ヨルムンガンド ChiNaTsu, She Can Stain Her Life.   作:伯方のお茶

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※お断り※
登場人物が行っている医療行為に関してはなるべく調べてから書いているつもりですが、正確な内容でない場合が多々ありますのでご了承ください。
また、医療知識に関してもなるべく調べてから書いていますが、正確な内容ではない場合がありますのでご了承ください。

説明が多いパートですご容赦下さい。





第十二話

東野が大部屋に入り5分ほどでヨナ以外の皆が集まった。

 

「ヨナ君は…寝ているのですかね?」

 

東野がココに言うと、ココは「部屋でグッスリ寝てたよ」と言った。東野は「そうしたら、ヨナ君にはココさんから話しを伝えて頂けます?」 と言うと快諾してくれた。

 

東野は皆のいる方に向き直り、立ち上がる。

「夜分にすみません、皆さんが思われていることと私がこれから話すことは一致しています。殺し屋 オーケストラの片割れ、テンガロンハットを被った女の子を私が助けました。」

 

一同、何も言わない。じっと東野を見つめている。

 

「ココさんはあの子を仲間にすると言っていますが…」

仲間にするということはココが直接言った方がいいと思い東野はココの方を見る。それを察したココは口を開く。

 

「ドクターの言うとおり、殺し屋 オーケストラ チナツを仲間にしようと考えてる。反対の人はいる?」

 

皆はオーケストラの二人と戦闘をしたのでその力は十分に理解している。機動力のあるチナツを戦闘員とするのは作戦の幅を広げることが出来る。

 

バルメが手をあげて言う。

「私は反対とまではいきませんが、賛成もしたくないです。」

バルメは続けて言う。

「あの子はココや私たちを殺そうとやってきました。仲間にしたらいつ命を狙われるかわかりません。何かの拍子に襲ってくる、寝首でも掻かれかねません。どこかの病院に入院させて放置した方がいいと思います。」

 

「だからこそ、仲間にするんだよ、バルメ。

あの子を放置したらまたきっとまた襲ってくる。だから手の中で転がしておけば安全。」

 

「確かにそうですが…」

 

「精神面のケアはドクターにやってもらうから安心して。ドクター、みんなに説明を。」

 

「わかりました。」

東野はそう言うと白衣のポケットからメモ用紙を取り出した。皆に伝えたいことを簡単にまとめてある。

 

「最初にこれは必ず皆さんに守って頂きたいことがあります。

私以外の人、もちろんココさんも含みます、私の許可無しにチナツちゃんへの接触は禁止します。治療はここのホテル行います、なので部屋に立ち入る、声を聞かせる、顔を見せる、そのレベルでの接触禁止です。

 

ココさん…あの子の色々な情報とかってわかりますか…?お願いするのを失念していました。」

 

「ンフーフ、そう言うと思ってうちの情報部にいって用意しといたよ。」

ココはジャケットの内ポケットから折り畳んだ紙を出し東野に渡した。

 

「ありがとうございます。読むので少し待って下さい。」

東野は受け取った紙を広げ目を通す、顔写真、名前、国籍等が載っている。

 

氏名:チナツ・マリア・ヴィアダーナ

国籍:イタリア(日系イタリア人、祖父が日本人)

生年月日:198X年 4月10日

年齢:17歳

 

兄弟、姉妹は無し。父、母は死亡。祖父、祖母ともに既に他界。親類関係は特になし。

 

両親は殺し屋 オーケストラによって行われた無差別殺人より200X年X月X日に死亡。自身は奇跡的に生き残ったが公式には消息不明となった。

殺し屋 オーケストラのメンバーとなり師匠(コードネーム?)と呼ばれる人物と行動を共にしている。師匠と呼ばれる人物は自身の両親を殺害している。行動を共にしている理由は不明。

 

移動には偽造パスポートを利用していた模様。

 

この他に実践経験や使う銃の情報が書いてあった、東野は必要な情報だけを読み取り理解する。

 

「なるほど…そういうことか…」

「あの師匠とかいう男はチナツちゃんの両親を殺害しているみたいですね、しかも無差別殺人で。」

 

レーム、ココ以外のメンバーは驚きの声をあげる。

 

ルツが東野に言う。

「おかしいじゃねえか。何で自分の親の仇と一緒に殺し屋なんてやってんだよ。」

「あぁ、いつでも殺っちまえるのに何でだ。」

アールもルツの言葉に同意して言う。

 

東野は用紙を見ながらルツ、アールの質問に答える。

「多分、心的外傷後ストレス障害の状態ですね…PTSDからの心理機能回復が間違った方向に向かったのでしょう。両親は殺され自身はその現場で生き残り加害者と対面、心理的サバイバル、生存戦略の選択肢の1つとして殺し屋の仲間になり自分への被害を減らすというのを選択した。だから、無差別殺人の後に師匠と呼ばれる男に付いていったのでしょう。ストックホルム症候群に似た症例ですね…彼女の記憶は無意識に抑圧されている。また、その反動として防衛機制も攻撃的行動を取ることで心理的な均衡を保っていたと…自分の加害者が殺された時の反応、今までの行動、全て合点がいきますね。」

 

 

「いや、全然わかんねーよ。」

トージョが突っ込みをいれる。

 

「え?」

用紙から顔を上げ皆の顔を見回すと、全員ウンウンと首を縦に振っている。

 

「ドクター、わかりやすく説明して。」

ココが東野に言う。

 

「あ、わかりました、つい癖で。

とても端的に言うと、彼女は無差別殺人の被害者ですが自分自身が被害者というこを忘れてしまっている状態、というとわかりやすいでしょうか。」

 

「忘れるなんてことあり得んのか?

おかしいぜ、両親を殺されてそいつの横にいてそれを忘れるなんて。」

ルツがさらに東野に問いかける。ルツは東野の言う内容が矛盾しているように聞こえるようだ。

 

「正確には忘れてはいないんです。無意識に思い出さないようにしている、と言った方が正しいです。」

 

「強い心理的なストレスを受けたとき、例えば両親が死ぬ、親しい友人が死ぬ、恋人に振られる、他なんでもいいですが、そういう時に人間は防衛機制というものが働くんです。ストレスから心を守るための機能です。

その機能が強く働いたせいで記憶が無意識まで抑圧され、無意識が両親が殺されたという記憶を思い出さないようにしている。また、それだと心の平穏というか均衡が取れないので、殺人という攻撃的な行動で発散をしていたと考えらます。」

 

「普通は強いストレスや悲しみを受けたときはそれを乗り越えたり、受け入れることで通常の生活に戻っていくのですが、それが失敗すると薬物依存症、アルコール依存症、殺人、強盗などをしてしまうんです。」

 

レームが言う。

「イラクやらアフガン帰りの兵士がよくなってるな。」

 

東野は答える。

「全くその通りです。戦争の強いストレスによって様々な悪影響が出てきている状態ですね。」

 

アールが東野にまた質問をする。

「さっき、ストックホルム症候群に似てるとか言ってたけど、人質が犯人に恋愛感情とかを抱くとかいうやつだろ?あれって一時的なもんじゃねえのか?」

 

「じつは恋愛感情を抱くというのは誤りなんです。人質に取られるという危機的な状況からの生存戦略の1つとして被害者が加害者との間に心理的な繋がりを構築するのがストックホルム症候群です。非常に単純に言ってしまえば加害者に協力すれば助かるだろうという感じですね。

そのせいで自分が被害者であることを認識できなくなってしまう。この状態は解放されたあとにも続くと言われています。

何しろ症例が少なくて…私も初めて出会いました。」

 

次はマオが東野に尋ねる。

「それって治すことは出来るのかい?素人考えだけど、相当難しいんじゃ…?」

 

「たしか、通常のPTSDの治療方法で可能です。

カウンセリング、認知行動療法などを通じて、安全を思い出させる…うーん、何と言えばいいのでしょう…

危機回避行動を取らなくても大丈夫ということを認識させる…その記憶をスルーさせる…自分の心の平穏を維持するために殺人をする必要はないと認識させる、といった感じです。

それと、彼女のトラウマ経験が実際に彼女自身を苦しめているかどうかは話をしないとわかりません。」

 

マオの次はレームが尋ねる。皆、東野に質問を飛ばすということは慎重になっている証拠だ。そして、東野の回りくどい説明の仕方は専門知識を持ってない人間にとっては矛盾を孕んでいるように聞こえてしかない。

 

「おいおい、人を殺さなくて良いって思わせるってそれじゃあ俺達の仲間にするにはちと問題じゃねえか?」

「医者がこんなことを大っぴらに言えませんが、人を殺すための目的を変えるのです。今までは自分自身を守るために、これからは仲間を守るためにという具合に。」

 

「そんなこと出来んのか?医者からしてみれば人の心ってのはそんなにすぐには動いちまうってか。」

 

「皆さんも同じですよ、そして私もです。

理由はともあれ国や国民を守るという職業から、今はココさんの護衛をしている。それはココさんに心を動かされたから。ココさんに雇われたときのことを思い出して頂ければ、それか、自分が銃を持ち人を守るという道を選んだことを思い出して頂ければわかりやすいかと。」

 

東野は見ていた用紙を折り畳み白衣のポケットへしまう。

そして姿勢を前のめりに座り直し、皆をゆっくりと見渡しながら言う。

 

「私がこれから彼女、いえ患者に行おうとしているのは、心の治療ではありません。

心、認識、無意識から意識までの再構築です。」

 

「今までの自分を過去へと追いやり、新たな自分を作らせる。 その一部分に我々がピースとして入り込む。」

 

東野はそう言い終わるとソファにドカッと座り直し体を上げる。

「とまぁ、偉そうに語らせて頂きましたが今のところの所感といった感じです。

 チナツちゃんと話した後に現状は私から逐一報告しますのでご安心ください。」

 

 

「なんだかこっちの頭が痛くなってくるぜ」

ルツがそういう。

 

「すみません、わかりやすく説明するのが難しくて。」

 

ココはパチンと手をたたき皆に言う。

「はい、じゃあ今日はもう遅いしこれでお終いね。

 明日からのことは朝に言うから寝坊しないように!」

 

「「「あ~い」」」

皆がそう返事をすると立ち上がりそれぞれ扉から出てゆく。

ココと東野だけは部屋に残った。

 

皆が大部屋から出てゆくと東野が口を開く。

「ココさんには治療の詳細を伝えておきます。」

 

「わかった。」

 

「あくまでも現状での方針です。今後大きく変わる可能性もありますのでその点は留意してください。

 まず、1週間は完全に何もさせません。睡眠、食事、洗面、お手洗い以外の行動を一切させずにベットにいさせます。私が何か話をさせたり聞いたりもしません、あくまでも補助のみです。

 

1週間経過後、私との面談を開始します。

そのときにチナツちゃんの置かれている心理状態が理解できると思います。そのまま、治療を開始し攻撃性が落ち着いた状態になったら他のメンバーとの会話を始めましょう。

そして、信頼関係を築きます。」

 

「先程も言いましたが、私以外の人は私の許可なしの一切接触禁止にします。食事を取りに行くのも、生活に必要なものの補充も、すべて私がします。

 ココさんがあの子を仲間にしたいと強く思っているのなら他の皆さんにもこれだけは強く言っていただけるとありがたいです。」

 

「他のみんなにもそれは言っておくね。特に、ルツ、アール、トージョに。」

ココが少し笑い肩をすくめ言う。

 

「はい、おねがいします。」

東野もそれにつられ少し笑いながら言う。

 

「あと、この薬の調達は出来るでしょうか?」

東野はポケットからメモを取り出し、ココに渡す。ココはそれを受け取ると少し首を傾げながら内容を読む。

 

「ええとなになに、物質名、セルト…ラ…リン。セ、セルトラリン?アメリカではゾロフト、日本だとジェイゾ…ロフト? SSRI。せ、せ、選択的…セロトニン?…再取り込み~…阻害薬であってる?」

 

「はい、それであってます。物質名がセルトラリンで販売名はゾロフト、ジェイゾロフトという名前です。SSRI、選択的セロトニン再取り込み阻害薬という種類の薬です。

 それの25 mgの錠剤をとりあえず20錠お願いしたいです。」

 

「これは何の薬?」

ココが尋ねる。

 

「PTSD治療に一般的に用いられる薬の一つです。フラッシュバックを減らしたり、抗不安作用があります。」

 

「なるほど、うちの部署に問い合わせてみるね。」

 

「ありがとうございます。

 ちなみに手に入れられるでしょうか…?こういう薬は市販していないものなので。」

 

「ミサイルや銃、はたまた戦闘機まで扱ってる会社がこんな薬の一つや二つ、楽勝よ!」

ココは手でグッドサインと作りウィンクをする。そしてゆっくりを手を下げるといつもの不敵な笑みを浮かべる。

「それじゃあ、ドクター。よろしくね。」

 

「はい。任せてください。」

東野はその言葉に強く頷き大部屋をあとにした。

 

―――

 

「さぁて、久しぶりに頑張りますか。

 チナツちゃん、あなたを苦しみから解放してあげます。」

 

廊下を歩きながらそう呟く。

自室の前につくとゆっくりと扉を開け、中に入り開けるときよりさらにゆっくり扉を閉めた。

 

 





どうも作者の伯方のお茶です。
お待たせを致しました。

前書きにも書かせて頂きましたが医療知識、医療行為に関してのはなるべく調べてから書いているつもりですが、私もさすがに医師ではないので正確ではない場合があります。
ご了承ください。


さて、皆さま、感想、お気に入り登録、しおりをありがとうございます!!!!!!!!

今現在、世界がとても大変な事になっておりますが皆さんの健康を願っております!!

物語はまだ続きますので気長にお待ち下さい!!!!!
それではごきげんよう!!!!!
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