「ううう…一体何が…」
魔物将軍は息も絶え絶えながらもまだ息があった。
ランスの一撃をまともに受けたはずなのだが、ランスの剣があまりにも鋭すぎたために未だに生きていた…いや、死ねずにいた。
「レイ様か…? いや、違う。そんなはずが無い…だが…」
凄まじい雷撃が自分達を襲った事だけは覚えている。
そんな事が出来るのは、怒れる王と称される魔人レイくらいだ。
更には魔人レイは短気で誰にでも喧嘩を売る粗暴な魔人、それが魔軍の認識だ。
「あ、まだ生きてるわねこいつ。死ななかった…いや、死ねなかったか」
そんな魔物将軍に金髪の女が近づいてくる。
「貴様は…」
「まだ生きてる所悪いが、全てを話して貰おうか。お前の知っている事をな」
そして次々に人間達が自分に近づいてくる。
それを認識して魔物将軍は薄く笑う。
「ククク…まさか人間に殺されるとはな…これこそ恥か…」
「お前の恥などどうでもいい。それよりもお前は誰の命令で来た」
スラルは冷たい目で魔物将軍を見下ろす。
かつては自分の手足となって動いていた魔物将軍だが、今は明確な自分の敵だ。
「フン…魔人メディウサだ。奴の命令でカラーを拐いに来た…それだけだ」
「随分と素直に吐くのだな」
「死にたくない…その一心だけで魔人に擦り寄るのが殆どだ。そして使えなければ捨てられる…任務を失敗し、ジル様に処刑されるか牧場に送られるよりも…戦いで死ぬ方がまだマシよ」
魔物将軍はそう言って楽しそうに笑う。
「何故この程度の数しかいない。お前は200の魔物隊長を指揮できる将軍のはずだろう?」
「数は…揃えられん。ジル様が…それを…許さぬ。この世界は魔物にとっても地獄よ…」
自嘲する様に言う魔物将軍は血を吐き出す。
「戦い…にもならなかったが、戦場で死ねてまだマシよ…」
そう言って魔物将軍は息を引き取った。
「…終わったか」
ハンティは取り敢えず安堵のため息をつく。
魔物兵を全滅させる、という目的は達成する事が出来たようだ。
そして魔物将軍も誰も帰らなければ、この事を報告する奴等も居なくなる。
「まさか本当に奇襲だけで魔物将軍の部隊を倒すなんてね…感心するよりも呆れがくるね」
そう言うハンティだが、その顔には笑みが浮かんでいる。
何だかんだ言っても、カラーを襲う脅威は一先ずは退ける事が出来たからだ。
「ふむ…今の時代、魔物はそれほど組織だった行動は出来ないという事か。改めて情報を得られただけでも十分だな」
「という事は魔人が好き勝手に動いている、という事でしょうか?」
日光の疑問にスラルは頷く。
「ああ。だが、それでも軍という体を成す程、魔物が集まる事も出来ないのだろう。お前の故郷を襲ったのも、はぐれ魔人なのだろうな」
「…そうですか」
日光は今でもあの光景を忘れていない。
必ず、自分の故郷を襲ったあの魔人…魔人イゾウをこの手で打ち倒すと決めている。
「それよりも早く休ませろ。俺様との約束、忘れたわけじゃ無いだろうな」
「今更そんな事言わないさ。それにここの迎えも来ているようだしね」
ハンティの視線の先には、森の中からこちらの様子を伺っているカラーの姿が見える。
「さて…ようこそカラーの里へ。と、言っても、まだ暫定的にだけどね」
ランス達は森の中のカラーの集落へと入っていく。
そこはランスも良く知るペンシルカウに似た家が無数に存在して居た。
だが、当然の事ながらカラー達の顔には警戒の色が強い。
特にランスに対してはそれが顕著で、刺すような視線を向ける者も居る。
「悪いね。でもカラーにとっては人間は『犯してクリスタルを奪っていく奴』って認識なんだよ」
ハンティは少し疲れたようなため息をつく。
(やっぱり昔のやった事って後になって響くもんだね…)
NC期におけるカラーによる人間の支配…その結果が今の人間とカラーの関係を作り出してしまった。
そしてカラーのクリスタルが強力なマジックアイテムになる事が分かると、人間達は積極的にカラーを狩りに来た。
そうなるとカラーが人間を恐れるのは当然の話ではあるが、全てを知っているハンティからすれば複雑だ。
「ここを使ってくれていいさ。まあアンタ等には魔法ハウスがあるから必要無いかもしれないけどね」
「使っていいと言うのであれば使ってやる」
ランス達はハンティに案内された空家に入る。
そこには最低限のベッドと家具しか置かれていない。
だが、確実に誰かが使っていたという痕跡は残っていた。
「ハンティ殿。ここは…」
「ああ…昔使われていた家さ。カラーもそんな簡単に増える事が出来ないからね。いや、今のままなら減っていく一方さ」
カラーはまさに存亡の危機に晒されていた。
だが、これでもNC期に比べればまだマシなのだ。
何しろNC期には、カラーを家畜として殖やす計画すら立てられていたのだ。
その前に魔王ナイチサの大虐殺があったので、幸いにもその計画は頓挫した。
しかし、後世においてもカラーの記録は人間に残っているので、カラーの家畜計画を実行する人間が居るかもしれない。
それがハンティには気がかりだった。
「ところでランス。こいつはどうするの?」
レンが指さすのは、ロープで雁字搦めにされたうし車の御者だ。
「ああ。こんなのも居たな。まあぶっ殺すか」
ランスは男の首根っこを掴んで家の外へと連れ出す。
そして剣を抜くと、一気に男を刺し殺そうとする。
「ま、待ってくださいランス殿! な、何も殺さなくても!」
それを日光が必死で止める。
いくら脅されていたとはいえ、この人間の協力が無ければここまで迅速に移動する事は出来なかった。
ならば殺さなくても…と思うのは日光としては当然だった。
だが、ランスはそんな日光の優しさ、そして甘さを鼻で笑う。
「甘いぞ日光。こいつがここに来たのは死にたくないからだ。だが、今こいつを逃がせば間違いなくカラーは危機に晒される。そんな事は許さん」
「そんな事は…」
日光の言葉に男は必死に頷く。
「だ、誰にもここの事は言いません! だ、だから命だけは…」
男は必死に頭を下げて、何とか助かろうと命乞いをする。
勿論ランスにはそんなものは通用はしないが、日光の懇願する目を見ると流石のランスも問答無用で殺すのは躊躇われた。
それは男を殺すのに躊躇するのではなく、日光の心証を悪くしすぎると抱けなくなるというものだったが。
「まあいい。だったら日光、お前もしっかりと聞いていろ。おいハンティ、呪いを使える奴は居るか?」
「勿論居るけど…何をするんだい」
「いいから連れてこい。このアマちゃんに世の中の常識を教えてやるだけだ」
ランスの言葉にハンティは首を傾げるが、それでもカラーの一人を連れてきた。
「あれ、君は」
「は、はい! ここまでランスさんについてきたカラーです。その…私もレベルアップしたら、呪いの才能があると分かったので…」
ランスの前に来たのは、ここまでランス達と共にこの里に来たカラーの一人だった。
その中でもランスに好意的な視線を送っていたカラーで、もうランスに対して脅えた様子は全く無かった。
「その…呪いが必要と聞いたのですけど」
「おおそうだ。確かカラーには自分の考えが筒抜けになる呪いがあっただろう。それをこいつにかけろ」
「拡散モルルンですか? あの…人間のランスさんが何でその事を知って…?」
「いいからかけろ。そうすればこのアマちゃんでも自分の考えの甘さに気づくだろ」
「はい…それでは、拡散モルルン!」
ランスの言葉にカラーが男に向けて呪いをかける。
拡散モルルン、それはLP期において見当かなみがパステルにかけられた呪い。
自分の考えが筒抜けになる上に、その時の感情すらも他者に伝わる恐ろしい呪いだ。
「よーし、じゃあお前はカラーをレイプした事があるか」
「そ、そんな訳無いだろう!?」
『すげー良かったぜ。カラーの具合は』
「え!?」
男は口では否定するが、その心の声が響き渡る。
その言葉にカラー達は厳しい目を男に向ける。
「ち、違う!」
『な、何が起きてるんだ!? 俺の心の声が聞こえているのか!?」
「がはははは! やっぱりな! お前みたいなモテそうもない男なら絶対カラーをレイプしていると思ったぞ」
ランスは男の首筋に剣を突き付ける。
「で、お前はカラーの集落に来たがどう思った?」
「………」
男は何も答えない。
だが、
『ここで何とか生き残ればカラーのクリスタルで金持ちになれるんだ! 何としても生き延びないと…』
心の声がそれを許さなかった。
「フン、分かったか日光。カラーを狩りに来た人間なんてこんなもんだ」
「………」
ランスの言葉に日光は何も答えられない。
ただ、厳しい顔で唇を噛みしめている。
「という訳でお前は死ぬ。カラーを狙ったお前の自業自得だ」
「そ、そんな馬鹿な事があるかよ! お前はどうなんだ!? お前だってカラーのクリスタルを狙ってるんだろう!?」
「がはははは! 俺様をお前と一緒にするなよ! カラーのクリスタルなんかに価値など無いわ! まあ確かに良い武器だが、そんなもんカラーを殺してまで作る意味など無いわ!」
ランスは強い口調で断言する。
「そんな訳があるかよ! お前だって人間の男だろうが」
「フン! 全ての男が一緒だと思うなよ。俺様はカラーからもモテモテだからそんな事する必要は無いのだ。だから死ね」
何処までも冷酷なランスの言葉に男は冷や汗をびっしょりと浮かべている。
そしてランスは問答無用で男を斬り殺した。
「分かったか日光。もしお前がこの男を逃がせば、カラーは大変な事になったのかもしれんのだぞ」
「…分かっています」
ランスの言葉に日光は悲痛な顔で唇を噛んでいる。
ランスの言っている事は全て正しく、自分の甘さがカラーを危険にしていたのかもしれないのだ。
「だったらもっと相手を見るんだな。何度でも言ってやるが、お前の甘さがお前だけにいくなら自業自得だ。だがそれが他人に向かえばお前が悪い」
「…はい」
日光はただただそう頷くしかなかった。
「という訳でこの件は終わりだ」
ランスは日光の頭をポンポンと叩くと、そのままハンティの元へと向かう。
「で、俺様はここに入っても問題は無いな?」
「そればかりはアタシの一存だけでは決めれないけど…まあ大丈夫だと思うけどね」
ハンティはランスに向かって安心した目を向けているカラーを見てため息をつく。
(こいつは女の敵だけど…カラーにとっては強い味方なんだよね)
魔物将軍を倒し、更には人間の嘘を暴いてその手で殺して見せた。
もうそうなれば、ランスがカラーに敵意を持っていない事は明らかだ。
「さて…皆が問題無ければ、カラーはアンタ達を歓迎するよ」
ハンティはそう言ってランスに向かってニカッと笑って見せた。
カラーの住処ではランス達は少しの間骨休めをしていた。
もしかしたら追加の魔軍か来るかもしれないと思い、ハンティは常に森の周囲を見ていたが、幸いにも追加の魔軍が現れる気配は無かった。
魔人の方も、元々魔物将軍には期待していなかったのかもしれない。
楽観的かもしれないが、そう考えても良いとハンティは思っていた。
そして肝心のランスはと言うと―――
「がはははは! 俺様にかかれば楽勝だ楽勝!」
「わー! ランスさんって本当に強いんですね!」
「クリスタルもランス殿の事を認めているという事なのだろう」
「こんなに早くモンスターを撃退出来ちゃった…私達だけだともっとかかるのに」
カラーと一緒に森の周囲に居る魔物達を狩っていた。
「この辺りはこれで十分でしょうか?」
日光もランスと共に魔物退治に勤しんでいた。
「んー…この辺りにはもう居ないかな? 足音も感じられないし…」
地面に耳を当てていたカラーの言葉に日光は安堵する。
「ふぅ…しかし本当にスカウトというのは凄いのですね…」
「あはは。私にはこれくらいしか出来ないと思ってたから、役に立てて嬉しいかな」
スカウトの技能を持ったカラーが照れくさそうに笑う。
「本来は冒険するのならば一人はスカウトは欲しいのだがな…何故か俺様の周りにはスカウト技能を持っている奴が現れん」
「…それはランスさんが女性しか見てないからでは?」
ランスの言葉にカラーが楽しそうに答える。
「そんなのは当然だ。男はいらん」
「それを言えばカラーは女しかいないから、ランス殿にとっては問題無いのだろう」
「うむ、やはりカラーは素晴らしいな」
カラーの里についてからランスは上機嫌だ。
カラーには美女しかいないので、ランスとしては当然目の保養になる。
(これで手を出せれば問題無いのだがな…)
ただ、ランスはカラーには手を出せてはいなかった。
それはハンティにもきつく止められているからだ。
ランスとしてはそんなのは無視しても良かったのだが、やはりカラーの呪いにはランスも軽くトラウマを抱えていた。
もし万が一もう一度禁欲モルルンをかけられたらと思うと躊躇してしまう。
何しろランスも一度は本気で自殺を考えた程の呪いなのだから。
「これで少しは安心かな。さーて、戻りましょう」
「がはははは! 今日も楽勝だったな」
カラーの言葉にランスは得意気に集落へと戻っていく。
集落へと戻ればランスは当然宛がわれた部屋へと戻る。
魔法ハウスを使うのもいいのだが、たまにはこういう家に寝るのもランスとしては冒険をしている感があって中々良かった。
ランスと日光が戻ると同時に、スラルも戻って来る。
「戻ってたのか。それにしてもご苦労だな。我も手伝ってもいいのだが…」
「周りの連中は雑魚ばかりだ、気にするな。それにカラーも何だかんだ言って出来る奴もいるからな」
こうしてランスはカラーと共に周囲のモンスターを狩っているが、そこについてくるカラー達は中々どうして強くなっている。
それは勿論道中でランスと共にモンスターと戦ったり、魔物将軍率いる魔物部隊を倒した事も関係はしている。
だが、それでもあのイージス・カラーと同じくらいに戦える者も居る。
流石にパステル程呪いに長けた者はいないが、それでも十分と言えば十分だろう。
(だがケッセルリンクはカラーの中でも相当に強かったんだな。いや、俺様が知っているカラーの中では一番強いな)
そう考えると、あのケッセルリンクがカラーに慕われていたのは納得がいく。
あの時は異常に強いムシがカラーを襲っており、ケッセルリンクはカラーを指揮してムシを撃退していた。
そのケッセルリンクの強さはやはり一歩も二歩も抜けており、ゼットン等のLV2の魔法だけでなく、剣の腕もかなりのものだった。
それが魔人になったのだから、魔人四天王になるのはある意味当然といえた。
「で、そっちはどうだ。何かあったか」
ランスの言葉にスラルは首を振る。
「成果…と呼べるものは無いな。ハンティから話も聞いたが、やはり魔王や魔人についてはそれほど知っている事は多くは無い。我等の方が詳しいだろう」
スラルは自然にランスの横に座り、持っていた本を開く。
「ハンティから許可を貰い、何冊か借りてはみたが…正直期待は出来ないな」
「ふーん、そっか。まあスラルちゃんはスラルちゃんで探せばいい」
ランスもそれに関しては期待はしていなかったようで、特に気にした様子は無い。
「戻ったわよ」
その時、レンも部屋に戻って来る。
「お帰りなさい、レン殿」
「特に問題は無し。魔軍の追撃は多分来ないでしょ。魔軍が組織だって動けていないっていう証拠ね」
「らしいね。それにしてもアンタって本当にカラーに好かれるね…」
レンと共にハンティも共に入ってくる。
そしてランスに向けて呆れたように視線を向ける。
「だったらヤらせろ。カラーの娘達だって欲求不満だろ」
「そういう事を言うからダメだんだよ、アンタは。アンタがずっとカラーに寄り添ってくれるっていうんなら許可するけどね。でもそうじゃないんだろ?」
「当たり前だ。俺様には崇高な目的があるのだからな」
ランスの言葉にハンティは白い目でランスを見る。
どうせランスの事だから、ロクでも無い崇高な目的があるのだろうと思っている。
そしてそれは大抵は間違っていないのだ。
「で、アタシはケッセルリンクにアンタを頼むと言われてるんだけど…この後どうするんだい?」
ハンティがランスを探していたのは、魔人ケッセルリンクとの約束があったからだ。
魔軍が全く動いていないのも、恐らくはケッセルリンクが裏で手を回してくれている事もあるのだと思っている。
「俺様のやる事は簡単だ。女の子を苛めている魔人メディウサとかいうヤツをオシオキするのだ」
「魔人メディウサか…そいつはまた厄介な事だね」
魔人メディウサ、そいつが生きている限りはカラーは何度も脅威に晒される。
ハンティもそれが分かっているので、そいつに死んでもらう事には賛成だ。
「ですが無敵結界はどうにもなりません。ランス殿とスラル殿が無敵結界を破れる一撃を使っても、それで倒せなければ意味が無いでしょう」
日光はランスとスラルの究極の合体技を見た事が有る。
それは寒気がするほどの圧力を感じさせたが、その欠点の大きさも同時に理解していた。
「おいスラルちゃん。何とかならんのか」
「これ以上は難しいな。如何にレベルを上げたとしても、神の力を扱うには力不足だ。大人しく、あの魔人サイゼルともう一体の魔人を探すべきだと我は思う」
「サイゼルか…」
クエルプランから提示された、破壊神ラ・バスワルドの力を解放する条件。
それが魔人ラ・サイゼルともう一人の魔人をランスが抱く事だ。
「でも空を飛べる魔人を探すのも難しいわよ。何処を根城にしているかも分からないし」
「そうだな…メガラスも特に自分の城等を持っていた訳でも無いからな。まあメガラスは別の理由からだろうが…」
「魔人を倒すために魔人の力が必要…それも変な話だね」
ランス達の話を聞いて、ハンティも呆れたような声を出す。
「フン、そんなのはどーでもいい。それにサイゼルはいい女だからな。俺様もやる気が出るというものだ」
「やる気が出るのはいいけどさ。少し手詰まり感が有るのも事実じゃないかしら?」
「だったらお前が何か言ってみろ。どーせ何も出ないだろう」
「…まあ出ないけどさ」
ランスの言葉にレンはバツが悪そうに唇を尖らせる。
「どーせ私は世間知らずのエンジェルナイトですよ。一般常識は実はスラルよりありませんよ」
「その言葉、暗に我を馬鹿にしているだろう。いやまあ確かに否定はせんが」
「そんなのはいいからさ。だったら一度ケッセルリンクに会いに行ったらどうだい? 幸いにもここからケッセルリンクの城までは結構近い所にあるからさ」
「何、そうなのか」
ハンティの言葉にランスは驚く。
確かLP期のヘルマン地方に居ると言っていたが、まさか今のカラーの里の近くに居るとは思わなかった。
「丁度今は魔王が居ない時期だろうしね…ケッセルリンクと接触しても問題は無いんじゃない? それに何か探し物もしているらしいから、情報の交換をする価値もあると思うけどね」
「魔王が居ない時期とは…?」
ハンティの言葉に日光は困惑の表情を浮かべる。
「ああ…魔王ジルは定期的にこの世界から居なくなるって噂だよ。でも、それは人間にとっては良い事とは言えないんだけどね…」
「…どういう事ですか?」
「魔王が居ない期間は魔人や魔物が好き勝手出来る時期でもあるのさ。逆に言えば魔王がこの世界に居る時は、魔物共も人間も大人しいのさ。今回の魔物将軍がカラーの所に来たのも、魔王がこの世界に居ない証拠だと思ってるよ」
「そんな事が…」
日光はその言葉に苦い顔をする。
まさか魔王が居る事によって、魔人や魔物が大人しくなるとは思っても居なかった。
日光にとっては、この世界は魔王によって今の地獄が造られているという認識だからだ。
勿論それは間違ってはいないのだが。
「だったらケッセルリンクの所に行くか。丁度あいつの顔も見たいと思ってたしな」
「それならアタシが段取りをするよ。ケッセルリンクの所には複数の魔人が出入りしているらしいからね。その魔人と鉢合わせしないためにも打ち合わせは必要だろ」
「そうしてくれると助かるが…いいのか? お前とケッセルリンクの関係を人間に知られれば、それこそカラーは取り返しのつかない事になるぞ」
スラルの指摘にハンティは笑う。
「そのための瞬間移動だよ。それに、人間だってそこまで余裕は無いさ。それに、アタシがケッセルリンクと会ってるのを知っているのは誰もいないからね」
ハンティももしもの時の事は考えている。
ケッセルリンクはカラーにとっては大英雄で、魔人を倒したという記録も残っている偉大な存在だ。
だが、今は魔人四天王なのでカラーとは距離を置いてくれている。
その配慮はハンティとしても有難かったが、ついにケッセルリンクの方からハンティに接触してきた。
その内容こそが、ランスの手助けという事なのだ。
「だからあんた達も秘密にしていてくれよ。カラーが完全に人間の敵になるのは絶対に避けたいからね」
「そんな事俺様がする訳が無いだろ。まあケッセルリンクならそんなヘマはしないだろ」
「…信頼してるんですね」
ランスの言葉から、その魔人であるケッセルリンクを信頼している事が分かる。
「まあ付き合いも長いからな」
ランスとしてもケッセルリンクとの付き合いはかなり長い。
もうマリアや志津香と同じくらい長いかもしれない。
「そうですか…」
日光としては当然の事ながら複雑な心境だ。
そのケッセルリンクという魔人の使徒から話は聞いたが、何でも魔人と恋人関係との事らしい。
(恋人…ランス殿が魔人と…)
最初はそれを聞いた時は混乱し、ランスに対して不信感も持った。
だが、そのケッセルリンクの使徒と一緒に出会った、魔人ガルティアの話を聞いて日光も一応は吹っ切れた。
(…どうして私はこんなに不安になっているのだろう)
ランスが魔人と旧知の仲で有り、尚且つ親しい中…それもケッセルリンクが魔人となる前から。
そうなれば恋人だと言ったあの使徒の言葉も否定できない。
しかし、何故それで自分がこれ程不安になるのか、それが理解する事が出来なかった。
「じゃあケッセルリンクに会いに行くか」
そしてランスの行動は早く…直ぐにでもケッセルリンクに会う事が出来た。
そこはLP期におけるトランシルバニア…後のケッセルリンクの城とも言える場所。
そこにランス達は来ていた。
「うーむ、ここがケッセルリンクの城か」
ランスはケッセルリンクの城を見上げるが、それはランスが想像しているケッセルリンクの居城とは思えなかった。
リーザスやゼスのような豪華な城では無く、まるでヘルマンにありそうな城だった。
実際にヘルマン地方にあるので、ランスもそんなものかと取り敢えずは納得する事にした。
「ようこそ、皆様。お待ちしておりました」
そして城から出て来る一人の女性、ケッセルリンクの使徒であるシャロンだ。
「おう、久しぶりだな」
「ええ、お待ちしておりました。ランス様」
シャロンはランスを見ると微笑む。
「ケッセルリンク様がお待ちしております」
そしてランス達は城の中へと案内される。
「あ、ランスさんだー」
「お久しぶりです、ランスさん」
「おう、加奈代もエルシールも久しぶりだな」
声をかけてくる使徒に対し、ランスも気安く声をかける。
「…本当にお知り合いなんですね」
日光は親しそうに声をかけてくる魔人の使徒に困惑する。
「まあそうだな。全員俺様の女だ」
「私は違うぞ! 一緒にするな!」
それを否定するのは使徒であるバーバラだ。
「…そういやお前だけはまだやってなかったな」
「無いから! 絶対無いから!」
「バーバラ、お客様に対して失礼ですよ。お久しぶりです、ランスさん」
バーバラを窘めるのはやはり使徒であるパレロアだ。
そしてランス達が大広間に通されると、そこには一人の恐ろしい程に美しいカラーが座っていた。
「久しぶりだな、ランス」
魔人四天王ケッセルリンクは、魔人とは思えぬ程に優しく微笑んだ。
本当はケッセルリンクの出番は今回はあまり無いはずだったんだけど、プロットの若干の変更があって出番が増えました
本当はケッセルリンクと日光はあえてすれ違うはずだったんだけどなぁ…
これもガイって奴が悪いんですよ