「じゃあ行くわよ!」
レダがランスに斬りかかると同時にケッセルリンクも動く。
ランスはそれを前にして全く動じずに二人を迎え撃つ。
2人の剣をランスはあっさりと受け流す。
「おお…」
「凄いですね」
その動きを見てスラルとシャロンは感心した声を上げる。
2人は剣については素人だが、それでもランスが凄いというのは理解できる。
どう凄いのかは説明する事は出来ないが、その動きが非常に美しく感じる程だ。
今までのランスの動きは荒々しくも洗練されていたが、今のランスの動きは見事なまでにレダとケッセルリンクの剣を受け流していた。
それどころか受け流す動きがそのまま反撃の一撃となり、その一撃がケッセルリンクの無敵結界に弾かれる。
もし結界が無ければ、ケッセルリンクに大きな傷をつけていてもおかしくは無い。
「ふむ…やはり剣ではランスには全く敵わないな」
「当然だ。俺様が負ける訳が無いだろ」
何時の間にかケッセルリンクの剣が飛ばされ、その首筋にランスの剣が当てられていた。
もしランスの持つ剣が魔剣カオスならば、魔人といえでもただでは済まないだろう。
「うーん…驚くぐらい形になっているわね」
レダが驚くのはランスの学習能力の高さだ。
ランスの剣術は攻撃だけでなく、防御にも表れている。
生半可な攻撃では逆にランスの剣で首を落とされる…それ程の剣技だ。
「まどろっこしいな」
しかしランスは非常に不満そうだ。
それもそのはず、ランスは今までほぼ攻撃で相手を倒して来たのだ。
リック・アディスンのように戦うのは面倒くさいと避けてる相手もいるが、それでも負けるとは全く考えてはいない。
冒険を始めた時からあまり軽装とはいえ、鎧を使った戦いをしてきたために、その癖はやはり簡単には抜けないものだ。
だが、それでも今のランスは違う…技能レベル3とはそれほどまでの才能を開花させていたのだ。
「普通に考えればランスと剣でぶつかり合うなんて無謀だしね」
「だが体で覚えていても損は無いだろう。お前は防御が苦手そうだからな」
「格段に腕は上がってると思うわよ、攻撃も防御も」
スラルの目から見ても十二分に伝説を残すレベルの腕前だと思う。
それだけ素晴らしい腕前であり、まさに相手を殺すために磨かれた剣術だ。
ランスの剣はひたすらに相手を『殺す』という事に特化している。
まだ時間はかかるだろうが、一段落したといってもいいだろう。
「…私はひたすらに恥ずかしかったです」
シャロンの顔はひたすらに赤い。
ランスの要求はエスカレートし、ついにはシャロンまで巻き込まれた。
(まさかあんな事まで…)
これまでにランスに要求された事を思い出すと今でも羞恥で消えてしまいたくなるほどだ。
「まあこんなものか」
飽きっぽいランスにしては十分に修行をした方だろう。
確かに剣の腕が上がっているのはランス自身も自覚している。
今までは力任せで剣を振るってきており、バスタードソード等といった大きく重い剣を好んでいた。
JAPANの刀等も使ったこともあったが、やはり大きく重い剣の方が使いやすい。
今ランスが手にしている剣はかつてのカオスと同じくらいの大きさなので、ランスにとっても使いやすい。
しかし今ならば別の剣を持っても問題無く戦う事が出来るだろう。
尤も、ランスの力と技に耐えられる剣があればの話なのだが。
「私にも何か出来ればいいんだけどね…色々と試してみるかな」
スラルがランス達の特訓の光景を見て、スラルも何かを考える。
元々自分は何かを考えるのが好きではあるが、やはり肉体が消えた影響があるのか少し考え方が硬直していたようだ。
さらにはランスとの旅での刺激が新鮮で、少しのんびりしすぎていたとも思う。
(ランスの鎧…ドラゴンの加護…何か出来る事は無いかしらね)
自分の能力に「付与」技能があるのは分かっている。
魔王だった時には魔法LV3があったために特に考えてもいなかったが、今ならばその付与技能を活かせるかもしれない。
だがそのためには、自分の中にある技能をよく理解する必要があるだろう。
「もっと時間かかるかと思ったけど、思った以上に早く終わったわね」
まだ荒い部分はあるが、ランスならば実戦の中で慣れていくだろう。
「そうだな。ランスならば直ぐに慣れるだろう」
レダとケッセルリンクはもう十分だと思い剣を収める。
「なんだ、もう終わりか。がはははは! さすが俺様だな!」
ランスは笑うが、同時に少し惜しいとも思ってしまった。
何しろこの修行の間、常にレダとケッセルリンク、そしてシャロンとまで風呂に入っていた。
勿論ランスがそれだけで終わるはずも無く、その場でハッスルしたのは言うまでもない。
しかしランスの修行がある程度完成したことで、それも終わってしまった。
(うーむ、俺様の才能が憎いな)
それも自分の才能が悪い、とランスは結論付けた。
「ああ、これ以上はもう私達では無理だ」
ケッセルリンクもこれ以上は自分では今のランスの修行相手にはならないと自覚している。
確かに自分は剣の才能はあるが、本来は魔法や己の能力を活かすのが自身の戦い方なのだ。
レダも剣の才能があるが、やはり本来は防御に重点をおいた戦い方をしている。
2対1でも、もうランスに剣では敵わないのであればこれ以上出来る事は無い。
「そうね。私達ではもうランスの防御の修行相手にはならないわね。まったく…本当に人間なのかしら」
レダはどこか呆れたようにため息をつく。
女神ALICEにランスを護るように指令を受けたが、この人間の規格外の強さには本当に驚かされる。
「そうか。だがしかーし! まだ俺様との約束が残っているぞ!」
その言葉に真っ先に反応したのがシャロンだ。
極限まで顔を赤くし、俯きながらモジモジと指をいじっている。
(うう…また私はタオル扱いされてしまうのでしょうか…)
不本意ながら、ランスとのHに慣れてきてしまっている自分が嫌になる。
そしてそれを拒むつもりが全くない事にも。
「私は構わないさ。約束だからな」
ケッセルリンクは顔色一つ変えずに応える。
「私も別にいいわよ」
レダはそう言うが、勿論内心ではため息をついている。
(修行が終わろうがどうなろうが、絶対私達は拒否しないのよね…)
確かに一緒に風呂に入るという約束でランスは修行を文句も言わずにしたが、ランスと一緒にいる限りは必ずHをする事になるのだ。
そして自分を含めて誰もそれを拒否はしない…恐らくは、なし崩し的にこれからも一緒に風呂に入る事になるだろう。
それを思うとレダの顔は自然と紅潮して、体も熱くなってしまう。
(ああ…私、この任務が終わるまでに堕天しなければいいなぁ…)
その日も、ランスの笑い声と、3人の女性の声が一晩中響き渡った。
「皆様、少々お金の方が無くなってまいりました」
シャロンは貯めてあったお金をテーブルに置く。
あの時に捕えた賞金首はかなりの金となったが、テーブルに置かれている金の量はそう多くない。
「俺様も特には使っていないぞ」
普段はランスはお金にだらしなく、あればあるだけ風俗に行ったり、趣味である貝殻のオークション等に使っていたために個人のお金はあまりない。
ランスのメイド、ビスケッタに全ての管理を任せているが、その手腕は完璧でありそれから金に困るという事は無かった。
これまでの冒険の財宝部屋すらも出来上がる程であり、ランスは以前のように金に困っていると訳では無かった。
ちなみに昔にリーザス聖剣といった道具を売ったのは既にランスの記憶からは消されている。
「私達もよ。シャロンに全部任せてあるけど、どうしてこんなに減ったのかしらね」
ランスならば無駄遣いをしそうではあるが、ここ最近はランスは修行とSEXに明け暮れていたためにお金を使う事は無い。
同じ理由でランスの修行に付き合っていた自分とケッセルリンクもお金を使う事はしていない。
唯一、シャロンだけが町へ行き食材等を仕入れたりしているだけだが、まさかそのシャロンがお金の使い込みをする等とは思えない。
「それなのですが、最近物価が高くなってしまっていて…食料の値段が高騰しているのです」
「…そういう事か」
シャロンの言葉に一人納得したのがスラルだった。
「どういう事ですか? スラル様」
「以前私達が捕えた盗賊…別の国かに雇われてたみたいな事を言ってだでしょ? だからその報復の戦争とかの準備をしてるのよ。だから軍が食料を集めてるから、必然的に食料の値段が上がってるのよ」
「戦争…ですか」
シャロンはやりきれない表情を浮かべる。
彼女もまた戦争で全てを失った人間の一人だ。
そして今回の戦争の原因は、間違いなくその盗賊団を潰したランスがその一端を担っている。
勿論盗賊団を潰す事は間違っていはいない…彼らが存在する事で困窮するのは間違いなく一般市民だからだ。
「ならそろそろ移動するか」
ランスが何でも無いように答える。
元々冒険は大好きであり、魔法ハウスがあれば何処へでも行けると考えている。
「そろそろここに居るのも飽きてきたしな。ちょうどいいだろ」
「飽きた…ですか」
シャロンはランスに色々と言いたいが、それでランスが動く人間で無い事は知っている。
それにケッセルリンクの言うとおり、この場にいる者だけでは戦争は止められても、それが必ずしも人を助けられるとは限らない事も。
「でも何処に行くの? ランスが言ってたJAPANって所も無かったし。目的も無く歩き回るにはちょっと危険だと思うけど」
「目的ならあるだろうが。スラルちゃんの肉体を見つけてセックスするのだ」
「…そ、そう」
あまりにストレートな言い方に思わずスラルが言葉に詰まる。
幽霊でなければ間違いなく赤面しているのが分かるだろう。
「ふむ…セックスはともかく、スラル様の肉体を見つけるというのは私も賛成だ」
「ランスがそう決めたなら私は構わないわよ。それに私も結構興味あるし」
レダも下界に下りてから色々な事が起きただけでなく、いくつものアイテムをランスと共に見つけた。
ランスの持つ剣しかり、ドラゴンの加護しかり、魔法ハウスしかり。
これまではあまり興味が無かった事も、今となっては非常に新鮮だ。
「ではランス。どの辺りに向かう?」
ケッセルリンクの言葉にランスがテーブルに広げられている地図を見て考える。
(こういうアイテムの類はヘルマンに多く残っているんだがな。だが今は魔王が居るというしな…ホルスの戦艦にも行くのは難しいな。だとすると、やはりゼスだな)
ゼス地方にも色々なアイテムが眠っていそう…ランスはそう考えていた。
実際にLP期にはゼスやヘルマンには闘神都市が遺跡として残っており、そこはまさにオーバーテクノロジーの塊が眠っている。
が、今はNC期…まだ人類を統べる英雄が現れぬ時期であり、そのようなモノはまだ無い。
それを知らぬランスはゼス辺りに何かあるだろうという単純な考えの元、そこに向かおうと考えたのだ。
「じゃあこの辺りに向かうとするか」
「廃棄迷宮がある地方だな…確かランスはその剣を廃棄迷宮で手に入れたのだったな。そしてこいつが眠っていた壷も」
「まーおー」
声を発した大まおーをシャロンが優しく抱き上げる。
滑々して触り心地良い大まおーをシャロンは気に入っていた。
「廃棄迷宮…」
廃棄迷宮という言葉を聞いて、ケッセルリンクとレダの顔が赤くなる。
ケッセルリンクはそこで色々な意味で大変な目にあいながらランスと結ばれた場所だ。
今でもあの時の事は忘れられないし、生涯忘れることも無いだろう。
レダとしても、あそこではランスに本当に色々とされた場所だ。
(まさかあんな所まで犯されるなんて…)
レダはその時の事を思い出して思わずお尻をおさえる。
しかもそれを悪魔に見られたなど、同僚には決して言うことが出来ない事だ。
「廃棄迷宮に行くかどうかは分からんが、とにかくここに行ってみるぞ」
―――???―――
ランス達がゼス地方へと移動している最中…この場所でも一つの動きがあった。
「おい、見つかったか?」
「いや、影も形も無いな。まああれだけでかいんだ、見つかるのも時間の問題だろ」
LP期におけるヘルマン地方…そこには魔物兵達が集まり、情報を集めていた。
この命令は魔王直属の命令であり、魔物はそれには決して逆らうことは出来ない。
魔物兵達も本来はこんな任務は受けたくない…何しろ、その命令とは人間・魔物問わずに襲い掛かるドラゴンの討伐が命令だからだ。
魔物相手だろうが構わずに襲い掛かるドラゴンには手を焼いており、つい最近は魔物将軍の一人が殺されたところだ。
「うう…でも嫌だよなぁ…ドラゴンが相手ってよ。だってカミーラ様の出身種族だぜ」
「文句言うなよ。それともお前はザビエル様についていくほうがいいのか?」
「…いや、まだこっちのほうがいいな」
魔人ザビエル…魔王ナイチサの重臣であり、炎ガッパ出身の魔人であり傲慢でプライドの高い魔人だ。
その魔人ザビエルは今はトッポス撃退のために出陣している。
魔物からすれば、謎のドラゴンよりもトッポスを相手するほうが嫌だった。
何しろトッポスは魔人ですら倒すことが出来ぬ、正真正銘の化け物だからだ。
しかも魔物と見れば問答無用で襲い掛かり、後に残るのは死体の海…そんなのとぶつかるのは誰だって御免だ。
「見つかったか」
「こ、これはキャロット将軍! まだ見つかっていません」
魔物将軍キャロットが視察に現れる。
「今回は魔王ナイチサ様直々の命令…そして七星様も動いている。お前達も気を引き締めろ」
「し、七星様が!? ということはもしや…」
魔物将軍の言葉に魔物兵達がどよめく。
「そうだ。カミーラ様が動く」
「カ、カミーラ様が!?」
魔人カミーラ…魔人の中でも古い魔人であり、その力はまさに一騎当千…現在の魔人の中でも最強とされる存在だ。
それ故に、魔王ナイチサからは動かぬように命じられており、己の城を出る事は滅多に無いと聞く。
そして何よりも魔人の中でも随一とされる美貌を持っており、謁見しただけでも名誉な事だと言われている。
「しかし何故カミーラ様が…私はてっきりザビエル様が動かれるのかと思いました」
「トッポスの方が予想以上に長引くとの事だ…報告ではまた魔物将軍が殺されている。ザビエル様もトッポスの対応で動く事は出来ぬ故に、ナイチサ様がカミーラ様を動かしたのだ」
「俺、カミーラ様に一度もお目にかかった事が無いんだよな…」
「あ、俺もだ。一体どんな方なんだろうな…」
魔人カミーラが動くとの言葉に、魔物兵達の緊張が緩む。
将軍の立場としてはそれは好ましくないが、やはり魔人が動くとなるとやむ無しと思い口には出さない。
「ものすごい美しいと聞くが…あ、そうだ。お前達、カミーラ様と並ぶほどの美貌を持つとされる、ケッセルリンク様を見たことがあるか?」
魔物隊長の言葉に全員が首を振る。
「ケッセルリンク様といえば、カミーラ様に並ぶ美貌を持つと聞くが誰も会った事が無いって話だしな」
「ああ…何でもカミーラ様の古い友人って話だ。でも魔王城にも現れないんだよな…」
魔人ケッセルリンク…魔人の中でも謎の存在と噂されており、今の魔物兵の中でもその姿を見たものは誰もいないとの噂だ。
カラーの魔人との事で、非常に美しいとの事だが、何しろ姿を現さないために一部では伝説の存在として話されている。
「なんでもますぞえ様と同じで魔王様の命令も無視してるって話だぞ」
「え? 俺は人間界で破壊工作に勤しんでるって聞いた事があるぞ」
「そうなのか? 俺はかつての魔王であるスラルに殉じて死んだって話を聞いた事があるぞ」
ケッセルリンクは姿を見せなかった事から、色々な噂話のタネとなってしまっていた。
実際には彼女はランスに巻き込まれ、NC0001年から今まで完全にこの世界には存在していないのだが。
そんな事から噂に尾ひれ背びれが付いていき、とんでもない事へとなってしまっていた。
「ムダ口はそこまでにして、任務に戻れ」
「「「はっ!!」」」
魔物将軍の言葉に全員が声を上げて自分たちの仕事に戻る。
魔物将軍キャロットはその様子にため息をついて空を見上げる。
「ドラゴンか…気の重くなる任務だな」
今回の任務は完全に貧乏くじと言ってもいい。
中には人間をいたぶり、殺す事を命令されている部隊がいるのに、自分は魔物を殺し続けているドラゴンを討伐するのが任務だ。
それを思うと気が重いが、魔王の命令とあっては拒否など出来る訳がない。
だが、魔人カミーラが動いてくれているとなれば、自分たちは見つけるだけでも十分だと思う。
「…ん?」
空が急に曇ってきた事にキャロットは首を傾げる。
今日は快晴で有り、探し物には十分な日だと思っていたが、急に曇ったことに顔を歪める。
が、その顔は直ぐに驚愕のモノへと変わる。
「ケケケケケケ! メイクドラーマーーー!!」
「な…!」
奇声をあげながらドラゴンがキャロットの前に降下してきた。
それは一般的なドラゴンであるグリーンドラゴンと呼ばれる個体ではあるが、キャロットが驚いたのはそのドラゴンの首に奇妙な赤い球体が貼りついているいる事だった。
「オオ…モンスタージェネラルネ! でもビッグジェネラルでは無い…いわゆる一つの役立たず! ウケケケケケ!」
「ほ、宝石が喋っている?」
声は聞こえているが、ドラゴンの口は開かれていない。
「ベリー残念ネ! お前は役立たずよってキルあなた!」
「ヒッ…」
ドラゴンの方の口が開かれたかと思うと、そこには確かな力の波動を感じる。
それはこの大陸最強であるドラゴンの攻撃方法…ブレス攻撃の予兆だ。
「や、やめ…」
「ウケケケケケ!」
そして魔物将軍キャロットは実にあっさりとドラゴンのブレスに飲み込まれた。
「オー…弱いね! そんな脆弱な肉体と魔力ではやっぱりモンスタージェネラルではダメね! ビッグジェネラルか魔人でないとダメね!」
狂気のアイテムレッドアイは魔人、魔王に対抗するための次の肉体を探している。
肉体を乗っ取って強くなるレッドアイにとっては、今のドラゴンのボディですらも不満なのだ。
「バーッド…今のボディでは魔人はキル出来ない。やはり魔人のボディを奪うのがグッドね」
レッドアイは宝石の上からでもわかるような醜悪な笑みを浮かべると、そのまま飛び去って行った。
レッドアイが飛び去った後、一人の人間…否、人に見える存在がレッドアイが飛び去った方向を見ていた。
「なるほど、アレがナイチサ様が言っていたドラゴンですか。いえ、正確にはドラゴンに寄生した何かでしょうか」
その存在こそ、魔人カミーラの使徒である七星であった。
「魔物将軍を失いはしましたが…問題は無いでしょう。しかしあの力となるとやはりカミーラ様の御力が必要ですか」
アレは間違いなく使徒である自分の力を超えている。
無論、倒せるか倒せないかと聞かれれば倒す事は可能だろう。
「ナイチサ様も無理難題をおっしゃる」
魔王ナイチサの命令…それはあの奇妙なドラゴンを討伐する事では無く、己の前に連れてくることだった。
あれほどの魔力を持ち、ドラゴンの強力な肉体があるとなっては使徒である七星には難しい。
だが、魔人であるカミーラならば何も問題は無い。
いかに優れた力と魔力を持っていようが魔人の持つ無敵結界の前には無力だからだ。
「しかし…思いのほか早く見つかりましたか。それ自体は構いませんが、カミーラ様の命もある…悩ましいですね」
久々に与えられた魔王ナイチサからの命令…それは逆に言えばカミーラが表立って動けるという事でもある。
その力ゆえ、魔王ナイチサに動かぬように命令されているカミーラが自由に動ける機会は滅多に無い。
「もう少々時間がかかってくれれば良かったのですが…まあランス殿が今の時代にいるとも限りませんし、早々に終わらせるとしましょう」
七星は主であるカミーラに報告すべく、その場を去って行った。
―――???―――
一体の異形の悪魔…複眼に口元から触手が生えてる異形の悪魔が跪いていた。
「プロキーネ様。以上が私の立てた計画でございます」
「第参階級悪魔―――よ。神に気取られぬ自信はあるか?」
「はい…私自身は動きませぬ。神が作ったAL教と同じく、人自らに広めさせます」
「ほう…―――よ。いいだろう、やってみよ」
「はっ…」
美形ではあるが、頭の半分から女性の上半身のようなものが生えているという異形の悪魔が鷹揚に頷く。
悪魔の目的…それは魂の輪廻から魂を外れさせ、それを悪魔王ラサウムへと捧げる事。
今のままでは創造神に代わり世界を支配する事など不可能…故に魂を少しずつで良いので回収し、ラサウムの力とするのだ。
そしてこの悪魔…後に月餅として地上に出る悪魔は、己の計画をラサウムの息子の一人、三魔子の一人であるプロキーネへと己のプランを提出したのだ。
「どう動くつもりだ」
「はっ…この大陸を支える獣であるオロチの動きにより、大陸から離された地が出来ました。そこから始めようと思います」
「そうか。ならばお前の好きにやってみよ。時間は気にする必要は無い」
悪魔は非常に神を警戒している…何しろ神の力は圧倒的であり、今の悪魔では対抗する事は不可能だ。
ならば焦らずに行動するのが良いのだ。
悪魔…月餅の計画も今はまだ実行する事は難しい。
計画は立てたものの、それを実行するためのピースが足りない。
しばらくは地上にて神に見つからないように、少しずつ計画を進める必要がある。
「あら―――。あなたも来ていたの」
そこに一人の少女の姿をした悪魔が現れる。
「貴様か…人間界にいたのではないか」
「そうなんだけどね…思うようにいかなかったら戻ってきたのよ。それよりも…あなた面白い事しようとしてるのね」
「これも全てはラサウム様のためだ。それよりも何をしに戻ってきた」
「ただの休暇よ。予想以上に事が上手く運ばなくてね…天使が動くかもしれないからね」
紫色の髪をした少女はその顔に外見とは不釣合いな程妖艶な笑みを浮かべる。
「―――よ、ご苦労であった」
「ハッ、プロキーネ様」
少女はプロキーネの前に跪く。
悪魔とは完全階級社会…下のものは階級が上の悪魔には決して逆らうことは出来ない。
「二人とも下がってよい」
プロキーネの言葉に二人の悪魔は一礼してその場を立ち去る。
「ねえあなた。何時頃人間界へ行くの?」
「まだ分からぬ。今の状況ではまだ行けぬ。だが、神がそれを見放すことは無いだろう。その時に動く」
「そう…私も力を貸してあげようか?」
「いらぬ、これは私の役目だ。それよりも貴様…人間にいらぬ知恵を授けて何を考えている」
口元から触手が生えている悪魔の言葉に、少女の悪魔はその外見に似合わぬほどの歪んだ笑みを浮かべる。
「いらぬ知恵というのは心外よ。私の授けた知恵をどう使おうがその人間の勝手。でも…楽しいことにはなりそうよ。何しろ、己の子供すらも実験台にしかねない人間だから」
「そうして魂を汚染させるという訳か。貴様は相変わらずだ」
少女の悪魔はクツクツと笑う。
「ねえ、あなた人間界でなんて名乗るかもう決めたの? 名前は重要よ。私も300年以上使ってる名前があるから、愛着がわいちゃったわ。名前はコミュニケーションの基本よ」
「そのうち考えよう…フィオリよ」
「あら、私が人間界で使ってる名前で呼んでくれるなんで嬉しいわね。300年以上前に人間を誑かして戦争をおこさせたのはいいけど…その国の息子が死んでからは私も頼られなくなっちゃったから」
少女の悪魔…フィオリは次に何をしようか考えを巡らせていた。
だが今は、自分と同じ階級のこの悪魔が何をするかを楽しみにしようと考えていた。
(そう、悪魔の生は永遠…まだまだ楽しめるのだから)
今回出てきた悪魔に関しては、あくまで名前と容姿を借りてるだけの別人です
あの作品がパラレル設定ですからまあ問題無いかなと