ランス再び   作:メケネコ

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始祖と伝説

「ふむ…これが関係あるか…?」

 ケッセルリンクは一冊の書物を手に難しい顔をしていた。

 その手にあるのは古い書物…自分の主である魔王スラルが書き残したものだ。

 スラルの書物は全てジルが回収しているのだが、こうして今ケッセルリンクの書物が手にある…それはケッセルリンクがジルへの報告をしていないからだ。

 あれからジルの命令が無いので、恐らくはもう回収はしていないのだろう。

 これはその後で見つけた書物…そこには全てが書かれている訳では無い。

 だが、それでも自分の主が残したというのであれば、重要な書物だ。

 ここに書いてあるのは黄金像というアイテムの事が書かれている。

 ただ、それがどのような効果が有るのかは書かれていない。

 ケッセルリンクがこれが重要だと思ったのは、ここのページが他のページに比べて何度も見ているような痕跡があったからだ。

「スラル様がこの黄金像の事を深く調べていた…という事か? スラル様に聞けば分かるのかもしれないが…恐らくは記憶は無いのだろうな」

 スラルの記憶は一部が欠落している。

 それが無敵結界がどうやって出来たのか、という記憶だった。

 ケッセルリンクが目を付けたのはその部分だった。

「とはいえ…この書物だけでは全てが分かる訳では無いか。しかし一歩にはなるはずだ」

 目にしていた書物を本棚に戻すと、ケッセルリンクは机に置かれている紅茶を飲む。

 シャロンの入れてくれた紅茶は相変わらず良い味で、ケッセルリンクも長年愛飲している。

「ケッセルリンク様、宜しいでしょうか?」

「シャロンか…どうかしたかね?」

 ケッセルリンクの使徒であるシャロンが一礼して主の元へと歩いていく。

 そこにある書類をケッセルリンクへ手渡す。

「ここが例の場所となります」

「そうか…とうとう見つける事が出来たか。私としてはもっと早く渡りをつけたかったのだが…やはり迂闊に動く訳にはいかなかったからな」

 シャロンの持ってきた書類にあるのは、カラー達の隠れ里の事だ。

 これまでケッセルリンクはカラーとの接触を自ら禁じていた。

 理由としては、カラーという存在がケッセルリンクを英雄視している事だ。

 自らの行動がカラーの価値観を歪め、誤った歴史を歩ませてしまった。

 それこそがカラーによる人間の支配…そしてその結果に起きてしまった人間によるカラー狩りだ。

 その事も有り、カラーとの接触は出来なかったが、そうも言ってられない。

 ランスのためにはどうしてもカラー…それも始祖である存在に会う必要が有る。

「シャロン、私は少し留守にする。後の事はエルシールを中心に進めてくれ」

「かしこまりました、ケッセルリンク様」

 エルシールはメイド長として使徒達を纏めている。

 彼女に任せればケッセルリンクが居なくとも物事は進めて行く事が出来る。

 ケッセルリンクは早速カラーの森へと向かって行った。

 

「ここに居るか…?」

 魔人ケッセルリンクは深い森の中で一人佇んでいた。

 アレから幾度かカラーが住まう森を見て回っていたが、生憎とまだ目的を果たせてはいない。

「しかし森か…懐かしいな」

 非常に懐かしい空気に、ケッセルリンクは思わず安堵してしまう。

 ケッセルリンクも元カラー、やはり森の中に居ると安心してしまう。

(さて…問題は出て来てくれるか…いや、今居るのかという事だが…)

 ケッセルリンクは敢えて魔人の気配を全開にして歩いている。

 これだけ気配を放っていれば、必ずあの方は気づいてくれる。

 何しろあの方は自分よりも遥かに長い時を生きるカラーの始祖なのだから。

「…魔人が何の用だい」

 そしてケッセルリンクの背後から突然声が聞こえてくる。

 それにはケッセルリンクも驚く。

 まさか自分がこうも簡単に背後を取られるとは思ってもいなかった。

 いや、それ以前に何時現れたのか全く分からなかった。

「お初にお目にかかります、始祖様。私は魔人ケッセルリンク…元カラーです」

 目的の人物に出会えた事で、ケッセルリンクは恭しく一礼する。

 それはカラーとしての最大限の敬意を払った一礼だ。

「ああ…それは知ってるさ。あんたが魔人になった理由は知っている。だからあんたがカラーと距離を取ってくれているのは正直有難いさ。だが、今になってどういう風の吹き回しだい」

「ええ…今更だとは思います。ですが、どうしてもあなたと会う必要が出てきました。ハンティ・カラー様」

「…魔人に様付されるのは凄い違和感が感じるね」

 ケッセルリンクが会いたかったのは偉大なるカラーの始祖、黒髪のカラーであるハンティ・カラーだ。

 これまではどうしても会う事は出来なかったが、どうしても出会う必要があった。

「で、何の用だい。とうとう魔王がカラーを滅ぼす決意をしたのかい?」

「いえ、ジル様はカラーに対しては特に何も言ってはいません。私があなたに会いに来たのはある理由が有ります。聞きたい事、そしてある頼みがあって来ました」

「…聞くと思ってるのかい?」

 用が有るから来た、とは言うが、それを受けるかどうかは話は別だ。

 ハンティとしては、カラーという種族が魔人…魔王の加護にあるという事は避けたい。

 もしそうなれば人間との関係は終わってしまう。

 支配する者、支配される者の関係の上に魔王がつけば永遠に人間との溝は埋められなくなるだろう。

 子孫を残すためには必ず人間が必要なカラーという種族としては、人間との関係は決して切る事が出来ないのだ。

「カラーにとっても悪い話だとは思っていません。まずは話を聞いて頂きたいのです」

 ハンティはケッセルリンクの目を見る。

 その目は強い決意に満ちており、ハンティが首を振らねば何回でもこちらを訪れる、そんな顔をしていた。

 ハンティはため息をつくと、

「聞きたい事って何だい。言っとくけど、私だって全てを知っている訳では無いよ」

 結局はケッセルリンクの言葉を受け入れる事にする。

 ケッセルリンクは人間には全く干渉しておらず、ただ一人独自の裁量で動く…と聞いた事がある。

 魔人四天王として降臨しながらも、独自の路線を突き進む…もう一体の魔人と共にだ。

「ありがとうございます。突然ですが、始祖様は黄金像…という物に聞き覚えはありませんか?」

「黄金像? そんなの何処にでも転がってると思うけど…それを聞いてくるって事は只の黄金像じゃないんだろ?」

「ええ…ひまわりの形を模った黄金像です。覚えはありませんか?」

「ひまわりねえ…」

 ハンティは頭をとんとんと叩いて考える。

 ハンティは人類が造られた、魔王スラルの代よりも古い存在だ。

 当然その長い生の中には色々な知識が宿っている。

「…悪いね。流石にそんなのは聞いた事は無いね」

「そうですか」

 特に表情を変えないケッセルリンクにハンティは逆に質問をする。

「何でそんなのを知りたいんだい?」

「…まだ私も確信を持っている訳では無い事なので。もしかしたら意味があるかもしれないし無いかもしれない…私にとっても雲を掴むような話ですので」

「…そうかい? あんたがそう言うなら聞かないでおくよ。で、私への頼みとは何だい?」

「ええ…実はある人間を助けてやってほしいのです」

「人間を…かい?」

 ケッセルリンクの頼みにハンティは目を丸くする。

 まさかケッセルリンクから…いや、魔人からそんな言葉が出るなんて想像すらしていなかった。

 何しろ今の時代は人間は人間牧場という名の檻に繋がれている。

 そしてそれを管理するのが魔人、そして魔物達だ。

 魔物も同時に魔物牧場と呼ばれる処刑場で管理され、毎日のように魔物が処刑を受けている…そんな悲惨な時代がGL期なのだ。

 人間にとっては魔人は敵であり、決して相容れない存在のはずだ。

「はい…本当は私がその人間と直接会えれば良いのですが、いつ魔王の命があるかわかりません」

「…あんたが人間と協力、ねえ。まるであんたが普通のカラーだった時の話だね」

「ええ…私はスラル様によって命を救われましたが、同時に人間によってカラーという種族を救われました。それに…私はランスを守り、ジル様をランスの元に戻すという使命が有ります」

「ちょっと待った! 今あんたランスって言った!?」

 ケッセルリンクから出た言葉にハンティは驚きの声を上げる。

「え、ええ…言いましたが」

「それってもしかして茶色い髪に黒い剣を持った二十歳くらいの人間じゃないだろうね」

「ええ。ランスは茶色い髪に黒い剣を持っていますが…まさか会った事があるのですか?」

「もしかして…一緒にスラルとレダって奴が居たりしないでしょうね」

「…お知り合いなのですね」

 ハンティは思いもかけずに出た名前に思わず頭を抱える。

 それは今から遥か昔の話、ハンティは一度ある人間に出会った。

 それこそが人間でありながらカラーを助けた男…当時はカラーのクリスタルを狙ってカラー狩りが行われていたにも関わらず、それを全く知らなかった男。

 そして元魔王であるスラルと共に行動を共にしていた男。

 もう一人がレン…当時はレダと名乗っていた。

 その名前を口にした事で、ケッセルリンクはハンティがランス達に出会ってた事を確信する。

「そっか…いや、セラクロラスの力で時間を移動していると聞いたからまたどっかで名前を聞くかもと思ってたけど、まさか魔人の名前から聞くとはねえ…」

「まさか始祖様が既にランスと会っているとは思いませんでした」

「ああ…という事はあんたはそのランスを助けるために動いてるって事でいいのかい?」

「はい。私はランスを助けるつもりです」

 迷いなく言い切ったケッセルリンクに対し、ハンティは困惑する。

 ケッセルリンクとランスが協力して魔人を倒したという事は知っているが、その二人の関係までは詳しく聞いていなかった。

 何しろその後も色々と大変で、ハンティとしてもそこまで気にしていられる状況では無かった。

 その後もケッセルリンクからの接触は一切無かったので、その辺りの事はすっかりと忘れていた。

「…理由を聞いてもいいかい?」

 だからハンティは真剣な顔でケッセルリンクに訪ねる。

 魔人が人間を助ける…そんな事はあり得ない話だ。

 何かとてつもない理由がある…それは先程の『ジルをランスの元に戻す』という言葉からも容易に想像がつく。

 ただ、その理由がハンティにはどうしても分からなかった。

「それは…わ、私がランスを…あ、愛しているからです」

「…え? え、えええええええええ!?」

 そしてその理由を聞いた時、ハンティはこんな状況にも関わらず大声を上げて驚く。

 ケッセルリンクの顔は赤く染まっており、その声には何とも言えない艶が含まれていたからだ。

「し、始祖様、それ程大声を出さなくても…」

「いやその…完全に予想外な言葉が出たからさ。もしかしてあんたのクリスタルが青いのも…」

「はい…もし私がカラーのままだったら…間違いなくランスの子を産んでいた事でしょう。そういう関係です…今も」

「…成程ね。そりゃあんたとランスの関係をあまり表沙汰にしない訳だ」

 ケッセルリンクはカラーの英雄。

 その英雄が一人の人間の事を愛し、共に戦った。

 それはあの頃のカラー…カラーの王国を作っていた時の気質を考えれば、神聖なケッセルリンクが人間を愛したなどとんでもない事だろう。

「いや、メチャクチャ驚いたけどさ…まさかアンタ本当にランスのためだけにこんな事を…?」

「それだけではありません…私はランスと…そしてジル様に対して償いきれない事をしました。それに比べれば私のやっている事など、偽善なのかもしれません」

 そう言っても唇を噛みしめるケッセルリンクの顔は本当に辛そうだ。

 そのランスという人間、そして今の魔王ジル、そしてケッセルリンクの間に余程の事があったのだろう。

「何をやったのか…は聞かない方がいいかい?」

「いえ、始祖様には事情を知って頂いた方が良いです。その方が始祖様も協力してくれるのではないか…そんな打算も有ります」

「正直だね…でもそう言うなら聞いとくよ」

「…ジルはランスの元奴隷です。奴隷と言っても、世間一般の奴隷の関係ではありません。むしろ、ランスにとってはジルは大切な存在だったのだと思います」

「いきなり凄い言葉が出て来たね…あの魔王ジルが元奴隷とか…」

 正直それだけでもうハンティの頭は混乱している。

 だが、ケッセルリンクがそんな酔狂な話をするとは思えないので、恐らくそれは事実なのだろう。

 そしてハンティは全てを聞いた。

 先代魔王のナイチサが現れ、一体何をしたのかを…ケッセルリンクに何をさせたのかを。

 魔王ジルという存在がどうやって生まれたのかを。

「…成程ね。だからアンタはジルをランスの元に戻すっていうわけかい」

「ええ。それが私の負った罪です。ランスはそんな事を全く気にしないのですが…それが私にとっては辛いのです…」

 ランスはケッセルリンクに対して全く怒りの感情を見せない。

 あの時の事でおしおきと称して激しく抱かれはしたが、あの時のランスにはジルを失った事から少し自棄になっていた所があった。

 自分を責めてくれれば…とも思ったが、ランスはそういう人間では無かった。

 それも直ぐに治りはしたが、あんなランスはもう見たくは無い。

「難しい…というかまるで雲を掴む様な話だね。アタシでもどう手をつけていいかわかりゃしない」

「申し訳ありません。ですが、ランスの行動を考えれば始祖様に動いて頂くのが一番なのです」

「やれやれ…とてつもない話だね。でも…アンタはそれでいいのかい? もし魔王にばれたら殺されるんじゃない?」

「その時はその時です。死を恐れて何もしないという事はもう考えられませんので」

 ケッセルリンクの決意にハンティは呆れたようにため息をつく。

 カラーの中には人間に愛情を抱き、その人間に肩入れする事も珍しくも無い。

「はぁ…本気だね、ケッセルリンク。ああもう! そこまで聞いたら協力するしかないじゃないか!」

「申し訳ありません、始祖様」

「で、私に何をして欲しいんだい」

「それですが…」

 こうして伝説のカラー二人の話はおわった。

 

 

 

 魔法ハウス―――

「はぁ…」

 日光は折れた刀を見てため息をつく。

 これは死んだ兄が自分を守るために使っていた刀…それが折れてしまった。

 刀が折れるという事は侍の魂が折れるのと同じ、それが日光の考え方だ。

「はぁ…」

 それが折れたのであれば日光としてはまさに魂が折られたのと同じだ。

「おい、何時まで落ち込んでるんだ」

 ランスの声にも日光は沈んだ顔でため息をつき続ける。

「ランスはJAPANの者では無いから分からんかもしれんが…JAPANの者はそういう事を気にする傾向にあるからのう」

 お町の言葉にランスは「そんなもんか」と言うだけだ。

 ランスは道具にはあまり固執しない。

 使える物は何でも使う、それがランスという人間だ。

「しかし新たな刀を見つけるにしても情報が集まらんのがな…」

 スラルにとってはこれは頭の痛い問題だ。

 それがGL期という人類の暗黒期なのだからどうしようもない。

 日光の村のように人類は魔物から隠れて生きているが、生憎と日光の居た村以外に人類の集落を見つけた事は無い。

 探せば見つかる自信はあるが、そこで有益な情報を見つけられるかと言えば難しい。

「しばらくの間はクリスタルソードを使わせればいいんじゃない? スラルだってクリスタルソード無しでも問題無いでしょ」

「それはそうなのだがな…しかし何とも難しい問題だ」

 魔王でなくなってからスラルは人間と深く関わって来た。

 その上で情報というものの大切さを十分に理解しているつもりだ。

「それなのだが…我も色々と知り得ている事もある。話を聞くか?」

「知ってるならとっとと言え。勿体ぶる必要も無いだろ」

「…それもそうじゃな。我から与えられる情報は所謂妖刀と呼ばれる類のモノじゃ」

「妖刀…」

 妖刀と聞いて、日光が顔を上げる。

 日光もそういう刀がある、という事は聞いた事がある。

 それはJAPANに住む者ならば誰もが聞いた事のある話だろう。

「昔…藤原石丸が死んだ後の話になる…との話だがな。石丸には優秀な部下が無数に居たとされている。先代妖怪王の黒部殿もそうじゃ」

 藤原石丸は多数の優秀な部下と共に大陸に攻め入り、20年という時間をかけて大陸の半分を征服した。

 LP期でも使われている言語を全世界の共通言語とするなど、治世においても藤原石丸は優秀だった。

 勿論それを支えるブレインが居ての事だが、その中でも最も優秀だったのが月餅と呼ばれる天志教の創始者だ。

「その石丸を支えた月餅…そやつは無数の妖刀を探して来たとされる」

「ふーん…」

 もし月餅の正体を知れば、間違いなくレンは爆発するだろう。

 何しろその正体は悪魔、正にレンにとっては不倶戴天の敵だ。

「藤原石丸が死に、その部下達も死んだ…その中で放置された刀がこのJAPANには有ると聞いた。尤も、それは我を作った陰陽師の言葉なので全てが正しいとは言わんがな」

「ほー。そんなのがあるなら探すのは楽そうだな」

「我が聞いた中では…不知火という妖刀がある。それ以外にもあるが…その中でも誰も持った事が無く、尤も強力と言われるのが富嶽と言われる刀だ」

 お町の言葉に尤も興味が引かれたのは―――ランスだ。

「誰も持ったことが無いか。そいつはいいな」

 ランスという人間は冒険が好きだ。

 誰も知らない事を知るのが何よりも好きなのがランスという人間なのだ。

 そんなランスが『誰も持ったことが無い、尤も強力な刀』と聞けば興味が引かれるのは当然の事だった。

「で、それがどの辺りにあるのか分かるのか?」

「うむ…富嶽は危険な刀と聞いた事がある。それ故に場所も知らされている」

 ランスの言葉にお町が薄い胸を張って得意気に答える。

「よーし、じゃあそこに行くか。がはははは! 楽しそうだな!」

 こうしてランス達は新たな武器を求めて、新たなダンジョンに向けて移動を始めた。

 

 

 

 そしてダンジョンの中―――そこではランスが非常に不機嫌な態度でモンスターを狩っていた。

「ランス、いい加減機嫌を直しなさいよ」

「フン、今更何も思ってなどいないわ! だがどーなっとるんだ!」

「…それはある意味仕方のない事かと」

 レンの言葉を否定するランスだが、その不機嫌な態度は収まらない。

 そんなランスの憤りを日光は苦い顔で収めようとしていた。

 それはランス達がこのダンジョンへと移動するときに起きた事。

 人間は魔物に見つからないように隠れて生きているのだが、当然の事ながら勘の鋭い者はそれに気づく。

 そしてお町はその勘が鋭い者で、隠れ里を見つける事が出来た。

 ランスはその隠れ里に行き食料を買おうと思ったのだが、それが出来なかった。

 ランス達を厄介者とみなしているあの人々の目。

 只でさえ気が短いランスがそんな目をされて面白い顔をするはずが無かった。

「落ち着け、ランス。これが今の時代の常識なのだろう」

 スラルもあの人間達の目が気に入らない、というのはあるのだが、それ以上にこの時代を理解していた。

 世界を構築する側だったからこそ分かる、この世界の歪み。

「排他的なのは別におかしくは無い。それに、我々のような各地を移動するような者は盗賊と見られてもおかしくは無い」

 ランス達も無事にここまでたどり着けた訳では無い。

 野良モンスターは存在する…だが、モンスター以外の襲撃もあった。

 それが人間達による襲撃だ。

 勿論そんな人間達がランスに敵うはずも無く、あっという間に鎮圧された。

 ランスは当然の事ながらそんな人間達を皆殺しにしようとしたが、それを止めたのは日光だ。

(ランス殿は…少し冷酷な気もします)

 日光はその時の事を思い出す。

 ランスは本当に無慈悲に…それこそモンスターを殺す程度の感覚で人間を殺そうとしていた。

 命乞いをした人間に対しても『何言ってやがる。お前みたいなクズは命乞いした奴も笑いながら殺すような奴だ。自分だけが助かると思うなよ』、そう言って容赦なく殺そうとした。

 日光は何とかランスに取り成して見逃されたが、その時のランスの視線が日光に突き刺さった。

「お前は甘いな。そういう甘い奴が食い物にされるんだ。殺すときに殺さないと後で後悔するのはお前だぞ」

 スラルもレンもお町も同じ意見なようだ。

 そしてもう一つの出来事…それがランスをイラつかせている原因だ。

 それは日光も関係しており、ランスは非常に面倒臭いという顔をしていた。

「で、本当にこんな所に拐われた子供がいるのか?」

「そのはずです。あの者達は嘘は言っていないとは思います」

 そこの集落で、日光は子どもの母親に『モンスターに拐われた子供を助けて欲しい』と頼まれた。

 日光はそれを二つ返事で受け、ランスにそれを伝えたのだが、肝心のランスが全く乗り気がしていないようだ。

 その辺りも、日光にとってはランスと合わない部分となっていた。

 人の命を軽んじている…という事は無いだろう。

 それでも、ランスという人間が非常に冷たい人間だと映った。

「ランス殿は…人の命を助けようとは思わないのですか?」

 だから日光は思い切って言葉を切り出した。

「いい女なら助ける。男は知らん」

「………」

 そう断言され、日光は目を丸くする。

 何を恥じる事も無く言い切るランスに、ショックを受けるよりも驚いてしまう。

 まさかそんな言葉を堂々と口にするとは思ってもいなかった。

「それよりもとっとと行くぞ。こんなチンケな洞窟の攻略などとっとと終わらせるぞ」

「まあそうだな。モンスターも雑魚ばかりだ。バンバラ系が多いがな」

 ランスとスラルは只管に進んでいく。

 スラルの言う通り、ここに居るのは弱いモンスターばかりで、豚バンバラやヤンキー、金魚使いややもりん程度だ。

 経験値的にも特に美味しくも無く、ランスとしてはとっととクリアをして次のダンジョンへと進みたい。

 子供の生死などランスにとってはどうでもいい事だった。

 勿論積極的に死ねとは思ってはいないが、ある理由からランスにはある疑いがあった。

「おいスラルちゃん、レン。きちんと見とけよ」

「分かっている」

「問題無いわよ」

 ランスの声にスラルとレンが頷く。

 その様子にランスも少しは子供の事を気にかけているのかもしれない、日光はそう思いながらダンジョンを進んでいく。

 やはり出て来るのは弱いモンスターで、苦も無く進んでいく。

 大したダンジョンでは無いようで、仕掛けも何も無い。

 そして進んでいくうちに、日光は一つの気配を感じる。

 その気配は弱弱しく、モンスターの気配では無い事が分かる。

「誰です」

 それでも日光は警戒を怠らず、相手の出方を見る。

 すると出て来たのは小さな子供だった。

「あの…お姉ちゃんは…?」

 姿を見せた相手に、日光は警戒を解く。

 この子供こそが例の子供なのだろう。

「もう大丈夫です。あなたの母親に頼まれました。さあ、帰りましょう」

 日光は微笑みながら手を差し伸べる。

「ランス殿! 見つかりました!」

 ランスにも声をかけ、目的の者を見つけた事を知らせる。

「うん…お姉ちゃん」

 そして日光の手に子供が手を伸ばした時、

「おい気づけ馬鹿! そいつはモンスターだぞ!」

「えっ?」

 ランスの怒鳴り声と共に、日光の手が強く引かれる。

 それは子供とは到底思えない力で、警戒を解いていた日光はそれに抗う事が出来なかった。

 そして日光の目に入ったのは、子供とは思えぬ邪悪な顔だった。

 日光の姿が突然消え、ランス達はその消えた場所に走っていく。

「あの馬鹿が!」

「ランス、怒るよりも早く見つける事が先決だ」

 スラルは慌てずに日光が消えた地点を見る。

 そこには魔法陣が一つあるだけだが、間違いなくそれこそが日光が消えた理由だろう。

「転移魔法陣か…誰かが残したものがまだ残っているか、それとも別の理由か…」

 スラルは魔法陣をなぞる。

「お町、手伝ってくれるか」

「うむ、日光の位置は大体分かるからそう時間はかからぬだろう」

 ランスは最初からこの依頼には何かあると感じていた。

 それは日光に子供を助ける事を頼んだ母親の顔だ。

 その顔の裏には何かある…これまでの経験でランスはそれを敏感に感じ取っていた。

 だからこそ、日光の動きを皆に気を付ける様に言っていた。

 だが、まさか転移魔法が関わっているとは思ってもいなかった。

「少し時間がかかるな…我も甘かったか」

「そんな事より早くしろ」

「分かっている。少し待て」

 ランスは腹立ちまぎれに地面を蹴るしかなかった。

 

 

 

「う…」

 日光が目を覚ます。

 体を起こそうとするがその体が動かない。

「これは…」

 日光の体は縛られており、その自由が全く聞かない。

 それも全ての服を剥ぎ取られ、その素晴らしい体が露わになっている。

「ひっかかったひっかかった」

「マウンテンリバー様ー。人間の女が来たよー」

 そして動けない日光をあざ笑うかのように、人間の子供が声を出している。

「あなたは…」

「たまに居るんだよな。お前みたいに素直な人間が」

 そういう子供の姿がどんどんと変わっていき、モンスターの姿へと変わっていく。

「モンスター…!?」

「クックック…相変わらず人間は愚かだな。だからこそ扱いやすい」

 そして現れたのは、巨大な体を持つ豚バンバラなのだが、その体は普通の豚バンバラとは違う。

 黒い肉体をした豚バンバラがいやらしい目で日光を見下ろしていた。

 その股間からは巨大な肉棒がそそり立っており、今から何をするのかが日光にも丸わかりだ。

「このアグーバンバラのマウンテンリバー様の相手が出来るのを光栄に思うのだな」

「ヘイヘイヘーイ!」

「我等ウエストライアンズの縄張りに来るとは愚かなジャップでーす!」

 そして黒い豚バンバラの取り巻きに無数のヤンキーが現れる。

「精々楽しませて貰おうか。人間」

 




豚バンバラの居る山賊団の名前と、豚バンバラの名前は実在する某球団とは関係有りません
…本気で抗議が来たりしないよね?
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