妖精さんの勧めで提督になりました   作:TrueLight

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24.Доброе утро.いい天気

「妖精さんの言った通り、風が気持ちいいなぁ」

 

 寝汗を風呂で洗い流した僕は、出撃ドック脇の一見して埠頭みたいな場所に腰を下ろしていた。

 足を投げ出した先はもう海だ。夕立と歩いた砂浜と違って、人が近づくことを想定していないらしく、水底は遥か眼下だ。

 

 両手で上体を支えて何とはなしに足をぶらぶらさせていると、涼やかな声が背後からかけられた。

 

Доброе утро(ドーブラエウートラ).いい天気だね、司令官」

「どーぶら……? あぁ、前に妖精さんも言ってたけど、ロシア語だったんだね。おはよう、でいいのかな? 響」

 

 体をひねって視線を向けると、軽やかな足取りで響が歩み寄ってくるのが見える。

 

Да(ダー).やるね、司令官。やっぱり、伝わると嬉しいものだね」

「ちょこちょこ織り交ぜてくるし、ちょっと慣れてきたかも……っ? あの、響?」

 

「ん? なんだい?」

 

 僕が引きつった声を上げてしまったのも仕方ないと思う。何故だか響は僕の足の間に割って入り、その場に腰を下ろしてしまったんだから。

 

「その、座るなら隣に座ったらどうかな? ほら、すぐそこは海だし、危ないよ」

「艦娘にその手の心配は不要だよ。それに危ないはこっちのセリフだよ司令官。すぐそこは海だ。どれだけ哨戒してても深海棲艦の脅威が無くなった訳じゃない。一人で海辺に近寄るなんて指揮官としてどうなのかな」

 

「うっ……」

 

 ぐぅの音も出ない正論……! いやでも、それと僕の足の間に腰を下ろすのは関係ないんじゃないかな……っ?

 そう口に出そうとしたら、響に先手を打たれてしまう。

 

「そんな無防備な司令官は、艦娘(わたし)が守ってあげないとね。これならどこから砲撃が飛んでこようが私が守りに入れるよ」

 

「いや、でも」

「……それとも司令官は、私と触れ合うのは嫌かな……?」

 

 なっ!? うるうると不安そうに揺れる瞳はとても儚げで、なんというか……これ以上拒否すると罪悪感が凄い……!

 

「……嫌じゃないです……」

「それなら良かった」

 

「でも、急にどうしたの?」

 

 明らかに普段と様子が違う響に、そう聞かざるを得なかった。すると彼女は僕の両手をとり、自らの腹部に導く。

 つまり、その……僕が響を抱きしめているような体勢に……!

 

「……人肌恋しくなったんだ。それに、急じゃないよ。司令官と二人きりになれる瞬間をずっと待ってた。……この鎮守府に着任した、あの時から」

 

 肩越しに視線を交わした響の瞳は。

 これまでにも何度か目の当たりにしてきた、僕のすべてを見通すような、()んだ光を(たた)えていた。

 


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