ヨルムンガンド ChiNaTsu, She Can Stain Her Life.   作:伯方のお茶

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第二話

G国北部難民キャンプ内

 

「最近はやっとこの近辺も落ち着いて来ましたね~。」

 

20代後半から30代前半程の年齢の男。

黒色のズボンにスニーカー、緑色のTシャツを着ておりその上から白衣を着ている。

背格好は細くもなく大きくもなく、普通といったところ。

顔は東洋系の顔立ちで銀縁眼鏡をかけており、顔も普通。

アフリカにいるせいか肌は若干日焼けしている。

 

彼は難民キャンプの医療テント内に置いてある椅子に座っており、

飲んでいたミネラルウォーターのペットボトルの蓋を締め横の机の上に置く。

 

話し相手は警備兵で顔なじみになっているらしい。

警備兵の名前はモハメド・ハッダという。

 

「1年前はてんてこ舞いでしたよね。モハメドさん達も私達も大変でした。」

 

「いやはや本当に。

 難民の増加、治安の悪化、物資不足、多くの問題がありましたがだいぶ安定してきまた。

 ドクター達のご活躍もありましたからね。

 私の若い頃とは見違える様です。」

 

「いやいや、私達の活躍なんてほんの微々たるものです。

 警備兵の方のご活躍で私達が安心して人々を助けられるのですから。」

 

「そう言われますと照れますなぁ、ハハハ」

モハメドが笑うと白衣を着た男も笑う。

 

「あぁ、そういえばモハメドさん。

 今日の午後に記者の方が取材に来るらしいのでよろしくおねがいしますね。」

 

「わかりました。人数や会社などは伺っておりますか?」

 

「どうやらフリーの女性記者ということは聞いてます…。

 詳しい時間も聞いてないですが、安全上の問題ですかね。

 いつもどおり、ボディチェックと武器の一時保管等お願いします。」

 

「わかりました、我々にお任せください。」

 

「では、また後ほど。」

テントから出てゆくモハメド警備兵を見送ると男は机に向き医療品在庫リストに目を通す。まだ余裕はある。

ここに来て2年。最初に比べれば物資も環境も良くなってきた。

 

G国北部難民キャンプは難民たちが流動的に動きやすく、人が入ってきては出て行く。

現在の規模としては中小程で人数は150人といったところか。

 

国際NGO「アフリカ地域医療支援団」略称、AAMST(Africa Area Medical Support Team)

その一員である医師、東野 達(ひがしの たつ)は再びミネラルウォーターを飲む。

 

東野はこの難民キャンプの代表者的なものでAAMSTから数年おきに彼のような医師が派遣される。

1年前は東野以外にも医師が派遣されていたが現在は東野のみで医療支援をしている。

初めは人の流れと同時に発生する伝染病に悩まされたが現在はある程度は解消された。

今の主な仕事といえば怪我の治療、ワクチン接種、大きな怪我をしている人の応急処置と病院への搬送等だ。

 

東野は在庫リストを机の上に戻し腕時計を見る。そろそろ昼くらいだ。

難民キャンプの巡回を行うためにテントを出る。コミュニケーションは信頼関係を作るのに重要だ。

 

「今日も暑っついなぁ」

 

アフリカの太陽は空のド真ん中で人も、地も焦がしている。

 

―――――――――

 

「ココ、難民キャンプの近くに着きました。

 今は近くの喫茶店で待機してます。」

 

「オッケー。そうしたらバルメ、記者としてキャンプに入ったら適当に取材をしてG国担当官と接触して。」

 

「わかりました、担当官の顔はバッチリ覚えています。」

 

「担当官に会ったら、ファイルの中に入れてある日時と場所が書いてあるメモ用紙を渡して。

 スペイン語で書いてあるから警備兵がもし見ても解読は出来ないから大丈夫だと思う。

 もし、読まれたとしても次のアポとか適当にごまかして。」

バルメはカバンの中に入れてあるファイルからメモ用紙を確認する。

それ以外にもダミーとして適当な新聞の切り貼りや、インタビューのメモのような物を入れてある。

 

「そのつもりです。

 ちなみに、この日時と場所には誰が行くのですか?」

 

「次はトージョに行ってもらうよー。

 私が電話で対応しながら交渉する。そうすれば、直接出向かなくても交渉は出来るからね。」

 

「今回はかなり慎重ですね。」

 

「まぁねん、K国に喧嘩売りたくないし、

 喧嘩を売ると商品が売れなくなっちゃうからね!」

 

「フフッ、今のジョーク面白いです!」

 

「ありがと、それじゃバルメ気を付けてね。」

 

「おっまかせください!ココ!」

通話が終了しバルメはイリジウム衛星携帯電話をカバンへしまう。

 

太陽は容赦なく照り続ける。

連日天気がよく、日差しも肌を刺すようだ。

ココが「もー!顔も腕も足も!まっかっかになっちゃうよぉー!」と言っていたのを思い出し口元がほころぶ。

 

それもつかの間、風も吹かない暑さの中バルメは思い出す。

 

(しかし、いつでも暑いですねこの国…いや、この大陸は。)

テーブルの上にあるアイスコーヒーの氷は半分も残っていない。

バルメはアイスコーヒーを取り口元へ運ぶ。

コーヒーの苦味と共に喉が潤される。

 

今は昔のことを思い出してる時ではない、今からすることに集中しなければと思考を切り替える。

 

(記者として偽っているので銃やナイフが持てないのは少し心もとないですが、

 この地域も以前に聞くよりも大分落ち着いたみたいですね。ありがたいです。)

アイスコーヒーのグラスをテーブルに置く。

 

戦闘が起きそうなときは真っ先に逃げるようにココから言われている。

HCLI社がその戦闘に関与していないということも隠さなければならない。

また、そうしないと記者としてのふるまいとしておかしい。

 

今のバルメは記者らしく首からカメラを下げ「PRESS」と書かれている青いキャップをかぶっている。

防弾ベストではないが青い普通のベストを着用しこちらにも背中と左胸に「PRESS」と書かれている。

さながら眼帯の女性戦場記者、メリー・コルヴィンの様だ。

 

PRESSとしての身分証明書、パスポートも偽造した物をココが用意した。

ボディチェックや身分証明書の確認を受ける可能性は高い。NGO団体が入っているなら尚更だ。

今のバルメの名前はエリナ・コルホネンとなっている。

フィンランド人ならどこにでもいる名前にしたほうが良いとバルメも助言をした。

怪しまれることは無いだろう。

 

腕時計を見ると午後一時過ぎと針が示している。

 

(午後からの取材と伝えてありますから、そろそろ行きますか。)

 

席を立ち上がり、カバンを背負い、足を目的地へ向かわせる。

 

――――――

 

バルメとの通話が終わる。

G国首都近くのホテルの一室。ココ・ヘクマティアルが椅子に座っている。

 

他のメンバーは自由時間だ。きっと昼食にでも行っているだろう。

 

レームが部屋に入ってくる。

「今から作戦開始か、ココ?」

 

衛星携帯電話を机に置きレームの方に向き直す。

「そうだよー、レームはご飯食べに行かないの?」

 

レームはココが座っている椅子の席に座り、タバコに火をつける。

「もう食ったよ。

 それでバルメの方はどうなんだ?」

 

「レームがバルメの心配なんて珍しいじゃない。」

 

「おいおい、俺だって仲間の心配ぐらいするぜぇ?」

 

「バルメなら大丈夫。

 今からキャンプに向かうみたい。暗くなる前に帰ってくるよ。」

 

「そうか。」

タバコを呑み、息をフッと吐き出すと紫煙が彼の前で渦を巻く。

 

「何か言いたげだね、レーム」

 

「いーや、大したことじゃねぇさ。

 アイツもアフリカだと思い出すこともあるだろうと思ってな。」

 

「そうだね。」

 

少し間が空きレームが言う。

「ココ。飯は食ったのか?」

 

「まだ食べてないよ。」

 

「じゃあ、外に行って何か食いに行こうぜ。」

 

「あれ?レームはもう食べたんじゃないの?」

 

「早めに食べたから腹が減っちまった。

 何か、軽く食べたいんだ。」

 

「そっか。そしたら行こっか。」

 

「あいよ。」

二人は立ち上がり部屋を後にする。

エレベータでエントランスまで降り、ホテルを出ると熱風が駆け抜ける。

 

「あづい!!!!」

 

「いや、本当に暑いなこの国は」

 

「よし、暑さに負けないようにガッツリ食べるぞ~!

 ステーキだ!ステーーーキ!」

 

「えぇ~、俺そんなに食えねぇよ。」

 

「フレンチポテトでも食べてなさい!」

 

「ハハッ、そうするか。」

 

街へ行く、燃え盛るアスファルトの上を歩いて。


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