ヨルムンガンド ChiNaTsu, She Can Stain Her Life. 作:伯方のお茶
バルメの前からG国担当官が歩いてくる。
東野は不審がる様子もなくあちらこちらと指差しキャンプの説明している。
「あっ、っとっと…」
バルメはすれ違う直前に左手に持っていたファイルを落とす。中に入っている紙があたりに散らばる。
「あぁ、大丈夫ですかエリナさん。」
東野が説明をやめて紙を拾うのを手伝う。
「すみません、手が滑ってしましました。」
「ドクター、自分も手伝いましょう。」
G国担当官も紙を拾うのを手伝う。バルメが思っていた通りの展開だ。バルメは担当官に対して言う。
「どうもありがとうございます。」
散らばった紙を拾いファイルに入れ終わると、バルメはG国担当官と握手をする。
「ありがとうございました、お体に気を付けてください」
「えぇ、こちらこそ、お気をつけて。」
バルメと担当官が握手をし終わるのを見ると東野が言う。
「では、エリナさん行きましょうか。」
バルメはG国担当官と握手するときに、ココからもらったメモを手に忍ばせそれから握手をした。
ファイルを落としたとき手に忍ばせたのだ。
相手へ確実にメモを握らせそれから離れた。自分の手の中に入っていたメモはしっかりと相手に渡せた。
そうすればもうここに長居する意味はない。東野の説明が終わり、医療テントに戻ったらキャンプを後にするだけだ。
バルメは東野の説明に適当に相づちを打ち、適当にメモを書きながらついて行く。
40分程歩き回ると説明を終え医療テントに戻ってくる。
「キャンプ内の説明は以上ですね~、何か他にありますか?」
「大丈夫です。ドクターの説明で大方わかりました。
後はこちらで記事にいたします。本日はありがとうございます。」
「いえいえ、こちらこそ」
バルメが立ち上がる前に東野がバルメを呼び止める。
「あ、こちらから質問よろしいですか?」
「えぇ、もちろんです。」
何を質問するのか想像がつかないが、断ると怪しまれる。バルメは笑顔で対応する。
東野は背もたれから体を離し膝にひじを付き、手を口の前で組むと下から見上げるようにバルメに言う。
「あなた、本当に記者ですか?」
予想していない質問が飛んできた。何故この能天気な医者がそんなことを質問したのかわからない。
バルメは少し驚くが直ぐに質問に答える。
「はい、そうですが…」
「そうですかぁ?少し疑問に思う点があるんですよねぇ。」
東野はバルメが答えた後に間髪入れずに言う。
朗らかな喋り口がいきなりネチネチと相手を縛り付けるようなものに変わったとバルメは思う。
「まず、最初に私が一人ですか?と聞いたときに一人ですと答えたのが怪しかったんですよねぇ。
ここらへんの治安が良くなってきたとはいえ護衛というか、ボディガードがいないのはおかしいんですよ。土地勘もない人間がこのあたりを歩くのはまだ危険ですし。」
「…」
バルメは何も言わずに東野の言うことを聞く。
「あと、アポを取り方も若干不自然だったんですよね。私の方に直接連絡が来たんです。AAMSTからの連絡無しに。
私への連絡とAAMSTからの連絡両方ってのはあるんですが、私だけへの連絡ってのは不自然なんですよねぇ。
AAMSTに聞いたらそのような取材依頼は聞いていないと返ってきましたし。
多分、公的に取材した後を残したくない理由でもあるんですかね。」
東野は淡々と事実と自分の意見を述べる。先程の話の方向がわからずに話す話し方とは全く違う喋り口だ。
「あと、エリナさん。あなたの体つきは一般人それじゃない。
筋力トレーニングと実際に体を動かして付いた筋肉です。
そして、1つのスポーツをやっていた筋肉の付き方ではないです。どちらかと言うと何か重いものを運んだり長距離を歩く、複合的な動作が求められ、その結果としての体付きですね。」
バルメは何も言わないが、内心焦っている。この男は何も考えていない様に見えた。ただの平和主義者の医者かと思っていた。。
しかし、この男はのほほんとした顔の下に冷静な観察眼と洞察力を隠している。
この場を切り抜ける言葉を考える必要があるとバルメは色々と考える。
自分の考えさえ見抜かれているかという思いさえある。
東野は続ける。
「私の予想ですが軍人に近い職種。正規軍人ではない。正規軍ならこんなめんどくさいことはしない。
どこかの会社のPMCでもない。PMCも諜報活動はしない。彼らは銃を握るのが仕事です。
あなたは個人の兵士、私兵でしょう。身辺警護をしてその他色々なこともする。」
「い、いえ、私はただの記者です。ドクター、あなたの考え過ぎです。」
東野の予想は的中した。バルメは返す言葉が見つからない。
「では何故、私がこんなことを言うかおわかりですか。
こんなことを言わずにあなたを素直に返したほうが安全でしょう?」
「…」
確かにそうだとバルメは思う、東野がこれを言うメリットは無い。
「私はあなたのしていることに興味がある。それだけです。
好奇心です、好奇心!」
東野は体を起こしニコリと笑う。
「は、はい?」
バルメははたまた予想外の言葉に驚いた。答える声が上ずってしまった。
金銭の要求や情報の提供をしろと言われると思ったからだ。
「ん?そのままです、好奇心ですよ!」
東野は目をキラキラさせながら言う。
「私兵ですか?傭兵ですか?カッコいいじゃないですか!まるで映画やマンガみたいです!
こういう人にあったこと無いので話を聞いてみたんですよ!」
バルメは東野の喋り方が誰かに似ていると思う。
(この人、話し方や表情の様子が…キャスパーさんに似ています…)
違う、今重要なのはそんなことではない。
(そうではなくて、この状況をどう切り抜けるか、です。)
「いえ、ですから私は一介の記者です。
私兵や傭兵なんてそんなものではありません。」
「そうですかぁ?間違っていないと思うんですけどねぇ。」
「先程も言いましたが、あなたの考え過ぎです。
日が落ちてしまいますのでそろそろ失礼してもよろしいでしょうか?」
「はい、もちろんです。帰り道お気をつけて。」
カバンを背負い、バルメは医療テントを後にする。
バルメが出ていった後に東野は白衣のポケットから一枚の紙を取り出す。
「間違いないんですけどねぇ。」
その紙にはスペイン語で日時、場所が書いてある。
G国首都近郊のホテル、次の土曜日の午前10時。
バルメがG国担当官に渡すはずだったメモ用紙である。
東野はバルメがファイルを落としたときにこの紙を見つけ、自分の手の中に入れた。これだけスペイン語で書いてあったので不思議に思ったのだ。バルメが渡してしまったのは自分で用意しておいたダミーであった、これは英語で書いてある。
「整理整頓は重要ですね~。」
メモ用紙を散らかった机の上に置く。
「さてと、一服しますかぁ」
テントの外に出て、胸ポケットからタバコを取り出し口にくわえると火をつける。
日が傾いてそろそろ夕暮れになるアフリカの空へ、白い煙が消えてゆく。
――――――
バルメは難民キャンプを後にして仲間いるのホテルに到着した。
「ただいま戻りました。」
みんな集まっておりそれぞれにおかえりやお疲れ様と言う。
「お疲れ様、バルメ」
ココがバルメに言う。
「ありがとうございます。」
「メモは渡せた?」
「えぇ、バッチリです。」
「オッケー
そうだ、やっぱり交渉は私も行くことにしたの。
あと、トージョじゃなくてバルメについてきてもらうことにするね。」
「そうなんですか?」
「バルメは相手の顔を見てるし、相手も顔を少しでも見てると思うから
その方がお互いにわかりやすいと思って。」
「ココがそう言うならそうしましょう。」
ココがうなずくと振り返り大きな声でいう。
「よし、諸君!バルメが返ってきた!
夕飯だ!」
「は~い」
皆が移動し始める。
移動しながらバルメが今日あったことをココに言う。
東野という医者が居て、その医者が自分を私兵だと当てたこと、キャスパーのようだったこと。
「フフっ、なぁにその人、会ってみたい。」
「なかなかに変な人でしたよ」
日が落ちて薄暗くなったアフリカの街へ皆が行く。
どうも作者の伯方のお茶です。
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