ランス再び   作:メケネコ

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魔人ラ・サイゼル

 魔人ラ・サイゼル―――エンジェルナイトの魔人とされる、ジルが生み出した魔人。

 だが、その実は破壊神ラ・バスワルドの半身。

 魔王ジルが神から与えられた『褒美』であり、三超神の実験の元に送られた存在。

 ラ・バスワルドは二つに分けられ、魔人ラ・ハウゼルと魔人ラ・サイゼルとなった。

 実際には魔王ジルはハウゼルもサイゼルの事も警戒しており、信じていない。

 だがらといって、常に監視をしている訳でも無い。

「さーて…人間! この私にあんな夢を見せて…絶対に許さないわよ。この魔人」

「あ、サイゼルだ」

「―――え?」

 自分が名乗る前に目の前の人間から自分の名前が出て来る。

 その事にサイゼルは目を点にしてランスを呆然と見る。

「そうだ。お前、魔軍に戻ってるのか。じゃあ今度こそ俺様のハイパー兵器でおしおきしてやるか」

 ランスは剣をサイゼルに突き付ける。

(あ、そうだそういやここのサイゼルは俺様の事を知らんのか。まあいいや、あの時やれなかった分、ここでやるか)

 ゼスでの魔軍との戦いのとき、魔人ラ・サイゼルもカミーラの配下としてランスに襲い掛かってきた。

 その結果、ゼスの地下施設でランスと戦ったが、結局口でさせただけで本格的にやる事が出来なかった。

 あの時は時間が無かったので見逃したが、今回は話は別だ。

 ゼスで出来なかった事を思う存分にする機会が巡って来たのだ。

「えーと…アンタ、私の事知ってるの?」

「ああ。生意気にもその手の武器で俺様を氷漬けにした魔人だ。あの時は油断したが、もう俺様に通じると思うなよ」

「!?」

 自分の攻撃方法すらも当てられ、魔人ラ・サイゼルは明らかに動揺していた。

(ちょちょちょ何でよ! 何でこいつ私の事知ってる訳!? だってこいつ絶対私と初対面じゃない!? でも私の事サイゼルって…しかも私が氷の攻撃を得意とするって知ってる!?)

 鋭い奴は気づくかもしれないが、普通は初見で相手の攻撃方法など分かる訳も無い。

 ましてや自分が左手に持っているクールゴーデスを明らかに警戒してる。

 魔人ラ・サイゼルが手に持っているのだからこれが武器だという事を気づくのは決しておかしくは無いが、それでも知られ過ぎている。

 自分はつい最近エンジェルナイトから魔人になったばかり、そもそも人間の間で名前が知られるはずも無いのだ。

(ってちょっと待って!? じゃあこいつが本当に例の奴…?)

 魔人サイゼルは一度目を擦ると、ランスに向かって歩いていく。

「お、何だ」

「いいから!」

 明らかに殺気も何も無いサイゼルがランスに近づくと、その顔をまじまじと見る。

「…口がデカいわね」

「何だとー!」

「ちょっと耳元で叫ばないでよ! うるさいじゃない!」

「お前がいきなり俺様に失礼な事を言うからだろうが!」

 互いに怒鳴り合う二人を見て、日光は思わず硬直してしまう。

 スラルとレンも呆然として二人のやり取りを見ている。

(ランスが知っている魔人…なのだろうな。ランスは我も知らない魔人を知っているからそれは不思議では無い。だが…こいつはもしや)

 スラルはサイゼルの背中にある翼を見る。

 その翼はエンジェルナイトであるレンの翼にそっくりだ。

 となるとエンジェルナイトの魔人という事が考えられる。

「…いや嘘でしょ! こんなのが私の事を好きにしてるって訳!? いやいやあり得ないから!」

「一体お前は何を言っとるんだ!」

「うっさい馬鹿! とにかく! あんたが居ると私は安眠できないのよ! だからさっさと死になさい!」

 そしてサイゼルはクールゴーデスを構えるとそれをランスに向けて発射しようとした時、凄まじい衝撃を感じて思わず後方に飛び退く。

「フン、前のように行くと思うなよ。お前の攻撃パターンはもう見切っておるわ!」

 ランスは一瞬で剣を振りぬき、その衝撃だけでサイゼルのバランスを崩したのだ。

 サイゼルはそれに驚き呆然としていたが、直ぐに表情を改める。

「…へえ、やるじゃない。まさか無敵結界の上からこんな衝撃を与えて来るなんてね」

 目を細めたサイゼルが鋭くランスを睨む。

 すると魔人特有のオーラが溢れだし、比喩でも何でも無く周囲の気温がどんどんと下がっていく。

「魔人…!」

「そう、私は魔人ラ・サイゼル。消えなさい! 人間!」

 魔人サイゼルはクールゴーデスを構えるとそれをランスに向かって放つ。

 するとその銃のような武器から強烈な冷気が放たれ、ランスに襲い掛かる。

「フン!」

 だがランスはそれが分かっていたかのように避ける。

「避けたわね…」

 明らかにクールゴーデスから冷気を放つ前から回避行動を取っていたランスに対して舌打ちする。

 理由は知らないが、相手が自分の事をしっていると言うのは俄かには信じ難いが、事実の可能性も出て来た。

「何度も言わせるな! もうお前の攻撃パターンは見切ったと言っただろうが!」

「面白いじゃない。少しは楽しめそうね!」

 サイゼルはその顔に笑みを浮かべると、翼を羽ばたかせて宙に浮かぶ。

「む、そういやこいつ空を飛べたんだったな」

「見て分かるでしょうが! もう、調子狂うわね!」

 サイゼルはランスに向けて再びクールゴーデスを構える。

 相手の攻撃はどうせ自分には届かないのだ、倒される可能性はまず無いのだが、サイゼルはそれでも警戒していた。

「消えなさい!」

 そして再びクールゴーデスから放たれるが、それをランスは身を捩って避けるとそのままサイゼルに向かって突っ込んでいく。

 その動きの速さにサイゼルは目を見開く。

(ちょっと! こいつ何なのよ!? 本当に人間!?)

 人間という生き物は脆弱な存在、それは魔人ならば誰でも持っている認識。

 ましてやここ最近魔人となったサイゼルにとっては尚更だ。

「ファイヤーレーザー!」

「っ! この!」

 スラルの放ったファイヤーレーザーがサイゼルの無敵結界に突き刺さる。

 無敵結界があるのでダメージは無いが、弾かれる炎で一瞬視界が塞がれる。

「とーーーーーーーっ!」

「あだっ!?」

 そしてランスの必殺技、ランスアタックがサイゼルに直撃し、サイゼルは後方に吹き飛ばされる。

「いったいわね! っていうか無敵結界の上から痛みを与えて来るなんてどういう奴よ!?」

 勿論ダメージそのものは無いが、鈍器で殴られたような衝撃にサイゼルは頭を押さえる。

 そして一度上空へ飛んでランス達を見下ろす。

「飛んだか…面倒だな。カミーラならば地上で堂々とランスと戦うのだろうがな」

 スラルは上空に居るサイゼルを見て困った顔をする。

 魔王だった頃はそんな事を考えた事も無かったが、やはり空を飛べるという事は相当なアドバンテージになる。

(メガラスが強かったのが分かるな。というかあいつは絶対にカミーラクラスの力があるはずだからな)

 寡黙で自分の事を語る事は無かったが、メガラスは相当に強い魔人だったのだろう。

 それなのに魔人の中では穏健…人間に敵意を持っていなかったのが不思議なくらいな魔人だった。

 そしてサイゼルはそのメガラス同様に空を飛べる。

 それは人間からすれば脅威以外の何物でも無い。

 何しろ空から一方的にこちらを攻撃できるのだから。

「おいレン。あいつを叩き落してこい」

「無茶言わないでよ。魔人相手にそんな事出来る訳無いでしょ」

 ランスの言葉をレンは即座に否定する。

 いくら神としてのランクが上がっても、流石に魔人が相手では分が悪い。

 それに自分がエンジェルナイトである事は日光には秘密にしている。

 なるべくなら、自分がエンジェルナイトである事を知られたくはない。

 ランス達がサイゼルを見上げていると同時に、サイゼルもランス達を見下ろしている。

(…いや、どうしよ)

 しかし、サイゼルもまた少し困った状況にあった。

 確かに自分の夢の中に現れた人間は許さない、と息巻いていたが、実際には所詮は夢の中の出来事にしか過ぎないし、まさか本当に夢の中で現れた人間と似た男と出会うなんて思ってもいなかった。

 別に本気で殺してやろうというつもりは無かったし、今回の出会いも単なる偶然だ。

 魔人としては魔王に報告した方が良いのだろうが、サイゼルはジルが嫌いだった。

 あまりにも冷酷な態度もそうだが、ジルが自分とハウゼルを見る目がどうしても好きになれなかった。

 まるで魔人である自分達を監視するかのようなあの目が嫌なのだ。

「…適当に切り上げたいんだけどなぁ」

 幸いにも誰も自分達を見ている者はいない。

「でも…それも芸が無いわね」

 サイゼルは上空で笑うと、そのままクールゴーデスを下に向ける。

「少しくらいは楽しむのもいいか」

 そしてクールゴーデスから凄まじい冷気が放たれる。

「来るわよ!」

 サイゼルから凄まじい冷気が発せられるのを見て、ランス達はその場を飛びのく。

 地面に当たったクールゴーデスの冷気はそのまま地面にと広がり、凍りついていく。

「こいつは…」

 ランスは凍りつく地面を見て、あの時の事を思い出す。

 それは魔人サイゼルと決着をつけた場所、ゼスの地下通路での事だ。

 そこは本来は普通の地下通路だったらしいのだが、サイゼルの力で凍りついていた。

 そしてサイゼルが空から襲い掛かってくる。

 クールゴーデスを使用する事無く、その手に氷の剣を作り出してランスに襲い掛かってくる。

「むっ」

 ランスは剣を構えてサイゼルの攻撃を防ぐが、ランスはサイゼルの勢いに負けてそのまま転んでしまう。

「うげっ!?」

「ランス!」

 やはり氷の上ではバランスが取り辛いようで、踏ん張りがきかなかったのだ。

 レンは急いでランスを起こすと、ランスに向かって再び向かって来るサイゼルの攻撃を防ぐ。

 レンとサイゼルは間近で向かいあうと、そこで奇妙な感覚に襲われる。

「…あんた、何者!?」

「そっちこそ…!」

 まるで同族と出会ったかのような感覚に、二人は目を白黒させる。

 元は同じ天界に属する者同士が睨みあう。

(何コイツ…ハウゼルと似た感じがするけど、やっぱり全然違う。気持ち悪いわね!)

「ハッ!」

「…!」

 レンが盾を利用してサイゼルを吹き飛ばす。

 サイゼルはまさか自分が盾で吹き飛ばされるとは思わないようで、その顔には驚愕の表情が浮かぶ。

 だが、空中で即座に体勢を立て直すと、

「スノーレーザー!」

「魔法バリア!」

 すぐさまレンに向かってスノーレーザーが放たれる。

 それを見越してスラルがバリアを張り、サイゼルのスノーレーザーを防ぐ。

 それを見てサイゼルは目を白黒させる。

「ちょ、ちょっと!? アンタ達何なの!?」

 人間牧場という狭い中での人間しか知らないので、まさか魔人の自分の攻撃をここまで防がれるとは思ってもいなかった。

「フン、お前が弱いだけだ」

「あまり挑発するなよ。面倒が増えるだけだ。業火炎破!」

 スラルが地面を覆っている氷を解かすべく魔法を放つ。

 炎が地面に広がるが、流石に魔人の放った氷を完全に溶かす事は難しい。

 だが、それでも先程よりもマシにはなっただろう。

 そのままランスは真っ直ぐにサイゼルに向かって行く。

「え、ちょっと待ちなさいよ! 私は魔人なのよ!」

「そんなの知ったことか! 俺様にオシオキされるがいい!」

 笑いながら自分に攻撃を仕掛けてくるランスにサイゼルは目を白黒させる。

 まさか人間が魔人である自分に、こんなにも積極的に攻撃を仕掛けてくるとは想像もしていない。

 しかもこの人間は異常なまでに強い。

 その剣の動きが魔人であるサイゼルにも全く予想もつかないのだ。

 戯れでケッセルリンクの剣を受けたこともあるが、この人間の剣の腕はケッセルリンクを遥かに上回る。

「この…調子に乗らないでよ!」

 サイゼルはクールゴーデスをランスに向けるが、その動きが読まれているかのように相手は動く。

「とーーーーーーっ!」

「!!」

 そして接近してのランスアタックがサイゼルに直撃する。

 勿論それは無敵結界によって弾かれるのだが、サイゼルには冷や汗が浮かんだ。

 もし無敵結界が無ければ…そう思わせてしまうほどの一撃が魔人である自分を襲ったのだ。

 サイゼルは少し慌てて宙に浮かび、ランスの剣が届かない場所に移動する。

「………ちょっと調子に乗りすぎたわね。人間」

「む」

 サイゼルの声は先程の慌てぶりからは嘘のように冷え冷えとしていた。

 あの時ランスに犯されそうになった時も、こんな声はしていなかった。

「だったら私も本気でやってあげるわよ。魔人ラ・サイゼルの力、存分に思い知りなさい!」

 そう言うとサイゼルの左目が青く光る。

 そこからは間違いなく炎のような揺らぎが見える。

 それを見て流石のランスも顔が真面目になる。

 それだけの威圧感が目の前の魔人からは感じられていた。

「ランス、どうするの」

「お前が空を飛んでサイゼルを引き摺り下ろせばいいだろ」

「無茶言わないでよ。流石に1対1じゃあ魔人には勝てないわよ」

「うーむ…おいスラルちゃん、日光、何か無いか」

 ランスはスラルと日光を見るが、

「流石に宙に浮いている魔人をどうこうする手段は我には無いぞ。何しろ攻撃の類が一切効かないからな」

「申し訳ありません…私もちょっと」

 当然の事ながらランスを満足させる答えは返っては来なかった。

 空を飛べるというのはそれだけのアドバンテージがあるのだ。

 そしてそれが魔人ならば尚更だ。

「凍りなさい!」

 そしてサイゼルの持つクールゴーデスから青い光が放たれる。

 それは先程の一撃よりも遥かに威力が高く、それに当たれば唯ではすまないのは明白だ。

 だからランス達は避ける以外に手段は無い。

「お、おい! レン! スラルちゃん! 何とかしろ!」

「だから無茶を言わないでよ!」

「今は避ける以外に無いだろう!」

 ランスの怒鳴り声にレンとスラルも怒鳴り声で返す。

 それだけ強力な一撃が空から降り注いでいるのだ。

「これが…魔人の力…!」

 日光も何とかクールゴーデスを避けながら歯を食いしばる。

 その圧倒的な力に人間は何も出来ないという事を思い知らされていた。

(あいつ、あんなに強かったのか!?)

 ランスは以前に戦った魔人ラ・サイゼルとの差に戸惑う。

 ゼスで戦った時はサイゼルとはまともに戦ってはいなかった。

 最初の戦ではランスが氷漬けにされ、戦いはお開きになった。

 その後は何故かサイゼルは地下通路におり、そこではサイゼルとはまともな戦いにはならなかった。

 何しろサイゼルの使徒のユキにハイパー兵器を凍らされたあと、最終的にはカオスをサイゼルに投擲して勝利した。

(洞窟内だとあそこまで高くは飛べなかったからか)

 狭い洞窟の中ではサイゼルは空を飛ぶ力を封じられていたという事だろう。

 今更ながらにランスは空を飛ぶという魔人の厄介さを思い知っていた。

「アンタはここで死になさい!」

 サイゼルはクールゴーデスを連発してランスを狙う。

「だーーーーっ! 俺様を狙うな! こいつを狙え! こいつの方が頑丈だぞ!」

「どういう意味よ!」

 レンは何とかランスを守るが、クールゴーデスは止まらない…と思ったが、その攻撃が止む。

「む」

「終わった…?」

 ランスとレンは攻撃が止んだ事に疑問を抱くが、幸いにもサイゼルからの攻撃は無かった。

 そして上空のサイゼルも忌々しそうに唇を噛んでいた。

 それはクールゴーデスの連発し過ぎたからだ。

(やっぱり9連発が限界か…どんなに魔力を込めてもこれ以上は厳しいか)

 これ以上クールゴーデスを使うとどんな不具合が起きるか分からない。

(でも…問題は無いわね)

 クールゴーデスが使えないなら、魔法で攻撃をすればいい。

 魔法はクールゴーデスのように連発は効かないが、必ず当たる。

 それが魔人の魔法力であれば尚更だ。

「こいつで終わりよ! 死になさい!」

「げ、あれはまずいぞ」

 高まる魔力を感じ取り、流石のランスも焦りを感じる。

 あれが放たれれば魔法防御力を格段に高める『ドラゴンの加護』を持っている自分はともかく、日光はそうもいかない。

 果たしてレンとスラルの魔法バリアでどこまで防げるか。

「日光!」

「は、はい」

 レンの声に日光は彼女の側に駆け寄る。

「絶対れい…どぉ!?」

 サイゼルが魔法を放とうとした時、突如として自分に向かって来る剣を見て驚く。

 それは魔人にとっては避ける必要が無い一撃だったのだが、まさか剣が飛んでくるとは思わずに集中力が霧散してしまう。

「ちょ、ちょっとアイツ正気!? 普通剣をぶん投げる!?」

 サイゼルに飛んできたのはランスの持っていた剣だ。

 空を飛んでいる自分に正確に投擲してきたのには驚くが、同時に得物を失うという愚かさに驚愕する。

「でも…そこまでね。スノーレーザー!」

 放とうとしていた魔法を切り替え、スノーレーザーをランスに向かって放つ。

「くっ!」

 そのスノーレーザーを防ぐべく、レンが魔法バリアを貼る。

 スノーレーザーを防げはするが、それでも連発されれば持たない。

「火爆破!」

 スラルは凍りついていた地面に向けて魔法を放つ。

 それは地面の氷を完全に溶かすのではなく、大量の水蒸気を放つために離れた魔法だ。

「あっ!」

 サイゼルもスラルの行動の目的に気づき、声を上げる。

 大地には大量の水蒸気が充満し、上空からはランス達の姿が見えない。

「氷雪…いや、当たらないか」

 魔法は必中、それがこの世界のルールではあるが、流石に闇雲に撃っては当たるはずもない。

 それよりもサイゼルはランスが投擲した剣を見る。

 サイゼルに当たった剣は大地に突き刺さっており、サイゼルはそれを手にするべく大地に降りる。

 そして水蒸気がサイゼルの体をも包んだ時、その剣を手に取り引き抜こうとする。

 だが、

「!? 何コレ! すっごい重いじゃない!」

 地面に突き刺さった剣は魔人であるサイゼルの力を持ってしても引き抜く事が出来ない。

 サイゼルが驚愕していると、突如としてその剣が浮き上がる。

「え?」

 サイゼルは思わず間の抜けた声を上げるが、剣を掴んでいた腕ごと引っ張られる。

「あ」

「え」

 その剣はランスの手元へと引き戻され、ランスとサイゼルは間近で顔を突き合わせる形になる。

 真正面からサイゼルの顔を覗き込む形になったランスは、その美しい顔をマジマジと見る。

「…あの時はじっくり見れなかったが、いい女ではないか」

「いい女って…いや、あんた突然何言ってるのよ!」

 サイゼルは人間とはいえ、真正面から自分の容姿を褒められた事に驚く。

 しかもこんな状況にあるにも関わらずだ。

 そしてサイゼルもまた、こんな状況にあるのに顔を赤らめる。

 それはサイゼルが夢に見ていた光景にそっくりだったからだ。

 何度も見ていた厭らしい夢、その中で何度も何度もサイゼルは男に抱かれていた。

 そしてその夢の一つに、こんな光景もまた存在していた。

「離しなさいよ!」

「お前が離せ! これは俺様のだぞ!」

 だが、それも長くは続かずに二人は再び怒鳴り合う。

 サイゼルは両手で剣の柄を掴み、ランスはその上から剣の掴む形になる。

 そしてサイゼルは再び驚愕に目を見開く。

 魔人である自分が単純な腕力で人間と互角で有る事に。

「…ほれ」

「え、ってきゃあ!?」

 突如としてランスがその手を離すと、サイゼルはその勢いに負けて剣の下敷きになる。

「お、重いーーー!」

「がはははは! 間抜けだな!」

 ランスは剣の下になっているサイゼルを見下ろすと、その体に触れようとする。

「む」

 だが、無敵結界があるせいか、サイゼルに触れる事が出来ない。

「ケッセルリンクは問題無く触れたが…そうか、これも無敵結界か」

「え、ケッセルリンク?」

 突如として人間の口から魔人ケッセルリンクの名前が出て、サイゼルは再び目を丸くする。

(って私何回驚く訳!?)

「まあいいや。ほれ」

 ランスは剣を持ち上げると、サイゼルは翼を羽ばたかせて自分の周りの水蒸気を吹き飛ばす。

 そして氷の剣を作りだしランスに向かって突っ込んでいこうとして、その体を止める。

「ああもう調子狂うわね! もういいわ! 頭もグチャグチャだし見逃してあげるわよ!」

 突如としてランスに向けて癇癪を起したように怒鳴ると、そのまま上空に消えて行ってしまった。

「…なんだあいつ」

「いや、魔人だろう。お前が名前を知っていてかつ相手はお前の名前を知らない…奇しくもカミーラの時と似たような形になっているがな」

 スラルはランスを軽く睨む。

 ランスが全てを話してくれていないのは知ってはいるが、別に無理に聞き出そうとも思っていない。

 ただ、やはり気になるものは気になるのだ。

「ランス殿、無事ですか!?」

 水蒸気が晴れた所に日光とレンがやってくる。

 どうやら大した怪我も無いようだ。

 魔人と戦った代償としては軽い事に日光は安堵していた。

「フン、今度こそズバッと俺様のハイパー兵器をぶち込んでやるわ」

 ランスは剣を鞘に納めた時、

「話し中の所悪いけど、とっとと逃げた方が良いよ。別の魔人が来てるわよ」

 突如として声が聞こえてくる。

 その声に驚き、全員がその声の方向を見る。

「魔人レキシントンが近づいてきている。さっさと逃げるわよ」

 そこに居たのは黒髪のカラー、ランスとも面識があるハンティ・カラーが何処からともなく現れていた。

 




ハウゼルが火炎斬りをしてきたので、サイゼルにも似たような事をさせました
実際にはウィチタが持ってるものを流用しただけなのでしょうけどね…
サイゼル単体戦が無いのでこうさせて頂きました

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