【完結】幕間の物語 『贋作者と魔法少女/夢幻虚構結界:冬木』   作:耳 a.k.a 腐れケバブ

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前の投稿から凄い遅れてしまって申し訳ありません!
出来るだけ速く速くと思っていたらいつの間にか平成が終わり令和が始まってしまいましたね···················。
書いたり書かなかったりを繰り返してて文体が変になってる所とかあると思いますが、ご了承くださると幸いです。
さて、今回の話はようやく『奴』が登場します。
とは言っても今までめちゃくちゃそれっぽいワード出てるので隠すのが今更感ありますが‪w





第七節『人の身に余る奇跡を手にしたが故にこの世全ての絶望を背負ったモノ』

─────嗚呼、この瞬間をどれだけ待ちわびた事か。

つい先刻、闖入者によって斬り捨てられたアサシンが死の間際に残してくれた映像を見た『彼』は分かっていたとはいえ、雷の如き衝撃に打ちひしがれた。

映っていたのはまだ幼さの残る、銀髪の美しい少女。

服装こそ奇妙であるが、それは『彼』が追い求めてきた少女の姿に相違無かった。

 

「ク、ハ───────」

 

彼の者は地の底で独り、乾いた雄叫びを上げた。

白く白濁した瞳からは滂沱の涙を流し、終いには奇妙な小躍りをする始末。その者は歪んだ歓喜に溺れていた。

光の届かない闇の世界に哄笑が響き渡る。

心臓の鼓動は際限なく加速し、とにかく騒ぎ立てなければ気が済みそうに無かった。

身体がこれ以上無いぐらい昂っている。

(いき)り勃つ男性器。

下手をすれば射精して果ててしまいそうなぐらい、その怒張は異様な熱に犯されていた。

酩酊する。

酩酊する。

酩酊する。

酩酊する。

頭の中に直接麻薬を打ったとしても、こんなに気持ち良く狂う事は出来ないだろう。

興奮と崩壊が鬩ぎ合う。

快楽を孕みながら、泥の中に墜ちていく。

しかし、悲しいかな。

──────彼の者にとってそれは、久しく忘れていた人間らしい感情だったのだから。

その狂笑は文字通り、三日三晩に渡って続いた。

涙はとうに止まり、代わりに赤い鮮血が死んだ瞳から滲み出ていた。乾いた鮮血が瞳や頬に張り付いている。

軽く声を出してみると、粘液質な血反吐が吐き出された。

三日に渡って狂ったかの如く叫び続けた弊害だろう。

ズギン、と喉を走る鋭い疼きも今は歓喜のスパイスにしかならず、再び歪んだドス黒い狂笑を上げる。

 

「あぁ··················けど、邪魔する虫がいるな」

 

笑みを鎮めた『彼』は、再びアサシンが残してくれた映像を反芻する。瞼の裏に映るのは赤い外套を纏った騎士。

あと少しで『彼女』が手中に収まる所であったというのに、それを阻んだ憎き邪魔者だ。

 

「どうして邪魔をする。どうして阻もうとする。どうして拒絶する。どうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうして─────!!」

 

蹲って、狂ったように声を吐き出した。

紡がれた言葉はもはや呪詛に近く、見開かれた瞳は憎悪と執念に犯されている。

人として終わった身でありながら、その感情だけがその者を人たらしめ、願いへと駆り立てる行動原理だった。

否、もはやそれは願望では無い。

歪んで穢れきった、『妄執』の成れの果てである。

 

「·····················邪魔をする者は殺す。

殺してやる。殺してやる。殺してやる。

オレの願いを邪魔する者は、全て·············!」

 

怨嗟の声が地の底で反響する。

渦巻いているのは黒い瞋恚の炎。

それは、幾度となく紡がれた怨嗟だ。もう『彼女』を取り戻せないと知り、この場所で絶望の日々に明け暮れた。

──────だが、その絶望もじきに終焉を迎える。

『彼女』をこの世界に引きずり込んだ時点で目的の半分以上が達成されたも同然だ。

後は『彼女』を手中に収めて、邪魔する愚か者どもを殺し潰すのみ。しかし、こちらから出向く事は残念ながら叶いそうに無かった。精々、動ける範囲は柳洞寺がある円蔵山までといったところである。

 

「いや·························」

 

まるで先程の怨嗟が嘘であったかのように燻っていた灼熱を鎮め、別段自ら攻め込む必要は無かったと思い直す。

奴等の目的を考えれば、この場所に来るのは必然。

ならばここで構えていいだけの事だ。

わざわざ赴く必要などない。

──────そう。待つだけで全ては終わる。

今まで過ごした時間に比べれば刹那に過ぎないその時間が、今は永遠に引き伸ばされたかの如く長く感じた。

まだかまだかと、まるでクリスマスを待つ幼子のようにその時を待ち続ける。

 

「····························」

 

─────まるで、星々に祈りを捧ぐように。

彼は無言で、空を覆い隠す天蓋を見詰めていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

実に二日ぶりとなる睡眠から目を覚ました。

空は快晴。雲1つない、とまではいかないが、抜けるような青空が果てしなく広がっている。

冬にしては暖かい陽射しが降り注ぎ、心なしか外の植物たちも彩づいているように見えた。

文句一つ浮かばない、澄みきった朝の光景が眼前に惜しげもなく広がっていた。

 

「─────まったく、あの子達にも困ったものだ」

 

 

苦笑を浮かべながら、居間に続く廊下を歩く。

二日ぶりの睡眠となったのは言うまでもなくいつ敵方が襲ってきても良いように見張りをするためであった。

本来ならばそれを継続するつもりだったのだが、それをイリヤに見られてしまった事を発端として美遊に伝わってしまい、『今日はしっかりと寝てください』とかなり厳しく厳命されてしまったのだ。

意外と、美遊は頑固な性格をしているのかもしれない。

居間に近付くにつれ、味噌汁らしきいい匂いが漂ってきた。朝餉の準備も美遊が受け持つと言って聞かなかったので不承不承任せたが、味の方に関しては心配していない。

心配しているのは労力だ。4人分を1人で用意するのは大変だろうし出来れば手伝いたかったのだが、結局すげなく断られてしまった。

 

「おはよぉーお兄さん」

 

居間に入る直前で、洗顔後と思わしきクロと出くわした。

欠伸混じりの挨拶が、弛緩した穏やかな空気を象徴づけている。

 

「ああ、おはよう・・・・・・・・パジャマの前ぐらいしっかりと止めてくれ。目に余る」

 

「あら、朝から刺激が強かった?でもそれなら、目のやり場に困るって言う所じゃない?フツー」

 

ちろり、と小さく舌を出して年不相応な妖艶の微笑みを浮かべるクロに俺は嘆息する。

 

「寝ぼけているのならもう一度顔を洗ってくる事を勧めておこう。まったく、君はいつもそうだが少しは節度を持ったらどうなんだ?あまり他人にそういう態度をとっていると、いつか本当に痛い目に遭うぞ」

 

「あら、その辺は大丈夫よ。お兄さんみたいな信用の出来る優しい人にしかやらないもの」

 

「いや、そういう事じゃなく···············」

 

俺が言いたかったのは大人をからかうのはやめてくれ、という事だったのだが。

言葉を続けようとする俺をクロは「はいはい」と適当にあしらい、再び欠伸を漏らしながら居間へと入っていく。

俺は頭痛に堪えるようにこめかみ辺りに手をやった後、クロに続いて居間へと足を踏み入れた。

途端、先程も感じた朝餉の匂いが鼻腔をくすぐる。

匂いの元は台所からだ。台所には鍋をおたまで掻き混ぜているらしき美遊と─────何故か、イリヤの姿があった。

どうやら美遊と共に料理をしているらしく、時折、ダン!という些か平穏さに欠ける音が聞こえてくる。

包丁で大根を切っているらしいのだが、包丁使いに慣れていないためか、力が入りすぎているように見えた。

 

「イリヤ、そんなに力を入れなくてもいい。力で切るんじゃなくて、動かして切るような感じで───────」

 

「う、うん。やってみる」

 

イリヤはぎこちない動きで包丁を動かしている。

その表情は真剣そのもので、俺が入ってきた事にも気が付いていないみたいだった。

 

「───────────」

 

幾ら何でも、ここでしゃしゃり出る事はしない。

大人しく朝食の準備を待つ事にしよう。

 

「そんなに心配しなくとも、隣にはミユが付いてるんだし大丈夫よ」

 

ぐでんとテーブルに伏せていたクロが、唐突にそんな事を口にした。

 

「む···············心配しているように見えたか?」

「そりゃもう。まるで、初めて料理に挑戦する我が子を見るような表情だったわ。変な所で顔に出やすいわよね、お兄さん」

 

呆れたように嘆息するクロ。

そんなに顔に出てたのか、と軽く頭を抱えていると、台所の音が止んだ。

 

「あ、おはようお兄さん!」

 

「おはようございます」

 

イリヤが屈託のない笑顔を浮かべ、美遊はぺこりと礼儀正しいお辞儀をする。対極とも言える二人の挨拶に苦笑しながら、俺もおはようと恒例の挨拶を交わした。

それから俺は、どうしてイリヤが料理をしていたのか聞いてみる事にした。

 

「イリヤ、どうして君が料理を?」

 

何気なく放った問いに、イリヤは目を泳がせる。

 

「そ、その················お兄·············ちゃんに食べて欲しいなぁって。ほ、ほら!人理を守るお仕事が終わったらお兄ちゃんに会えるでしょ?そうなった時に少しでも成長したわたしを見て欲しいなぁって··············」

 

イリヤは恥ずかしそうに、そう口にした。

お兄ちゃん·············という事はイリヤの本当の兄の事だろう。

何とも微笑ましい話である。食べさせる相手が何処ぞの朴念仁でなければ俺も素直に喜ぶ所だ。

 

「····················なるほど。そういう事ならカルデアに戻った際に私も微力ながら力になろう」

 

「え·······························?」

 

イリヤがこちらを見て驚いている。

そこまで驚く事でも無いだろうに、と苦笑した。

イリヤの気持ちを知れば、料理が出来るか否かは置いておいて誰しもが力になりたいと思うに違いない。

これは単純に、俺もその1人だったというだけの話しだ。

 

「無論、君が良ければの話だが」

 

「っ··················う、うん!教えて欲しい!約束だからね!」

 

イリヤは満面の笑顔を浮かべて喜びを表す。

ぴょんぴょんと嬉しそうに跳ね回る姿は、見ていて微笑ましかった。するとそんなやり取りを見ていた美遊が、

 

「わ、わたしも教えて欲しいです。おに····················お世話になった人達に、お礼がしたいから·····················」

 

最後の部分は消え入りそうな声だった。

お世話になった人にお礼がしたい。それもイリヤのものと同じく、応援したくなるような動機だ。

拒む理由などありはしない。

 

「ま、わたしは別に料理がしたいわけじゃないけど················将来お兄ちゃんと結ばれた時のために出来た方が良いわね。うん、決定。そのお料理教室、わたしも参加するわ!」

 

少々不純な理由で、クロも参加を決めたようだ。

だがその理由に異を唱える者が1人。

 

「だ、ダメ!クロの理由不純過ぎー!」

 

「アナタだって似たようなものじゃない。お兄ちゃんに褒めて欲しいからなんでしょ?」

 

「そうだけど····················うぐぐ、何も言い返せない················」

 

「クロの理由が不純なのは否めないけど·················大丈夫。わたしがイリヤを一流の料理人にしてみせるから、安心して」

 

「ミユはミユでおかしなスイッチが入っちゃってるし···············普通の料理だけで良いからね!?」

 

がやがやと騒がしくなる朝の食卓。

微笑ましくはあるものの、折角イリヤと美遊が作ってくれた料理が冷めてしまうのも忍ばれる。

 

「····················まあ、理由はどうあれ料理が出来ることは良い事だ。及ばずながら、基本的な調理法ぐらいは教授しよう」

 

そう言うと、イリヤ達はぱあっと表情を花開かせた。

 

「うんっ!約束だからね!」

 

その言葉に、俺は苦笑した。約束、とはまた大仰だと思う。料理なんて、カルデアにさえ帰る事が出来なのならばいつでも教えられるのだから。

ややあって、俺達はようやく朝食にありついた。

所々野菜の切り方が甘かったり硬かったりするけども、暖かくて、食べる人への想いが伝わる料理だった。

───────だから、俺は密かに願ったのだ。

あの『約束』が、イリヤ達に料理を教えるという約束が、きちんと果たされますように、と。

そんな当たり前の日常を、何よりも願った。

 

 

 

 

 

 

 

 

穏やかな朝の団欒を終え、俺達は外へと出た。

目的は買い出しではない。俺達が向かっているのは『遠坂邸』。

セイバーのマスター、遠坂凛の潜伏場所である。

何故そのような場所に向かわんとしているのか。

それを説明するには、約1時間ほど前まで遡る事となる。

 

「あまり気は進まないのだが·····················そろそろ現状の打開策を考えなければならない頃合いだ」

 

それは朝食と後片付けを済ませ、一同がゆっくりと団欒を楽しんでいる場だった。俺から切り出したその話は、そんな朝の穏やかな時間を引き裂くのに充分事足りる話題である。

 

「現状って?」

 

「バカね、イリヤ。そんなの、敵の手のひらで泳がされてる危機的状況に決まってるじゃない」

 

「キャスターとアサシンの襲撃からもう5日も経ってる。そんなに経っててあれきり全く襲撃がないのはおかしい。お兄さんの推測通り敵の目的がイリヤだというのなら、それこそ途切れる事なく襲撃があってもおかしくない···························」

 

「ああ、美遊の言う通りだ。あまりにも前回の襲撃から期間が開き過ぎている。考えられる要因は2つと言ったところか。

単純に攻めあぐねているか──────或いは、こちらから打って出てくるのを待っているのか。前者なら有難いのだがね····················」

 

無論、後者である確率の方が高いのが現状だ。

 

「わたし達が打って出てくるのを待ってるって事は、やっぱりそういう事(・・・・・)で良いのよね?」

 

「え、どういう事?」

 

クロが言わんとしている事を、イリヤは想像出来なかったようだ。次々と出てくる新情報に首を傾げて困惑するイリヤを見かねて、俺は口を開く。

 

「つまり、敵は確信しているのだろう。私達が、自ら敵の方へ仕掛けるという事を」

 

そうでなければ説明がつかなかった。

俺達の方から打って出てくるのを待つというのは、俺達に敵を攻め込む理由、目的が無ければ成立しないからだ。

しかし、今のところ俺達にそれ相応の目的、理由は無い。

ならば考えられる可能性は一つ。

──────この世界に来てしまった原因。そしてカルデアに帰還するための『方法』を、敵が握っているのだとしたら。

それならば、敵があれきり襲撃してこないのも頷ける。

何せ、自ら攻め込まなくても向こうから来てくれるのだ。

自らが用意した場で戦えるのだから、敵からしてみればそれだけでかなり大きなアドバンテージとなるだろう。

しかし、だからと言ってこのまま停滞という訳にもいかない。

こちらから攻め込む気配が無いと判断されれば、敵はその全勢力をもって俺達を潰しにかかるだろう。

それは、一番避けたい事態だ。

全方位を囲まれてしまえば逃げ場もなくなってしまう。

それと言うのも────────

 

「一番のネックは、敵の戦力が未知数という事だ」

 

今までの戦いを頭の中で反芻する。

第一戦目、ライダー。

シャドウ・サーヴァントと同じような理性を失った劣化版だと思われる。まるでこの武家屋敷を守る番人だとでも言うかのように、屋敷の敷地内へ足を踏み入れた俺達に向かって敵意を剥き出しにした。

俺の『偽・螺旋剣』によって消滅。

 

第二戦目、キャスター&アサシン。

ライダーとは違い単なる劣化版というわけでは無い様子だったが、

理性は失われていた。キャスターは何故か傀儡を召喚し俺達にけしかけるだけ、という厄介ではあるものの回りくどい戦い方を取った。

戦いの最中、アサシンがイリヤを狙い、それを阻もうとした俺は毒が塗られた投擲剣によって負傷。

アサシンは消滅させたもののキャスターには逃亡を許す。

 

簡潔に纏めるとこんな感じだ。

共通点を上げるとするのなら、どのサーヴァントも理性が失われていたという事ぐらい。

だがその些末な共通点こそが、俺を惑わせている要因だった。

 

「ライダー、キャスター、アサシン。この三騎のサーヴァントがもしも一本の線で繋がっていたとしたら──────他のサーヴァントとて、例外に漏れないかもしれない」

 

もしこの予測が正しければ、敵の戦力は俺達では打倒しえないものとなるだろう。だからこその遠坂凛である。

『──────理性を失っていないサーヴァントと出会うのは初めてだったから、協力出来る事が何かあるなら協力し合おうみたいな感じに思ってたんだけど』

遠坂凛が衛宮の屋敷に訪れた際、彼女がそんな事を口にしていたのを俺は覚えていた。

互いに戦力が足りない今、両者の利害は一致している。

つまるところ、彼女とならば協力関係を結べるのではないか、と考えたわけだ。

十字路から坂へ上って、遠坂邸を目指す。

暫く歩くと、坂の上に屹立する立派な洋館が見えてきた。

間違いない。遠坂邸である。

 

「一応、この場所は敵の魔術師の工房という事になる。君達は後ろに下がっていたまえ」

 

イリヤ達を門から下がらせた後、門に手をかけて屋敷の敷地内に身を踊らせる。外観はいつか見た遠坂邸と相違ない。

厳かながら、どこか冷たい邸宅。万人を近付けず、逆に踏み入れたら逃がさない。そんな印象を受ける屋敷だった。

 

「む···················不在、か?」

 

遠坂邸には人の気配が無かった。

ノックしてみようか、と考えたがそれは必要あるまい。

もしも彼女達が居るのなら、敷地内に足を踏み入れた時点で侵入者対策の防衛術式等が襲いかかってくるはずだ。

魔術師の工房とは元来そういう場所である。

 

「間が悪い事にどうやら不在のようだ。これは、暫く時間を置く必要がありそうだな」

 

「そうなんですか······················じゃあ、これからどうしますか?」

 

美遊が、これからの動向を聞いてくる。

さて、どうしたものか。俺としては特に何も無い。

まさかこのメンツだけで敵に挑む訳にもいかないし、いつも通り屋敷の中で大人しくしているべきだろう。その旨を伝えると、

 

「うーん、また屋敷の中で待機かぁ。これが何のしがらみもない普通の日常生活だったら何の不満も無いんだけど···················敵に追い詰められてるかもしれないって考えると、どうしても素直にたのしめないわね」

 

「そう、だね··························クロの言う通りかも」

 

クロの言葉に、イリヤは同調する。

それも当然の反応か。敵に囲まれていると言っても過言じゃないこの状況を楽しめと言われても無理な注文だ。

とはいえやる事が無い以上、屋敷に戻るしか無い。

俺達は踵を返して、屋敷への帰路へと着いた。

 

 

 

 

 

 

「······································なに、あれ」

 

傍らに居るクロが呆然と立ち尽くしている。

驚愕の表情を張り付かせる彼女の顔は険しく、未だ状況を呑み込めていないようだった。

イリヤと美遊も同じで、両者共に唖然と固まっている。

一体、何が起きているのか。

俺はかつて武家屋敷が存在していた場所に瞳を向ける。

──────そこには、武家屋敷なんて存在していなかった。

武家屋敷を、謎の球体が覆っていたのだ。

まるで汚泥。表面はぬらりとした奇妙な光沢を放ち、流れてくる腐臭が鼻腔を突く。

ずぎん、とこめかみが軋む。アレは存在してはいけないものだと、俺の中で何かが警鐘を鳴らしている。

視界を圧迫する闇。網膜を犯す歪んだ色彩が目に痛い。

 

「あ·······················あ、あ···························」

 

「っ、待て!」

 

屋敷に向かって歩こうとするイリヤの腕を掴んで止める。

アレは触れてはいけないものだ。もし触れてしまえば、恐らく取り返しのつかない事になる。

 

「あの『泥』に触れるな。あれに触れてしまえば正気を保てなくなるぞ」

 

「でも····················でも··················屋敷が·························!」

 

イリヤは泣きそうな表情で俺を見上げる。

クロと美遊の2人も、どこか悔しそうに口を引き結んでいた。

 

「結界·················のようなものか。屋敷をぐるりと囲むようにして円蓋(ドーム)が形成されている。キャスターの仕業なのだろうが···················」

 

それにしては、穢れすぎているきらいがある。

彼女がこんな醜悪な結界を作るだろうか。いや、人の生気を蒐集していた彼女も彼女だが·························。

兎に角、だ。この程度の結界ならば破戒すべき全ての符(ルールブレイカー)による無効化が可能なはず。

そう思い、破戒すべき全ての符を投影しようとした瞬間────ズルリ、と。泥の中から何かが這い出てきた。

 

「っ························!?」

 

それは、俗にゾンビと呼ばれる屍に似ていた。

だらりと力なく垂らされた両腕。半ば溶け落ちている眼球。腐敗した身体は異臭を放つ汚泥を纏い、覚束無い足取りで歩を進める。それは一体だけではなく、アスファルトに広がった泥の中から次々と這い出てきた。その数に際限はない。泥の傀儡は恐るべき速度でその数を増殖させながら、俺達へと迫り来る。それはもはや壁の様相を呈していた。

 

「な、なにこの数·························!?」

 

「今いるだけでも軽く100は超えてる···················お兄さん、どうしますか?」

 

「無論、一度後退だ。限界が見えない以上、戦いは海の水をバケツで無くそうとするようなものだからな。囲まれる前に脱するぞ。イリヤ、美遊。君達は上空から安全な道を探してくれ。私とクロは後ろの亡者共を削りながら君達に着いていく」

 

矢を後方へと放ち、前線を崩して指示を出す。

しかし────────

 

「─────ううん。わたしは、逃げない。この結界を仕掛けた人に会いにいく。その人を倒せば、この結界も消えると思うから」

 

「····················································」

 

それはイリヤらしくない、僅かな怒気を孕んだ言葉だった。

しかし結論から言えば、イリヤの言葉は正しい。

このまま逃げた所で終わりがないのなら、それを引き起こしている『元凶』を叩いてしまえば良いのだから。

しかし、それはあまりにも───────

 

「それに、あの人達······················苦しんでる」

 

イリヤは迫り来る亡者を見て悲痛な表情を見せた。

──────如何なる邪法かは分からないが、あれは恐らく、元はこの世界に居た者を傀儡として組み替えたものだ。

イリヤはそれに気付いた。

魔術に関する知識を持たない彼女がどうやって気付いたかは分からないが·················気付いてしまったからには見過ごせないだろう。彼女はそういう性格だ。苦しんでいる人を、放ってはおけない。

 

「あんなに酷い事をする人を、わたしは見過ごせない」

 

手にしたステッキを強く握りしめ、イリヤは真っ直ぐ俺を見据える。深紅の瞳には、決して曲げる事の出来ない強い意志が込められていた。

 

「·························イリヤのくせに、なかなか良い決断じゃない。何度もやられっぱなしってのは癪だし、わたしは賛成よ。それにどうせ後々()り合うんだし、早い方が良いでしょ?叩きのめすついでに、カルデアへ帰る方法も聞き出すとしましょう!」

 

「クロ、それが第一の目標···························わたしも賛成です、お兄さん。どこまで逃げられるか分からない以上、それを引き起こしている者を間引いた方が確実ですから」

 

パシン、と威勢よく拳と手のひらを打ち鳴らすクロと対照的に感情の起伏に乏しい声音で怖い事を言う美遊。

調子こそ異なるものの考えは一緒だ。

──────元凶を叩く。

言葉にしてみるのは簡単だが、前述した通りそれは難しい。

敵の戦力は未知数。その場の考えに任せ、安易に攻め込むのは下策では無いのかと俺は考える。

·····················しかし、一方でイリヤ達の言葉を正しいと受け入れているが故に思考は相克する。

そう、分かっているのだ。状況を打開するには元凶を叩きに行くことが何よりの近道であると。

しかし、俺の中の『何か』が制動をかける。それは単に相手との戦力差についての懸念だけではなく─────

 

「·································分かった。キャスターが陣取っているのは恐らく柳洞寺だろう。そこまで一気に突破するぞ。陣形は先程告げた通りだ。力を温存するため、極力戦闘は避ける」

 

俺の言葉に、3人は大きく頷き返す。

迷っている暇はない。例え危険だとしても、それが最善の道だと言うのなら進むしかないのだから。

 

「ルビー、転身!」

 

《久し振りの戦闘、燃えてきましたよー!》

 

「サファイアもお願い」

 

《了解です美遊様。···············あと姉さん、戦闘は極力避けて下さいね?》

 

イリヤと美遊。2人の魔法少女の転身を見届けた後、俺達は後ろから追随してくる亡者共から距離を取るようにして地を蹴った。極力戦闘を避ける。これは単に消耗を避けるという意味合いだけではなく、むしろ俺は攻撃しない事を重きに置いていた。

───────アレらが全て人間だったというのなら、イリヤ達に攻撃させるのはあまりにも酷だ。

 

「───────賽は投げられた、か」

 

何が俺に柳洞寺へと向かう事を躊躇わせているのか。その答えは、その地へと赴けば自ずと分かる事だろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ここね······················柳洞寺」

 

ポツリ、と長い階段を仰ぎながらクロが呟く。場所は柳洞寺。キャスターの根城と推測されている場所である。

日本の中でも有数の霊地である冬木市。その中でも特に霊脈の質が高い場所がこの場所であった。

柳洞寺周辺には自然霊以外の霊的存在─────すなわち、サーヴァントの侵入を阻む結界が張り巡らされている。

その効力たるや凄まじく、令呪で『近付くな』と命令されるのに等しい強制力がかかると言われている。

しかし、絶対不可侵という訳では無い。

唯一結界の効果が及んでいない正門────そこからならば、境内に押し入る事も可能だ。

無論、それは敵も理解しているだろう。

向こうは正門だけに警戒を割けば良い。

そう、真正面からのこのこと現れた俺達を迎え撃つだけで良いのだ。圧倒的地形不利。無闇に突っ込めばそれだけで命取りとなるだろう。

 

「誰も居ないみたいだけど·························」

 

「けど、気配は感じるわ。確実にここでビンゴよ。けと、幸か不幸かで言えばだいぶ微妙よね。こんな堅牢な場所に引きこもられちゃ太刀打ち出来ないし·················どうするの?お兄さん」

 

「どうするも何も一気呵成に突っ込むしかあるまい」

 

「う······················やっぱり?」

 

「物理保護を全開にして一気に突破··················出来る、かな?」

 

美遊が不安そうに首を傾げる。敵の攻撃の密度にもよるだろうが、確かにカレイドの障壁だけでは絶対とは言いきれない。

 

「──────よし、私が先行しよう。君達は私が境内に踏みこんでから、少し遅れて入ってきてくれ。くれぐれも固まるなよ。狙いが1つに絞られるほど危険度が増すからな」

 

俺を先に行かせる事にイリヤ達は難しそうな顔をする。

だが、道が一つしか無い以上こうなる事も仕方ない。

その旨を伝えるとイリヤ達も、俺を慮る不安げな瞳は変わらなかったが頷いてくれた。

ある程度意向が纏まった所で、俺達は境内まで伸びる長大な階段に足をかけた。

バラバラに響く4人の足音は硬い。登っていくごとに、己の足が重くなっているような錯覚を覚える。

まるで処刑台にでも向かっているかのような気分だ。

謎の緊張感に包まれる中、俺達は終始無言で足を動かす。

不安や恐怖とも違う正体不明の圧迫感。

これは、そう─────────

 

「お兄さん?」

 

張り詰めた静寂を破ったのは美遊だった。

心配そうな表情を浮かべて、俺の顔を覗き込んでいる。

 

「どうかしたんですか····················?」

 

「························いや、大丈夫だ」

 

どうやら今の俺は余程深刻そうな顔をしているらしい。

気持ちが落ち着かない。心臓の鼓動が煩く耳朶を打つ。

─────ああ、美遊に心配されても仕方がない。

今の俺は、有り体に言えば緊張していたのだ。

それも極度のもの。今すぐにここから逃げ出してしまいたいと思うぐらい、境内に向かう事を、俺の身体が『拒絶』していた。

 

「そう、ですか」

 

腑に落ちないという表情をしながらも、美遊はそれ以上踏み込んでくる事は無かった。

──────覚悟を、決めなくてはならない。

 

全てを背負って進み続けると決めた時から、いずれ対峙しなくてはならなかった『壁』だ。

それが、僅かに早まっただけの事。

最後の階段を登る。寺の境内が視界いっぱいに広がった。

敵が何かを仕掛けてくる様子はない。

誘い込まれている。そう考えるのが妥当か。

 

「────────行くぞ」

 

それは、半ば自分自身に向けた言葉だった。

一息に地を蹴る。5mも無いその距離が、あまりにも遠い。覆い被さる迷いを振り切るように、俺は最後の一歩を踏み込んだ。

 

 

 

 

 

 

それと時と同じくをして。

 

「───────来たか」

 

地の底で、何かが動いた。

それは立ち上がると、ふらふらと酔っているかのような足取りで出口へと向かい始める。

──────歪んだ笑みを浮かべながら、踊るように。

 

 

 

 

 

境内に足を踏み入れる。境内に人の気配は無く、ただ閑散とした光景が広がっていた。

未だキャスターからの迎撃はない。

1秒、2秒、3秒─────10秒。

どれ程待っても、敵からの攻撃が来る事は無かった。

 

「もしかして、居ないとか?」

 

「──────いや」

 

キャスターの気配はする。境内の奥。本堂の辺りからキャスターの噎せ返るほど濃密な魔力が漂っている。

しかし、それでも境内に踏み込んだ俺に対して攻撃を仕掛けてくる様子は無かった。

ひとまずは安全だと判断したのか。イリヤ達が辺りを警戒しつつ境内へと足を踏み入れる。

──────途端。

山門に巨大な魔力が渦巻いた。

それは瞬時に形を変えて、薄いヴェールのような形状へと変化した。紫色のヴェールには頭が痛くなりそうなぐらい複雑な幾何学的模様が刻まれており、その術式の堅牢さを物語っている。

午後の陽光は途絶え、代わりに夜の帳が上空を支配する。

光の消えた境内。その中で紫色のヴェールだけが妖しく存在感を放っていた。

 

「閉じ込められた··························っ!?」

 

「ふん。一度足を踏み入れたが最後、決して標的を逃しはしない、か。この陰湿な手口·················キャスターのものに相違ない。最初に伝えた通りだ。奴に纏めて捕捉されないよう分散を──────」

 

俺の言葉は最後まで続かなかった。

視界の端で突如、赤い雷が弾けたのだ。

正確に表すのならば、それは雷などでは無い。

雷と見まごう程鋭い槍の一閃。

狙いは心臓。余りにも正確なその一刺しは、必ずや俺の心臓を貫く事だろう。

心臓目掛けて落ちてくる雷光。

槍の穂先が左胸を穿たんとする直前────ギン、という甲高い金属音が境内に轟いた。

決して躱せなかった一撃。決して防ぐ事の出来なかった一撃。しかしそれは─────その槍が、本物(・・)であった場合の話に限る。

──────サーヴァント、ランサー。

獣を思わせる靱やかかつ屈曲な痩身を青いタイツのような衣装に身を包んだ生粋の武人。

朱の呪槍を携え、それを振るう姿はまさに荒ぶる獣。

洗練された技と獣の荒々しさが融合したその技は、天上の域にあると言って良いだろう。

その技を、確かに目の前の『敵』は有している。

しかし、それだけだ。彼の槍術は彼が彼であるからこそ(・・・・・・・・・・)完成するもの。理性を失ったものが成せるものでは、決して有り得ないのだ。

それを表すように、朱槍の穂先を交差させた黒と白の夫婦剣が寸での所で受け止めていた。緋色の閃光を散らしながら拮抗する剣と槍。

俺は無理に力を込めず、逆に槍に込められた力をいなすように槍の柄に刀身を滑らせ────────

 

「ふ──────!」

 

ランサーの胸に、強烈な蹴りを叩き込んだ。ゴロゴロと小石を巻き込み砂塵を舞い上げながら10m以上も転がっていく青い痩身。

 

「誇り高きケルトの戦士が、随分と堕ちぶれたものだなランサー。その志し、よもや本当に犬にでも食わせたか?」

 

干将の切っ先をランサーへと突き付ける。

理性を失った状態でその挑発めいた言葉が理解出来ていたかは分からないが、それを聞いたランサーの双眸が獣のように吊り上がった。どうやら向こうもやる気らしい。

 

「お兄さん、あれ!」

 

イリヤが俺を呼ぶ。イリヤの視線を追うと、遥か上空にキャスターの姿が見えた。漆黒のローブを猛禽類を思わせる翼へと変化させて飛行している。その背後には数多の魔法陣。その全てが俺へと向けられていた。しかし────その射線上に、各々の武器を構えたイリヤ達が立ち塞がる。

 

「───────ようやく出番らしい出番が回ってきたわね。行くわよ、美遊。イリヤ。空で調子こいてるオバサン(・・・・)に目に物見せてやりましょう!」

 

「ちょ、クロ!あんまり挑発しちゃ·························」

 

「·····························魔法陣の数、増えてる」

 

《アハハー怒らせちゃいましたかね?》

 

「いいのいいの、勝手に怒らせとけば。いい?今の時代、日本人は皆ロリコンなのよ。あんな年増に今更出番なんて無いわ!リリィとかになって出直してきなさい!」

 

《クロ様、もうその辺に。魔法陣の数が凄い事になっています》

 

サファイアの声に視線を上げる。

····················いや、本当に多過ぎる。何だアレ。挑発に乗っている所を見るとキャスターの奴、本当は理性保ってるんじゃ無いだろうか。

 

「っと······················私も向こうにばかり気を取られている場合ではないな」

 

呟きを落とした途端、ランサーの姿が猛然と掻き消える。転移とみまごうばかりの疾駆。流れるような一閃。

しかし、雨のように途切れることなく繰り出される槍を俺は干将と莫耶で全て弾いていく。

攻めあぐねている事に苛立ちを覚えたのか、ランサーの槍は徐々に速く鋭いものとなっていた。

─────しかし、それは俺も同じ事。奴の速度が速まる度に俺も干将・莫耶を振るう速度が上がっていた。

相克する夫婦剣と呪槍。剣戟の調べは止む事を知らず、むしろその勢いを加速度的に引き上げていく。

 

「ち·······················やはりただのシャドウサーヴァントという訳では無いようだな」

 

そう。目の前のランサーは理性こそ失っているが劣化版という印象は受けない。─────まるで、ランサーを無理やりバーサーカーに仕立て上げたかのような。そんな気さえする。

 

「っ、!」

 

キャスターから魔力砲が飛んできて、一度後退する。

全く、クロのおかげで余計な手間が増えてしまった。

 

「しかし·····························」

 

考えようによっては利用出来る。

そう思いながら、俺は上空に視線を向けた。

─────炸裂する桃色と蒼色の閃光。

さながら、夜空に咲き誇る花火と言った所か。

イリヤと美遊の魔力砲がキャスターを撹乱し、クロが放った矢が夜気を裂いてキャスターへと肉薄する。

3人の攻撃の対応に追われるばかり、キャスターは何も出来ず格好の的となっていた。

 

「──────イリヤ達に対しては防御に徹し、俺にだけ攻撃を加える、か。『目的』のためなのか単に先に俺を始末する腹なのか。どちらにせよ厄介極まりない」

 

その言葉が聞こえていた訳では無いだろうが、キャスターの魔力砲が再び俺へと肉薄する。そちらに視線を向けていたからだろう。隙ありとばかりにランサーの槍が迫る。その槍を闘牛士のようにいなし、俺はランサーと立ち位置を反転させた。

───────そして、炸裂。

キャスターの魔力砲がランサーの背中で炸裂する。

予想外からの攻撃に蹈鞴(たたら)を踏むランサー。

俺はその隙を見逃さなかった。

 

「─────────終わりだ!」

 

オーバーエッジさせた巨大な刃によってランサーの痩身を両断する。見事に分かたれた上半身と下半身からは、赤い鮮血ではなくヘドロのような奇怪な液体が噴き出していた。

 

「さて、と」

 

残るはキャスターのみ。そう思い、再び上空へと視線を向けようとした時だった。

────────グシャリ。

何か、黒いものが俺の目の前に落ちてきた。

 

「な·······························」

 

それは、紛れもなくキャスターだった。

────────しかし、様子がおかしい。キャスターは己の錫杖を自らの心臓に突き刺していたのだ。

溺れるみたく、手足を暴れさせる。

もがき苦しむ苦悶の声が耳に痛かった。

 

「これは、一体·····································」

 

「な、なんで自分から·····················!?」

 

「っ、ああもう何なのよ!!」

 

先程まで戦っていた相手が急にそんな凶行に及んだのだ。

3人の困惑は無理もない。かく言う俺も一体何が起きているのか頭が追い付かず───────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「─────────自害せよ、キャスター」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『声』が、聞こえた。

聞こえてはいけない声。

聞こえて良いはずが無い声。

─────存在していいはずがないモノ。

 

「な·························どう、して?」

 

「冗談でしょ·····················何で、こんな」

 

有り得ない。有り得ない。有り得ない有り得ない有り得ない有り得ない有り得ない有り得ない有り得ない有り得ない有り得ない有り得ない有り得ない有り得ない有り得ない有り得ない有り得ない有り得ない有り得ない有り得ない有り得ない有り得ない有り得ない有り得ない有り得ない有り得ない有り得ない有り得ない有り得ない有り得ない有り得ないありえないありえないありえないありえないありえないありえないありえないありえないありえない。

 

 

 

 

 

 

「────────おにい、ちゃん(・・・・・・・)?」

 

 

 

 

震えて掠れたイリヤの声。

それを聞いた『奴』は歓喜するように、酔いしれるように、溺れるように、歌うようにこう告げた。

 

 

 

 

 

「ああ·························そうだ、俺だよ。お兄ちゃんだよ。ずっと会いたかった。ずっと、待っていた。ずっと愛していた。なのに、一人にさせて─────ごめんな」

 

 

 

 

それは愛の告白だったのだろうか。否、断じて違う。

それは歪んでいる。

それは犯されている。

それは違えている。

 

 

 

「けど、安心してくれ。もうお前を一人になんてさせない。だから──────── 一緒に来るんだ、生贄(イリヤ)。俺の悲願を、俺達の悲願を叶えに行こう」

 

 

 

 

 

──────何より『それ』は、狂っていた。

考えてみれば分かる事。これまでの断片を全て集め、当てはめていくだけの簡単なパズル。

さあ、黒幕はだぁれだ?

 

 

 

 

 

「──────衛宮、士郎」

 

変わり果てたソイツの名を俺は口にする。これこそが、俺をこの地へ向かう事を躊躇わせた理由だったのだ。

─────さあ、ここからが本当の意味での対峙。

過去に捨てた選択を今一度否定しろ。

己が全てを背負うと誓ったのならば、全てを捨て去り『愛』を選んだ己を否定するがいい。

 

 

 

 

 




生贄(イケニエ)と書いてイリヤと読む理由についてはまた次回。何というか、戦闘シーン書くの下手になった気がする·············

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