ランス再び   作:メケネコ

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魔人捕獲戦

「グゲゲゲゲゲゲ! 殺せ殺せ! 全てを殺せ!」

 魔人コーク・スノーは、周囲の物を手当たり次第に破壊しながら歩いている。

 その焦点は合っておらず、口からは絶えず涎が垂れている。

 そしてその後には、同じように目の焦点が合わぬバンバラ系の魔物が魔人コーク・スノーの後に続く。

「お前ら! クスリが欲しければ殺せ! そうすれば好きなだけくれてやる!」

「「「バンバラバンバー!!!」」」

 魔人コーク・スノーの言葉に、バンバラ達は一斉に雄叫びをあげる。

 これらのバンバラ系モンスターは、全て魔人コーク・スノーから放たれる麻薬のような物質がその頭を既に汚染しているのだ。

「グゲゲゲゲ! あの人間もこいつらで踏み潰してやる!」

 自分に恐怖と痛みを与えたあの人間…あいつだけは絶対に許す事ができない。

 偶然とはいえ魔血魂を飲み込み魔人となった。

 ただの1モンスターに過ぎなかった自分が、とうとう雲の上の存在の魔人となったのだ。

(まさか俺様にバンバラ共を従わせる力があるとはな)

 そしてつい最近、自分がバンバラ系モンスターを従わせる力があると分かった。

 正確には、麻薬のような物質で強制的に従わせているのだが、魔人コーク・スノーにはそんな事はどうでも良かった。

 重要なのは、自分の意のままに動く奴等が居るという事だ。

(あの人間…いや、あいつだけじゃねぇ…あの奇妙な奴等も皆殺しだ。そして他の魔人も魔王も皆殺してやる。そうだ、生きてる奴は皆殺しだ!)

 常に幻覚に苛まれ、血と肉を喰らう事でしか正気を保つ事が出来ない魔人。

 魔人コーク・スノーはこうして全ての存在を殺すべくその足を向ける。

 

 

 

「パイアールさん! 魔人が近づいてきます! それと一緒に大量のバンバラ系のモンスターが!」

「…まさか他のモンスターを引き連れてくるなんてね。予想外だったな」

 パイアールは自分の計算違いに舌打ちしつつも、次の手を考える。

(手持ちの全てのPAとPBを持ってきたけど…うん、やっぱりこれしかないか)

 パイアールとてある程度の数が居る事も計算していた。

 どちらかと言えば魔軍との合流を想定していたため、バンバラ系のモンスターだけだというのは好都合かもしれかった。

(でも象バンバラが多いか。象バンバラは緑の魔物兵よりも強いのがね…でもチャンスはこれで最後。ここで退くという事は出来ない」

「最初の予定通りにいくよ。君達もボクの指示通りに動くように」

「ハイ!」

「任せて下さい!」

 PAを纏った人間達は素直に頷く。

 パイアールの計算ならば間違いない事を知っているからだ。

 そんな人間達をパイアールは何処か冷ややかな目で見る。

(ボクが作ったPAが無ければ戦えないくせに…これだから凡人は嫌だよ。扱いやすいのは助かるけどね)

 元々はPAはパイアール本人が戦闘には全く向いてないので、戦う力が無くても魔軍と戦えるように作ったものだ。

 そのPAを無力な人間達に与え、自分の私兵とした。

 結果はパイアールの想像通りであり、魔軍の正規兵、さらには魔物隊長や魔物将軍を退けることを可能としていた。

(もう少しだ…もう少しで姉さんを助けられる)

 姉の病気が判明してから、色々と病気の事を調べた。

 だが、天才である自分の力を持ってしても、姉の病気を治す事は不可能だった。

 結論としては、足りないものは時間だった。

(そう、ボクが魔人になれば、その時間を使って姉さんを治す事が出来るはずだ)

 そのためにはどんな事だってやってみせる。

 この時のために用意した魔人キャッチャーがあれば、魔人を捕らえることが可能なはずだ。

(その後は…)

「パイアールさん! 来ます!」

 PAを纏った人間の声にパイアールは思考を切り替える。

(そう、まずは魔人を捕らえる…これが全てだ)

 幸いにも魔軍が合流するにはまだまだ時間がかかるだろう。

(あの人間はああ言ってたけど、何時まで持つかはわからないしね)

 パイアールはいくらあの人間が強くても、魔軍を退けることは不可能だと思っている。

 魔軍と戦えるのは自分だけ、その自信がパイアールにはあった。

「さて…姉さんを助けるためにも」

 パイアールは全てのPBを動かすべく集中する。

 PBはパワードスーツのPAと違い、遠隔操作型機械兵器だ。

 この操作はパイアールでしか理解できないし、操作することも出来ない。

 それ故に、今回は全てのPBを持ってきたのだ。

「グオオオオオオオオ!!!」

 魔人の雄叫びが響き渡る。

 どうやら魔人もこちらに気付いたようだ。

「さて…魔人の捕獲、始めようか」

 

 

 

 

「グゲゲゲゲゲゲ! 殺しつくせ!」

「「「バンバラバンバー!」」」

 人間達を確認した魔人コーク・スノーの声に呼応するように、バンバラ達が声を上げる。

 その声が非常に濁った声をしており、どう見てもまともではない状態だ。

 血走った目に、常に涎を垂らしっぱなしのバンバラ達が一斉に襲い掛かる。

「バンバラ共が来るぞ!」

「応戦しろ!」

 PAを纏った人間達がバンバラ達とぶつかる。

「死ね! モンスターめ!」

 一人が豚バンバラの腕をあっさりと引きちぎる。

 この人間は才能限界が10程度の本当に才能も何も無い人間だ。

 その人間に、これほどの力を与えるのだから、パイアールの技術の高さが嫌でも分かる。

 が、このバンバラ達は今までのモンスター、魔軍正規兵達とは違っていた。

「ブー!」

 腕をもがれた筈の豚バンバラは、苦痛などまるで感じていないように残った腕を使って襲い掛かってくる。

「な、なんだこいつは!?」

「グゲゲゲゲ! 行け行け! 殺せ! 殺しつくせ!」

 豚バンバラにその体に掴まれたPAを、豚バンバラごとそのメイスで叩き潰す。

「貴様ら! 人間を殺せばクスリをやろう! クスリが欲しければ殺せ! 殺せなければそのまま死ね!」

「「「バンバラバンバー!!!」」」

 魔人コーク・スノーの言葉にバンバラ系モンスター達が雄叫びをあげる。

「う、うわああああああ!?」

 その姿を見てPAを纏った人間達が悲鳴をあげる。

 今までは魔軍にしろモンスターにしろ、これだけの傷を受ければ直ぐに逃げて行ったものだし、何よりも命が第一で撤退していくのが大半だ。

 しかし今回のモンスター達は違う。

 理性を失った目で、腕が引きちぎられる事も恐れずにどんどんと突っ込んでくる。

 そして動けなくなったところを魔人コーク・スノーがバンバラ系モンスターごとメイスで叩き潰す。

 そんな戦いが繰り広げられていた。

(参ったね。まさか理性を失わせて数を用意するなんて思ってもいなかった。いや、これがあの魔人の力なのかもね)

 流石のパイアールもその勢いには驚いたが、計算していなかった訳ではない。

 それにいくらPAがやられようとも、パイアールには痛くも痒くもない。

「さて、そろそろ2段階目かな」

 パイアールが手元の何かを操作すると、頭部が破壊されたPAが突如として起き上がる。

「プログラム開放、と。数を問題視しないのはこちらも同じだよ」

 破壊されたPA達は、纏っている人間が死んでいるにも関わらずにモンスター達を攻撃し始める。

 それもただただ暴れているのではなく、もう動かないPA達と連携して攻撃を始める。

 むしろ生きているPA達よりも圧倒的に効率が良いくらいだ。

「パイアールさん!?」

 自分を守っている人間達が驚きの声を上げる。

「うるさいね。君達が個々ので動くより、ボクが計算して動かしたほうが圧倒的に効率がいいんだよ。そのために君達にPAを与えたんだからね」

 パイアールが再び指を動かすと、パイアールの方を向いていたPAが一斉に動き始める。

「な、なんだ!?」

「か、体が勝手に!?」

 そしてパイアールを守るように円陣を組み、そのままモンスターに向かって射撃を始める。

 その射撃はまさに正確無比、効率的にバンバラ系のモンスターを行動不能にしていく。

「まったく、これだから馬鹿と付き合うのは嫌だよ。頭を潰されて死なない奴はいないんだ。体を攻撃せずに、頭を狙えばいいんだよ」

 パイアールは簡単に言うが、実際にはその手の技能が無ければ当てることすらも難しいものだ。

 パイアールはPAを手足のように使って効率的に相手の数を減らしていく。

 確かに痛みを感じずに襲い掛かってくるバンバラ系は人間には恐怖の対象だが、機械にはそんな感情は存在しない。

「PAとPBを連携、と。最初からこれが出来ればよかったんだけどね」

 これまでは上手くいかなかったが、ようやく自分の理想の形となった。

 即ち、完全なる自動化又は全てを把握している自分が正確に指揮をする事。

「パイアールさん!? パイアールさん!」

 一人が悲痛な声を上げる。

 その体は最早自由には動けず、ただパイアールの盾となり敵を倒すことしか出来ない。

 パワードスーツの下の体はすでに無理な動きで悲鳴をあげ、腕も足ももう完全に折れてしまっている。

 それでもパイアールのプログラム通りに体が勝手に動く。

「うるさいね。今までボクの作ったPAで好き勝手してたんだ。だったらそろそろPAを返してくれてもいいんじゃないかな」

 パイアールは既に自分を微塵も見ていない。

 その事実に気付いた男は絶望的な顔になるが、

「おっと危ない」

 胸に凄まじい衝撃受け、それが致命傷となり絶命する。

 男が絶命してもPAは勝手に動き、相手を攻撃する。

「しかしあれがランスの言ってた空気弾か。見えない分性質が悪いね」

 パイアールはPAを盾にすると、魔人キャッチャーの準備を始める。

(…少し象バンバラの数が多いか。これはいよいよ最終手段も考えないといけないね)

 

 

「グゲゲゲゲゲゲゲゲ! 殺す殺す殺す! ぶっ潰れろ!」

 魔人コーク・スノーは手にしたメイスでPA達を吹き飛ばす。

 その一撃は流石は魔人の一撃だけあり、PAを纏った人間達をその衝撃だけで絶命させるほどの力がある。

 これまでは遠隔攻撃をメインとしたPA達に撤退する事が多かったが、あの黒い剣を持った人間と戦ったせいか、非常に頭がハイになっている。

 正確にはその頭に麻薬物質が生成され、それがコーク・スノーの体に回ることにより、今までとは違う行動をとらせていた。

 本人も気付かないが、彼の特徴は麻薬の精製にあるのだ。

 その麻薬に当てられたバンバラ系のモンスターは、そのクスリ欲しさに暴れまわっている。

 己の体の痛みも麻薬によって感じず、まさに狂気を体現した軍団がここに作られたのだ。

 ただ、頭のほうが完全にクスリによって汚染されているので、ただ突っ込むことしか出来ないという点も有るのだが、魔人コーク・スノーはそれには気付けない。

「殺せ! 殺しつくせ!」

「「「バンバラバンバー!!!」」」

 コーク・スノーの言葉にバンバラ達が応える。

 そして一斉にパイアールに向けてバンバラ達が突っ込んでくる。

「あれば少しまずいかな…」

 パイアールはPBの攻撃にも構わずに突っ込んでくるバンバラ達に舌打ちする。

 体に穴があいても構わずに突っ込んでくる姿は、最早ゾンビ系のモンスターに等しい。

「仕方ないか…数は減るけど、それ以上に相手を減らさないとね」

 パイアールが手元を操作すると、一体のPAがバンバラ達に突っ込んでいく。

「少し勿体無いけど、まあ必要な事だしね」

 そして一つのボタンを押すと、PAが突如として光り輝き、バンバラ達を巻き込んで爆発を起こす。

「どうせこの戦いでボクの戦いは終わるしね。それにPAの役割はもう終わりだ」

 壁は減るが、それ以上に相手の数を減らし、出鼻を挫けるのであれば何も問題は無い。

 その証拠に、魔人はその顔に驚きの表情を浮かべている。

「よし今だ」

 パイアールは魔人キャッチャーを作動させる。

 このカプセルに魔人を捕らえれば、魔人であろうとも確実に捕獲する事が出来る。

 バンバラ達をPBに任せ、PAを使って魔人を捕獲範囲に誘き寄せる。

 それがパイアールが立てた作戦だ。

 魔人コーク・スノーは一際大きな雄叫びを上げると、猛烈な勢いでパイアールに向けて突っ込んでくる。

 パイアールはPAをぶつけて時間を稼ぐ。

「これだから体力バカは嫌だね。まあこれの方がやりやすいか」

 残っているPAを全て魔人へとぶつける

 別に倒す必要は無く、吹き飛ばされても全然構わない。

 むしろそうする事で、調子に乗ってくれた方がこれからの仕込には都合が良い。

「グゲゲゲゲゲ! 邪魔だ!」

 コーク・スノーはそのメイスを振り回してPAを吹き飛ばす。

 それでもお構い無しに突っ込んでくる者を、その鼻で蹴散らし、踏み潰し、叩き割る。

「がっ!」

 その中の一人がまだ生きていたようで、頭部のヘルメットが外れてその顔が明らかになる。

「ま、魔人…」

「その顔だ! 人間はその絶望の顔が一番似合う!」

 絶望に染まった人間の顔を見て、コーク・スノーは醜悪に笑う。

 その口からは再び涎が垂れ始める。

「そろそろクスリの時間だなぁ…」

 コーク・スノーは舌なめずりをしながら、その巨大な腕でPAごと人間を持ち上げる。

 その間もPAはコーク・スノーに迫るが、無敵結界の力で全てが弾き飛ばされる。

「や、やめて…」

「この前は口から摂取したからなあ…次は頭からいくか」

 魔人の笑みに人間の顔が最大限に絶望に染まるが、それでも気絶する事は出来ない。

「一気に摂取するか少しずつ摂取するか…決めたぜ! 一気にとったら勿体ねえ! 少しずつ吸ってやるぜ!」

「ひっ!」

 コーク・スノーはその鼻を頭部につけると、少しずつその鼻から人間を吸い込み始める。

「あ、あ、あ」

 少しずつ頭から大事なものが吸われていく感覚に、徐々に恐怖を覚えるのだが、同時に凄まじい幸福感も襲い掛かってくる。

 それはコーク・スノーから放たれる麻薬の成分であり、それが人間に強い興奮と快楽を与えていくが、それも一瞬。

「ひゃあ! 我慢できねぇ! ゼロだ!」

 コーク・スノーは面倒くさくなったのか、その頭から一気に人間の中身を吸い込む。

「うめええええええ! やっぱりクスリは最高だぜ!」

 非常に気持ちよさそうに天を仰ぐコーク・スノーを、パイアールは鼻で笑う。

「今の内に笑ってればいいさ」

 こうして魔人が足を止めてくれてくれるのはむしろ好都合だ。

 むしろ、時間を稼ぐためにパイアールは操作をして、態と顔を晒させる。

 中には死んでいる人間もいるが、それでもPAの力は圧倒的で大半が生きている。

 気絶している人間もいるが、それはむしろ幸運であると言えるだろう。

 何故なら気を失ったまま死ねるのだから。

「グゲゲゲゲ! クスリだ! クスリヲモットヨコセ!」

 それを見てコーク・スノーの理性が完全に吹き飛ぶ。

 見境なしに捕らえると、その鼻を口に、目に、耳に突っ込んで勢いよく吸い込む。

 そして中身が空になったPAを乱暴に投げ捨て、次から次へと人間をその鼻から吸い込んでいく。

 それを見ながらパイアールは自分の準備が完全に整った事に笑みを浮かべる。

「君達は十分にやってくれたよ。魔人の気を引くという重大な仕事をね」

 パイアールの魔人キャッチャーが作動し、その捕獲用のカプセルが魔人コーク・スノーへと迫る。

 コーク・スノーはそれが見えていないのか、上機嫌な顔で人間を吸い込んでいく。

「これでチェックメイト…姉さん、姉さんを助けられるよ…」

 パイアールは勝利を確信した時だった。

「ぶっ殺して差し上げますよ!!」

 突如として聞こえて来た声にパイアールは反射的に振り向いてしまった。

 そしてその手に感じる確かな痛みと熱気。

「PB!」

 パイアールが操作したPBが現れたモンスター―――アカメを貫く。

「なんだぁ!?」

「しまった…」

 そしてパイアールは自分の最大のミスを悟る。

 アカメが現れたせいで、上機嫌に人間を吸い込んでいたコーク・スノーが自分に迫り来る魔人キャッチャーに気付いたのだ。

「こりゃなんだ…? が、そんな事はどうでもいい…このガキが!」

 自分の楽しみに水を差されたと勝手に激怒したコーク・スノーは、血走った目でパイアールを睨む。

(まずい…!)

 魔人キャッチャー自体が壊れた訳ではない。

 だからまだまだ魔人を捕らえる事は可能…なのだが、自身が手に負った火傷は意外と大きく、精密な操作が必要な魔人キャッチャーをコントロールするのが難しくなる。

(だめだ…こいつに悟られちゃいけない。何とか時間を稼いで…)

 パイアールは必死に操作して、残りのPBとPAを魔人へと向かわせる。

 まずは魔人キャッチャーを魔人の目から逸らす必要がある。

(…その後はどうする? この手ではもう精密な操作は出来ない…いや、ボクのミス、油断か…まさか他のモンスターに気付かなかったなんて)

 パイアールはそれでも諦めずに操作を続ける。

 自分が諦めては、自分の命よりも大事な姉…ルート・アリも死んでしまう。

(何よりも…ボクは姉さんより先に死ぬわけにはいかないんだ)

 PAがコーク・スノーに攻撃を加えるが、コーク・スノーはそれを受けても笑うだけだ。

「グゲゲゲゲゲゲ! そんな攻撃が魔人様に効くわけが無いだろ!? 頭が悪いんじゃないか!」

(頭が悪いのはそっちだろ)

 魔人は今でも完全に油断している。

 パイアールはそこに付け込んで、魔人キャッチャーを必死に操作する。

 精密な動きが出来ないため、少し荒っぽくなるかもしれないが、自分が勝利するためにはもうそれしかない。

 コーク・スノーは笑いながらPAを蹴散らす。

 もう人間を吸い込むという行為は止めたようで、既に破壊を目的とした行動へと変わっている。

(これで…終わりだ)

 パイアールが最後のスイッチを押す。

 捕らえた、パイアールがそう思ったとき、

「甘いんだよ!」

 コーク・スノーはメイスを振り回すと、魔人キャッチャーを弾き飛ばす。

「あ…」

 それを見てパイアールは呆然となる。

「クスリを取ったおかげか頭が妙に冴えやがる。人間、てめぇの浅知恵なんぞお見通しなんだよ」

 その目は血走っているが、それでも先程には無かった理性が感じられた。

(…参ったね。クスリというから麻薬の類だとは思ってたけど、それを摂取することで理性を失うのではなく、取り戻すなんて…ボクの計算ミスか)

 パイアールは徐々に後ろへと下がる。

 PAとPBはもう残り少ない。

 これらをぶつけても、この魔人からは逃げられるかどうかは分からない。

 それでも、自分は姉のためにこんな所で死ぬわけにはいかない。

(姉さんは…ボクじゃないと助けられないんだ)

 パイアールの動きを見て、コーク・スノーは勢いよく空気を吸い込む。

 それが空気弾を発する前兆なのは分かっている。

(まずい…今の数のPAだけじゃあ防ぎきれないかもしれない)

 空気弾は見えないため、どれくらいの数がどんな方向で放たれるのか分からない。

「死ね!」

 コーク・スノーの鼻から勢いよく空気弾が放たれ、パイアールはその直線状にPAを配置しようとするが、怪我をした手ではそれも間に合わなかった。

(あ…姉さん…)

 PAの腕が空気弾によって吹き飛ばされ、その後ろの空気弾が自分に迫るのが嫌でも分かる。

(死ぬ時は…姉さんの側にいたかったな)

 パイアールが自分の死を覚悟したとき、

「ハッ!」

 自分に空気弾が当たる前に、立ち塞がる人の姿があった。

「大丈夫ですか? パイアール」

(姉さん…?)

 そして暖かい手が自分を抱きしめる。

 パイアールがその方向を見ると、そこにいたのはランスと共に居た人間、パレロアだった。

「え…パレロア? じゃあ彼女は…レダ?」

「そういう事」

 レダはそう言ってニヤリと笑う。

「がははははは! また会ったな! 象野郎!」

 そして、黒い剣を構えた男―――ランスが不敵な笑みを浮かべて魔人に向かって剣を突きつけていた。




魔人戦を描写する時はテンションを上げるべく、
ontology か Majin Boss をかけて書いています
でも Majin Boss を聞いてるとほぼレイ戦ばかりが頭に浮かぶ
何故だろうと思ったら、レイは順当ルートで4回もその音楽で戦うのだから印象に残りやすいからでした

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