ヨルムンガンド ChiNaTsu, She Can Stain Her Life.   作:伯方のお茶

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第十六話

チナツは治療に前向きになってくれた。

心の治療は患者と医者の双方がお互いに歩み寄り、課題を克服しようという意志がなければ治療は難しいと理解してくれたらしく東野もその想いに答えようとしていた。

 

「いきなりステージの人が倒れて…私はお母さんが覆いかぶさってくれて…私は、運良く生き残った…」

 

「運良くですか、それはお母さんがチナツちゃんを助けてくれたと考えられませんか?」

 

「まぁ、そうもいえるけど…私は本当はあそこで死んでたんだ…師匠についてかなかったら今ここに私はいない。」

 

「あなたは生きてますからご安心を。そうしたら…何故チナツちゃんは師匠についていったのでしょう?」

 

「…わからない、でも、師匠を撃ったときにいい音だって褒められて…嬉しかったのか…?」

 

「では、その時の状況を今のチナツちゃんとして思い出して、何か別の見方や考えは浮かんでこないでしょうか?」

 

「東野、お前、難しいことを言うな。ちょっと考える…」

 

悪くない、それが東野の所感だ。

 

治療に対し顔を向け素直に受けっとてくれるのは治療を施す側にとっては非常に良い事であり、ありがたい。

 

ベットにいるチナツは目を閉じ思考を巡らせているようだ。その間に東野はミネラルウォーターを飲む。

 

「そうだな、嬉しかった…いや、怖かったのか?だって、自分を撃った相手を褒めるなんて…いや、私もやってた…

 なんでかわからないけど、師匠について行けば死なずに済むと感じた。」

 

「自分の両親を殺した相手にですか?チナツちゃんは明らかに被害者ですよね?」

 

「被害者…?私が?」

 

「ええ、立派な被害者です。無差別殺人の現場にいたのですから、そう受け取れそうでしょうか。」

 

「……………」

チナツは少し首をかしげ考える。

 

「ん…確かに。そう受け取れるし、確かにそうだ。」

うなずき東野の方に向き直る。

 

「そうですね、いいでしょう。」

腕時計を見ると話を始めてから40分程経っていた。時間は12時30分に差し掛かっている。

 

「今日はこの辺にしましょう。また、明日お話をしましょうね。ゆっくりで問題ないです、少しずつ考えていきましょう。」

 

 

東野は机に向かい自分の所感をノートに書き込む。

(経過良好、CTP-C(認知療法)によるスタックポイントの解決に向かう。患者と医師の治癒への意識共有は高く、予想より遥かに治療速度が早い。だが、早急な回復は再発の危険性も高いため、セッション数を増やし期間をあえて長くすることを考慮しなければならない、っと…)

 

「さてと、もういい時間ですから昼食にしますか。今日は何にしますか?」

 

「うーん、ちょっと疲れたから軽めのものでいい。あぁ、パニーニがいいな。私あれ好きなんだ。」

 

「パニーニ…これですか?このサンドイッチみたいなやつですよね?」

東野はルームサービスの冊子にある写真をチナツに見せる。サンドイッチやトースト、ミニバーガーのような軽食の欄の並びにあった。

 

その言葉を聞くと食い気味にチナツが言う。

「パニーニとサンドイッチは違う。広い意味ではサンドイッチだけど、イタリアでは調味料は使わず具材だけを挟んで、それをパニーニと言うんだ。」

 

「へぇ、そうなんですね。」

 

「このシーフドパニーニは美味しそうだな、私はこれにする。」

 

「そうしたら、私はこっちのトマトレタスの普通のやつにしてみましょう。」

 

 

東野はパタンと冊子を閉じ机の上へ置く。食事を食べたい、美味しそうと思えるのも心の余裕や安寧があってこそ。心のなかで良かったと思いつつ内線電話に手をかけようとした時に部屋の扉がノックされた。

 

東野は電話に伸ばした手を引っ込めドアの方を向く。

 

「ルームサービスです。昼食をお持ちしましたぁ。」

扉の外から男の声が聞こえた。

 

東野とチナツは顔を見合わせた。チナツの顔は柔らかさを失っており、その目は東野の顔ではなくその奥の扉に焦点が合い睨みつけていた。

まだ頼んでない昼食が来るなど当たり前におかしい。ここのホテルはルームサービスを頼んでから、昼食ならば大体30分弱で運んできてくれる。

 

東野は音を立てないようにゆっくりと扉まで近づき、扉にあるドアスコープで外の様子を確認する。しかし、手か指でふさがれているのか真っ暗だった。

 

「昼食をお持ちしましたぁ、お客様ぁ??」

ドンドンドンと扉をノックする音が激しくなる。

 

東野はチナツの元へ戻り小声で話しかける。

「チナツちゃん、どうやら不審な奴が――」

 

「わかってる、多分殺し屋だ。」

 

「元殺し屋に指し向ける殺し屋ですか…」

 

「東野、お前は知らなくて当然だな。依頼を請け負った殺し屋が他の殺し屋に狙われることがある、主にクライアントが情報漏洩を恐れて関係したやつらを殺すんだ。依頼を失敗しても成功してもあること。」

 

チナツはベットから降り靴をはく。

「今までも何回かあった、全員殺したけど。ついでに依頼主も。」

靴をトントンとはき直したあと、軽くジャンプをする。

「ちょっと筋肉が落ちたかな…?ま、大丈夫か。」

 

東野は少し呆気に取られていたが、チナツが何かしらの準備を始めたのを見て我に返る。

「チナツちゃん、あなたはまだPTSDの治療中です、ですから。」

 

「今、東野だけでこの危機を脱する方法は無い、だろう?」

チナツは東野の言葉を遮る。チナツが言ったことは東野自身も理解している。

 

「えぇ、そのとおりです。しかしながら、チナツちゃんを危険に晒すわけにもいかないのです。私はあなたと約束した、治療すると、助けると。」

 

「酷い矛盾だ。」

「東野、お前はバカだな。」

チナツは、フッと息を漏らすように笑い東野の顔を見る。

 

扉が激しく叩かれる。ルームサービスですとの声もなく、もはや正体を隠す気はないらしい。

 

チナツが笑いながら言ったことを聞くと東野も笑いながら言う。

「よく言われます。」

 

「今は私がお前を助けてやる。」

 

「そうなったら話は別ですね、治療は一時中断といきましょう。」

東野は内線電話の受話器を手に取りココ達がいる大部屋へダイヤルする。ココには予め、内線がかかってきてこちらが何も応答しなければ緊急事態なので駆けつけてきてほしいとお願いした。しかし、過ごしている棟も階も違うので応援が来るまでは時間がかかる。

 

「こちらから積極的に仕掛けるのは危険でしょう。ドアを蹴破られて、迎撃といった形がいいと思います。」

 

「うん、賛成。」

 

東野はメディカルバックをあさりチナツが前に持ち出した医療用メスを取り出し渡す。

「銃器はありませんから武器はこれくらいですね。」

「なにもないよりマシ。」

 

「あとは…」

消毒用アルコール、目潰しくらいにはなるだろう。局部麻酔薬、ガーゼ、止血帯、止血剤は念の為いくつかポケットに突っ込む。ついでに簡易縫合キットと持針器も入れる。

 

「少なくとも相手は2人以上いる、油断するな。」

「バスルームに隠れるんだ。扉の前には立つなよ。」

 

「わかりました。」

 

二人がベットが置いてある部屋からバスルームの方へ静かに移動し扉を閉める。

しばらくすると扉をノックする音が止み、なにか話をする声が2枚の扉越しにかすかに聞こえた。

 

「やっぱり、2人以上いるな奴らがここのドアを開けたら―――」

 

チナツがそう言いかけた途端、銃声がする。そして、ドアを蹴り破ろうとしているのかドカンドカンと鈍い音が続く。

 

「ショットガンだ。蝶番か鍵を壊して入ってくるぞ。多分、銃声的にベネリM2。」

 

「銃声だけでわかるんですね…」

 

「まあね。東野、お前銃は撃てるのか?」

 

「撃てます、使い方もわかります。でも、腕にはあまり期待しないでください。」

 

「大丈夫、期待してない。」

 

そんな軽口を叩いているとドアの鍵が破壊され扉がギィーと音を立てながら開く。

 

二人が目を合わせるとチナツが口の前で人差し指を立て「静かにしろ」と東野に合図する。それを見た東野も頷き壁を背に様子を伺う。

 

(あぁ??いねぇじゃねえかよ。本当にこの部屋であってんのか?)

 

(間違いねぇよ、ここであってる。探すぞ。)

 

(探すったってこんなクソ狭い部屋のどこにいるってんだ。

 おーい、殺し屋チャーーン出ておいで~楽に死なせてやるからよ

 ギャハハハハハハ!!!)

 

扉越しに男二人が会話する声が聞こえ、クローゼットの扉を開け締めする音も聞こえた。

 

 

(いねえじゃねえか!!!とっとと出てこいや!!!コラァ!!!)

男はまたベネリM2をどこかしらに向けて撃った。

 

(うるせぇ。喚くな。)

 

ショットガンを持っていないと思われる方の男が入り口に近づく足音が聞こえ、バスルームの扉の前で止まる。

そして、バスルームの扉のノブに手を掛け、回し扉を押し、開く。

 

チナツと東野はドアの影になる場所にいるので男からは丁度良く見えていない。

 

 

そして男がバスルームに反対側に入り振り向いた途端

 

チナツがその目を見開き、有無を言わさずメスを喉元めがけ突き刺した後に横に薙ぎ払い頸動脈を切り裂く、声を出されないように左手で口を抑える。そして倒れて音が出ないように左手でしっかりと支えてる。男の首元からは鮮血が噴き出している。

 

「…ッコッフ…!!ホッフ…!!」

 

男は一瞬何が起こったのかわからず声を上げる。右手に持つUZIを上げ引き金を引こうとするも大量出血により意識を失い腕がダランと下り全身の力が抜ける。

 

(頸動脈からの動脈性出血…噴出性だ…しかも位置的に総頸動脈にが切れている…

 これは…助からない…)

 

東野はチナツが精確に急所を狙い男を音もなく殺したことに恐怖した。

 

チナツは鮮血に染まった左手をゆっくりと下ろし、男を床に下ろすと右手でUZIを持つ。

そして、扉の外を指差し東野にもう一人が来ると合図を送る。

 

(おい、どうした。誰もいねぇだろ。ッたく、ふざけんじゃねぇ。)

 

もう一人の男がバスルームの方に向かう。

 

「おい、返事しろ。」

 

空いた扉を覗くと仲間が血溜まりの中に倒れているのとチナツが見える。

 

「テメェ!!やりやがっ―――」

 

男が吠えベネリM2を撃つのより早くチナツはUZIで相手の右肩辺りを撃ち抜く。男が怯んでいる間に東野が扉の後ろから飛び出たベネリM2を蹴り飛ばし、左手で男の右胸辺りを押し右手は男の左膝裏を取りそのまま引き上げ朽木倒しの要領で男を押し倒す。それほど大柄ではないので割りと簡単に倒れてくれた。

倒れた男の上に乗り素早く腕を取ると腕緘で男を制する。

 

「暴れると肘が外れますよ。」

 

「この野郎ッッ!!!離せッ!!痛えんだよ!!!!」

 

「離しません。」

と言うと東野はさらに肘を極める。

 

「イダダダダダダダダッッ!!!」

 

「東野やりすぎだ。話ができない。」

「あ、すみません。」

 

チナツはUZIを殺し屋の男に向け質問を始める。

 

「おい、誰に雇われた。仲間はこの男だけか。」

 

「ハッ、そんなこと言うと思ってんのか。」

 

それを聞いたチナツは何も言わず問答無用で殺し屋の左太ももをUZIで撃つ。

 

(危ないっ……!!)

殺し屋の上半身に覆いかぶさるように腕を極めているが弾丸が割りと近くを通ったので東野はちょっとびっくりした。

 

「もう一回やるか?」

 

「ふざけんじゃねぇ!!!!

 お前らが依頼の殺し屋オーケストラかッ!オラッ!!離せコラッッ!!!!」

 

男はもがくが東野が体重をかけ上半身を制し肘も極めているので脚だけをジタバタさせている。

 

「生きのイイ奴だな。」

「もう一度聞く、雇い主は誰だ。他に仲間はいるのか。」

 

男は数秒の沈黙の後、口を開く。

 

「オラッ、殺れよ!!そんな根性もねぇのかお嬢ちゃ―――」

 

その言葉を言い終える前にチナツは男の腹に向けてUZIをフルオート連射し撃ち切った。

 

(危ないですって……!!)

東野は顔に多少熱を感じそう思った。

 

床に伏している男はうめき声を上げながら身体を震わせる。

そして10秒も経たないうちに力が抜け腕が東野の手のひらからスルリと抜けた。

 

「チ、チナツちゃん…何もそこまで…」

「甘ったれたことを言うな東野、こいつから情報は得られない。

こいつを殺さないと私達が危ないぞ。お前ならわかってるだろう?」

 

そこ言葉に押し黙った。わかっていたとしてと自分の良心と医師という立場がそうさせなかった。人と自分を救うには人を殺める覚悟も必要なのはわかっていた。

が、積極的にそれをするのは心が拒むのだ。

 

「えぇ、わかっていますが…」

 

「わかっているなら動け。

 東野、お前は私を命を懸けで守ったろう。

 同じことだよ。」

 

「そうでしょうか…」

 

東野が死んだ男を見つめる顔を見たチナツは少し笑いながら言う。

 

「フフッ、お前意外と繊細だな。もっと図太い奴だと思ってた。」

 

「人の命を救う医者ですから、あまりこういうことは好きではありません。

 けど、チナツちゃんは救いましょう。」

 

東野は立ち上がる。

 

「私がそのサブマシンガンを持ちましょう。チナツちゃんはこの人のショットガンがいいと思います。

 ショットガン撃ったことないので、私。」

 

「うん、そうしよう。」

 

チナツはそう言うと男の装備を漁り始める。

 

「おっ、いい物もってるじゃないか。」

チナツはベネリM2を持ち男が身につけていたシェルホルダーを外し自分につける。腰に挿していたM9もホルダーごと取り身につける。

 

東野も浴室に倒れた男が持っていた予備弾倉を取ると白衣のポケットに突っ込む。それ以外は特に無かった。

部屋の奥に戻りメディカルバックを肩に担ぎ、バックが背中に密着するようベルトを短く調節し走っても揺れないようにした。

 

「私が予想するに懸賞金みたいな感じで依頼をバラ撒いたんだろうな。私を殺したやつに報酬を払うって感じに。

 部屋から出たらまた殺し屋が来るかもしれないから気をつけろ。」

 

「わかりました。

 レームさんたちと合流するのを優先したいですね。ここから別棟でどういうルートで来るかわかりませんがこちらから出来る限り近付きましょう。」

 

「あのおっさんか…まぁいい…

 ちゃんと援護しろよ。」

 

「得意ですよ、そういうの。」

 

互いに部屋の外を出るのに左右を確認し敵はいないと合図を出す。

 

「別棟はこちらです、行きましょう。」

 

「うん、わかった。」

 

二人は血の海になっている部屋を後にし小走りになりながらエレベーターラウンジへと向かった。

 




どうも作者の伯方のお茶です。

まさかこんなに投稿期間が開くとは思ってもおりませんでした…

2年前って嘘でしょう…!!!??????
リアルが忙しすぎて少しずつしか書き進められないというか、そもそも書く時間が無く、構想が浮かびませんでした…

そして、皆様がこのような作品を待っていてくれると思うと感謝の念しか出ません。

本当にありがとうございます。

恥ずかしながら自分語りをしますと、私も携帯小説を読んで、しおりが挟んである小説が2,3年と更新されていないのにある日突然更新が再開され驚きの気持ちがあがってきました。
皆様にそのような思いをさせていると思うと辛い限りです…

なるべくこれからは更新速度をあげますのでよろしくお願いします!!!!!!!!

では!!!!!!!!!!!!!!!!!!
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