ヨルムンガンド ChiNaTsu, She Can Stain Her Life.   作:伯方のお茶

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第五話

「そろそろ時間だね。」

 

「そうですね。」

 

G国首都近郊のホテルのロビーにココとバルメは入り口からではすぐに見えない場所に座っている。

ココはいつもの白いスーツ、バルメも白いYシャツとパンツスーツを着ている。

現在時刻9時45分、予定ではG国担当官が10時に来るはずだ。

 

少し時間が経ちホテルのドアが開く。

「あぁ~、涼しい!今日も暑いなぁ。」

白衣を着た男、東野がのうのうと入ってくる。

前と同じく黒いズボンにスニーカー、今日は青いTシャツを着ており、トレードマークの白衣をその上から着ている。

 

「ココ、あの男!ココに話した、難民キャンプの医者ですよ!

 なんでこんな所に!」

バルメはココに小さな声で言うと指をさす。

ココはゆっくりとバルメが指さした東野の方を見る。

ちょうど背中を向けていて東野はまだココたちを見つけていない。

 

「ココ、どうします?」

「このままで大丈夫。」

 

東野が振り返り少しあたりを見渡すとバルメを見つける。

 

「あっ、エリナさんじゃないですか!お久しぶりです!」

東野はそう言うと、笑顔でココとバルメの方に近づく。

 

「止まれ、医者。」

ココが立ち上がり低い声で言う。

 

「医者というのは私のことですね?」

東野は立ち止まり言い顔が無表情になる。

 

「何故、ここに来た。」

 

「そこのエリナ・コルホネンさんが落としたこのメモを見つけましてね。」

東野はポケットからメモ用紙を取り出し、ひらひらと振る。

「何か大切な用事かと思いまして、これを届けに来たんですよ。」

 

「それは必要ない。とっとと帰るんだ。」

 

「必要がない?何故あなたがわかるんですか?

 あぁ、あなたエリナさんの雇い主さんですか。」

 

「これ以上私に言わせるな、帰れ。」

怒りの感情をのせてココは東野に言う。

 

「まぁまぁ、別に争いに来たわけじゃないですから。丸腰ですし、安心してください。

 あなた達に言うこともあります。」

東野は少し口元を緩めながら言う。

 

「なんだと?」

 

「とりあえず、そっちに行ってもいいですか?

 結構歩いて足が痛いんで座りたいんです。」

東野はそういうが答えを待たずココの方へ向かう。

 

「待て、医者。」

バルメは東野を止めると、バルメに言う。

「トージョを呼んで来て」

「わかりました、すぐに行きます。」

 

ココはこの医者が日本人だとわかったのでトージョを呼んで欲しいとバルメに言った。

流暢に英語を話しているが所々に日本語訛りが聞こえる。

自分も日本語は話せる。まだこの医者が日本人という確証は無いが、同じ国籍の人間が居たほうが良いだろうと直感的に思ったのだ。

 

1分程でバルメがトージョを連れてくる。

「なんだよ、その日本人医者ってのはよ。

 俺に関係あんの?」

「ココが連れてこいといったので付いてきてください!」

そう言いながらトージョとバルメがロビーにやってくる。

 

トージョがココの横に来ると小声でいう。

「んで、ココさん。こいつがその日本人医者なの?」

 

「そうだよ、トージョ。」

 

「俺に何しろってのさ、ココさんだって日本語話せるでしょ?」

 

「話せるが日本人特有の会話の間とか細かい言い回しは少し自信がない。

 私はビジネストークがメインだからね。」

 

「そういうことなら、わかりましたよ。

 つか、普通に英語で話せばいいんじゃん。」

 

その言葉にバルメが反応する。

「トージョ?ココの言うことに楯突くつもりですか?

 いい度胸ですね。」

 

「はい!はい!喜んでやらせていただきます!」

トージョはそう言って手を上げる。

 

(あれ、私、置いてきぼりじゃないですか…?)

東野は内心そんなことを思った。

 

「座りな」

トージョが促すと東野は向かい側のソファに座る。

 

トージョが日本語で東野に言う。

「んで、あんた。

 日本人の医者なの?つか、どっから来たの?

 難民キャンプから?」

 

それを聞き東野も日本語で答える。

「日本人の医者ですよ。

 あなたがおっしゃる難民キャンプから来ました。」

 

「なんでここに来た?

 金か?医者って儲かるんじゃないの?」

 

「そこにいるエリナさんには軽く話しましたが、

 好奇心ですよ、好奇心!」

 

「はぁ?何いってんの?」

(エリナってアネゴのことか…名前は隠してるのか…)

 

「そのままの意味です。

 単純な好奇心、猫どころか自分を殺してしまうかもしれない好奇心。

 エリナさんが私兵だとわかってどんなことをしているのか気になった。

 それを知りたいと思った。それだけですよ。」

 

「なるほどね。」

トージョは背もたれに寄りかかるとメガネを上げる。

 

(どうやら、この怪しげな医者が言ってることはあながち嘘じゃねぇな。

本当に好奇心だけでここに来たんだろう。

さっきアネゴから聞いたメモを渡しに来たってのは、ただのお人好しかもな…)

メモはたまたま拾ったのではなく、自分が能動的に取ったものだがそんなことはトージョは知らない。

バルメもココも知らない。

 

「そういえばあなた方の名前も何も伺ってませんでしたね。」

東野がそういう。

 

「名を名乗るなら自分から。日本人だろう、医者。」

ココが日本語でそういう。

 

「これは失礼、日本語話せたんですね。

 私はアフリカ地域医療支援団、AAMSTの医師。名前は東野 達といいます。おわかりの通り日本人です。

 よろしくおねがいします。」

東野が軽く頭を下げる。

 

ココは日本語から英語に言葉を変える。もう、この男の言うことの大枠はつかめたつもりだ。

「私はH&C Logistics Incorporatedのココ・ヘクマティアルだ。」

ココは組んでいる足を逆に組み直す。会釈などしない、する意味がない。

 

東野も英語で返答する。

「HCIL社、海運の巨匠 フロイド・ヘクマティアルが経営している武器運送会社。

 なるほどぉ、あなた方は武器商人だったのですか。」

 

「そうだ、我々は武器商人。

 お前ら医者が忌み嫌う人種の一人。

 わかったならとっとと帰るんだな。」

 

「医者は武器商人を忌み嫌っているんですか…?」

 

「私達武器商人は武器を売り、戦争の手助けをしている。

 お前ら医者は人助けが仕事、私達武器商人は人を殺す手助けが仕事。

 相容れるわけ無い。

 まぁ、我々の商品がある限りお前ら医者の仕事が減らないのだから、

 むしろ、武器商人に感謝するべきだ。」

ココは若干顎を引き下から睨みつけるように言う。

 

「は、はぁ、まぁおっしゃる通りかもしれません…

 確かに大方の医者はあなた方のような人たちを嫌うでしょうが、私には至極どうでもいいことです。」

東野はココから目を離さずに、特に物怖じした雰囲気もなく答える。

 

「何故だ?お前も医者だろう?」

 

「武器を手に取って戦うのは個人の勝手ですよ。そんなことまで私は口出ししません。

 私は平和活動家ではありません、武器によってもたらされる平和もありますからね。

 しかし、私も医師という職業である以上、目の前の救える命を救う努力は最大限惜しみません。

 その生命が、どの国の人間か、どんな身分か、どんな思想かはどうでもいい。

 私は自分自身の指名を果たす、それだけです。

 そしてあなた方は私達と同じ様に平等に兵器を売りさばく。

 あなたは医者が武器商人を嫌うと言っていましたが、考え方によっては意外と似た者同士かもしれませんよ。」

 

ココはバルメからこの東野という医者がキャスパーに似ていると聞いたが、確かに似ている気がすると思った。

しかし、キャスパーが持つ負の狂気ではなく正の狂気を感じた。

東野は自分は平和活動家では無いと言ってはいるが、この男は平和を望んでいる。

武器を手に取り戦うのは自由、その言葉に性善説として人間の可能性を見出したいのだろう。

 

「そうだろうか、私はそうは思わないな。」

 

「ヘクマティアルさんがそう思わるのもの、個人の自由ですよ。」

東野がにこやかに答える。

少し間をおいて東野が言う。

 

「あぁ、そうです。

 エリナさんこのメモ落とされましたよ。」

ポケットから再度メモ用紙を取り出し裏側にして机の上に置く。

バルメは何も言わずにそのメモ用紙を見つめる。

 

「あなたがファイルを落としたときに拾いそびれたものです。」

 

「私が拾いそびれるなんてそんなことは…」

 

「あの男の人に用事があったのでしょう。

 あの人はナビルさん、確かG国の軍事関連の高官でしょう?」

 

「何故それを知っている。」

ココが少し驚いた声で言う。

 

「私があの難民キャンプに派遣されたときに政府の方達数名が挨拶にいらっしゃいまして、

 そのときに軍の司令官の横にいて、司令官から名前を伺ったのを覚えていました。」

 

「エリナさんが―――」

 

「ドクター、私はバルメと呼ばれています。

 エリナは偽名です。その名前で呼ばれると違和感があるので普通に呼んでください。」

いつもより声のトーンが下がり気味な声でバルメが言う。

 

「そうだ、彼女はバルメと呼ばれている。

 そう呼んで構わない。」

ココも続けていう。

 

「そうですか、ならそうします。

 エリ…バルメさんが取材に1週間程前に高官のナビルさんがキャンプに入ってきました。

 もっともそれらしい格好でですが。

 相手方は私の顔など忘れてしまっていたようですが、私は覚えていました。」

 

東野は足を組み、背もたれにより掛かる。

「その夜にナビルさんが、まぁ、話しているのをたまたま聞きましてね

 どうやら他の軍幹部と連絡を取っていました。

 内容を要約すると…」

 

「彼らはG国でクーデターを企ていたんですよ」

 

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