クエルプランを自分の部屋へと連れ込んだランスは、うきうきしながら褒美を待っていた。
何しろレベル神のボーナスのために…ジルを何とか取り返すためにランスは強くなっている。
ランスは一度決めた目的を達成するためには、どんな努力でもするし成し遂げてきた。
そしてレベル80とはこれまでの冒険の中でも最高のレベルかもしれない。
「がはははは! 今度はどんな褒美なのかなーっと」
楽しそうにしているランスに対し、クエルプランは非常に困っていた。
(今回はどこまでやればいいのでしょうか…)
一般のレベル神からも話は聞いてみたが、それは担当の人間のよってバラバラだ。
結構過激な事をしている者も居れば、全くそういった褒美など無いレベル神もいる。
それこそ千差万別、クエルプランとしても参考になりそうでありながら、実際にはあまり参考にならなかった気もする。
人間からレベル神になった者も多いので、その者達は人間としての感情を備わっているものが多い。
だが、元々は魂管理局であるクエルプランにはその辺りが分からなかった。
彼女は生粋の神なので、人の感情の機微が分からないのだ。
「よーし、じゃあまずは脱ぐんだよな? さーて、何処まで脱いでくれるんだろうなー」
(脱ぐ…ですか。そうですね、これまでは一貫してそうしてましたからね)
担当している人間が強くなれば、それに応じて脱いでいく。
それは女性の姿をしたレベル神ならば当然の事だ。
「分かりました。では…今回はここまでです」
クエルプランを覆う服がどんどんと消えていく。
そして残ったのは、その上半身を包んでいる服とパンツだけだ。
「おおおおおおーーーーーー………」
その姿を見てランスは興奮するよりも先にその神々しさに驚愕する。
クエルプランが絶世の美女で有る事は疑いは無いが、その姿はランスであっても思わず手を出すのを躊躇う程だ。
だが、勿論そんなものは一瞬、ランスはクエルプランを遠慮なく見る。
そんなランスの視線を受け、クエルプランは思わず自分が何かとんでもない事をしているのではないか、という思いに囚われる程だ。
「…な、何でしょうか」
「いや、相変わらずいい女だと思っただけだ。うーむ、素晴らしい」
「そ、そうですか…」
ランスに言われると何故か赤面してしまう自分が居る。
人に関わらない1級神であるはずの自分がこんな事になるなど、本来は深刻なエラーだ。
だが、不思議とこれまでランスと接してきた全ての事は厳重にロックされていて忘れる事が出来ない。
「そ、それでですが…あなたは何を望みますか…」
「ん? 他にもいいのか」
「え、ええ…以前に私はあなたに腕輪を渡しました。そ、それがレベル神の仕事なのでしょう」
何とか威厳を保とうとしているが、その声は緊張のためか少し震えている。
その様子を見てランスは考える。
(うーむ…何とかセックスに持ち込みたいが、ちょっと早い気がするぞ。俺様の第六感がこう言っている。『まだ早い』と)
どうにかセックスに持ち込みたいが、ランスの本能がそれを止めていた。
今手を出してしまうと自分のためにならない、ランスはそんな思いに駆られていた。
(だが色々したいが…無理にやりすぎるとウィリスみたいに仕事を放棄したり、レベルを下げられたりするからな…)
ランス担当のレベル神であるウィリスに対してセクハラをした結果、怒りをかってしまった事もある。
そして彼女は間違いなくウィリスよりも位が上だと感じられる。
最初に出会った時からランスですら畏怖した存在だ、それこそ自分を一瞬で消せるというのは嘘では無いのだろう。
(クエルプランちゃんはウィリスとは違うからな…何と言うか、人間に対して接しなれていない感じがするからな…よし)
ここでランスは一計を案じる。
「よしそうだな。じゃあ俺様とキスしろ。前は不意打ちだったが、今回は真正面から堂々とだ」
「キス…ですか」
クエルプランは以前にランスに唇を奪われた。
勿論1級神であるクエルプランにそんな無礼は許されるはずが無いのだが、何故かクエルプランはランスを罰する気にはなれなかった。
「そうだ。それくらいいいだろ」
(…そ、それくらい)
ランスはキスを「それくらい」と言っている。
それはつまりは、
(ランスは…その先を望んでいる…)
勿論クエルプランは人類、ひいては魔物がどういう手段を用いる事で増えるかしっている。
実際、今の時代はそのせいでクエルプランは非常に多忙だ。
「…わ、分かりました。これもレベル神の役目…ですから」
そう言ってクエルプランはゆっくりと目を瞑る。
それを見てランスは、
(うーむ…なんかクエルプランちゃんは勘違いをしとるな。だが、向こうが勘違いをしてるならそれでいいか)
こんな事を考えていた。
ウィリスなら絶対に拒否をしていた事だが、クエルプランは叶えてくれるようだ。
(よしよし。このまま俺様の色に染めてやるか)
じっくりとこの神に教え込んでいけばいい、ランスはそう考えながらクエルプランを抱きしめる。
間近で見るクエルプランは非常に美しく、まさにこの世のものとは思えぬ美貌だ。
だが、ランスにとってはただの『女』でしかない。
「キスするときは目を瞑るといいぞ」
「そうですか…では」
ランスの言葉に素直に従い、クエルプランは目を閉じる。
そしてランスはそのままクエルプランの柔らかな唇に自分の唇を重ねる。
(おお…前の時はいきなりだったからじっくり味わえなかったが、滅茶苦茶柔らかいな)
これまでも何度も女性とキスをしているが、その中でも本当に極上だ。
だからこそ、ランスはより一層クエルプランを求める。
彼女の口を開き、その口の中に舌を入れる。
「ん…」
クエルプランは一瞬驚いたように震えるが、それでもランスに身を任せている。
律儀に目を瞑りながら、ランスにされるがままになっている。
少しの間、ランスはクエルプランの口内を味わっていたが、流石に息が苦しくなって一度離れる。
「どうだった、クエルプランちゃん」
「どうだった…とは」
「いや、こうしてじっくりとキスをしたが、どんな感じだった」
「どんな感じ…とは…その…わかりません…」
クエルプランは少し戸惑いながら、自分の唇をなぞる。
(これが…人間同士のキス…)
人間同士のキスは見た事がある。
それもランスが色々な女性とキスをしている場面をだ。
何故人類…いや、魔人ともそういう行為をするのかクエルプランは不思議だった。
性交によってその数が増えると言うのも疑問だった。
その過程での行為というのは理解をしていたが、実際に経験をするとクエルプランは頭が真っ白になってしまった。
そんなクエルプランを見て、ランスは何とか己を自制する。
本当は今すぐにでも押し倒してしまいたいし、今なら何とかなるのではないかとも思ってしまうが、それでも我慢をする必要があった。
(まだ落ち着け。今ならやれそうだが、それはもっと後の話だ。もっと俺様に惚れさせてからやるのが一番だ)
「うむ、これは愛し合っている者がする事だからな。がはははは、クエルプランちゃんもいつかそれが分かるはずだぞ」
「愛…ですか」
愛、と言われてもクエルプランにはそれが何かは分からない。
人同士がそういう言葉を交わし合うのは珍しくない。
だが、何故人間であるランスが自分に対してそんな事を言うのか不思議だった。
「あ…あ…そ、その…これで失礼します…」
「え、あ! こら!」
ランスが何かを言うのを振り切ってクエルプランは姿を消す。
「うーむ…惜しかったな。いや、だがまだ我慢だ。もうちょっとでいける…はずだ。あの子は絶対に俺様に惚れるはずだ、うん」
ランスは彼女の残り香を後に、何時もの通り根拠のない自信を持っていた。
2日後―――ランス達は改めて転送装置の前に来ていた。
ランスやレンは普段の通りだが、エドワウ、レイ、お町は非常に警戒心を露わにしていた。
その理由は単純、ここに本来は居るはずの無い存在が居るからだ。
「まさかお前が俺様を手伝うとは思わなかったぞ。どういう風の吹き回しだ」
「私にも私の考えがある。それに、お前と早く戦うためにはこれが一番良いと判断しただけだ」
そこに居たのは魔人であるはずのカミーラだ。
その傷は既に癒えており、ランスの目から見ても万全の状態なのは明らかだ。
「本当にいいんですかカミーラ様。その…無敵結界を解除するだなんて…」
ラインコックは勿論カミーラが死ぬだなんて思っていない。
ただ、無敵結界を解除する事によって、カミーラの美しい体に傷をつくのを恐れているのだ。
「構わぬ…元々こんなものを当てにはしていない」
カミーラは自信に満ち溢れた顔をしている。
ラインコックはこれ程までに乗り気なカミーラを見るのは初めてだ。
だからこそ、そこまでカミーラに肩入れをさせる人間の事が分からなくなる。
「カミーラ。説明したとおり、お前にはまずはる壷を破壊してほしい。それを壊さなければ、我等はここを突破できないのでな」
「フン…今回の所は聞き入れてやる」
スラルの言葉にカミーラは薄く笑う。
カミーラにとってはランスと戦う事…それも万全な状態のランスと戦う事が何よりの望みだ。
それを邪魔すると言うのであれば、どんな存在だろうが決して許しはしない。
「よーし、行くぞ」
そしてランス達はそのまま転移陣によってダンジョンへと入っていく。
そこに居たのはやはり大量のモンスターだ。
「え…何コレ」
ラインコックはその光景を見て思わず呆然とする。
そこにあったのは使徒の目から見ても信じられない光景だった。
デカントやオウゴンダマ、ぬくぬく姫やドラゴンナイトといった上級モンスターがひしめいている。
これほどの強さを持つ魔物達が集結するなど、それこそあり得ない光景だ。
特に魔物は魔物スーツを着なければ統率が全く取れない。
魔軍という存在を良く知っているラインコックだからこそ、目の前の光景に驚愕したのだ。
「アレか…」
カミーラは遠くに見えるバトルノート、そしてる壷を見て獰猛な笑みを浮かべる。
「私は勝手にやる。ランス…私を失望させるなよ」
「誰にモノを言っている。俺様がこんな雑魚共に負ける訳が無いだろ」
「フッ…」
カミーラはそのまま宙を舞うと、一気にる壷の所へと向かって行く。
同時にランス達も戦闘態勢に入り、
「がはははは! 死ねーーー!」
ランスを先頭にモンスター達に突っ込んでいく。
本来であればバトルノートの見事な指揮により、モンスター達は効率よくランス達に攻撃をするはずだったが、今回は魔人カミーラが居る。
バトルノートはる壷を守るべくフォーメーションを組むが、そんなものは魔人であるカミーラには全く関係の無い事だった。
「消えろ」
カミーラは上空から破壊力のあるブレスを放つ。
ブレスは力の奔流となり、地上にいるモンスター達に襲い掛かる。
純粋な破壊力を持ったブレスはたったの一撃でる壷を破壊し、その側に居たバトルノートすら一撃で倒す程の威力を持っていた。
一度崩れれば脆いもの、バトルノートとる壷を失ったモンスター達はあっというまに瓦解したのであった。
「あれが魔人か。やっぱすげえもんだな」
「ああ…だがしかし、魔人は人類の敵だ。その魔人が何故ランス殿に協力するのか…まあ私が考えても仕方のない事だが」
レイとエドワウは先程のカミーラの戦いぶりを見て驚愕していた。
やはり魔人の力は圧倒的であり、あれ程までに苦労していた相手もまさに鎧袖一触といった所だ。
それだけ間近で見た魔人の力は衝撃的だった。
「スラル。貴様はアベルの事をどれだけ知っている」
「我にとっての先代魔王であるアベルか。だが正直ケイブリスから聞いた伝聞でしか知らない存在だ」
「そうか…」
アベルとカミーラの関係についてはケイブリスでも知らないだろう。
あの頃のケイブリスはひたすらにアベルに媚び諂う存在だった。
「ただ分かっている事はアベルはドラゴンの王に敗れたという事だ」
「フン…」
ドラゴンの王マギーホア。
その力は絶大で、魔王アベルだけでなく、初代魔王ククルククルすらも倒したドラゴンの王。
つまりはドラゴンの王は魔王すらも上回るという事…それ故に魔王でありながらスラルは死を恐れた。
だからこそ、無敵結界を手に入れたのだ。
そして再びランス達は例の場所へとやってきた。
即ち、次の階層に行くためのスタンプが有る場所だ。
そして同時に、ランスが前回苦渋を舐めさせられた場所でもある。
「いるな」
カミーラは上空を睨みながら楽しそうに笑う。
その言葉通りに、空から巨大なドラゴンが降ってくる。
「アベルは何処だ! アベルを出せ!」
それは天空から現れ、その大きな咢から凶悪な牙を見せつけて咆哮する。
「…成程な。確かにアベルに似ている」
その姿を見てカミーラは忌々しそうに唇を歪める。
それは角の向きこそは違うが、カミーラを拐い魔人にした魔王アベルにそっくりだ。
「ランス、見ているがいい。このカミーラの力をな」
カミーラはランスを見て獰猛に笑うと、そのままドラゴンに向かって突っ込んでいく。
「よーし、安全な所から見てるか」
それを見てランスはそそくさと安全な場所へと隠れようとする。
「その…いいのか? 我等は助けなくても。確かにあの魔人は強かろうが、たった一人でドラゴンを倒せるのか?」
ランスのマントを掴みながら、お町が不安そうな声を出す。
「そうですよランス様。ここはカミーラ様と協力して戦うべきでは?」
エルシールも現在の戦力を鑑みて、そう提案する。
だが、ランスはそれを否定する。
「却下だ却下。あんだけやる気のカミーラの水を差す方がやっかいだ。それにカミーラがあんな奴にやられる訳が無いだろ」
カミーラの強さはランスが一番よく知っている。
ゼスでの戦いのときも、ランスは結局その場でカミーラを犯す事も出来ない程に消耗させられた。
そして今のカミーラはあのゼスの時よりも遥かに強い。
「まあそうだな。それにこれはドラゴンの戦いだ。あそこで戦っている奴等の間に割って入る気はあるか?」
スラルの言葉に全員が上空を見上げる。
そこではカミーラとドラゴンが空中で激しい戦いを繰り広げていた。
辺りは既に雷雲に包まれ、カミーラも負けじとその周囲に魔人特有のオーラを放っている。
「いやー…アレは無理ですね。少なくとも地上に降りてこないと手出しが出来ませんよ」
あの距離では魔法も弓も完全に射程外だ。
簡単に言えば、地上にいる者がドラゴンの戦いに干渉できるはずが無いのだ。
「それじゃあ見てみましょうか。古の存在の戦いを」
レンは空を見上げながら、ドラゴンの戦を注視していた。
「グガアアアアアアア! 誰だお前は!? ドラゴン…か!?」
ドラゴンはカミーラを見ると、その目を血走らせる。
「フン…私の名前を呼ぶと言うのに、私が分からぬか。下らぬ…消えろ」
カミーラはそんなドラゴンの態度も一笑すると、そのままドラゴンへと向かって行く。
人型のカミーラとドラゴンとではその大きさに大きな違いがある。
だが、カミーラはそんな体格差など関係無いかのようにドラゴンに攻撃を加える。
その一撃は流石の魔人四天王と言うべきで、ランスが傷をつけられなかったドラゴンの鱗を切裂く。
しかしドラゴンはそれくらいでは怯まず、そのまま巨大な体を使ってカミーラに体当たりをする。
空中で互いに姿勢を変えながら、二体のドラゴンはぶつかり合う。
ランスはそれを地上からのんびりと見ていた。
「これがドラゴンの戦いか…いや、カミーラは人型だからドラゴンの戦とも違うか。しかしカミーラと渡り合うとは、ドラゴンと言うのは本当に強いな」
スラルも地上からドラゴンの戦を見ながらしみじみ思う。
やはり自分は臆病で慎重で正解だったと。
「しかしあのドラゴン…無敵結界が無いとはいえ、カミーラ様と渡り合うとは…」
七星は主であるカミーラと渡り合うドラゴンを見て厳しい顔をする。
「どうした七星。カミーラが負けるとは思ってはいないだろう。何故そんな顔をする」
スラルの言葉に七星は少し悩んだのちに、
「いえ…ドラゴンはカミーラ様が魔人になった時、戦いを止めました。勿論中にはノスのように好戦的なドラゴンもいましたが…まさかここまでのドラゴンを見る事になるとは思いませんでした」
こう話す。
同じドラゴンとして、あそこまで好戦的なドラゴンと言うのは久々に見た。
しかもアレは相当な強さを持ったドラゴンだ。
上空ではカミーラとドラゴンが激しくぶつかり合う。
カミーラはその体に傷を付けながらも、好戦的な笑みを崩さない。
(まさか…今の時代にこれ程までのドラゴンが居るとはな)
それはあの時に戦ったノスと同じ感覚だ。
今は魔人となったノスとは決して味わえぬ感覚…そう、これこそがドラゴンの戦なのだ。
そしてカミーラはそのドラゴンの王冠として苦渋の日々を送っていた。
だが、今はこうしてそのドラゴンと戦っている。
それはカミーラが望んでいた光景の一つだった。
「ナニモンだてめえ! まさか…このカイン様と互角に渡りやがるとはなあ…だがお前は何だ!? 同族のようでいて同族じゃねえ!」
カインと名乗ったドラゴンはカミーラの向けて激しい攻撃を繰り広げる。
稲妻を身に纏い、その口から電撃のブレスを放ちながらカミーラと激突する。
「だったら思い知れ。これが…プラチナドラゴンのカミーラの力だ!」
「は…!? カ、カミーラだと!?」
目の前の存在が名乗った事で、ドラゴンは驚愕に目を見開く。
まるで頭の中の霧が晴れたかのような感覚に、思わず体が硬直してしまう。
そしてその隙を逃すカミーラでは無く、すぐさまその口からブレスを放つ。
「あ、しま…」
ドラゴンにカミーラのブレスが直撃する。
凄まじい衝撃と共に、ドラゴンの身に纏っていた稲妻が霧散する。
「あ、やべ…」
ドラゴンはその衝撃に思わず体勢を崩し、それを整えようとする前にカミーラの強烈な一撃がその体に突き刺さる。
カミーラとドラゴンはそのまま地面に叩きつけられる。
その衝撃は地面を揺らし、離れていたランス達にまで伝わる。
「きゃあ!」
「あらー」
衝撃でバランスを崩した使徒達が尻餅をつく。
ランスはその体幹で何とか耐え、目の前のドラゴンを見る。
そこにはドラゴンの眼前で悠然と佇んでいるカミーラと、何とか体を起こそうとしているドラゴンの姿があった。
「終わったわね」
「まあカミーラが勝つだろ」
カミーラとドラゴンの戦いはカミーラの勝利に終わり、ランス達はドラゴンに近づいていく。
ドラゴンはそんなランス達を一瞥すると、改めて目の前のカミーラを見る。
「………お前、本当にカミーラか? プラチナドラゴンの」
「そうだ。かつて貴様等が見切りをつけたドラゴン…それが私だ」
「見切りをつけたって…一体何がどうなってやがんだ。それにお前…もしかして魔人か? ククルククルの側に居た連中と気配がそっくりだぜ」
ドラゴンの言葉を聞いて、カミーラは眉を顰める。
「貴様…知らぬのか」
「何をだよ。あれ、でもお前がカミーラなら何で俺様はお前に何も感じないんだ? あれ程までにお前を望んでいたと言うのに」
ドラゴン―――カインはカミーラに対して強烈な生殖本能が湧きたたない事に疑問を持つ。
あれほどまでにカミーラを欲し、ようやくその王冠を自分が手に入れると思った矢先にアベルによってカミーラを奪われてしまった。
そう、このカインこそが次のドラゴンを産ませるべく、王冠を勝ち取ったドラゴンなのだ。
「ていうかお前らなんだ? 丸いやつ…とかじゃあねえな。ハニーとも違うしな」
「…まさか人間を知らないのか?」
カインの言葉を聞いてスラルは驚愕する。
「人間? なんだそりゃ。あ、そうだ! それよりアベルの野郎は何処だ! あの野郎をぶっ殺さないと気が収まらねえ!」
「落ち着け。まずは我の話を聞け」
再び殺気立つカインに、スラルが根気よく声をかける。
そしてスラルは今の世界の現状をカインに聞かせる。
スラルの言葉が放たれるたびに、カインはよく顔を変え、そして最後には怒りのあまり震えていた。
「アベルの野郎を倒したのがマギーホアで…そしてドラゴンが滅びかけてるだと!? 何の冗談だ!? 俺達はあのククルククルも倒したんだぞ!」
スラルの話を聞き終え、カインは激昂してスラルに詰め寄る。
「一つ聞きたい。お前は今の時代を何年だと認識している」
「何言ってやがる。今はAV2年だろうが。アベルの野郎がククルククルにトドメを刺したと思ったら、あの野郎が今度は魔王になりやがった。そしたらカミーラを奪って雲隠れしやがった。俺はアベルの野郎を追ってたら…そうだ。その後俺様はここに居たんだ」
「今はGL期…お前が居た時代から2500年程経過している」
「に、にせんごひゃく…一体どうなってやがんだ。それに人間だと? こんなちっぽけな連中が今の世界に居るってのか」
カインは目の前にいるランス達を見る。
どう見てもひ弱な生命体に見えるが、それが今の時代を生きる者らしい。
「そうだ。今のメインプレイヤー…お前達ドラゴンの後にこの世界を生きる者達だ。尤も、今はその人間にとって苦難の時代なのだがな」
「…意味が分からねえ。しかもドラゴンが滅びかけてるとかよお…マギーホアはあのククルククルとも互角に戦ってたんだぜ」
カインは改めてカミーラを見る。
「お前が本当にカミーラなんだよな? プラチナドラゴンの…いや、今は魔人か」
「フン…アベルは私を自分のモノにすべく、私を無理矢理魔人とした。そのアベルはとうの昔に死んだ」
「そっか…魔人か。だからお前に対して何も感じねえって訳か…そりゃマギーホアも怒るわな。だがその後ドラゴンが腑抜けたってのが気になるけどよ…」
ドラゴンこそがこの世界の支配者…カインはそれを疑っていなかった。
だが、今はドラゴンはその数を増やせず、残っているのは僅かのようだ。
「それでお前はどうする?」
「どうするも何もよ…ここは何処だ? つーか何で俺はここに居るのかも分からねえ…どうやったら出られるんだよ」
「ここから出たければ私達に協力しろ。あそこにあるスタンプを押せば我等は地上に戻れる。その際に、お前がついてくればいい」
「…それしかないか。ったく…カミーラは魔人になってるし、ドラゴンも滅びかかっていて今は人間とやらが居る…もっと事情を知ってる奴に話を聞かねえとな」
カインは疲れたようなため息をつく。
それは先程までに暴れていたドラゴンとは思えぬ態度だ。
「キャンテル辺りなら詳しく話してくれそうだな…生きてればだが、まずはあいつに会うか」
そこでランスは聞き覚えのある名前を耳にする。
「おいお前。今キャンテルって言ったか。もしかしてそいつは白いドラゴンじゃないか」
「ああ。キャンテルは俺の知り合いだ。つーか人間、何でお前がキャンテルの名前を知っている」
「んー…まあどうでもいいか。別に俺様はあいつに用がある訳じゃ無いしな」
知ってる名前と、同じドラゴンであるという理由からキャンテルの事を思い出したが、別に親しくも無い。
ドラゴンの風邪を治してやったが、その後はどうなったかはランスは知らないし興味も無い。
「何であいつの名前を知っているのかは気になるが…まあいいか。それよりもとっととここから出てえ…」
カインは混乱した頭を鎮めるべく、今はいち早く同族の所に戻りたいと望む。
「ああ…本当は俺様がカミーラに子を産ませるはずだったのに…そりゃマギーホアも怒るわな」
だがそれ以上に、カミーラに自分の子を産ませられない事に落胆する。
それこそがドラゴンにとっての何よりの名誉だというのに、それが無くなってしまった。
カインがそれを嘆いていると、
「とーーーーーっ!」
ザクーーーーッ!
「うぎゃーーーーー! て、てめぇ! 何しやがる!」
ランスが剣でカインを突き刺す。
「やかましい! 何勝手な事言ってやがる! お前らドラゴンがカミーラをこんなにしたんだろうが!」
「お、俺様のせいじゃねーだろ!? それにカミーラしかドラゴンを産めなくなったんだから仕方ないだろうが!」
「ドラゴンがそんな風に考えているからカミーラがあんなになったんだろうが! だったらお前らドラゴンが悪い!」
「勝手な事言ってんじゃねー!」
ランスとカインは顔を突き合わせて睨みあう。
勿論ランスの方が圧倒的に小さいのでその姿は滑稽なのだが。
「ランス、貴様…好き勝手言ってくれるな」
そんなランスを睨むカミーラに気づくが、ランスは全く意にも介さない。
「事実だろうが。カミーラしかドラゴンを産めなくなった理由は知らんが、どうせカミーラの意志を無視して決めたんだろうが」
「お、俺様に文句を言うなよ。それはマギーホアが決めた事であって、俺様は関係ねえよ…」
そういうカインだが、カミーラに睨まれてその言葉はどんどん小さくなっていく。
「カミーラがこうなったのはお前らドラゴンが悪い! だからカミーラにしばかれるのは当然だ」
「それ以上は言うな、ランス。ドラゴンと人間ではそもそもの考え方が違う。どうせ言っても分からぬ」
カミーラは悠然と笑いながらランスの隣に立つ。
「あの時はそれが常識だった…お前の言う通り、私の意志など関係無くな。だが所詮は過去の話だ」
(カミーラ様…)
カミーラがあの時の事を『過去の話』と斬り捨てた事に七星は安堵する。
彼女が歪んだのはドラゴンと魔王アベルの確執が主な原因だ。
それを既に過去の事と言うのであれば…主は間違いなくその先に進んでいるという事だ。
それが七星には何より嬉しかった。
「それよりも急ぐ事だな。私は何よりもお前と戦いたいのだからな」
ドラゴンとカミーラの関係は本編でも描写は無いので適当です
キャンテルと絡まないかと思ったけど全く無し
もっと良く知りたかったなあ