ランス再び   作:メケネコ

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本当戦闘シーンって難しいよね
自分の才能の無さを誤魔化してはいけない(戒め




変わっていく歴史

この世界には『突然変異種』と呼ばれるモンスターが存在する。

強い能力を持つ反面、繁殖力が極めて低く、生涯に一度しか射精をする事が出来ない存在。

そして目の前にいるティラノサウルスはその『突然変異種』と呼ばれるモンスターだ。

通常のティラノサウルスを大きく上回る体躯、黒く染まった鱗、そして全身の筋肉を嫌でも浮かび上がらせる血管。

そして血走った目に口から際限無く垂れる唾液。

それがケッセルリンク、レダ、ガルティアを見下ろしていた。

 

「こいつは…」

 

レダは目の前にいる巨大なムシを呆然と見上げる。

これほど巨大な生物はドラゴン以外に見た事は無かった。

ティラノサウルスは地面を振るわせる程の雄叫びをあげると、ガルティアに向かって突っ込んでいく。

 

「おいおい!」

 

ガルティアはケッセルリンクを捕らえている事も有り、その一撃を避けるしかない。

無敵結界はダメージを防いではくれるが、衝撃までは防げないためケッセルリンクにも影響が出るのを懸念したからだ。

ティラノサウルスの一撃は木々を薙倒し、嫌でもその肉体の強さを思い知らされる。

 

「一旦離してくれないか。今はそれどころじゃないだろう」

「…まあ仕方ないな」

 

ケッセルリンクの言葉にガルティアは一瞬迷ったが、本人も相手を捕らえながらの戦いは難しいと判断し、触手を離す。

 

「…出来れば逃げてくれれば俺としては助かるんだがね」

「悪いがそれは出来ない。今逃げれば確実にカラーは襲われる」

「あー…」

 

ガルティアはその言葉に自分の過去を思い出す。

自分も仲間達を守るため、魔人や魔物と戦ってきた。

才能からその仲間に疎まれ、色々と有りはしたが、別に人やムシ使いが嫌いになった訳ではない。

 

「わかった。でも前には出るなよ。俺が出るからな」

 

ガルティアはそう言うとティラノサウルスの前に出る。

(こいつはでかいな…)

過去にはティラノサウルスと対峙した事はあったが、このような固体は今まで見た事も無かった。

一回りは大きい体に、鋭い爪、大木のような尾に巨大な顎、今までのティラノサウルスよりも相当に手強い事は簡単に予測できた。

(吸い込めれば楽なんだけどな…)

ガルティアの腹に吸い込めればそれだけで倒せるだろうが、それをすれば間違いなく目的の女性2人も巻き込まれる。

彼女達の捕獲が目的なのに、その二人を吸い込んではそれこそ本末転倒となってしまう。

下手をすればこの近くにあるであろうカラーの村を巻き込む可能性を考えると、流石に使う訳にはいかなかった。

だとすると己の持つ剣とムシの力で戦うだけと判断し、ティラノサウルスに斬りかかる。

 

ガンッ!

 

まるで岩にでも斬りかかったような音がして、ガルティアの剣が止まる。

 

「おいおい。マジかよ…」

 

ガルティアは剣の腕もさることながら、手にしている剣も中々の名刀だ。

しかし目の前のティラノサウルスの皮膚を僅かに斬っただけで、まともなダメージは与えられていない。

 

「うおっ!」

 

そしてガルティアの死角から襲い掛かったのは、その太く強靭な尻尾だった。

無敵結界があるためそれを避けなかったが、ガルティアはその一撃で簡単に吹き飛ばされた。

(俺を一撃でここまで吹き飛ばすだと?)

魔人であるガルティアは見た目よりも体重があるのだが、その自分を尻尾の一撃で吹き飛ばす等普通の事では無い。

ティラノサウルスはさらに雄叫びを上げながらケッセルリンクに向かっていく

(しかも早いか)

その巨体でありながらも動きは俊敏そのものだ。

 

「ファイヤーレーザー!」

 

ケッセルリンクの魔法の直撃に少し怯むが、そんな事はお構い無しにケッセルリンクに向かってくる。

そしてその巨大な口でケッセルリンクを噛み砕こうと顎を開き襲い掛かる。

ケッセルリンクはそれを避けるが、すぐさまティラノサウルスの腕がケッセルリンクを襲い、

 

ガキッ!

 

鈍い音を立ててレダの盾に防がれる。

明らかに質量が違いすぎる一撃を、レダはあっさりと防いで見せた。

 

「ケッセルリンク! どうなってるのよ!」

「今は休戦だ。こいつをどうにかしないとカラーは終わる」

 

レダはケッセルリンクを掴むと、先程まで戦っていたガルティアの側まで移動する。

 

「で、あいつは何なのよ」

「悪いが俺も知らないな。一つ分かるのは強いって事だけだな」

 

ティラノサウルスは値踏みするかのようにこちらを見る。

まるで誰から食おうかを選んでいるようだった。

 

「アンタ魔人でしょ。何とかできないの」

「魔人だって万能じゃないさ」

 

ガルティアの言葉にレダは内心でなるほどと頷く。

エンジェルナイトの自分でも万能には程遠いのだ。

 

「じゃあどうする?」

「何とかするだけさ!」

 

突っ込んでくるティラノサウルスに対し、ガルティアは注意を引くためにあえて突っ込む。

無敵結界では衝撃までは防げないため、ガルティアはあえて攻撃を回避するという方法をとる。

レダも同じ様に接近しその剣で切付けるが、やはりその鱗の前には歯が立たない。

ケッセルリンクが炎の矢を放つが、やはりその程度では足止めにすらならない。

この相手を倒すためには、やはり圧倒的な攻撃力が必要だ。

(そのためには…やはりランスの力が必要か)

ランスの剣ならばこの怪物が相手でも通用するだろうと思う。

だが、今ランスはこの場にはいないため、それ以外の方法で何とかしなければならないのだが、そのためにはやはり魔人に頼るしか無かった。

 

「これならどうよ!」

 

ガルティアは先程は使えなかった力を思う存分発揮する。

二人を捕らえるために、主に相手を動けなくさせるムシを使ってはいたが、今回は違う。

ガルティアの腕から放たれた弾がティラノサウルに当たると、何かが焼けたような臭いと共にティラノサウルスが苦しむ。

キャノンバグによる酸の一撃はティラノサウルスの鱗すらも溶かす。

そこに放たれるマインレイヤーバグが、露になった筋肉を爆発させる。

 

「これは…」

 

ケッセルリンクは改めて魔人という存在の力に戦慄する。

先程の自分達との戦いでは、この魔人は全く本気を出していなかったのだという現実。

しかし相手もまたそれに匹敵する化物であると言わざるを得ない。

爆発した箇所の血が止まり、すぐに肉が盛り上がり傷を塞ぐ。

溶けた鱗は戻らないようだが、その筋肉の強靭さは何も変わっていない。

 

「おいおい…冗談だろ?」

 

流石のガルティアも相手の再生力には目を丸くする。

確かにティラノサウルスはタフだが、この個体はそれに加えて高い再生能力を持っているようだ。

(こいつは…スラルが言ってた突然変異種ってヤツか)

それでもガルティアのやる事は変わらない。

自分は魔人、ましてや無敵結界まで持ってて敵わない等あってはならない。

ガルティアは再びキャノンバグを放つ。

酸はティラノサウルスの鱗を溶かし、今度は溶かした部分に剣を打ち込む。

 

「硬いな…」

 

鱗も固いが、筋肉も固い。

ガルティアの一撃でも断ち切ることは難しい。

だが今回は、

 

「ファイヤーレーザー!」

 

ケッセルリンクの魔法が溶けた鱗の部分に魔法を打ち込む。

肉が焼ける臭いがし、剥き出しの筋肉を焦がす。

ティラノサウルスがさらに雄叫びを上げ、三人に襲い掛かる。

振り回される尻尾の一撃をガルティアは避け、レダはなんとその盾で受け止める。

盾技能LV2、それはこれほどの巨体の放つ一撃すら受け止めて見せている。

(いけるか…?)

ケッセルリンクがそう思った時、ティラノサウルスの体がさらに隆起する。

 

「これは…」

 

レダもその変化には驚きを隠せない。

黒い鱗が赤く変わり、その代わりに浮き出た血管が黒く変わっていく。

 

「ここからが本気って訳ね」

「そのようだな」

 

ケッセルリンクは魔法の詠唱を始める。

ファイヤーレーザーですらあまりダメージを与えた様子は無かった。

ならばその上…先程使用した魔法『ゼットン』の詠唱を始める。

(あの魔法ならばこの巨体でも多大なダメージを与えられるはず)

だが、その考えはあっさりと打ち砕かれる。

 

「ガァァァァァ!!」

 

雄叫びと共に襲い掛かるティラノサウルスの動きは、先程の動きよりも遥かに早い。

(なっ…)

ケッセルリンクもその速さに一瞬反応が遅れる。

そのケッセルリンクを救ったのはガルティアだった。

ガルティアはケッセルリンクの前に立つと、無敵結界で相手の攻撃を防ぐが、それでもその衝撃でケッセルリンクを巻き込んで吹き飛ぶ。

 

「ケッセルリンク!」

 

レダは声を上げるが、その声に反応するかのように巨大な尻尾がレダを襲う。

その一撃を盾で防ぐが、流石に今度は吹き飛ばされる。

普段ならばその翼でバランスを取り、無様に地に尻餅をつく事などないが、今はその翼が出せないために無防備にさらされる。

(まず…!)

慌ててその場を飛びのこうとするが、一瞬遅いと理解する。

(喰われる…!?)

レダは一瞬死を覚悟するが、

 

「らーんすあたたたーーーーっく!!!」

 

その時今はもう聞きなれた声が聞こえる。

その一撃は、ガルティアの剣すら弾いた鱗と筋肉を易々と切り裂き、盛大に血を噴出させる。

 

「ランス!」

「真打登場だ!」

 

ランスは剣を構えると、ティラノサウルスと対峙する。

そのランスに少し遅れるように、先程ランスを連れ去った白い魔人の姿も現れる。

 

「メガラス! 遅いじゃねえか!」

「………」

 

メガラスは何も答えないが、目の前の存在を見て内心では驚いていた。

この存在は間違いなく強力な個体―――肉体の色こそ違うが、酷似した存在だ。

かつて自分が魔人では無かったころ、まだ人間と呼ばれる存在が居なかった頃、この世界がまるい物とドラゴンが争っていた時。

メガラスはこの個体と似たような存在と戦った事がある。

その時は自分は死にかけたが、それでも自分は生き延びた。

だが勝つ事は出来なかった記憶がある。

それからはこの個体を見た事は無かった。

非常に硬い存在だったが、この男はその鱗と筋肉をあっさりと斬りつけた。

 

「おー…斬りやがったか」

 

ガルティアも人間の男がこのティラノサウルスの体を斬った事を感心する。

自分でもあそこまで傷つける事は出来ないが、この男はあっさりとやってのけた。

明らかに自分よりも剣の腕前は上だ。

 

「レダ、ケッセルリンク。何だこいつは」

「私は知らない。分かってるのは凄い強いって事だけ」

「…アレがカラーの脅威の一つだ。ここまでカラーの村に近づかれた事は無かったがな」

 

ティラノサウルスの傷は深く、先程のように傷が塞がる事は無いが、それでもこの巨体のため致命傷には程遠い。

 

「で、こいつは何だ?」

 

ランスはガルティアに剣を向ける。

先程は一瞬しか見えなかったが、魔人である事は理解できる。

腹に穴が開いた人間など魔人以外にはありえないだろう。

 

「待て、ランス。今はこいつを倒すのが先決だ」

「そういう事だな。俺にとってもこいつは敵だからな」

「まあいい。足手纏いになるなよ」

 

ランスの言葉にガルティアは爆笑する。

 

「何がおかしい」

「いや、魔人に対してそんな事が言えるなんて大したもんだと思ってな」

「魔人ならせいぜい俺様の盾になる事だな」

 

ガルティアが爆笑しながらランスの横に立つ。

魔人である自分に対し、ここまで大きな態度を取れる人間など今まで見た事が無かった。

そしてティラノサウルスが再び雄叫びを上げながら突っ込んでくる。

その速度は先程よりも速い。

ランスはその牙を避け、その体に斬りつける。

硬い筋肉にも関わらず、ランスの剣はティラノサウルスの体をあっさりと斬り裂く。

 

「そこだな!」

 

ガルティアは斬り裂かれた傷口に向かってマインレイヤーバグの一撃を叩き込む。

裂かれた傷口にめり込んだ一撃は、その傷口をさらに抉るべく爆発する。

 

「ガァァァァァ!!」

 

ティラノサウルスが怯んだ所に、メガラスが先程ランスに斬られた別の傷口から攻撃をしかける。

メガラスといえども、ここまで強靭な鱗と筋肉をもつ存在には中々ダメージを与えられないが、こうして剥き出しの傷口ならば多大なダメージを与えられる。

ティラノサウルスが怒りから暴れ、その尻尾がメガラスを襲うが、その瞬間にはメガラスはもうその場にはいない。

 

「凄まじいな…」

 

ケッセルリンクは改めて魔人の恐るべき戦闘力に驚愕する。

ガルティアは先程は自分を庇いながら戦っていたが、今は完全に攻勢に転じていた。

ムシ使いと呼ばれる存在をケッセルリンクも聞いたことはあった。

(恐らくはそのムシ使いの魔人なのだろうな)

その体には一体どれほどの種類のムシがいるのか、ガルティアは酸、毒、爆発物等で攻撃をしていた。

ランスによって傷つけられた箇所を重点的に狙っているようで、流石のティラノサウルスも傷の治りが追いつかないようだ。

そしてもう一体の白い魔人はそのスピードが凄まじい。

宙を舞いながら戦う姿はケッセルリンクの目には捉える事が出来ない。

ティラノサウルスはその魔人の動きについていけず、暴れるもののその攻撃は全て空をきる。

改めてケッセルリンクは魔人という存在の異常さを認識する。

そしてその魔人の動きについていってるランスという存在。

ランスの一撃はまさに強力無比、魔人よりも大きなダメージを与えている。

(見とれている場合ではない…)

レダが自分を守ってくれているのであれば、後は自分が詠唱を完了させるだけ。

先程よりもより強い魔力を溜め込み、発動させるだけ。

 

「ランス! 離れろ!」

 

魔人は無敵結界があるので何も問題は無いが、ランスだけは別だ。

ランスはその言葉に敏感に従い、すぐさまティラノサウルスから離れる。

ケッセルリンクはそれを見届けると魔法を放つ。

 

「ゼットン!」

 

ケッセルリンクの魔法の炎がティラノサウルスを包む。

 

「ガァァァァァ!」

 

ティラノサウルスの怒号が木霊する。

この一撃は流石に致命傷になったはず…ケッセルリンクがそう思ったとき、

 

「ケッセルリンク様!」

 

聞こえたのはアナウサ・カラーの声。

そしてその声に反応するかのように、炎に包まれたティラノサウルスが動く。

そこからの事はケッセルリンクも覚えていない。

ただ分かった事は、ケッセルリンクがアナウサに向かって走っていった事。

ランスとレダが何かを言っていた事。

そして焼付くような痛みを受けた事だけだった。

 

 

魔王スラルはその光景を見た。

自分が望んでいた魔人の候補の一人が巨大なムシの尻尾で吹き飛ばされる光景を。

そして誰よりも早く動く、もう一人の魔人の候補の姿を。

 

「貴様ー!!」

 

それはまるで空気が震えるほどの怒り。

ガルティア、メガラス、レダも思わずランスの方を向いてしまうほどの存在感。

ランスの一撃は、ケッセルリンクを吹き飛ばしたティラノサウルスの尾を一撃で切断する。

ティラノサウルスは怒りの声を上げ、その爪を振るうがランスはその爪を受け流すと、返す刀でその腕を切り付ける。

血飛沫がランスを染め上げるが、ランスはお構い無しにその剣を振るう。

 

「ラーンスアターック!!」

 

そしてその必殺技がティラノサウルスの頭に炸裂するが、それでもティラノサウルスは止まらない。

そのままランスを噛み砕こうとその口を大きく開くが、その口の中にガルティアが突っ込んでいく。

 

「悪いがここまでだぜ、死んでくれや」

 

無敵結界の影響で、ティラノサウルスの顎が開かれたまま閉じなくなる。

ガルティアはそののど奥に剣を突き刺し、大量の酸と爆発物をその奥に突っ込む。

ティラノサウルスがガルティアを吐き出すが、同時に大量の血を吐き出し、またその内部から破裂するかのように血飛沫が舞う。

そこにメガラスが傷口を抉る様に飛び込む。

メガラスの一撃がとうとうティラノサウルスの胸を貫通する。

 

「こいつで終わりだ」

 

ランスは心の底から怒っていた。

だからこそ、この技を放たずにはいられなかった。

 

「鬼畜アターーーーック!!」

 

ランスの持つもう一つの必殺技、鬼畜アタック。

それはランスアタックを連打するという荒業。

最初はランスの体がもたず、経験値が減るという副作用すらあったランスの技。

剣戦闘LV3の今でもやはり体がバラバラになりそうな反動がくる。

 

「死ねーーーーー!」

 

止めの一撃がティラノサウルスの首を落とす。

 

「レダ!」

 

レダはケッセルリンクが吹き飛ばされてからずっとヒーリングをかけていた。

が、その顔は悲痛に満ちている。

 

「………」

 

レダは黙って首を振る。

 

「ケッセルリンク様! ごめんなさい! ケッセルリンク様!」

 

アナウサが泣きながらケッセルリンクに縋り付く。

ケッセルリンクは笑いながらアナウサの頭を撫でる。

 

「お前が…無事なら…それでいい…」

「でも…ケッセルリンク様ぁ…」

「おいケッセルリンク!」

「すまない…な…ランス…」

 

ケッセルリンクはランスに対しても笑みを浮かべる。

 

「お前! 俺様の女がこんな所で死ぬなど許さんぞ!」

「無理を言うな…ランス…頼みがある…」

「やかましい! そんな状態のお前の頼みなど聞けるか!」

「カラーを…皆を頼む…」

「お前がいないカラーに意味があるか! その頼みをするなら死ぬな!」

「ゴフッ…無理を…言うな…」

 

ランスの目に見てももう分かっている。

明らかにケッセルリンクへの一撃は致命傷だ。

これまでに何度も見てきた光景なのだ。

 

「ランス…私は…」

 

ケッセルリンクの目が閉じられる。

その命はまさに尽きようとしていた時、

 

「そうね。あなたは死なせるには惜しいわ」

 

その声が聞こえると共に、ガルティアとメガラスはその場に跪く。

 

「あん?」

 

ランスが声の聞こえた方を見ると、そこにはこの前に廃棄迷宮の事を教えてくれた少女がいた。

 

「あなたはこんな所で死んでいい存在ではない。だから生きなさい」

 

少女の手から血が流れ、それがケッセルリンクの口に入っていく。

すると土気色だったケッセルリンクの顔にどんどん生気が満ちていく。

 

「え…これは…」

 

レダは目の前の光景が信じられなかった。

確かにケッセルリンクは死の淵にあったのに、今感じられるのは凄まじい生命力だ。

だがこれは…

 

「まさか…魔人…」

「何だと!?」

 

ケッセルリンクはゆっくりと目を開いた。

いつの間にかその衣装すらも変わっている。

カラーが着ていた服から、胸元が大きく開いたビスチェに変わっている。

残っているのはランスと共に手に入れた手袋だけだ。

 

「わた…しは…」

「目覚めたよね。ケッセルリンク」

 

ケッセルリンクの目の前には一人の少女がいた。

そしてケッセルリンクは直ぐに理解した…この少女が自分を救ってくれた存在であり、自分の主だと。

 

「助けてくれた事を感謝します。我が主よ…」

 

ケッセルリンクもガルティアとメガラスのように跪く。

 

「…どーなっとるんだ?」

 

ランスは展開についていけず困惑するが、スラルはそれを見て薄く笑う。

 

「む、お前は…」

「あの時に言ったな。お前が魔人を倒せば嫌でも我の名前を知ることになると。今こそ我の名を教えよう。我は…」

「あの時のドジっ子ではないか」

「断じて違う。我は断じてそんな存在ではないからな?」

 

こうして本来の歴史とは違った形の歴史が一つ作られた。

本来であればその魔人は魔王を守るため、己の意思で女性から男性になるはずだった。

だが、それは一人の男と出会うことによって歪められた。

魔人ケッセルリンク…それは魔王に救われる形で魔人となってしまった。

ここから女神ALICEの新たな苦悩が始まることになる。

 




ちょっと大幅な書き直しが…本当はもっと早く投稿できるはずでしたが
書いてて思ったのが、ガルティアとメガラスがいて苦戦するか? という疑問
まああの二人でもドラゴンを相手すると苦しいかなという感じもしましたが…

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