神喰らいは人造勇者である   作:たぴぃ

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 ゴッドイーター

 非公式に生み出された部隊。正式名称は【人造擬似勇者計画実験部隊】と言い、文字通り勇者を人間の技術で再現しようとした部隊。
 設立も運用も秘密裏に行われた部隊であり、確認できる生存者は橘想真ただ1人。可能性が有れば諏訪に1人居るかも知れないとされている。


覚悟

 午前の授業が始まる。見せられるのは勇者が現れる以前の日本の防衛戦力、つまり自衛隊がバーテックスに抵抗する映像資料だ。戦車、戦闘機、武装ヘリ、自衛隊員が持つライフルが指示に従ってバーテックスに向かい放たれるが、過剰とも思えるそれらをバーテックスはものともせずに猛進。ハチが外敵に抗う様に戦車に群がると瞬く間に戦車は喰らい尽くされ、戦線は崩壊。訓練を重ねた自衛隊ですら、バーテックス(化け物)の前ではただの餌に過ぎなかった。

 今でも外に出ればその時の名残を見る事が出来る。むしろ映像資料より酷い。それを知るのは現在では方舟の外に出た事のある想真だけだ。だから彼は知っている。方舟の中に入れず、各々のコミュニティを作り上げた者達の末路を。勇者に護って貰う事が出来なかった人類の、もしもこの5人の勇者が死んでしまった後、人類が辿るかも知れない結末を知っている。

 3年前のバーテックスの襲来。その約半年後から彼は戦い始めた。彼らに伝えられているゴッドイーターの設立の理由は勇者との共同戦線を作る為だったが、その実態は人類を護る役目を担う勇者の人数が余りにも少なく、それをどうにかする為の間に合わせだった。故に安全かも判らない僻地に行かされ、帰還した時には隊員は半分以下なんてザラで、全滅も珍しくはなかった。初めは勇者以上に居たゴッドイーターも生存者は想真1人、可能性があるのももう1人だ。

 

 「…どうせだったら…土地神が戦えば良いのに…」

 「多分、戦ってたんだと思いますよ。ほら、バーテックスが攻めてくる前に地震とか色々起こってましたし。アレ、土地神とバーテックスがやりあってたからじゃないんですか?」

 

 ポツリと呟いた声に反応した球子の言葉に、ムッとした様に黙る千景。きっと球子は土地神がどうにか戦って繋いでくれたのだから自分達が頑張らねばならない、そんな気持ちでその言葉を千景に言ったのだろう。だが、それは想真にとって非常に気に障るものだった。

 

 「……だからどうした?」

 「え?」

 「バーテックス襲来の前に土地神が戦ったからどうした?結果的にバーテックスは世界を滅茶苦茶にした挙句、その抵抗で起きた災害で人間は死んでいる。もしかしたら助かっていたかも知れない人間も、だ。人類に警鐘を鳴らすでもなく、ただ戦って負けて、それで後はどうにかしてくれと勝手に選んだ人間(お前ら)に力を託した。これのどこが神様だって言うつもりだ?」

 「…それは、その…」

 「確かに神らしいな。その身勝手さに関しては、確かに神らしいと言える。だがそれだけだ。今の状況も、別に―――」

 「―――まあまあ、落ち着こうよソーマ君!確かに神様は負けちゃったんだろうけど、それでも私達に繋いでくれたんだから、私達が頑張らないと!ね、ソーマ君も頑張ろ?」

 

 そう言葉を掛けられた想真は友奈を見る。勇者全員が神樹を、所謂『神様』を信じているとは想真も思ってはいないが、想真の徹底的なまでに神樹を否定する発言は聞いていて気持ちの良いものではない筈だ。それでもは笑顔で想真の事を宥めている。本来ならもっと言えた筈だが、毒気を抜かれてしまった想真は不機嫌そうに溜め息を吐くと頬杖を突き、窓の外を見るのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 映像資料を見せられた後は戦闘訓練である。5人はきっと校庭で体力作りに励んだ後に各々の武器を持ち、訓練を始めている筈だ。勇者の訓練は多岐に渡り、運動による体力作りは当然ながら格闘技による戦闘能力の向上、更には座禅による精神力を高める訓練すらある。

 そんな中、想真は違う場所に居た。目の前にあるのは手術台の様な台の上に安置されている武器だ。ソレは5人と想真の初対面の際、彼女達が見せられた武器と同一のモノだった。身の丈を越える程大きいその剣を彼は軽々と持ち上げ、数回素振りする。その表情は決して喜んではおらず、むしろ嫌悪している様にも見えた。

 

 「…また、お前を使うんだな…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「ソーマ君、ご飯食べに行こっ!」

 「タマ達はお腹減ってるんだ、早く行こうぜ!」

 「……土居、俺は1度だけと言った筈だが。あと、何故高嶋まで増えてるんだ?俺はコレで充分だ、お前らだけで行けば良い」

 

 想真が教室に帰ってくると、球子と友奈が待っていた。恐らく他の3人は先に食堂へ向かっているのだろう。何とも物好きなヤツだ、そう思いながら彼はまたレーションとゼリー飲料を取り出す。例の如く味は度外視された栄養食である。それを見た友奈は言った。

 

 「それ、美味しくないヤツじゃない?」

 「…確かに味は悪い。だが、栄養は足りる。そもそも、戦時中の現在に於いて――」

 「――じゃあうどん食べようよ!」

 「は?」

 

 全く理解が及ばなかった。想真は戦いの中で味を求めていれば肝心な時に食事が取れず、そこが弱味になると言いたかったのだが、それをぶった切った友奈の言葉につい素が出てしまい、そう漏らした。むしろ、ここまで邪険にされているのにまだ誘ってくる彼女達に感嘆すら覚える程に彼は呆れていた。

 

 「別に俺と一緒に食べた所で何も楽しくもないだろう。それに、俺が行った所で不和が増えるだけだろう。デメリットだけで利点なんてどこにも無い。分かったなら早く行くと良い」

 「ん〜、でも、ソーマ君は1人になっちゃうじゃん?」

 「いや、俺は別に――」

 「――なら、タマ達がここで食べれば良いじゃん!想真さんの分のうどんも持ってきてさ!」

 「それだよタマちゃん!流石タマちゃん、天才!!」

 「フッフッフ〜、タマに任せタマえよ!」

 「あ、おい…行ったのか」

 

 どれだけ止める様に言っても止まらない2人。確かにうるさいが、それでも煩わしくないのは彼女達の人柄の成せる業だろうか。

 

 ――ソーマ先輩!ご飯、一緒に食べませんか?

 

 脳裏に走る昔の記憶。輝く金糸のような髪を持ちながらも日本語が達者で、想真にとって大切だった少女の記憶だ。どこか勇者達に似たその少女の幻影は彼の記憶から消える事は無い。彼はストレスで真っ白になってしまった自分の髪をガリガリと掻き毟る。ロクに手入れしていない爪が頭皮を破り、紅くぬめりのある液体が爪を汚す。それでも彼は頭を掻き毟るのを止める事は無い。とても心地良く、だからこそ耳障りなその声が消えるまでずっと頭を掻き毟る、それが日常茶飯事になる程だ。

 

 「お待たせ〜って、オイオイ何してるんだ!?血ィ出てるじゃん!」

 「……悪い、直ぐに片付ける。どうせ直ぐに治るし、気にする必要は無い」

 「いやいや気にするよ!ほら、まず頭診せて!!」

 

 友奈は自分のバッグの中からパンパンに膨らんだポーチを取り出すと、その中から消毒液とガーゼを取り出す。随分と用意と手際が良いな、と他人事の様に思う。消毒液は傷口に滲みるが、それよりも彼にとっては未だに脳裏に走る少女の声の方がよっぽど心に痛く、故に頭の痛みは簡単に無視できた。

 

 「全く…ヒヤヒヤしたよ。ほら、うどん持ってきたし食べようよ!」

 「…まぁ手当ての恩も有る。今回は正直に厚意に甘えるさ」

 

 彼から話題を提示する事は出来ない。元々テレビなどのメディアには興味が薄い性質(タチ)だったし、つい最近まで彼は地下牢暮らしだったのだ。最近の話題なんて知る由もない。無言でうどんを啜る音が響くだけの室内に、球子の言葉はとても目立った。

 

 「――ねぇ、橘さん」

 「…どうした。それと、呼ぶなら想真で良い。橘は長いだろう」

 「じゃあ想真さん。タマ達ってさ、勇者じゃん?」

 「そうだな」

 「でも、なんでタマ達なんだろうなって思うんだ。普通の中学生はもっと遊びとかその…恋とか、そういうのをやってるんじゃないかって。この考えは…間違ってるのかな?」

 「………………」

 

 想真は黙る。友奈も反応はしていないが、これは恐らくうどんに夢中になっているだけだろう。視線を少し上げると全く箸が進んでおらず残っているうどんと、目を伏せている球子の姿が目に入る。この相談に答えなかったせいで死なれても困る、そう考えた想真は口を開いた。

 

 「――間違ってはいないと俺は思うがな」

 「そう、なのか?」

 「今のお前は勇者だ、土居。だがな、お前が何だかんだ人間ということには変わりない。あの訳の判らないカミサマから力と使命を押し付けられて、悩んでるだけのちっぽけな人間だろう」

 「でも、タマは勇者で――」

 「――それならなんだ?俺はお前が勇者だから悩むな、人間としてのお前を捨てて戦い、人類の栄光と繁栄を取り戻す為に死ねとでも言えば良いのか?悪いが、俺はそこまで人として終わっているつもりは無い」

 「いや、そんな事は言ってないけど…」

 「…戦いに於いて悩みは動きを鈍らせる。だが、悩みの無いヤツが生き残れる程単純じゃない」

 「え?」

 「生きて帰って答えを出す。悩みの答えが出なくても、そう決断するヤツの方が生き残るってだけだ。…少なくとも、俺が見てきたのはそうだった」

 

 想真には戦いしか無い。戦い続けなければ未来は無い上に、彼にとって、ゴッドイーターにとっての2年半は地獄だった。その2年半を生き抜いた想真は、生き抜いた事で更なる地獄を味わっている。

 だからこそ彼は彼女達に助言が出来る。どれだけ大社がカウンセリングなどの手を尽くしても、ソレは所詮戦いを知らない者から掛けられる無責任な戯言だ。しかし彼は違う。彼は勇者と同じく戦いを知っている。いや、勇者よりも戦いを知っている。知っているからこそ、彼は伝えなければならない。

 

 「…別に、1度や2度くらいなら逃げても構わない」

 「でも、そんな事をしたらみんなに迷惑が…」

 「むしろ、1人の方が俺はやりやすいからな」

 「なっ…!」

 

 事実、どう戦うか知らない勇者のカバーをしながら戦うよりも自分1人で戦った方が生存率は高い。あくまで()()()であり()()ではない所がネックだが、先遣隊程度なら1人でも撃退は出来るだろう。

 

 「だから良く考えるんだな。戦う理由と、その悩みの折り合いの付け方をな」

 

 御馳走様、そう言って想真は立ち上がり、そのまま食堂に食器を返しに行く。ついに友奈が話に入ってくる事は無かったが、ああいった手合いは折り合いの付け方が上手い事は知っている。何かしら抱え込む性分なら大社がどうにかするだろう。むしろ、その程度の役に立って見せろと思う。だって、そんな事も出来ないのなら大社に存在意義など無いのだから。

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