思いますが、あの地に向かったのでは?」

「…可能性はあるな」

 あの地とは、地図上でも確認した孤島。

 人間共の管理していた土地らしいが、魔王ジルが早々にこの世界の国家という国家を壊滅させてしまった。

 なので今を生きる魔物達にはそこに何があったかは分からない。

「ふむ…」

 ドーイクスは考えてもやはり結論は出ない。

 自分達が見逃して、もう何処かの地へ行ってしまったとは考えにくい。

 人間達の町に隠れた可能性もあるが、例の痕跡は確かにここの辺りまでは存在して居た。

「…駄目だな。やはりここは一度カミーラ様へ報告しなければならん。アロゾット、貴様はカミーラ様に報告しろ。もしあの地に向かったのであれば、我等にはどうにもならん…」

「ハッ!」

 ドーイクスの言葉を受けて、アロゾットは駆けていく。

「船を作れればいいんですけどね…」

「無理を言うな。我等にそんな力は無い」

 ラドゲフの苦笑したような言葉にドーイクスも同じように苦笑で返す。

 魔物にはそんな物など必要は無い。

 空を飛んだり海を渡れる魔物が居るからだ。

「空を飛んだり泳ぐことが出来る者はいるか?」

「生憎と…それらの魔物は居ません。それに居たとしても、本当に任務をこなせるかと言うと…」

「無理を言ったようだな。すまん」

 魔物兵は魔物スーツが無ければ統率が取れない。

 それが神の作ったルールだ。

 中には統率が取れるような魔物も居るかもしれないが、大抵は異端として排除されてしまう。

 ドーイクスとラドゲフが対岸にあるであろう島を見ていた時、

「ドーイクス様! ラドゲフ様! 船です! 船がこちらに近づいてきます!」

「何だと!?」

 1体の魔物兵の言葉にドーイクスとラドゲフが目を凝らす。

 すると確かに一艘の船がこちらに向かって来ていた。

「まさか…こんな所に船が?」

「ありえませぬ…しかし船が有るのであれば話は早いですね」

「ああ。あの船を使って移動する事が出来る」

 ドーイクスは思わぬ僥倖に顔を綻ばせる。

 ここで足止めかと思ったが、どうやら幸運は自分達にあったようだ、と思った。

 そして船が近づいてきた時、

「あいやー。何でここに魔物兵達がー?」

 船頭をしていたのは1体のハニーだった。

「は、ハニーだと?」

「な、何でハニーがこんな事を?」

 それを見てドーイクスとラドゲフが首を傾げる。

 だが、ハニーという種族は適当で、ノリだけで生きているような連中だと思っていたドーイクスは即座に考えを切り替える。

「おい。私はカミーラ様の命を受けてある人間を探している。お前はここ最近人間達を乗せたか?」

「人間? ああうん乗せたよー。ついこの間、6人があの島に渡ったよー」

「ドーイクス将軍!」

 ハニーの言葉にラドゲフは喜色を浮かべる。

「ああ。間違いない…連中は向こうに渡ったようだな」

 ドーイクスも、目当ての人間であろう存在の足取りを掴めたことに安堵のため息をつく。

「おいハニー。我等を乗せてその島へと向かえ。これは命令だ」

 だからこそ、その人間達が本当にその島にいるのか確認すべく、あの島へと向かおうとするのは当然だった。

 だが、

「え? それは駄目だよー。僕達はハニディクト猊下の命令で、人間しか乗せちゃいけない事になってるんだよー」

「な、何だと!?」

 まさかの命令拒否にドーイクスは面食らった。

 ハニーが魔物将軍である自分の命令に逆らうなど思ってもいなかったのだ。

「おい! 貴様も魔物だろう! ならば将軍の命に従え!」

 ラドゲフも怒鳴るが、

「え? ボク達は魔物じゃないよ? ハニーだよ? ハニディクト猊下の命令は絶対だよー。じゃあねー」

 ハニーはそう言って船を反転させようとする。

「ま、待て! お前達! あの船を捕えろ!」

「「「ハッ!!!」」」

 ドーイクスは慌てて魔物兵に命令を出し、船を確保させる。

「あ、あいやー!」

 複数の屈強な魔物兵の前では、ただのハニーなど相手にならない。

「貴様! ここで割られて死ぬか、我等を人間の向かった先に案内するかどうか選べ!」

「え、ええ…ま、まあボクも死にたくないから言う事は聞くけど。でも一度に運べるのは10人が限度だよ」

「貴様の船以外は無いのか?」

「無いよー。元々ボクが趣味でやってただけだし」

 ハニーの言葉にドーイクスは考る。

 ここは真っ先に自分が行きたい所だが、何しろアロゾットをカミーラの所へ向かわせている。

 もし自分がここに居なければ、カミーラ相手に報告を出来る存在が居なくなってしまう。

 だからと言って、ラドゲフを向かわせるのは止めておきたい。

 何しろ魔物隊長はラドゲフとアロゾットしかいないのだ、もしここで何かあれば後々で影響が出て来る可能性は高い。

「よし、ならば私が選んだ10体を連れていけ。ラドゲフ、人選は任せる」

「ハッ!」

 ドーイクスの言葉を即座に理解したラドゲフは、自分の部下の中から確実に命令をこなせる10体を選ぶ。

「「「我等にお任せください!!!」」」

 1体の赤魔物兵を中心に、緑、青、灰色が各3体の魔物兵が選ばれる。

「お前達の役目はあくまでもその人間の存在を確認する事だ。奴等は強い、決して戦おうとするなよ」

「「「ハッ!!!」」」

 魔物兵達が船に乗り込むと、ハニーはそのまま船を漕いで島へと向かって行く。

「将軍、とうとう見つけましたね」

「ああ。だが油断はするな。この辺りの捜索も引き続き行っておけ。野営の準備をさせろ。カミーラ様が来られるまで、ここを拠点とする」

「「「ハッ!!!」」」

 ドーイクスの言葉に魔物兵達は散らばってそれざれの作業を始める。

 最初はドーイクスはこの任務は無事に成功したと思っていた。

 後はカミーラに報告すれば終わり、そう楽観視していたと言っても良い。

 だが一日経ち、二日経ち、そして三日目となった時、ドーイクスは言いようの無い不安に襲われていた。

 そして四日目、ドーイクスの不安は最悪な形で的中する事となる。

 魔物将軍ドーイクス以下、魔物隊長のラドゲフ、アロゾットは目の前に居る魔人に対して冷や汗を流していた。

 それは全ての魔物兵も同じで有り、目の前に居る魔人―――カミーラに対しての圧倒的な恐怖だ。

 そしてそのカミーラの使徒である七星が口を開く。

「ドーイクス。あなたは目的の人間らしき存在を見つけたと言いましたね。現状を説明しなさい」

「は、はい…じ、実はアレから何度か人間が居ると思われる所に偵察を出しているのですが、その全てが戻ってこないのです…」

 勿論ドーイクスもただ手を拱いていた訳では無い。

 あれからハニーの渡しが来た時、魔物兵だけでなく魔物隊長をもつけて送り出した。

 が、その全ての偵察兵は戻って来る事が無かった。

 一度ハニーを尋問したが、このハニーは船を漕ぐだけの存在で、例の場所に送った後は一切見ていないらしい。

 そこで怒りを爆発させてハニーを殺さなかったのは、ドーイクスが魔物将軍の中でも中々の忍耐力を持っていた事、そしてカミーラの命令を第一に考えていたからだ。

「他の所に移動したという事は?」

「そ、それは有りませぬ。その可能性も考え範囲を広げて捜索しましたが、連中の痕跡は見当たりませんでした」

 ドーイクスの言葉にも七星は慌てた様子は無い。

 魔物兵だけでは、捕える事は出来ないという事は分かっていた。

 だからこそ、血気盛んな魔物兵を抑えられる器量を持つ魔物将軍を選んだのだ。

「…人間は間違いなくその島に行ったのだな」

 そして次の言葉はカミーラの口から放たれた。

 その言葉は非常に美しいながらも、まるで感情を感じさせない。

 カミーラの声にドーイクス達は体を震わせるだけだ。

 何しろ魔人カミーラと言えば、魔人四天王の一人であり傲慢であり我儘であり怠惰であり…そして己の楽しみを邪魔する者は何人も許さない存在だ。

 正直、ドーイクス達も何故人間を捕えるという面倒な事をあのカミーラがしているのか、想像もつかなかった。

「そ、それは間違いありません。ここからその島に唯一行き来をしているハニーの言葉です。間違いなくその島に渡ったと」

「もー! さっきからそればっかりじゃないか!」

 ドーイクスの言葉にもう一人の使徒であるラインコックが怒りの声を上げる。

 ラインコックにとっては、カミーラの命令をこなせない奴など役立たずも同然だ。

 外見相応の幼さや気性を持っているのがラインコックだ。

「ラインコック」

「あ…申し訳ありません、カミーラ様」

 カミーラの言葉にラインコックが慌てて跪く。

 カミーラもそんなラインコックに対して何を言うでも無く、己の顔を隠していたベールを上げる。

「ならばいい。私が行くだけだ」

「な、カ、カミーラ様が!?」

 ドーイクスはカミーラの言葉に驚く。

 他の魔物隊長や魔物兵達もカミーラの言葉にはどよめくが、カミーラの気配が濃くなると一気に静まり返る。

「七星…お前はこいつらを率いて後で来い…私は行くぞ」

 カミーラはそうとだけ言うと、その唇が吊り上る。

 それは目的の存在を見つけたという獰猛な笑みと、まるで何かに焦がれていたかのような少女のような顔が入り混じっているようにラインコックには見えた。

 そしてカミーラはテントを出ると、そのまま翼を広げて島へと飛んでいく。

「し、七星様!」

「あなたは兵を纏めなさい。向こうに辿り着く方法が一つしかないなら、我等はその一つの手段を取るしかありません」

「は、ははっ!」

 七星の言葉にドーイクスは急いで魔物達に指示を出す。

「ねえ七星」

「どうした。ラインコック」

「ボク…あんなに嬉しそうで楽しそうなカミーラ様の顔、初めて見た…」

 ラインコックは少なからずカミーラの表情にショックを受けていた。

 自分に向けてくれる厳しい顔、そして時には優しい顔とは全く違う、心の底から望んでやまないといった表情。

 あのカミーラに、そんな顔をさせる存在が居るなんて想像も出来なかった。

「無理も無いな。お前が使徒になる前からの因縁を持つ者だ。カミーラ様とて、実に久しぶりの邂逅…昂るのも無理は無い事だ」

「…むぅ」

 七星の言葉にラインコックは嫉妬が入り混じった表情で顔を膨らませる。

「さて…問題は向こうに何があるか、だ」

 ジルが魔王になって、一度この世界は破壊された。

 七星はその後もランスの痕跡を探すべく、一部の魔物兵を使って情報を集めていた。

 だが、結果は全くの空振りであったが、とうとうその痕跡を掴んだ。

 その情報がレキシントンからの言葉というのは思う所が無い訳では無いが、それでもようやく主が望む存在が現れた。

(問題は…カミーラ様の傷か。同じドラゴンであるノス様から受けた傷は中々治らぬ、その影響が無ければいいのだが…)

 勿論主がそんな事で戦いを放棄するなどあり得ない。

 ドラゴンの誇りがそれを許さないからだ。

(しかし…何故ランス殿はそんな地に向かったのか…)

 七星は少しの間考えていたが、すぐさまカミーラの指示を実行すべく動き始めた。

 

 

 

 これはスラルのコロッケによる惨事の少し後―――ランスとスラルが丁度いちゃついていた時の時刻。

「ついたよー」

 ハニーの操る船がとうとう島へとつく。

「ここか…」

 赤魔物兵を中心に、10体の魔物兵がその島へと降り立つ。

「じゃあボクは戻るよー。じゃーねー」

 するとハニーはそのまま船を漕いで行ってしまった。

「おい!」

 それに緑魔物兵が声を出すが、

「大声を出すな。俺達の仕事は例の人間を見つける事だ。早々に行動をするぞ」

「あ、ああ。そうだな」

 声を上げた緑魔物兵はその言葉で落ち着いたようで、魔物兵達は早速動き始める。

 その動きは魔物兵とは思えぬほどに慎重で、その巨体を隠せる地形を選びながら歩みを進めていた。

「しかし静かだな…」

「そうだな。まあ何処もこんなもんだと言えばそれまでだけどよ」

 魔物兵達はこの静寂には息がつまる。

 やはり魔物とは好き勝手に暴れてこそ魔物なのだが、何しろ今はその暴れる相手が居ない。

 もし魔物が好き勝手に暴れられるとしたら、それは処刑場に送られた時に他ならない。

 魔物兵達が歩いていると、見慣れないものがその視界に入ってくる。

「あれは…何だ?」

「あれは…家…か?」

 緑魔物兵の言葉に青魔物兵が応える。

 確かにアレは人間が住んでいそうな家と言ってもいい物に見える。

 ただ、この魔物兵達にとっては人間の家というものは、非常に目立たないように作られている物だ。

 今、魔物兵達の視界に入っている家は明らかにその人間の家からは外れている。

 魔物兵達はその家に近づいていくと、

「あの大きさは…間違いない! 俺達が追っていたものだ!」

「何だと!? 間違いないか!」

「ああ! 俺は何回も計った事があるから大体分かる! 間違いなく例の人間の痕跡だ!」

「おおおっ!」

 灰色魔物兵の言葉に誰もが歓声を上げる。

 とうとう自分達は目的のモノを探し出す事に成功したのだ。

「よし、じゃあ俺達はアレを見張るぞ。お前達は船場に戻って本隊に連絡しろ」

「了解!」

 赤魔物兵は一部の魔物兵を戻らせ、自分達は決して見つからないように離れてその家を観察する。

 流石に距離があるのでその中までは見えないが、間違いなく人間達はここにいるのを確信している。

「俺達だけで動かないのか?」

「ああ。不意打ちをしかければ行けるかもしれないぜ」

 緑魔物兵と青魔物兵が目を光らせる。

 暴れるのは魔物の本分、これをここで満たせられるかもしれないと、その目は怪しく輝いてた。

「駄目だ。これはカミーラ様、ひいては魔王様の命令だ。ここで変な事をして処刑場や牧場送りなんて御免だからな」

 赤魔物兵はそれを抑える。

 目的はあくまでも偵察、それが出来ないようなら待っているのは間違いなく死だ。

 その意味では、この魔物兵達は自制が効く優秀な魔物兵だと言えよう。

 だが―――この魔物兵が優秀で有るという事と、彼らに運があるかというかは別の話だ。

「あら、あなた達、ここに何の用かしら?」

「う、うわっ!?」

 突如として聞こえてきた声に魔物兵達は驚く。

「な、何だハニーか! 驚かせるな!」

 魔物兵達に声をかけて来たのは、ピンク色のハニーだ。

「くすくす…あなた達に良いものをあげましょうか。ホラ…」

 ピンク色のハニー、ハニ子が差し出したのは一つのカギだ。

「な、なんだこれは」

「ほら…あそこを御覧なさい。あちらにも家があるでしょう? そこで休むための鍵よ」

 魔物兵はそちらに視線を向けるが、確かにそちらにも家はある。

 周囲に複数の家の残骸は目にしていたが、その視線の先にあるのは間違いなく倒壊を免れた家と言っても良いだろう。

「それじゃあ私はこれで…フフフ」

 ハニ子は意味深な笑みを見せながらその場から立ち去る。

 残されたのは鍵を手に持った魔物兵だけだ。

「おい、どうする?」

 赤魔物兵は自分の手の中にあるカギを見て仲間に尋ねる。

「どうするってもな…ここは休憩をしてもいいんじゃないか? 見張るにしても向こうからでも見張れるからな」

 灰色魔物兵の言葉に他の魔物兵も同意する。

 確かにここまで強行軍で来たため、碌に休憩もとれていなかった。

 ならばここで野宿のような形で見張るよりも、家の中から見張った方が疲れも少ない。

 後続で他の者も来るだろうし、少し疲れを癒してもいいかもしれない、魔物兵達がそう思うのは無理も無い事だった。

「よし、じゃあ行くか。あの家を注視しながら移動するぞ」

 何時人間があの家から出て来るかは分からないので、魔物兵達は警戒しながら例の家へと向かう。

 幸いにも人間達には動きもなく、魔物兵達はその家につく事が出来た。

「久々に休めるな…」

「これまでずっと移動しっぱなしだったからな」

 魔物兵達はこれまでの疲れから、ようやく休める事に安堵のため息をつく。

 赤魔物兵はその家のカギを開けて入ると、そこは普通の民家よりもかなり大きな家だ。

 どうやら、魔王ジルが全てを破壊した後にこの家を建てたようだ。

「ふう…お前達も交代で休むようにしろ。後は後続を待つだけだ」

 赤魔物兵がそう言った時、

「メーデー…メーデー…」

 何処からか不気味な音が聞こえてくる。

「お、おい…今何か聞こえなかったか?」

「あ、ああ…何か聞こえたよな…」

 その声は地下の方から聞こえてきた。

 魔物兵達は顔を見合わせると、意を決して地下の方へと向かって行く。

 するとその地下にはかなりの空間が存在して居た。

 巧妙に隠されていたが、地下室が用意されていた。

「これは…」

「多分人間達が作った隠し部屋じゃないかな」

 確かに隠し部屋と言われれば納得はいく。

 この時代の人間も全てが人間牧場に居る訳でも無く、魔物達の目を逃れて生活している人間も居る。

 そしてその部屋に続く扉から、その不気味な声は聞こえていた。

 ドンドンと扉を叩く音とともに、不気味な声がこちらに響いていた。

「もしかして人間がここにも…?」

「そうかもしれないな…元々この地に隠れ住んでいる人間の可能性は十分にある。よし、確保するぞ」

 そう言う赤魔物兵の顔に喜色が浮かぶ。

 何だかんだ言っても、魔物にとっては人間を殺したり犯したりすることは本能だ。

 ここまで苦労したのだから、これくらいの褒美くらい有っても良い、と考えるのは当然とも言える。

「よーし、今開けてやるからな」

 赤魔物兵は敢えて扉を壊す事はせず、先程ハニーから受け取った鍵を使う。

 そう、魔物兵達は完全に勘違いをしていた。

 それは、ハニーならば同じモンスターである自分達を騙す事は無いという事。

 そして、今ここに居るのは人間だと思い込んでいる事。

 カチッ、という音がして扉の鍵が外された時、

「メエエエエエエデエエエエエエエ!!」

 その扉が勢いよく弾き飛ばされ、そこから不気味なハニーが現れる。

「う、うわああああああああああ!?」

 いや、それを本当にハニーと呼んでもいいのかは分からない。

 それはハニーなのに非常に巨大だった。

 基本的に体の大きい魔物兵達よりも大きい。

「な、なんだこいつは!?」

 だが何より、そのハニーは…いや、ハニーと呼んでもいいか分からない謎の生物はそれほどまでに異形だった。

 まるで大量の水分でもとったかのようにふやけた体は、まるでハニースライムのようだ。

 そしてその右側頭部からはまた別のハニーが生えている。

 手に持っているはずの花火は、何やら快音を放つ不気味なのこぎりに変わっている。

「にくにくにくにくにくにく!」

「たべたいたべたいたべたいたべたいよほおおおおおおおお!」

 そしてブラックハニーから、更にはブラックハニーの横から生えた不気味なハニーが同時に叫んだかと思うと、その手ののこぎりで魔物兵を襲い始めた。

「ぎゃーーーーーーー!」

 赤魔物兵は悲鳴を上げたかと思うと、そのまま倒れて動かなくなる。

「な、なんだこいつは!?」

「に、逃げろーーーー!」

 魔物兵は突然現れた相手に我先にと逃げ出そうとする。

 すると、

「めえええええでええええええ!」

 自分達が入ってきた入り口からもその不気味なハニーが現れる。

「え、えええええええええ!!?」

「ふふ、ふふふふふ…」

 魔物兵達が驚愕の声を上げた時、赤魔物兵に鍵を渡したハニ子が現れる。

「あ、お前はあの時のハニー!?」

「な、なんだこいつらは!?」

「ふふふふふフフフフフ…」

 青魔物兵がハニ子に詰め寄ろうとした時、ハニ子のピンク色の体がどす黒く染まっていく。

「アンタタチはココでハニと死ヌノヨ」

 ハニ子の体がどんどんと溶けていき、それは不気味なハニースライムへと変化する。

 すると部屋の亀裂からどんどんとハニースライムが落ちてくる。

「う、うわああああああああああああ!!!!」

 部屋の一室に、魔物兵達の悲痛な声が響き渡った。

 

 

 

「よし、後は船を待つだけだな」

 魔物兵達は、上陸した所に辿り着いた。

 特に障害も無く、人の姿どころか魔物の姿も無かったので、非常に楽に来る事が出来た。

 なのでもう一度対岸に戻り報告へ行くだけだ。

 そして魔物兵達には都合の良い事に、直ぐに船がこちらに近づいてきた。

 船が接舷されると、早速魔物兵達は船に乗り込む。

「よし、さっきの場所まで行け!」

「はにほー…」

 魔物兵の言葉に、ハニーは直ぐに船を漕ぎ始める。

「思いのほか早く合流できそうだな」

「ああ。何しろカミーラ様が直々に動いているからな…俺も手柄をたてて、カミーラ様の部下になりたいぜ」

「あーそうだなあ…」

 魔人の部下になれば死なずに済む、というのは魔物兵の中でも有名な話だ。

 特に魔人カミーラは優秀な部下を集めているという話だ。

 そのカミーラの部下になることが出来れば、生涯は安泰だと言われている。

 そして今回は運よくそのカミーラに使われている。

 厳しいと聞くが、それでも魔物牧場に回されるよりは遥かにマシだ。

 魔物兵達が談笑してた時、突如としてその船が止まる。

「お、おい! 何だ!?」

 船が止まると同時に、船頭のハニーがこちらを振り向く。

「こ、こ、こ…コロッケエエエエエェェェェ!!!!」

「な、なんだああああぁぁぁぁ!?」

 そして振り向いたかと思うと、口や目の空洞から不気味な粘液を吐き出したかと思うと、そのまま動かなくなる。

「な、何が起きた…?」

 魔物兵達は突如として動かなくなったハニーに近づいていくと、

「コロッケエエエエエエエエ!!!!」

 ハニーが痙攣を始めると同時に、魔物兵に襲い掛かる。

「う、うわあああああああ!?」

 それと同時にハニーが吐き出した粘液が動き出したかと思うと、それはハニースライムのように動き出したかと思うと、そこから不気味な白いハニーが何体も現れる。

「た、助け」

 魔物兵の悲鳴はそこで途切れる。

 白いハニーの口から不気味な管が現れたと思うと、それが魔物兵に突き刺さる。

 不気味なハニー達が暴れると同時に、船もまた傾きとうとうそれが転覆する。

 こうして魔物兵達は不気味なハニー諸共海の藻屑となって消滅した。

 

 

 

「あ、あは、あははははははは…」

 この不気味な状況をハニディクト…いや、ハニーキングは虚ろな顔で見ていた。

「…これは駄目だね。うん、スラルちゃんの料理は封印されるべきものだね…なんでバイオでハザードな状況になってるんだろう…」

 もしこのままの状況が続けば、間違いなく世界は別のベクトルでおかしくなっていく。

「やっぱりボクは王様だから、これは何とかしないとダメだよね…もうスラルちゃんに料理をさせるのは絶対に止めよう…」

 ハニーキングは自分が生み出したこの光景を後悔しながら、ハニー達を元に戻すべく奔走を始める。

「もう死んじゃった魔物兵は…まあいいか。どうせボクの考える事じゃないし」

 勿論ハニー達に襲われた魔物兵の事は無視する。

 こうしてスラルの起こしたとんでもない事は、歴史に残る事無く隠蔽される事となった。

 

 

 

「クシュ!」

「どうしたスラルちゃん、風邪か?」

「いや…どうせ我の事をハニーが色々言っているのだろうと思ってな」

「ハニワの事なんぞ気にするだけ時間の無駄だ。それよりも歯を立てるなよ」

「分かっている…それにしてもお前のは大きくて、我の口でするのは苦労をする…」




非常に頭の悪い展開の上、話が全く進みませんでした
これも全て熱さで頭がおかしくなっていたからです(強弁
いや本当にごめんなさい…早く本編進めます…
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