【完結】幕間の物語 『贋作者と魔法少女/夢幻虚構結界:冬木』 作:耳 a.k.a 腐れケバブ
同日投稿でややこしいですが、前話である『ローレライ』を読んでいない方はまずそちらからお読み下さいますようよろしくお願い致します!
約6ヶ月、約30万文字に渡って綴ってきた物語が遂に終幕を迎える事になりました。
実は自分の作品を最後まで書き上げるというのは初めてで、締め方が良く分からなかったのですが、とにかく全力で書きましたので、読んで頂けると嬉しいです!
「···································································」
インターフォンの、無機質な電子音が部屋に響く。
イリヤは閉じていた瞳をうっすらと開けて視線を投げた。
枕は濡れていた。どうやら、また泣いていたらしい。
フラフラと頼りない足取りで扉へと向かう。
ロックを解除すると、微かな駆動音を伴って扉が独りでに開いた。扉の先に立っていたのはミユとクロだった。
「イリヤ········································」
「·································································」
心配そうな2人の視線に、イリヤは力無く笑みを浮かべて「大丈夫」と答えた。
「ご飯、だよね。うん····················すぐに行くから、先に行ってて」
「イリヤ、けど··························」
「ミユ」
ミユの言葉をクロが遮った。
どうして、という表情をするミユに、クロはゆっくりと首を横に振った。
それが彼女なりの気遣いだと気付き、イリヤは先程よりは自然な笑顔を浮かべて部屋へと戻る。
──────あれから、一週間。
彼が姿を消してから、それだけの時間が経過していた。
「イリヤさん、こちらで一緒に食べませんか?」
食堂へ入るや否や、マシュが声を掛けてきた。
イリヤを気遣っての事なのか、表情には出していないが心配して声を掛けてきてくれたのだろう。
イリヤはその提案を受け、マシュについていく。
────皆に心配される程、イリヤは憔悴しきっていた。
ショックを受けたのは全員同じだが、その中でもイリヤは部屋に閉じこもってしまうぐらい精神状態が酷かった。
イリヤを励まそうとミユやマシュ、言葉こそ発しないもののクロが部屋に訪れる事も多々あったが、それでもイリヤの心が晴れる事はついぞ無かった。
当然、今も同じ。後悔と悔恨が身を焼いて、心に大きな影を落としていた。
「お、全員揃ったか?」
案内されたのは大テーブル。
マスターの他にもクロとミユも着席していて、イリヤはできる限りいつも通りの表情を保ちながら席に着いた。
その時だった。横から、粗野な声が聞こえたのは。
「って、クー・フーリン?何してるのさそんな格好で」
「何って、見りゃ分かんだろ。ウェイターだよウェイター」
「うぇ、ウェイターですか?白色のシャツに黒いベスト、そして黒ネクタイにスラックス··················確かにウェイターらしい格好ですが、どうしていきなり?」
「ん、まあ色々とな。それより注文は?」
「注文って································」
困惑した様子で謎の青髪ウェイターを見上げていたマスターとマシュだったが、流石の順応さを見せて次々に料理名を上げていく。
2人からオーダーを取り終えたウェイターは次にイリヤ達に視線を向けて、
「次は嬢ちゃん達だ。何か食いたいもんあるか?」
「何でも良いんですか?」
「ああ、構わないぜ。ミユ、とか言ったか?何が食いたい?」
「え、えっと······························」
いきなり何が食いたいか、と聞かれても普通の人は困る。
カルデアの食堂のシステムってそんな感じだったっけと首を傾げていると、不意に──────
「──────肉じゃが」
気付けば。イリヤは、不意に脳裏に浮かび上がってきた料理の名を口にしていた。
クロとミユがハッとした表情をする。
イリヤもしまったと慌てて口を噤むが、もう遅かった。
青髪のウェイターはニヤリと口角を上げると、
「ご注文承った。さて、他はどうする?」
青髪のウェイターは既にメモ帳にペンを走らせていて、クロとミユに注文を聞いていた。
料理が運ばれてきたのは、それから程なくしてからだった。
ミユもクロもイリヤと同じものにしたらしい。
ウェイター(ルビー曰くランサーのクラスカードの元になった英霊らしい)がお盆に乗せた料理を配膳する。
ケルトの大英雄と聞いていたが、大英雄はウェイターの仕事をもこなしてしまうらしい。
妙に手馴れた調子で配膳を終えると、ウェイターは意味ありげな視線をマスターに向けて、「ごゆっくり」という言葉を残して去っていった。
「·········································美味しそう」
眼下に広がるのは何の変哲もない、ありふれた品達。
注文通りである肉じゃがを中心に白米、味噌汁、卵焼きと続き、素朴ながらも食欲をそそる匂いが立ち込める。
くう、とお腹がなるのを自覚した。
その情けない音で、昨日の夜から今まで何も胃に入れていなかった事を思い出した。
「見てるだけじゃ意味無いわよ。早く食べましょ」
「う、うん···························頂きます」
クロの言葉に促され、頂きますの音頭と共に箸を取る。
そして恐る恐る口へと運び──────
「············································あ·····························」
衝撃は、イリヤの脳天から足先までを貫いていった。
─────覚えている。
イリヤは、この味を覚えている。
忘れるはずがない。
1週間と少し前、毎日口にしていた味だからだ。
クロもミユもその事に気付いたのか。
目を大きく見開いて、穴が空くのでは無いかと思うぐらい肉じゃがの盛られた皿を凝視している。
真っ先に硬直から回復したのはイリヤだった。
「マスターさんっ!!」
「──────うん、きっとアイツも待ってるだろうから。行ってらっしゃい」
笑顔で、マスターはイリヤを送り出す。
じっとしては居られなかった。イリヤはガタッ!と大きな音を鳴らして、勢いよく立ち上がる。
そして、止まる事なく駆け出した。
目的地は食堂に隣接する厨房。
食堂を縦断し、目の前に現れた厨房へと繋がるドアを勢いよく開け放った。
そこには───────
「おい、ウェイターの仕事もマトモに出来ないのか貴様は。その図体で厨房に居座られると迷惑極まりない。
さっさとオーダーを取りに行け」
「うるせぇな。こちとらテメェの罰則に付き合ってやってる身分なんだ、少しは許容しやがれ」
「文句ならマスターに言ってくれ。
罰則として今日の晩飯の用意を私一人でこなせ、というならまだ分かるが、何が悲しくて貴様と共に働かねばならないのか·····················」
「ハッ、それも含めて罰ゲームだって事だろうよ。
全くとんだ災難だぜ。何だって俺は、何かした訳でもねえのにこんな格好で給仕の真似事なんか························む?」
色々な食べ物の匂いが渦巻く厨房の中。
どこからか持ち込んだらしい丸椅子に腰を下ろしていたウェイターが、厨房の扉を開けたイリヤに気付いたようだ。
──────しかし、イリヤはその事にすら気が付いていなかった。何故なら、イリヤの視線はたった一箇所に注がれているからである。
厨房の奥で忙しそうに、しかし一切無駄のない挙動で右手に握った包丁を踊らせる後ろ姿に。
イリヤは動けなかった。一切の身動きも許されず、その背中に視線を固定され、縛られていた。
「································仕方ねえ。おい、オーダー取ってくるのは構わねえけどよ。自分の尻拭いぐらい、自分でしっかりしやがれってんだ」
「だから今こうして罰則を受けているだろう。
それより円卓系王様軍団に伝えておけ。
これ以上は私の腕がもたん。そろそろおかわりを制限するように、と」
「チッ····························わあったよ。
んじゃ、これより後にここで起きる出来事は全てテメェに任せるぜ」
青髪のウェイターはメモ帳とペンを乱暴に棚からひったくり、扉があるこちらへと歩んでくる。
そしてすれ違う間際、『頑張れよ』、と。
視線だけで、エールをおくられた。
扉が閉まる。静寂に包まれる厨房の中、聞こえてくるのは包丁がまな板を叩く音と鍋の中でお湯が煮立つ音。
──────踏み出す。
イリヤ達はその背中に向かって勢いよく駆け出した。
何か考えがあった訳では無い。
ただ胸から湧き上がってきた激情をそのままに、イリヤは『彼』の背中に向かって叫んでいた。
「─────お兄さん!!」
ピクリ、と『彼』の動きが止まる。彼は一瞬固まってから、やがてゆっくりこちらに振り向いた。
──────胸が苦しい。
形容し難い感情の波が、身体の中で渦巻いている。
いざとなったら、何も話せない。
話したい事や言いたい事が沢山あったはずなのに、彼が振り向きこっちを見ただけであらゆる思考が霧散する。
──────言葉の代わりに零れたのは涙だった。
言葉に出来ない、ごちゃごちゃになった感情を止まること無く瞳から零し続ける。
「あ································うぅ、あぁぁぁぁぁぁぁぁ」
くずおれるように厨房の床へ膝を着いた。
堰を切って溢れ出した涙がパタパタと床に斑点を作る。
──────幻なんかじゃない。
あの時。あの世界でイリヤ達から離れていった彼は、確かな質量をもってそこに居た。
マトモに声なんか掛けられる訳が無い。
胸中に渦巻く感情は、嬉しいだなんていう陳腐な表現を遥かに超越している。
だから、泣くしか無かった。
イリヤにはその感情を上手く言葉に出来なかったから。
だからみっともなく、涙を零すしか無かったのだ。
彼はエプロンを外しイリヤに向かって歩いてくる。
反射的に俯き、床に視線を落とした。
どんな顔をして彼と向き合えば良いか分からなかったのだ。
落とした視線の先で、彼の靴がイリヤの前で止まる。
彼は俯き涙を流すイリヤの頭にポン、と頭を置いて、
「─────少し遅くなってしまったが、ただいま。あれから大事なさそうで何よりだ」
覚えている。この声も。この手も。陽だまりのように暖かい、その穏やかな笑顔も。
彼の表情は稀に見るもので、嬉しそうではあるものの微かな寂寥を感じさせる笑顔だった。
大きな手のひらがイリヤの髪を梳る。
その懐かしく、包み込まれるような暖かさが教えてくれた。
─────彼が、本当にイリヤ達の元へ帰ってきたのだと。
「お、お兄さん!?」
「あの世界に取り残されたはずじゃ·······························!?」
クロとミユが勢いよく扉を開けて厨房に入ってくるや否や、素っ頓狂な声を上げて驚愕を顕にする。
彼は突然の闖入者に目を丸くしてから、2人との再会を喜ぶように口許に笑みを刻んだ。
その笑みには安堵の感が含まれていて、彼もイリヤ達の事を心配してくれていたのだと分かる。
「皆無事、だったか······························」
「それはこっちのセリフだってば!ダ・ヴィンチは残念だけど、もう彼を助ける事は出来ないし生存も望めないって言ってたわよ!?」
「ああ、その通りだ。私1人では、奇跡でも起きない限りあのままあの世界で野垂れ死んでいただろう」
「で、でも、お兄さんは確かにここに居ます。どうやってあの世界からカルデアまで戻って来れたんですか?」
ミユは、目尻に涙を浮かべながら彼に疑問を投げる。
ミユの疑問は最もだった。
クロの前述の通り、ダ・ヴィンチは彼がカルデアに戻ってこれる可能性は皆無であると判断を下した。
その判断が間違っていたのだろうか?
しかし、彼はさっきダ・ヴィンチの言葉を肯定した。
奇跡でも起きない限り、野垂れ死ぬはずだったと。
つまるところ、ダ・ヴィンチの判断は正しかったのだ。
だがそうなると、尚更どうして助かったのかという疑問が浮上してくる。
ミユの言葉に彼は少し笑って、
「───────『約束』が、あったからな。
大切な人達と交わした約束が。それを破ってしまったら、私は彼女に叱られてしまう」
そう言う彼の瞳は、どこか遠くを見ているような気がした。
約束。それは、イリヤ達に料理を教えるというもの。
けど彼の言う約束には、それ以外の約束も含まれているような口振りだった。
誰との約束かは分からないけれど。
きっと、それは彼にとって大切なものなのだろう。
「······························はあ。あんなに悲しんでたわたしが、まるでバカみたいじゃない」
「なんだ、悲しんでいてくれたのか?」
「そ、そんなの当たり前で·······················ああもう、なんでもないっ!」
日頃からかう側であるクロが、珍しく彼にからかわれていた。バカみたい、と言うがあれはクロの照れ隠しだろう。
彼もそれに気付いたからこそ、からかったのだ。
「ま、何はともあれ皆無事で帰ってこれたんだし、悪くないハッピーエンドよね」
「うん。けど今思えば、いつ誰かが欠けてもすごく危ない橋を渡っていたような······················」
《ミユ様の言う通りです。ですがこのカルデアに居る以上、そういった危険も避けられないでしょう》
《ですねぇ〜。わたし達も様々な出来事を潜り抜けてここに居るわけですが、まだまだ他のサーヴァントの人達に比べると力及ばない事も多いですし。しかし!まだまだ悲嘆するような段階ではございません!力不足だと言うのなら、強くなれば良いだけなのですから!幸い皆さんは成長期ですから、すぐに強くなれます!》
「成長期って·································」
しかし、ルビーの言っている事は間違っていない。
成長期云々の話では勿論なく、力不足だという点についてだ。今回の戦いを切り抜けられたのは、彼が居たから。
イリヤ達だけではすぐに全滅していただろう。
だが、いつまでも彼の背中に守られているような存在では居たくないというのがイリヤの本音だ。
今度こそ、彼を守れるような存在になりたい。
それはきっとクロもミユも同じだろう。
「うん·······················頑張らなきゃね」
《その意気ですよ、イリヤさん!》
どこからとも無く取り出した旗を振り、フレー!フレー!とエールを送るルビーに苦笑をこぼす。
そんなイリヤ達を彼は優しげな視線で見つめていた。
胸が暖かくなるような、安心する笑顔。
するとその時、くう、という間の抜けた音がイリヤの下腹部辺りから生じた。
かあ、と顔全体が熱くなる。
昨日の夜から何も口にしていなかった事と、まだ食事の途中だった事を思い出した。
彼は一瞬キョトンとした表情を浮かべたが、すぐさまそれは笑みを堪えているかのような表情に変わる。
笑うとイリヤに失礼だと思った結果だろう。
だがその気遣いが、一層羞恥の念を増加させていた。
「──────さて、君達は食事の途中だったのだろう?
早く席に戻って食事の続きをすると良い」
「うぅ········································」
先程とは違う意味で泣きそうになるイリヤだった。
彼の言葉通りイリヤ達は食堂へと移動しようとする。
入ってくる時とは違い、全員が笑顔だった。
─────そういえば、まだ言っていない事が一つ。
イリヤが足を止めると、それに乗るかのようにクロとミユが足を止めた。
3人とも考えている事は同じらしい。
全員同時に彼に向かって振り返りながら、せーのっ、と声を合わせて───────
「「「お兄さん、おかえりなさい!!!」」」
それは、何の変哲もない挨拶。
しかし無事に帰ってきた事を喜ぶには、きっと最上級の言葉だったに違いなかった。
─────こうして、1つの物語が終わりを告げる。
それは人類史を守る戦いにおいて『幕間』でしかない物語。
本筋から離れた、微塵も歴史には残らず埋没していくだけの断片に過ぎない。
しかしそれが『物語』である以上、話を紡ぎ走り続ける者達が確かに居るのだ。
これは後に『夢幻虚構結界:冬木』と呼ばれる世界で起こった、青年と少女達の邂逅の歴史。
だがそれは、最初の一歩を踏み出したに過ぎない。
ここからだ。本当の物語は、これから始まる。
──────さあ、進もう。
各々が進むべき道を、時には速度を弛めたり寄り道したり立ち止まったりしながら、しかし最後の一瞬まで。
♢
かつて、イリヤに問われた事がある。
あれは確か『あの事件』から1ヶ月程経った後。
イリヤ達と『約束』していた通り3人に料理を教え(美遊に関しては俺が教える必要なんて無かったぐらいの腕前だったが)、4人で作った弁当を持ってちょっとしたピクニックへ出かけた時の事だった。
─────あの人は、
俺はその時、イリヤに向かって「分からない」と答えた。
真実、俺はあの後彼らがどうなったのか分からない。
しかし確信している事が一つだけある。
─────きっと幸せにやっているだろう、と。
なんせ、あの子が傍に居てくれているのだ。
それが衛宮士郎にとって、幸せじゃないはずが無い。
そう確信して俺は遠く、果てのない空を見上げた。
─────どこまでも果てのない、蒼い空を。
♢
──────燈火のように揺れる夢を見ている。
そこは、胸を梳くような草原だった。
どこまでも広がる蒼い空に、海を航海する純白の船の如き雲が螺旋を描いている。
吹き抜ける風は草原を駆ける獅子の如く。
色鮮やかな緑を揺らし、ざあ、と葉擦れの音を奏でていた。
雲間から覗く陽の光が草木に生命を注ぎ、世界を紡ぐ。
風に乗って運ばれてくるのは花の香りだろう。
中央に聳える巨大な木の下。その巨木を囲むように、色彩豊かな花々が顔を覗かせているのだ。
こんなにも生命の色に溢れているというのに、動物という意味での生物の気配は皆無だった。
聞こえてくるのは風と葉擦れの音色だけ。
ここには循環する生命というものが無い。
当然だ。ここは失うものも無ければ増えるものも無い。
この世界に与えられた属性は永遠の『不変』。
変わらない、という事は静止しているという事だ。
生命を循環させるための営みは行われず、植物の
そういう意味では、この植物達も生きているとは言えないのかもしれなかった。
変わりゆく環境に生命が適応せんとしたのではなく、与えられた環境で生命が維持される矛盾。
──────そこは永久に終わる事の無い楽園。
宇宙や世界といった枠組みから剥離し隔絶された、何者にも観測出来ない『理想郷』である。
『──────長い旅だったな』
『うん。ここまで辿り着くのに随分かかっちゃった』
それは、少年と少女の声だった。
人なんて1人足りとも存在しないというのに、その声は風に乗って運ばれてくる。
『アイツ···················アーチャーには感謝しないとな。
今、俺がイリヤとこうして居られるのは、アイツが俺を斬ってくれたおかげだ』
『ええ、だからあの子にも奇跡を届けてあげないと。
わたし達だけ幸せな終わり方をするなんて、そんなの彼があまりにも報われないもの』
『ん。そうだな。アイツにも奇跡が必要だ。生憎祈る事しか出来ないけど、その想いはきっと届くだろうから』
2人は暫し目を閉じて、祈りを投げる。
もう、彼のために出来る事は2人には無かった。
後はアーチャーが自分自身で結論を出し、本当の意味での決着をつけなくてはならない。
その結末を知りたいとは、あまり思わなかった。
誰だって、あの時ああしていればという後悔はするものだが、実際に己が歩んだ道とは異なる道を歩んだ者の結末など聞きたくはあるまい。
『よし、それじゃあ俺達もそろそろ休もう。
ここまで歩いて疲れただろう、イリヤ』
『うーん、少しだけね。けど、辛くなんかなかったよ。
だって、シロウがずっと傍に居てくれたんだもん。
辛いだなんてある訳ないでしょ?』
華のような笑顔を浮かべて、少女は少年に向かってそう言った。少年は少女の手を握る。
もう、離さない。そんな意志を込めた手で。
『──────ああ、俺も同じ気持ちだ。
旅はもうここで終わっちゃうけどさ。
ずっと、イリヤの傍に居るよ。約束だ』
どれだけの時が経とうとも、少年が少女を好きだという気持ちだけは変わらない。
『永遠』なんて欲しくは無いけれど。
その気持ちだけは、永遠に絶える事は無いと断言出来た。
2人は手を繋ぎ、大きな木の下に腰を下ろす。
少年の言葉通り、2人は長い永い旅路を終えた。
だから、少し一休み。
少女は少年の肩に自身の頭を乗せ、頬を撫でる微風の気持ちよさそうに目を細める。
───────途端、一際強い風が吹いた。
その風に溶けてしまったかのように、2人の声が消えた。
世界は再び無音へと戻る。
ひっそりと、眠るような穏やかさで。
少年と少女は、静かに目を閉じたのだ。
─────丘の上の巨大な木の下。
そこには、2輪の小さな白い花が咲いていた。
白い花はあたかも肩を寄り添い合うように風に揺れている。
声はなく物言わぬ花々。
しかし、白い花は高らかに永遠を謳う。
その想いは決して枯れず、故に雪のように白い花弁達が散る事は絶対に有り得無い。
悠久に続いた旅路を往くのはとても疲れてしまったから、これは暫しの休息だ。
そしてこの休息が終わったら、また2人は歩き出す。
それが何年、何十年、何万年後かは分からないけれど。
その想いが永遠だと言うのなら、瑣末な事だと思う。
だって、それは再び出逢うための空白なのだ。
目が覚めた時。また、変わらぬ恋が出来ますように、と。
そんな願いが込められた、未だ白紙の1ページ。
いつかはそんな空白に何かを刻む事が出来る時が来る。
だからそれまで、待つとしよう。
少年と少女の長い長い物語はここで終わる。
しかし、だからと言って何もかもが潰える訳では無い。
語り部は消え演奏が止まったのだとしても。
少年と少女が紡ぎ繋いできた『約束』が途絶える事は、決して無いのだから────────
True END.
それでは改めて、本編完結です!
最初、10話で15万字ぐらいで終わらそうと思ってたので当初の予定より2倍近くも文量が重なったんだなぁと、呆れながらも妙な達成感に包まれております。
ライトノベルに換算すると2〜3冊分ぐらいですかね。楽しかったけど思ったより大変でしたw
前話のローレライで自分のやりたい事を全てやったのでエピローグで燃え尽きてしまった感があるのが少し無念ですね。
原作では『一人で寂しいから歌う』というものだったローレライを大切な人とまた巡り会うための『約束』として歌ったのは個人的にお気に入りです。
さて、皆様の期待に添えられなかった部分は多々あったと思われますが、物語はこれで完結です。
受験が終わるまでは投稿も控えるつもりなので次会う時は恐らく大学生ですが、次の作品はもっと早く投稿出来るよう頑張りたいと思います!
最後に、ここまでお付き合い下さった皆様に本当に感謝を。
沢山のお気に入りや評価や感想が励みになったのは言うに及ばず、有り体な台詞ではありますが、ここまで来れたのは皆様のおかげだと思います!本当にありがとうございました!
感想等はいつでも受け付けておりますので、頂けると作者が喜びますwそれでは、また次の物語でお会いしましょう!
その時にはもう、春公開予定のHeaven's_Feelの3章が公開されてるかもしれない··················