差出人は、悪友であり親友――――岡崎朋也。
お相手の名前は黒く塗りつぶしてある。
岡崎の野郎っ!!
これは、春原陽平が友を祝う日を綴った物語。
SHUFFLE!が15周年ならCLANNADも15周年じゃないかなと思い、こちらもアルカディアさんに昔投稿したものを引っ張り出してきました。
麻枝さんの日記を原案に書き起こした小説です。
CLANNADに栄光あれ!
夜行バスの車内、ぼうっとしながら窓の外を見た。
もちろん外は暗くて、大した風景が見えるわけでもない。けれど他にすることもない。
バスが着くのは明日早朝だ。どうしよう……ボンバヘッでも聴こうか?
明日のことを考えると緊張を抑えることができない。 ……別に自分のことではないんだけどさ。
僕、春原陽平は親友である(少なくとも僕にとっては)岡崎朋也の結婚式に出席するために、高校生活3年間を過ごした町へと向かっていた。
卒業してから3年も経っている。
もう、あの場所で過ごした時間と同じだけ……時間は流れていたんだ。
この3年、僕はただ必死だった。新しい生活、新しい人間関係、慣れないことは山ほどあったさ。
だけど、岡崎……お前はこの3年で何が変わった?
僕と、何が違ったんだ?
結婚式用の良いスーツは用意したし、ネクタイは芽衣に選んでもらったよ。
明日、お前の晴れ姿見て大笑いしてやるからさ。
あぁ、緊張する。やっぱボンバヘッ聴こう……あ、充電切れてた。
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CLANNAD~その背中が遠くて~
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3月の風は肌寒く、身体は冷える。
だけど、澄んだ空気が空の青に透明感を与えている。
まるで今日という日を祝うかのようだ。
なんてことを考えているうちに着いた。
でかい神社だ……この町にこんなのあったなんて知らなかったよ。
ま、神社なんて無縁だったから当然だけどねっ。
続々と人が集まってくる。僕の知り合いなんているはずないよね……岡崎も友達少なかったし。
「陽平、久しぶりねっ」
と、思ったらいた。藤林杏、こいつも呼ばれてたんだ……
「朋也が、『お前一人だと暇だろうから、春原でも使って遊んでろ』って言うから待ってたのよ!」
「僕はおもちゃか何かなんですかねぇ!!」
やっぱりこいつ、相変わらず危険な女だ。
ていうか岡崎、お前も僕を何だと思ってんだよ!!
「皆様、こちらにお並び下さい」
杏と言い合っているうちに、いつの間にか神社の神主さんが出席者を集めていた。
集められた人たちはそのまま、神社の中に通されていく。
これは僕たちも行っていいのかな?
杏と二人で目を合わせる。
「行かなきゃわざわざ来た意味ないでしょっ!!」
杏が先陣を切って、敷居を跨ごうとしたけれど……
「申し訳ございませんが、ご友人の方はそちらでお待ち下さい」
神主さんに端へと追いやられてしまった。
杏は小声で「何よ……ケチッ」とか言っているけど、そりゃそうだよなぁ。
椅子とか親族の分しか用意されてないもんなぁ……友達が混ざれるはずがないよ。
厳かに式が始まる。だけど神前式なんてなかなか渋いとこつくよねぇ。
写真を撮っても良いという神主さんからの合図で、杏は真っ先に飛び出した。
これは僕も続かないと!
親族の皆さんごめんなさい。妹が花嫁さんを撮ってこいってうるさかったんです!!
しかし、残念ながら花嫁さんの顔は見えない。
くっ、誰なんだ? どんな顔してるんだ?
岡崎のやつ、僕の招待状の嫁さんの名前塗りつぶして送ってきやがったから、名前も知らないんだよっ。
岡崎が誓いの言葉を読み上げ、指輪交換へ。
ここで初めて花嫁の顔が確認できた。
「えっ……」
僕は思わず驚きの声を上げてしまう。
岡崎が指輪の交換をしている相手は……坂上智代。
岡崎とは高校3年生の春が終わる頃に付き合い始め、夏休みに入る前には別れていたはずの相手だったからだ。
そうか、結局またくっついたんだ。良かったな……
やっぱお前らはトモトモコンビだよっ!
指輪の交換を終え、2人はこちらに歩いてくる。
僕は岡崎の顔をじっと見つめた。
いつもぼうっとしていたはずのあの顔は、今はまったく違っていた。
瞳には力強い光が灯り、ただ真っ直ぐに前を向いていた。
僕たちはいつだって斜に構えて、真面目ぶっているやつらを二人で笑い飛ばしていたはずなのに……
岡崎、いつの間にお前は、そちら側に行っちまったんだ!?
人生を2人で歩むことを誓うなんて、簡単にはできないことだろ?
少なくとも、今の僕にはそんな決断はできやしない。
凄く勇気と決意がいることを今、お前は誓ったんだぞ? それがわかってるのかっ!?
だけど、岡崎の瞳はひたすらに力強く、そして温かく。
『守る者』の顔になっていた。
気づかない内に隣りに来ていた杏が言うには、智代は既に身籠っていて、夏には子供が生まれるらしい。
杏は「あたしが保育士になれたら、教え子になるかもねっ」とかいってはしゃいでるけど……
遠い、遠いよ岡崎。
僕はもっとお前と一緒に馬鹿やっていたかったよ。
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石段を下り、バスで披露宴の会場へと向かう。
受付を済ませ、通されたテーブルには僕と杏以外、岡崎の職場関係の人たちが座っていた。
一組、若夫婦がいたと思ったらなんと芳野さんとその奥さんだった。今は岡崎の上司らしい。
そして、衣装換えでタキシードとウエディングドレスの二人が登場!
改めて美男美女は華があると思ったよ。
ウエディングケーキ入刀では、新郎と新婦がケーキを食べさせ合う企画という、結婚式ではお決まりらしい振りがあったけど、僕と杏は思いっきりはやし立ててやった。
岡崎も智代もこういうのは苦手らしく、真っ赤になってたのはだいぶ笑えたねっ。
その後はサプライズ! 芳野さんの弾き語りがっ!!
「岡崎、そして智代さん。二人はこれから夫婦となり、同じ旅路を歩むことになる。なだらかな道もあるし、ときに険しい道もある。どうか二人で手をとりあって、進んでほしい。そして、その旅路の途中に子を育むことになるだろう。その時、ふと思い出してくれると嬉しい。曲は……」
『小さなてのひら』
とても心に響く良い曲だった。隣りの杏なんか号泣している。
だけど……明らかに主役食っちゃってますよねぇ!!
そんな僕の突っ込みは少数派なのか、披露宴はそのままクライマックスへと進んでいく。
岡崎と智代がテーブルにキャンドルを灯して回る。
これは二人の明日への灯火なのだろうか。柄にもないことを考える。
智代が家族への手紙を読んだ後、最後に二人で、岡崎は父親に智代は両親にお礼を言う。
ここで初めて、僕は目頭が熱くなった。隣りでは既に泣き止んでいる杏がいぶかしんでいる。
なあ、岡崎。
いつのまにお前だけ大人になっちまったんだ?
この3年、何がお前を変えて……何が僕を変えなかった? 僕は、お前とならいつまでだって馬鹿ができる思ってたのに。
いつの間に、守るべき人を見つけて、子供を宿して、家族なんて……さ。
あの時の僕たちだったら、鼻で笑ってしまっていたようなものを築こうと思ったんだ?
3年前、高校を卒業し、僕たちは別々の道をスタートして、それでも電話で話せば馬鹿な話だけで盛り上がれて……いつまでも学生気分でいられたのに。
おまえは、歩きだしちまうんだな。 僕は未だに立ち止まったままなのに。
もちろん、それは祝福するべきことなんだ。それが普通の生き方で、普通から外れているのは僕の方なんだから。
でも、なぜ僕は泣いてるんだろう?
寂しいのかな? それとも悲しいのかな? 僕は……取り残されてしまったのかな?
いや、いつまでも僕のように、独り身でぐだぐだと生きていくんだろうなと思っていた唯一の親友が、幸せになってくれて……それで嬉しいんだ。
これは、嬉し泣きだ。そう……僕は、嬉しいんだ。
式がすべて終わり、見送りしてくれる二人を前にしたらまた涙があふれた。
「なんでお前が泣いてるんだよ」
「どうしてお前が泣いているんだ?」
僕を見て、二人は同時に似たようなことを言って笑う。
ほら、やっぱり息ぴったりなトモトモコンビだ。
最後はくらい笑って締めたいな。涙よ、引っ込んでくれっ。
「二人とも、幸せになれよ」
僕は、笑えているのかな?
二人は顔を見合わせてから、笑顔で応えてくれた。
「当然だろ」
「当然だ!」
その答えを聞いた僕は、二人に背を向けて歩き出す。
高校時代、好きなことをあきらめるしかなかった僕たち。
希望はなく、ただ漠然と毎日を生きていた。不器用に生きることしかできなかった。ゴールなんて……見えなかった。
そのうちの一人がついにゴールにたどり着いたんだ。
いや、ゴールではない。スタートラインだ。
二人の目の前には、光見守る道が続いている。
抑えていた涙は、再びあふれだしていた―――。
~終~
みなさんこんにちは。
翠玉と申します。
元々はSHUFFLE!の15周年を祝おうと思ったのですが、ならばCLANNADも15周年じゃないかなと思ってアルカディアさんに投降した過去作を引っ張り出してきました。
麻枝さんがご友人の中川さんを祝った日記が元ネタです。
CLANNADに栄光あれ!