ヨルムンガンド ChiNaTsu, She Can Stain Her Life.   作:伯方のお茶

13 / 18
ストーリーの都合上、アニメでの内容、セリフが多くかぶります。
ご容赦下さい。


第十一話

私は三日と待てなかった。

 

あのココとかいうムカつく武器商人とその一味を殺しに行くのに三日と待てなかった。

私は奴らが泊まっているホテルを見つけた。師匠の仇を討つ。

 

私は外の非常階段を一番上まで上り、柵を乗り越え屋上に向かった。

屋上の手すりを飛び越え、M8000のスライドを引く。

 

数歩あるくと声が聞こえた。

 

「動くな。」

 

「私に銃を向けた瞬間、死ぬぞ。」

 

あの女の声だった。

私は目線だけ送り、声の方向を見た。あの女は何かしらの機械室の建物の上にいた。

上から私を見下ろしている。

 

そして、この女が一人でのこのこと出てくるはずがない。

 

「師匠を撃ったヤツより凄腕か。」

「居る方向、検討すらつかない。」

 

「負けた。」

 

私はM8000を下に置く。

それを見たあの女は建物の上から飛び降り、そして言った。

 

「わかってないなぁ。元より勝負じゃないんだよ。アタリかハズレかの運試しだ。」

 

「天気を見るように、三日以内に屋上ルートで来る。これに賭けた。」

 

「明日だったら気力、集中力を欠いた私がやられていた。

 まぁ、よかった。話したいことあったし。」

 

なにを言うんだろうか、この女は腹の中の読めない嫌味な女だ。

 

「はぁ?」

 

「チナツ、どうしてパンツ履いてないんだ?」

 

突拍子も無い質問をあの女がする。本当に何を言うのか。

 

「んっ…!ムッカつく女だ!!」

私は思っていたことを言った。

 

「本気で聞いてる。もちろん、タダとでとは言わない。」

あの女は笑った顔で言う。この笑顔にもムカつく。

 

「教えてくれたらその代わりに出会い頭のお前の質問に答えてやろう。」

顔の表情が戻る、いつものすべてを見透かしたような澄ました顔。

「いつか殺されるとわかっていて、それでも私が武器を売る理由。」

 

その答えを知りたかった。それでもこの女が武器を売る理由。

私は口を開く。

 

「私が師匠と組んだ初仕事の日、標的のマフィアの家は川の向こうにあった。下半身ずぶ濡れなのが気持ち悪くて、こっそり下着を脱ぎ捨てた。」

「その後の戦闘はやたらと弾が当たって、師匠より多くの敵を殺したので褒められた。」

 

「ぶっ、パンツを脱ぐと射撃の腕が上がる…」

 

「そうだよ!」

 

「ッハッハッハ!いい話だ。」

あの女はヘッドセットのマイクの部分を握りしめて、大笑いしている。

 

「今は?」

 

「履いてるよ、しつこいな!」

私はスカートめくり上げ、パンツを見せた。あの女が視線を送って確かめたのを見たら、すぐに手をスカートから離した。

 

「ンフーフ、じゃあ私の番だな。」

あの女は足元においたM8000を蹴り、ヘッドセットのマイクの部分を握っている手を更に握り込んだ。

 

強風が吹く。

 

「―――――――――。」

 

だけど、私にはハッキリと聞こえた。

 

「恐ろしいヤツ。」

心からの言葉を言った。人間の世界を取り囲むJormungand(巨大な蛇)にでもなるつもりなのか。

この女は神でもなく、悪魔でもなく、蛇になろうとしているのか。

 

「そう?私は君を気に入り始めた。」

 

「飼ってやってもいい。考えろ。」

 

その問いに私は即答する。

 

「無理だ。

 私はお前を許せない。三日と待てない程に。」

 

師匠の残したロザリオをあの女に見せつける。仇を討つのだ。

 

私は叫んだ。

「我らオーケストラは死の音楽を標的に叩き込むアーティストだ!

 見損なうな、武器商人!我々は何者の下にも付かない!」

 

ヒップホルスターからベレッタ M84を抜きココ・ヘクマティアルに突きつける。

 

引き金を引くよりも早く、M84が私の手から弾け飛んだ。

 

狙撃されたんだ、こんなにも早く正確に。

あぁ、銃声が聞こえる、銃の破片が右手を傷つけ血が飛んだのが見えた。

 

私は死ぬのか。死ぬってこういうことなのか。

 

目をつぶる時間さえなかった。

 

私の体に何かが衝突してきた。

あぁ、ダメみたい。

 

視界の中でココ・ヘクマティアルの顔が斜めになってゆく。

 

二回目の銃声が聞こえる。

 

「えっ…?」

 

私はまだ生きていた。床に倒れ込んでいる、私の上には誰か人が覆いかぶさるように乗っていた。

目を動かすと医者が身につける白衣のようなものを着た男が私の上にいた。

 

「何だコイツ、どけッ!」

 

私はもがいた。

 

「もう、終わりにしましょう。ココさんの勝ちです。あなたは負けて、今のところ私は勝っています。」

男が言う。あの女も、お前も勝ってない。

 

「どけッ!私は負けてない!お前ら全員皆殺しにしてやる!」

 

「そうですか、素晴らしいです。なら私からやってみなさい!!」

 

白衣の男はそう言うと上半身を起こす。銀縁眼鏡を掛けている、アジア人のような顔だった。

そいつは私に馬乗りになった状態で自分のホルスターからM92を取り出し、私に差し出した。

 

「さぁ、取るといいでしょう。そして、私を殺しなさい!」「どうしました、早く取りなさい。私を殺してみなさい。」「狙撃が怖いならもうあなたは負けています。」「負けてないのならそれを証明するんです。」「どうしました、殺し屋が医者一人殺せないのですか!」「これを手に取り、私に向けて、引き金を引く。それすらもできないのか!」「どうした、殺し屋!やるべきことしないのか!」「なら、普通の人間に戻りますか!?」「さぁ、早く私を殺せ!」「震えていますね、恐怖ですか。」「まだ、生きていたいのですか?」「どうする、あなたが選びなさい!」「殺すか、生きるか!」「そのちっぽけな復讐をするなら、私を殺せ!」「私は死ぬのは怖くない、ほら早くしなさい。」「右手が使えないなら助けましょうか?それとも逆の手で撃つか!」「皆殺しにしないのか?」「本当は死にたくないのでしょう?」「生きたいのならそう言いなさい!!」「考えなさい生きる意味を!」「死んだらなにか残るのか!」「生きて何かを残すのか!」「私を殺してから、考えるか!?」「殺るなら早く!」

 

「早く!」

「早く!」

 

「早く!!」

 

―――

 

「…ッッグ、、うぇ…いや……もう…いや…

 な、に…なんで…わたし、…ッヒ…の人生、意味なんて…誰も…い、、いっないの…」

チナツちゃんは泣き始めた。怒りには怒りを以て制す。カウンセリングだったら大失敗ですが、緊急ですから。

 

「もう、終わりです。死なずに生きて行きましょう。

 今日までのあなたは死にました。新しいあなたが生まれたのです。」

私はM92をホルスターにしまった。新しい人生の門出に銃などはふさわしくでしょう。

 

「わ、私…しっしっ、ッウ…ふぅ、し、死に…死にたくないの…?」

 

「えぇ、今の私にはそう見えます。」

 

私は微笑みながら言いました。。そして、チナツちゃんの右手を取り白衣のポケットから取り出したガーゼと包帯を傷口に巻きつける。馬乗りのままですがまだ、何をしでかすかわかりませんからしょうがないです。

 

私は少しだけ頭を動かし、うなずいた。横にいるココさんに合図を送った、もう大丈夫かと。

ココさんもうなずいた。だが、その顔は無表情だった。

 

「さぁ、立ち上がって行きましょう。そして、気が済むまで泣くといいです。」

私はチナツちゃんの上からどき、体を支えるようにして立ち上がらせた。チナツちゃんの視界にココさんを入れないようにした。いまは私とチナツちゃんだけの世界に彼女を閉じ込めておかないと、今の状況が崩れてしまいますから。

 

チナツちゃんは素直に立ち上がり私に支えられながらですが、フラフラとおぼつかない足取りで歩き始めました。私は何も言わずにむせび泣くチナツちゃんの横を一緒に歩き、屋上から室内に戻りました。

 

「…ッヒ、ッフウ…うぅ、うぁ…アッ、ハァはぁ…オェ…」

 

チナツちゃんはまだ落ち着いてない様子なので、ゆっくりと階段を降りながら自分の部屋へ向かいました。幸い最上階から2つ下のフロアでしたので苦労なく階段で降り自分の部屋にたどり着きました。

 

扉を開けチナツちゃんを部屋に入れ、私はゆっくりと自室の扉を閉じました。

 

―――

 

東野がチナツを自室に連れて行き、ベッドに横たわらせる。時間は午後11時半を回ろうとしている。

 

「今日は寝ましょう。疲れているときは寝るのが一番いいですから。」

 

チナツは何も答えずに開いた目から涙をこぼしながら嗚咽を漏らしている。

 

それを見た東野はチナツの両目に自分の右手のひらを優しく置き、語りかける様に言う。

「落ち着いて。ゆっくり息を吐いて、吐ききって。大きく息を吸って、ゆっくりと吐いて。そう、上手です。」

 

これを1分程繰り返すとチナツの呼吸も落ち着いてきた、まだ少し速いがさっきよりは十分に遅い。この程度なら過換気症候群の恐れは無いだろう。

 

「そう、ゆっくりと呼吸をして。目を閉じて。ゆっくり…ゆっくり…」

東野は右手をチナツの頭の方に滑らせる。目は閉じていた。呼吸の様子や胸の動きから見てまだ寝ていとみてチナツが寝るまでずっとそのままの体勢でいた。

 

東野はチナツの顔を見て思った。この子は何歳なんだろうか。三日前に見たときはチラッとしか顔が見れなかったが、今見るとまだ幼さが残る顔つきだ。やはり、16、17歳くらいだろうか。

 

自分と同じようなアジア系の顔つきで髪の毛も茶色に染めている様子は無い多分地毛だ。名前もチナツと聞いてるので、日本人かと思ったが目の色が黒ではなかった。それと年があってるとしたら身長が日本人平均よりも大きめ、多分165cmはあるだろうか、たしかココさんと同じくらいだったと東野は思い出した。

しかし、着ている服もヨーロッパではあまり見かけない日本の学生服のような洋服だ。

 

情報が必要だ。

 

チナツの呼吸が深くなっている。腹部を見ると腹式呼吸になっていた、眠りに落ちたのだろう。

東野はかざしていた手をどかした。5分程待ちしっかりと眠っているかを観察した。狸寝入りをされて逃げ出されては非常に困る。

どうやらしっかりと寝ている。東野はゆっくりと立ち上がり自室を後にした。

 

自室を出た東野はまっすぐココのいる部屋へ向かった。

扉をノックし、私ですと声をかけると入ってと返事があった。部屋に入るとココは窓際で椅子に腰掛け、外の景色を眺めていた。

東野はココの横まで行き口を開いた。

 

「あんな無理な申し出を承認して下さりありがとうございます。」

 

「あの子は。」

ココは窓の外を眺めたまま問いかける。

 

「私の部屋で寝ています。」

 

「そう。」

ココはそれしか言わなかった。東野は叱咤を言われたり、平手打ちの1つを貰うのだろうか思っていた。

 

沈黙が流れる。空調の音や、外からのクラクションの音が聞こえた。

 

何も言わないココにどういうことを言えばいいかわからないが、東野は言った。

「あの子の処遇は…」

 

「君はどうしたいんだ、ドクター。」

ココは顔だけ東野に向ける。貼り付けたような無表情、眉も口もピクリとも動いていない。

 

「ココさんはあの子を飼っても…仲間にしても良いとおっしゃられていました。適切な治療をすれば精神面の回復は十分に見込めます。」

 

「それは私の意見だ。

君の意見を聞いている。」

 

「私は……最初に言いました…子供は殺さないし、殺させない。例えそれが、私の雇い主の命を狙った殺し屋でも。

そして、彼女の力はココさんの力にもなる。あなたなら彼女を飼い慣らせる。」

 

「私はここで彼女を雇うことに賛成します。雇わないのなら近くの病院に入院させます、保証人機構を使えば可能です。それすらもダメならば私を解雇してください、私の見込み違いでした。」

 

東野はココの目を真っ直ぐに見つめる。ココが口を開く。

 

「君のことは解雇しないし、入院もさせない。ここでしっかりと治療をして仲間にしようじゃないか。私はあの子を気に入ったんだ。」

 

「ありがとうございます。」

東野は頭を下げて感謝する、口には笑みを浮かべて。

 

「いいよ、お礼なんか。治るとしたらどのくらいの時間がかかるの?」

ココの顔に表情が戻る。いつもの不敵な笑みだ。

 

「約1ヶ月から2ヶ月、彼女の努力、回りの人の協力でしだいで短くなることもあります。」

 

「わかった。何か必要なものはある?」

 

「特にありませんが、皆さんになるべく早く伝えたいことがありますので大部屋に集めて頂けますか?」

 

「うん、すぐ伝える。」

 

「ありがとうございます、先に大部屋に行ってます。」

 

東野は部屋から出るとポケットに手を入れ壁に寄りかかっているレームが正面にいた。

 

「あの可愛い子ちゃんを救って嬉しいか、ドクター?」

レームは問いかける。

 

「ええ、それが私の使命ですから。」

「ココを危険に晒してもか。」

東野の言葉にレームは食い気味に言う。

 

「私があの子助けられなかったら、レームさん。あなたがあの子を殺していた。そうでしょう?」

「前にレームさんが言っていました、君には君の信念がある、他の人間がことを済ますと。今回はレームさんではなく私がことを済ましたんです。」

 

「俺はココから何も聞かされてなかった。もしかしたら、お前を撃ってたかもしれないぜ。」

 

「私はレームさんを信頼していましたから。」

 

「信頼だぁ?」

 

「あなた程の凄腕傭兵なら咄嗟に狙いを外したり、引き金を引かなかったり、もしくは正確に射撃が出来ると信頼していたんです。」

 

「そして私の信念は何故か弾丸をハジく。」

東野は口角を少しあげ不気味な笑みで言う。

 

「……」

レームは押し黙った。信頼されているということはわかった。チナツを撃とうとした時に東野が出てきて狙いを外したのは確かだ。東野の信念もわかった。だが、腑に落ちない。

 

ココを危険に晒したこと、その相手を助けたこと、東野の狂信的な利他主義、東野の死ぬことへの恐怖心の無さ、東野の子供は絶対的に助けるという信念、医者という職業柄、自分への信頼、仲間への信頼。全てきっちりとはまりそうなピースなのに上手く噛み合わない。

 

ハァーとレームは大きい溜め息をつく。考えるだけ無駄だと思った、何も考えてない頭空っぽな奴か、考えすぎで頭がおかしくなったそのどちらかだ。

レームは笑いながら言う。

 

「とんだ大バカ野郎だな、ドクター。」

 

「はい、よく言われていました。」

 

「同じ言葉だが、君は君の信念を持つんだな。」

 

「言われなくともそうします。

大部屋で話したいことがありますから、皆さんに集まってもらっています。レームさんもお願いします。」

 

「あいよ」

 

ドクターとレームは大部屋に向かった。




どうも、作者の伯方のお茶です。
お待たせを致しました。

こちらは本編の内容となっております。

皆さま、感想、お気に入り登録、しおりをありがとうございます。重ねてお礼を申し上げます。

まだ、物語は続きます!!!

次話も投稿致しますので、気長にお待ち下さい!!!!!!!!

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。