こんな感じの小説を、小説家になろうで読みたい。

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種の可能性を求めよ

 太陽系第三惑星地球。

 ここは2H2Oに恵まれ、H・O・C等で構成された生物が己を酸化させて生きる生物が地表で、海面下で地中で空中で、そうあらゆる場所に存在している摩訶不思議な場所なのだ。

 宇宙空間においても、変哲もない固形・液体・気体・プラズマばかりの惑星に、

これほどまでに動的な物体に塗れているとこはほとんどないだろう。

 

 そしてこの動的生物に満ち足りた世界は、すべての生物が己を中心に主人公という存在定義をして、生を全うしている。

その定義の中で、もっとも醜く尊い生物を紹介しよう。

 

 現在地球上でせわしなく活動し、生を全うする生物。

 

 人間だ。

 

 細かく分類すれば、ホモサピエンスだなんて分類される生物である。

彼らの歴史の中では遠くとも、宇宙銀河の歴史においては最近な時代において

人類のパターンが数千種類に厳選された時代があった。

 そしてそこからさらに淘汰・洗礼され、今現在の現代人が地球上に跋扈することになる。 

 

 我々はその摩訶不思議で奇跡を偶然で駆け抜けた生物を観察してみようと思う。

いや……彼らを、我が世界へ招待してみよう。

彼らならば、平和裏に闘争を求める彼らならば、わが国を……惑星の者へ刺激を与えられるかもしれない。

 

「来い。いついかなる時も、闘争を求めてやまぬ、戦の中に可能性を秘めた生物よ」

 

……

 

「……今日も代り映えのない日々だった」

 

 いや、代り映えなんぞあったろうか。

 上司に叱られ己を破壊しながら、ただ指先を動かすだけの日々に。

かつて趣味でやっていたことも、今では仕事を思い出してノイローゼに陥ってしまうぐらい苦痛になってやめてしまった。

 自分はもう、だめかもしれない。

 

「なんて……いつまで続けるんだろうな……。

ま、いっか。ゲームしよ」

 

 経済という戦争に加担する自分は、とっとと思考を捨ててパソコンの中に広がる

電子の海に漕ぎ出す。

ここにはあまたの意識がある。

 偽善・虚偽・真実・虚構・善意・悪意、いろんな感情がごったがえしたカオスのスープだ。

だからこそいろんな思想・宗教・創造が、この中で現実で発生している。

 この中で発生すれば、それは確実に現実へ影響を与える事象になる。

バタフライエフェクトなんてくそくらえだ。

 

 自分はそんなどうでもいいことを思い描きながら、適当に繕ったゲームをする。

 

 ゲームは無料のものもあれば、広告付属・ウィルス付属・課金前提なんていろんなものがある。

自分は無料のものを多くやっている。

課金をしても、おいしいものを食べられなくなってしまうからやってない。

 そもそも地震・台風・噴火がはびこるこの国じゃ、課金をしたところで会社がつぶれておじゃんになるだけ。

 だから課金はしない方向だ。

 

 まあ、銀行とか貨幣の心配をしても、それは国家崩壊級のことだからあまり心配していない。

自分は暇つぶしに、この電子の海で人とのつながりを得てればそれでいい。

匿名だろうがなんだろうが、自分がそうであればいいんだ。

 この世界にいれば、自分よりも愚かな人間を見聞きして優越感にひたり、己の力の足りなさや虚構をごまかし人間として優位に立ったような幻覚に陥れる。

まあ自分に酔うって感じか。

そういうやつは、ネット弁慶とかいわれてるな。

 自分はそんなしょうもないことはしないんだけれども。

 

 だがそういうやつもいるんだ、結局は。

 

 自分も存外面倒な奴だと思われているかもな。

しらんけど。

 

 

ピピピ。

 

「ん?」

 

 近くのスーパーで半額シールを張られ購入した弁当を食べ終わり、据え置きのパソコンにかじりついてゲーム画面をみていた。

そんな時に、変な通知音が鳴る。

 

 一応寝落ち対策として、クロックウォッチシステムに起床時間を設定して起床できるようにしている。

しかしこんな時間に設定した覚えはない。

 

 自分はその通知をクリックする。

通知はログとして出ていているので、適当に×ボタンをおして閉じようとする。

だがクリックしても、閉じるどころか音がうるさくなるばかり。

 

「うるさい」

 

 耳につんざく騒音に耐え兼ね、音量を下げミュートにしてやった。

しかし通知音はその設定すらはねのけ、最大音量……スピーカーの最大発生音を超えるくらいのものになっていく。

すぐにスマートフォンに差している骨伝導イヤホンを抜き、こっちのパソコンの裏に差し込む。

だがまったく効果がない。

 自分はイラついてシャットダウンしようとするが、電源ボタンを右クリックしてもシャットダウンの項目が出ない。

 

……騒音の中、自分は両隣・上下の階にいる住人に罵詈雑言を浴びせられる面倒を思考し、いやになって携帯をもって

外に出る。

履くのはいつものビジネスシューズだ。

 

 自分は休日、もっぱら自宅警備員。

だから一番外出する仕事において、履きなれているビジネスシューズがお気に入りになっている。

まあいやいやしながらも、仕事関連のものに執着している時点で皮肉ものだ。

 騒音を発するパソコンを置いて、そのままスマホでPC修理ができるヤマダ電機に電話しようとした。

 だがやっておくべきことをやってなかった。

それはつまり、電源を抜くこと。

 

 自分はすぐに電源を抜いて、ブレーカーも落とした。

 え、ブレーカーをなぜ落としたかって?

それでもコイルを電気で振るわせる壊れた発生器を、確実に止めるための対抗措置だよ。

 

 まったくの奇々怪々にあきれながら、三階の通路に出る。

そして手すりに身を持たれかけさせ、ヤマダ電機に電話をかけようとする。

しかし例の騒音がやけにひどくなってきた。

 こんな騒音で要件を言えるか?無理だな。

 

 そういうわけで、隣には申し訳ないが退散させてもらおう。

 

 目をしばらく閉じて、一番大きなため息を吐いた。

そして目を開けると、そこは……異次元空間だった。

 

 

 自分が背もたれている手すりやマンションの壁はある。

しかし地面・周辺空間が、真っ赤で長方形の何かで自分を閉じ込めるように敷き詰められている。

自分の耳には、あの通知音が響き自分を恐怖のどん底に陥れた。

 

「は? わ、わけ……わけわかんねぇ」

 

 仕事の連続で死んだ感情が、意味不明な事象のせいで湧き上がってくる。

 面倒だったのに、さらに面倒に。

今では命の、死をも感じる状態になる。

この現実に、自分は生への執着を見せる。

 

「どこだよ、つーか。なんだよ、これ。ふざけんな、ふざけんなよおい!!」

 

 手すりの外を見る。

そこは今いる場所と同じ高さの床だ。

 

 自分はこれに驚いて、手すりから離れてしまう。

すると手すりとそれがついているマンションの壁が崩れおち、仕事着とスマホを持っているだけの自分だけになる。

 

ピピピ、ピリリリ。

 

 音の大音響で鼓膜がはちきれそうになった時、突然周囲の音が止んだ。

そして聞きなれない通知音が、手元にあるスマホからなる。

 自分は慣れながらもイラついた操作を、このスマホにする。

 

 暗証番号なんか必要ない。

周囲にある赤い長方形の一片が、画面にどんと張り付いている。

さらにそこに白い文字で、とある電文が綴られている。

 

――闘争を。ヒトの種の力を見せつけろ――

 

 この一文に眉を顰めるのと同時に、目の前が暗転する。

 

「!?」

 

ドカッ

 

 ちょっとした頭痛と吐き気・尻や膝に痛みを感じ、眼前が若干暗く鼻腔に懐かしい木の香りが入ってくる。

しばらく自分は軽い頭痛と収まった吐き気の後に来た全身の痛みと気怠さを感じ、ぼーっとそのままの体勢でいた。

徐々に頭痛が収まってきた時、自分は周囲の状況と自分の状態について観察する余裕がでてくる。

 

「大丈夫か?」

「えっ」

 

 誰かの声が聞こえた瞬間、網膜を焦がすようなまぶしい光が入ってきたと思ったらすぐに収まり、どこか屋内にいることを視覚から感じた。

またうずまき管の有毛細胞から得た空気振動の情報を、頭脳が言葉として自分という意識に理解させた。

 

 この時頭に頭全体に響く痛みが一瞬走った。

 だが問題はない。

自分は朦朧としていた意識を徐々に覚醒させて、眼前にいる人を知覚しどのような人物なのか頭を上げた。

 

「俺たちの言葉、わかるか?」

 

 その人物は実にがたいのいい大人の男性だ。

 

 丁寧どころか、自分がどこか別のところから来た人間だと理解しているようだ。

 

「……はい」

 

 自分は周囲に若干目くばせをして情報を得る。

 あの暗転の後、店……というには人が多く集まる酒場らしきところに、いきなり自分が座った状態で出現した感じみたいだ。

そのためか周囲の人がすごく見てくる。

 恐れや警戒のほかに、好奇心のような目を爛々と輝かせこちらを面白そうに注意深く探ってくる。

 

 気分が悪くないというのはうそになる。

でも仕方のないこと、と結論付けよう。

 

「そうかそれはよかった。なあ、お前はどこまで理解……いや、自己紹介からしようか」

 

 顎と口を隠すように手を持っていき、考えるそぶりをする男性。

彼は逸る気持ちを抑え、自分の存在定義を薦めてくる。

なるほど、文明人ならば敵対するようなことはしないよな、ということか。

 

「俺はグリム=ツェロンだ」

 

 彼は椅子に座り、ひざを突き合わせてくる。

そして自己紹介をしたら、右手で握手を求めてきた。

 自分は眼前に座る男の風貌とこの状況を照らし合わせ、すぐにここの長か主……強者や代表であることを

理解した。

 

「私は谷 幸太郎と申します」

 

 理解に至ったら自己紹介をし、すぐに右手の掌をズボンにこすりあて手汗をふき取り握手する。

この状態で右ポケットに残してあるハンカチを取ることは危険だから、絶対にやらない。

 

「……! そうか、よろしくな!」

 

 がたいがよく強面な彼が、何かに驚愕しすぐに友好的な言動をしてくる。

 自分はすぐに表情筋を動かせず、ただ一言。

 

「宜しくお願いします」

 

 さて、この後はどこまでの理解があるのか、という質問が来た。

 どんな理解。そもそもどういう状況にあるのか教えてもらうことにした。

 

 実は周囲を探ったとき、店内で酒場という集会場らしきところなのに机と椅子がきれいに整理整頓されていて、誰も使っていないような印象を受けた。

更に店内の大きさを見て、個人店ではあるが助っ人としてのフロア要員がまったく存在せず、周囲には武装した集団が出入口周辺とそこから壁伝いに拡散して、自分を半包囲している状況だ。

 しかも半包囲している人全員が、武器を抜かず品定めをするかのような視線を送ってきていることだ。

武器は剣・槍・杖・銃・玉……? と様々で、敵意は向けられていないようだった。

少なくとも素人目には、そう映ってしまう。そもそもいきなり殺される境遇はやめていただきたい。

むしろやめろ、と断固抗議する。

 

「そうだな……まず幸太郎がここに来た理由、わかるか?」

「いいえ」

 

 社会人である以上仕事ではないが、姿勢と服装を正したくなるが武装集団がいる。

変に刺激させたくないので、今の状態で話すしかない。

 

「そうか。簡単に俺から言わせてもらおう」

 

 そういうと彼は、簡単に説明してくれた。

 内容は荒唐無稽なもので、実に信じがたいが自分がこんな状況に陥ってしまえば頷かざるを得ない。

 

 まず、この世界は平和そのものだ。

 というか平和すぎて、あくびが出るほど。まあどうしようもない殺人とかもちろんあるが、とにかく平和だった。

どれくらい平和なのか。それは人類・亜人・魔人が、全国に存在しお互い助け合って経済国家を興すくらい。

 自分の感覚でいうと、別に普通の感覚だった。へぇ、と。

ただこの状況は世界的どころか、生物的にまずい状況らしかった。

 

「食料の収穫率が低下?」

「ああ。平和すぎて、すべての生物の寿命がのびた。しかもコストを低減するために、何度も実をつける食料を育てすぎた」

 

 この世界の動植物が、世界の人類に惑星規模で監視・観察される時代で、出生の管理すら行われていた。

 すると世界規模で種の長時間の存続が可能になった。

これにより種としての生存競争や進化する必要性が、徐々に減少していき生物学者たちが気づいた時には遅かった。

その時には絶滅危惧種ではなかったものが、軒並みすべてが管理なしには生きていけない状態に陥った。

 また魔法によって原子レベルでの食料生産により、人類の文化等を崩壊・淘汰してしまったことを連合国家が発表。

世界的な文明崩壊の始まりになってしまったらしい。

 

 そこに追い打ちをかけるように、世界的な異常気象が発生したり存在しなくなって200年経過していたアンデッド系モンスターの出現等、世界の融和体制が崩れていったという。

最後に魔人の王である魔王のさらに上である魔神を、生物の本質は闘争にあるとしてその安定の魔神と本像を魔人の極右タカ派が

混乱に乗じ破壊した。

これにより世界の魔力供給の均衡が崩壊した。本像が偶像崇拝とした分像に魔力がいきわたらなくなり、周辺の空間に魔力が行き届かなくなる。

 結果魔力不足になり、魔力で育成で来ていた動植物や稼働していた工場が停止。

 人類や亜人は、原子力よりも便利な魔力社会になり、今に至っては原子力技術の放棄に250年経過してしまっているので、

魔力社会崩壊後は石油経済の再始動になってしまった。

 

 世界規模での貧富の差が発生。

 

 暴動・国家分裂・人種差別・奴隷制復活・社会主義、共産、共和制の崩壊……。

 

 そんな大混乱に極右タカ派の魔人が魔神となり、世界に混沌を呼び起こした。

それは種の進化を進めるため、別次元世界・並行宇宙から第三魔力崩壊[タキオンレール]や第四魔力崩壊[ワームホール]を使って、その起爆剤を寄越すのだという。

寄越した異世界の者は、すべて魔神の手下になるだなんて最悪の事態を考えていた。

 だが魔神は種の進化のために、魔人VS人類の構造を作ることが目的だと発表。

これ以降人類側に参戦する異世界の者が出現する場所を、事前に国が知ることができた。

 

 本来ならば国が独占する事柄だが、当時は混乱していたし融和路線の大国がまだ元気だった時代。

おかげで国は軍の実権を握りながら、異世界の者を保護し共に魔神のタカ派と邪魔する異世界の者を撃破する武力組織を作り上げることに成功した。

 この成功は非常に喜ばしく、当時最強戦力が異世界から寄越された者だったため、彼らを同じ人類・融和派として迎え入れられた。

そして同調路線を進み手を取り合うのであれば最大の支援を、そうでなければ最大の苦痛を与えることになった。

 

 今でもその路線は国民の間で大きく支持されているが、その制度を作った国のトップが異世界の者によって大量虐殺されてしまった。

そのために今では中小国として分裂してしまっている。

だが今でも融和・協調、同調路線であることに変わりはないので今では連合国家として魔神に抗い続けているという。

 

「……死んだらどうなるのですか?」

「俺たちみたいにその場に残らず、異世界の者はあたかもそこにいなかったのかのように消えていなくなる。元の世界に戻れたか、というのはわからないな」

「戦争の終わりというか目標はわかりましたが、戦争から何年目ですか?」

「30年は続いている。これも、人類側に異世界の者があまり来てくれないのが原因だ」

「人的資源は大丈夫ですか?」

「幸い温帯地域や熱帯地域が多く、人類側に残されている。おかげでとある大国の生き残りが、大量の人を抱えている」

「産油地域は手中にありますか?」

「今は敵国のものだが、海流から流れてくる深層魔水や合成石油・海洋プラントから直接汲み上げたり、ミドリムシ等植物プランクトンで生成しているから大丈夫だ」

 

 このことから人間に必要な糧・燃料を最低限得られていることが分かった。

 そして継戦能力も保持していることも、よくわかる。

というか地球における中国があるなら、人海戦術でどうにかなりそうなもんだ。

でも彼らは融和派だ。つまり人種差別どころか自由主義っぽいから、徴兵より志願制っぽい。

だから浸透戦術が支持されているのだろうか?

 

 まあ個人である自分が考えることではない。でも最悪を考えておくに越したことはないと思う。

もしもこの先、国家がなくなった場合人同士が協力しないと、人種による生息区分が発生してしまいそこから人種国家になってしまう。

今まで多民族国家らしいことを行ってきたのが、説明で理解できる。

だから今更人種的な区分ができてしまうと、へんな固定観念が発生してしまう可能性がある。

それは避けなければならない。

 まあ、そんな時代なんてこないだろ。

こないよな?

 

「……」

「……いやなら、違う道もある。だが、俺たちではあいつらに勝利することは難しいんだ」

 

 自分が勝手に深慮遠謀していると、グリム=ツェロンさんは異世界の者[自分]に対して別の道を示唆してくれる。

だがその別の道がどんな道なのか想像すらできない。

そもそも闘争のために呼ばれているのならば、闘争以外の能力があるわけない。

ならば自分の本望であるのは、闘争しかない。

 だが自分に相手を殺すことができるのか?

 普段から自分は邪魔なゴキブリや根にはびこるダンゴムシを滅殺しているが、相手が血の噴き出る生物かつ意識がある奴で意思疎通もできる文明形成生物を無意識に殺せる自信がない。

 

 でも結局は他人だしなぁ。

 それに自分がいた地球も路地裏では、なにが起こっているかある程度見てしまっている。

駅や人目に付きやすいホームレスは、ボランティア等に助けられながら社会的地位の向上をしようと努めている。

だがそれでもギャンブルに勤めてしまう愚鈍な輩は、結局見放されてしまう。

 そういう人たちは、路地裏や森林で勝手に首をくくって舌を伸ばして失禁し干からびている。

 

 うん。結局は他人だし、夢現だと思っている異世界の者なら、簡単にやれそうだ。

そもそも自分はあのスマホやPCの演出で、ここに生を受けていることを身に染みて感じている。

今自分の胸で鼓動している心臓や未だに痛む踵を、今の一瞬を一秒一秒噛みしめている。

 

 生きているなら、やることは一つだ。

資本である体も痛むだけで、異常は一つもない。

 

「私は戦闘経験は皆無です。助けていただけますか?」

「っ! ああ、俺たちはそのためにいる……!」

 

 前のめりになり、喜色に染まる彼の顔。

 希望が見えたのか、頬が緩んだようだ。

期待に副えるかどうかわからないのに……な。

 

 自分はそんなグリムさんの期待を裏切るような展開はしない。

そんなことをすれば、自分が死ぬからだ。

 

 自分は右手を差し出す。

 

「!」

 

 彼は無言の右手の真意を自分に視線で求めてくる。

その反応に、自分は面白おかしくなってしまい口端を上げてしまう。

 

「期待に副えるかどうかわかりませんが、どうぞ宜しくお願い致します」

「ああ……ああ! もちろんだ、全力で援護させてもらうぞ!」

 

 グリムさんは自分と握手した。興奮気味なのか力が入っていて、結構痛い。

しかもぶんぶんと上下に動かされるもんだから、腕が非常につらい。

だから自分はグリムさんの右手を自分の左手で覆い、少々力を込めて動きも止めさせた。

そしてその握手を支点に、椅子から立ち上がる。

 

「では参りましょう」

 

 若干視線に力を込めた後、握力を弱めると彼もわかったのか。手の拘束を解いてくれた。

すぐに自分は服装を整え、この酒場の出入口にたむろする方々の目の前に来る。

 

「先ほどから耳に入っているでしょうが、私は谷幸太郎と申し上げます。

微力ながら異世界の者として、この闘争に力添えをさせていただきます。

どうぞよろしくお願い致します」

 

 と申し上げ、60度のお辞儀をする。

 彼らは目を真ん丸にして驚いているのか、唖然としていて文句の一つも口から飛び出ない。

しかし目の前の亜人である灰色の毛をもつ狼族の獣人は、すぐにふっと笑った。

 

「俺は第二連隊隊長のロベルト=ハーマンだ。異世界の者の軍事訓練を担当している。

主に近接戦闘を学んでもらうが、それ以降はお前の適正に合わせて行っていく、

覚悟しろよ?」

 

 腕を組んで、左目付近にある傷とその黒い眼帯は、いかにやばそうな風貌であるがそれと同時に激戦を潜り抜けた猛者として証明しているに等しい。

自分は彼に闘争の基本を教えてもらえるのか、と畏怖とともにこの先に待っている訓練の内容を想像し震えた。

 ほかにもいるらしく、ロベルトさんは周囲を見たがその時でいいみたいな声が聞こえた。

 

 さすがに自分も多数の人を覚えるのは無理です。有難うございます。

 

「よし、まずは幸太郎の能力確認だな」

「え?」

「なに。すぐにはやらんさ。昼食の後に行おう」

 

 いや、そういう意味じゃない。

 とにかく自分たちは、ここから出ず昼食の準備と食事をこの場所で行うことになった。

料理の味は肥えてしまった現代人でも、おいしいと感じるものだった。

 

―――

 

 俺は怖かったのだ。

そう異世界の者だ。

あの天を震わせ、地を砕き、敵を壊す。

 諸行無常だの栄枯盛衰という言葉を微塵も感じさせなかった。

 

「これが、お前たちの臨んだ力だ! もんくはないよな!?」

 

 俺が騎士団長の元、異世界の者が出現した場所に赴き説得。

そしてともに切磋琢磨し、戦場へ出た。

すると今まで気弱だった彼が豹変した。

 

 騎士団長はそのとき小さかった俺たちに、厳格な目を向けるんだ。

 

「見ろ。あれが、力に使われる姿だ」

 

 腕を組み、あの暴れる彼。

 天下無双。

今までで一番手強く、長期間にわたって戦線を徐々に下がらせることで対処していた。

だがそんな異世界の者を、彼は今まで見せたことがない力とその豹変した残忍な性格で圧倒していった。

彼はもう、俺たちの手には負えない怪物になってしまった。

 

「急激に魔力を使えば、魔力循環系が麻痺し酔うぞ」

「俺は最強だ!雑魚はどけ!死ね!闘争こそが、人間の可能性ならその可能性においつけないゴミは、勝手に淘汰されて滅亡しろ!」

 

 騎士団長は下がるように言った。

だが聴き入れられることはなかった。

 

 なんども忠告した。だが煩わしく思ったのだろう。今までの恩を忘れ……いや、恩を与えていたなんて傲慢だと思う。

しかしお互いに支え合ってきたのに……最後に、あいつは騎士団長を殺した。

訳が分からなかった。

 

「俺の本性を見破れなかったお前らの負けだ。あ、そうだ。俺の力の糧になれよ。

それがお前らの本望だろう?」

 

 絶望した。失望した。愕然とした。唖然とした。放心した。茫然とした。

 

 彼は圧倒的な力で、俺たちを拘束し力を奪っていく。

ああ、俺はここで死ぬのかと思った。きっと後ろに控えている五千人の兵士たちもそう思ってしまったのだろう。

だが死ぬことはなかった。

 訓練された五千人と熟練の前線兵・騎士団長等上官に対して、魔力を這わせることはあの彼でも不可能だったのだろう。

魔力酔いだ。

 

「うっ!?」

「……彼はもう、融和派にとっての敵になった。我々は戦線を捨て、撤退する」

「なっ!?」

 

 俺は驚いた。

 騎士団長の亡骸を放置したまま撤退するのか!?

 

「済まない。ここにいれば、我々は騎士団長以上のものを奪ってしまう」

 

 佐官に異議を唱えるほど、軍事的地位が高いわけではなかった。

だが観戦武官としても、この戦線を放棄し撤退することは現状としては最高の戦術だとおもった。

だからすぐに退却準備を始め、撤退したのだ。

 そして彼はというと、魔力酔いの最中敵側の異世界の者に食われて自爆した。

 その自爆は両国を傷つけ、大いに勢いと経済を破壊することに成功してしまった諸刃の魔法だった。

 

 もう一度言おう。俺は、異世界の者が怖い。

圧倒的な力を持つ、破天荒な人物がだ。

 

 だから、谷幸太郎殿のような冷静沈着で持ち前の頭脳で、戦局を打破するような御仁にあえて嬉しかった。

結果論で語ってしまったが、当時としては初めて極地指揮官として勧誘に成功したのは夢に見るほどの感動ものの出来事だ。

 

「グリムさん。此度は重砲撃隊をおとりにした逆落としをします」

 

 そして彼の無謀でありながら、めちゃくちゃな作戦に頭を悩ませ実行し成功に至るまで、胃と頭が痛くなるのは常の事だったりする。

 

「まず、私の配下になってしまった重戦車と砲兵連隊で、釣り野伏せをします。

次に敵の攻撃を滞空魔法で処理・砲撃し、行動時の雑音を消し隠密性を高めます。

そして敵の注目が重砲攻撃に向かれたら、我々近接部隊が強襲します。では、まいりましょう」

 

 無茶無謀するのは、異世界の者の定めなのか……?

だが生き残るためにやるしかないのだ。騎士団長、見ていてください。俺たちの時代で終わらせて見せましょう!

 




第一魔力崩壊[レイムーブ:光速移動]/第二魔力崩壊[ハイパーレーン]/
第三魔力崩壊[タキオンレール]/第四魔力崩壊[ワームホール]/
魔素形象歪曲[ワープゾーン]

続きはないです。


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