ヨルムンガンド ChiNaTsu, She Can Stain Her Life.   作:伯方のお茶

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※お断り※
登場人物が行っている医療行為に関してはなるべく調べてから書いているつもりですが、正確な内容でない場合が多々ありますのでご了承ください。
また、医療知識に関してもなるべく調べてから書いていますが、正確な内容ではない場合がありますのでご了承ください。


第十三話

襲撃から翌朝。部屋で眠っていたチナツは目を覚ました。

 

霞む視界に見えるのは白熱電球が発する淡いベージュと太陽光に照らされた天井だった。右手で目をこする、目が少し腫れている気がした。

 

チナツは首だけ動かすと机に向かって何か書物をしている白衣を着た銀縁眼鏡をつけた男が視界に入る。

その様子を横目で察した男はこちらを向く。

 

「おはようございます、よく眠れましたか?」

 

男は朗らかに笑いながら言う。確かこいつは昨日、屋上で私を助けた得体のしれない男。ただ、ココ・ヘクマティアルの仲間だということはチナツにもわかった。

 

「…私を、どうする気だ。」

 

昨日はこの男の剣幕に負けて泣き出してしまったが今は違う。助けた恩義に何か漬けこまれるかもしれないとチナツは思った。こいつもあの女の手下だ、何をされるかわかったものではない。

 

「まぁまぁ、とりあえず、お水どうぞ。」

 

机においてあるミネラルウォーターが入ったペットボトルが差し出される。チナツは体を起こしそれを受け取る、見たところ未開封だ。男も自分用のものを取り出しフタを開けて飲み始める。その様子を見たチナツも同じようにフタを開けミネラルウォーターを飲む。ミネラルウォーターが喉を潤す。昨日、頬を流れた涙で失った水分を取り戻したような気がした。

 

「いまは8時半です。少し遅いですが朝食を食べましょう。あ、その前にシャワーを浴びますか?」

 

男は私が何かを言おうとする前に話しかける。これでは相手のペースに乗せられてしまう。

 

「…あんたもあの女の手下だろ。私をどうする気だ。」

 

「どうもしませんよ。今は完全に私の独断で動いています。」

 

「このままブタ箱送りか。それとも、どっかに私を売り飛ばすんだろ。」

 

「そんなことは絶対にしません。絶対に。」

 

男の表情が真剣な顔つきになる。少しだけその顔が恐かった。

 

「あぁ、自己紹介が遅れました。私は東野達、医師です。

 ドクターと呼んでいただけると嬉しいです。」

 

「…医者ぁ?」

チナツは眉を寄せる。なぜ医者があの女の手下にいるんだと思った、全員軍やら警察が出身だと聞いていたのだ。こんなひ弱そうな医者なら簡単にここを飛び出せるとも思った。

 

「そうです、医者です。専門は内科、外科、循環器科です!」

男は人差し指を立てながらフフンと胸を張らんばかりの様子で言った。男は手を下ろすと優しい表情で話しかける。

 

「朝食、先に食べましょう。」

 

調子が狂う。この男の話には脈絡がないように感じられる。前の言葉と後ろの言葉に繋がりがない、話題がいきなり飛ぶ。なんだか聞いてると少し疲れるてしまう。

 

ドクターは机の上に置いてあったサンドイッチが乗った皿を渡してくる。チーズとハムが挟んであるのが一つ、レタスとスライストマト、スライスしたゆで卵が挟んであるものが一つだった。チナツはそれを受け取らない。さっきの水は未開封だったがこっちには何が仕掛けてあるかわからない。

 

「いらない。食べたくない。」

 

「どうしました?何か嫌いなものでも?」

ドクターは首を傾げなら問いかける。

 

「いらないって!」

チナツは声を荒ら上げ言う。

ドクターは少し困った顔をして皿を机の上に戻す。そして一頻り考えると言ったら。

 

「大丈夫、何も入っていません。これホテルのルームサービスですから。」

そう言うとチーズハムサンドを半分に千切り、片方を自分の口に運ぶ。

「うん、おいひいですね〜。」

首をうんうんと縦に振りながらサンドイッチを食べた

 

「口に物入れながらしゃべるなよ…みっともない…」

チナツは薄目でその様子を見ながら言う。

この男が自ら口に運んだということは大丈夫なのだろうか。チナツはチーズハムサンドの片方を手に取り口に入れる。何の変哲もないチーズハムサンドの味、おいしい。チナツはもう一口を口に入れる。そういえば昨日から何も食べてないことを思い出した。食べる気力さえなかったのだ。

 

「じゃあ、もう一つはここに置いて起きますね。シャワーとお手洗いは入口の扉の手前です。

 私は扉の前にいますので、何かあったら言ってください。」

 

ドクターは皿を机の上に置く。そして本とノートとペン持ち、椅子を持ち上げて扉の方へ向かう。こちらはからは直接見えなくなった。

 

「変なやつ…」

チナツは最初のサンドイッチを食べ終わるともう一つへ手を伸ばす。さすがに毒やら何やらの話はもうないだろうと思った。口に入れると野菜のみずみずしさが口の中に広がる。スライスゆで卵はほんの少しだけ半熟になっておりパサパサ感がなく食べやすい。こちらもおいしかった。

2つ目を食べ終わるとミネラルウォーターを飲む。

 

 

15分ほど経ち体がベタつくのが気になった、シャワーを浴びたい。そこまで清潔さに過敏な方ではないが前にかいた汗が皮膚に張り付いているような感覚だ。あの男の画策を暴くのは少しあとにするか、従順なふりをして油断させるのだ。

そう考えたチナツは東野を呼ぶ。

 

「おい、医者。」

 

「はいはい、何でしょう。」

扉の方からドクターが現れる。

 

「シャワーを浴びさせろ。」

 

「えぇ、どうぞどうぞ。タオルや着替えは中に用意してあります。着替えはルームウェアの様な楽なものです。

 今着ている服は後でクリーニングに出しますから適当に置いておいてください。」

 

「わかった。」

 

どこまでも用意周到なやつだ。チナツはベッドから降りシャワールームの方へ向かう。入口の前にはドクターが座っている椅子が置かれていた。それを確認するとチナツはシャワールームに入る。

 

学生を脱ぎ、下着を脱ぐ。脱いだものはランドリーバスケットがあったのでそこに入れておいた。

ふと鏡を見る。目の周りが赤く腫れている、髪も油分でベトベト、テカっている。首周りはなにかのススで少し黒くなっている。肩が少し赤くなっている、昨日倒れたときに軽く打ったのだろう。

殺し屋をやっていたのに傷一つない体、体型もスレンダーで胸も1Dくらいはある、少しだけ自慢にしている。

もし学校に行ってたらボーイフレンドの一人でもいたんだろうか。

 

チナツは両腕で自分の体を抱く。そしてため息を付いた。

「私、なんで、こんな風になっちゃったんだろう。」

 

そして腕をだらんと下げると浴槽の中に入り、シャワーを浴びる。ぬるめのシャワーを浴びるのがお気に入りだ。ヘアシャンプーで髪を洗う、そして体を洗い、顔を洗う。

身体が洗われ、心も洗われる。シャワーを浴びる時にはどこからともなく少し憂鬱な気分になる。そしてそれを掻き消すために目をつぶり頭から流れる水をかぶり続ける。

シャワーヘッドから流れ出る水が浴槽の底に当たり連続的に音を出す。この音を聞くと心が安らぐ気がする。

 

1分程シャワーに当たり続けた後、お湯を止め浴槽から出る。バスタオルがかけてあるのでそれで身体と髪を拭く。

洗面台の横の棚の上に服と下着が置いてあったのでそれを身につける。シンプルな白いブラとショーツ、水色のゆったり目なTシャツとベージュの七歩丈のパンツ、本当に部屋着だ。

 

「というかなんで下着サイズ知ってんだ…」

チナツは服を着たあとに思った。

服を着たらドライヤーで髪を乾かす。腰にかかる程の長髪ではないが、しっかり乾かすのには10分くらいの時間がかかる。生乾きは嫌だ。

 

「ふぅ…」

髪を乾かし終えた。

すっきりした、そう思った。チナツはシャワールームから出る。

 

扉の前の椅子に座っているドクターは本を読んでいた。

チナツに気づいたドクターは顔を上げ何も何も言わず微笑むとまた本に目を落とす。

チナツはその様子を見て言う。

「ベッドに戻ればいいんだな。」

 

「ええ、そうしましょう。」

ドクターは顔を上げ言う。

 

「ふん…」

 

おとなしくベッドに戻る。

ずっと寝転がるのは腰が痛くなるので1つの枕をクッション代わりに背中に挟み壁に寄りかかるようにする。

横を見ると窓から外の景色が見える。

ビル、青空、遠くの山、浮かぶ雲、それぞれがありありと目に映る。

 

(あぁ、今まで下ばっかり見て歩いていたから。こういう景色をゆっくり見るのは久しぶりかも。)

 

しばらく景色を眺めていた。外から聞こえる少しばかりの雑踏の音、部屋の空調の単調な音、それ以外は何も聞こえない。ただ、時間が流れる。認めたくないが快適な空間だ。

 

(眠い…)

外を眺めていたら眠気が沸き起こった。まだ、朝の10時前だというのに。満腹になり何もやることがなくただ、ベッドの上で楽にしているだけ、チナツは考えてみたら眠くならなほうが不思議だと思った。

 

寝ようとしまいと思うほど眠気は大きくなりゆっくりとまぶたが重くなる。

 

(寝ても大丈夫か…な…?)

チナツは数回、頭を上下させると、ゆっくりと頭がもたげ眠りへとついた。

 

―――

 

 

私は引き金を引き今回のターゲットを撃ち殺した。

「ははっ、楽勝なのだ!」

 

部屋を出ようと扉に向かう。ドアノブに手を掛けて回そうとするが回らない。

「何だよ、さっきは開いたじゃん!」

私はそのまま扉に蹴りを入れた。扉は勢いよく開きそのまま足をつくと、黒い空間へ身体ごと落ちていった。

 

落ちていきながら、スーツを着て口が裂けた仮面を付けた男が目の前に見えた。そいつは何も言わずに私をただ見ている。また、扉が見えた、だけど開けるのが怖い。また落ちてしまうのではないか。

仮面の男はただ私をずっと見ている。

 

膝を抱えうずくまって目を閉じてもまぶたの裏に男がいる。そして私は私を外から眺めている。一人ぼっちだった。仮面の男は首を傾げて目から涙を流していた。

鏡で自分の顔を見るとその後ろから誰かから襲われる気がした。そのままどこかへ連れ去られる気がした。ただ、私が映っているだけなのに。立っているのに足に力が入っていない、下を見ると膝から下がぽっかり無かった。気づくと同時に身体が糸が切れた操り人形の様に崩れ落ちた。

次の扉を開けることができない。ありもしない妄想が頭の中を駆け巡った。

 

 

 

幾多の人間がいる白い部屋の中で椅子に座っていた。周りの人間は誰も私を見ていなかった。皆同じ方向を向いていた。泣き叫んだって何も変わるわけじゃないけれど、私は泣き叫んだ。「わからない。わからない。もうどうしようもないんだって。前にも後ろにも進めないんだから。」そう叫び扉を開けるとまた黒い空間へ身体が落ちていった。目の前にコンクリートの床が見えた、手を伸ばした。あぁ、このまま地面に激突して私は死ぬんだ。

 

___

 

体がビクンと跳ねチナツは目を覚ました。

 

はぁ、とため息をつく。

(また、同じ目覚め方…)

いつも見る夢、最終的には地面に激突しそうになりその寸前で目が覚める。そしてあのスーツの男は誰なんだろう、会ったことすらないのに夢に出てくる。寝たというのに気分が悪い。

 

頭を傾け机の上の置き時計に目をやると午後12時半過ぎになっていた。

また、ため息をつくと目をつむる。自分の呼吸音、心臓が鼓動する震えを感じた。

 

「起きましたか?」

ドクターが扉の前の方から出てくる。チナツは目を開け視線だけを動かしドクターの方を見る。ドクターはそのままベッドの方に向かい机の上に置いてあるマグカップにミネラルウォーターを注ぎチナツに差し出す。

 

「お水をどうぞ。」

チナツは両手でそれを受け取り一口、二口と飲み口を離すと息をつく。ドクターは笑顔でマグカップの方に手を差し向けるとチナツはマグカップを渡した。

 

「お昼にしたいのですが、その前に血圧だけ測らせてください。」

「あぁ。」

「ありがとうございます。」

 

ドクターはは机の下のメディカルバックからデジタル血圧計を取り出す。圧迫帯を開きチナツの右腕上腕部に巻きつける。

「少しきつめに巻くので痛かったら言ってください。」

「……」

チナツは何も答えないがドクターは気分良さそうに、今にも鼻歌でも歌い出しそうな感じで手を動かしている。

 

「はい、じゃあ測定するので楽な姿勢にしてくださいね。」

ドクターはデジタル血圧計の測定ボタンを押すと血圧計がブブブブと音を立てて圧迫帯に空気を送り始める。チナツは目を閉じゆっくりと呼吸している。1分ほどで測定が終わると「もう一度測ります。」また測定ボタンを押し血圧計を測定する。

 

 

測定が終わり記録した結果を目を細めながら見ていた東野の表情をチナツは目を瞑っていたので見ることは無かった。

 

 

 

 




お久しぶりです、伯方のお茶です。

長らくおまたせ致しました!!!!!!申し訳無いです!!!!
リアル都合の関係で執筆ができない状態が続いておりました。

また、しおりが100件を超えており非常に驚いております!!!!!!!
お気に入り、感想の方もありがとうございます!!!!!!

書き始めた頃はこんなに多くの方に呼んでいただけるなんて全く思っていませんでしたのでもう感謝の気持ちで一杯でございます!!!!!

可能な限り投稿ペースは早くしてゆきたいですが、今まで通りかもしれません。気長にお待ち下さい!!!!!!!

それではみなさま健康に気をつけて、ごきげんよう!!!!!
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