「妖精さんの言った通り、風が気持ちいいなぁ」
寝汗を風呂で洗い流した僕は、出撃ドック脇の一見して埠頭みたいな場所に腰を下ろしていた。
足を投げ出した先はもう海だ。夕立と歩いた砂浜と違って、人が近づくことを想定していないらしく、水底は遥か眼下だ。
両手で上体を支えて何とはなしに足をぶらぶらさせていると、涼やかな声が背後からかけられた。
「
「どーぶら……? あぁ、前に妖精さんも言ってたけど、ロシア語だったんだね。おはよう、でいいのかな? 響」
体をひねって視線を向けると、軽やかな足取りで響が歩み寄ってくるのが見える。
「
「ちょこちょこ織り交ぜてくるし、ちょっと慣れてきたかも……っ? あの、響?」
「ん? なんだい?」
僕が引きつった声を上げてしまったのも仕方ないと思う。何故だか響は僕の足の間に割って入り、その場に腰を下ろしてしまったんだから。
「その、座るなら隣に座ったらどうかな? ほら、すぐそこは海だし、危ないよ」
「艦娘にその手の心配は不要だよ。それに危ないはこっちのセリフだよ司令官。すぐそこは海だ。どれだけ哨戒してても深海棲艦の脅威が無くなった訳じゃない。一人で海辺に近寄るなんて指揮官としてどうなのかな」
「うっ……」
ぐぅの音も出ない正論……! いやでも、それと僕の足の間に腰を下ろすのは関係ないんじゃないかな……っ?
そう口に出そうとしたら、響に先手を打たれてしまう。
「そんな無防備な司令官は、
「いや、でも」
「……それとも司令官は、私と触れ合うのは嫌かな……?」
なっ!? うるうると不安そうに揺れる瞳はとても儚げで、なんというか……これ以上拒否すると罪悪感が凄い……!
「……嫌じゃないです……」
「それなら良かった」
「でも、急にどうしたの?」
明らかに普段と様子が違う響に、そう聞かざるを得なかった。すると彼女は僕の両手をとり、自らの腹部に導く。
つまり、その……僕が響を抱きしめているような体勢に……!
「……人肌恋しくなったんだ。それに、急じゃないよ。司令官と二人きりになれる瞬間をずっと待ってた。……この鎮守府に着任した、あの時から」
肩越しに視線を交わした響の瞳は。
これまでにも何度か目の当たりにしてきた、僕のすべてを見通すような、