昔に【郡千景】と交流があり、同い年の15歳。バーテックス襲来時に組織されたゴッドイーターの一員であり、現在大社が確認出来るゴッドイーターの中で唯一の生き残り。ゴッドイーター最後の作戦時に犯した行為により今まで地下牢に拘束されていた。
戦闘に於いては近接、遠距離、防御を状況に応じて使い分けられる神機と経験に裏打ちされた直感と読みを最大の武器とする。現在の勇者の中で最も多くの戦果を上げている【乃木若葉】すら凌ぐ戦闘能力を誇るが、協調性の無さと独断専行が問題視されている。
ゴッドイーターが軸に置かれていた作戦のほぼ全てに彼は参加しており、それ故に情報提供が求められているが、彼は一切作戦に関する情報を話す事は無い為、未だに追求が成されている。
現在は精神疾患を患っており、精神安定剤と睡眠薬が手放せなくなっている。
未練
――見て下さいソーマ先輩!朔夜さんからご飯貰えたんです!羨ましいですか〜?でもあげませんよ!
あの血腥い戦場で、輝く様な笑顔を浮かべる少女。その笑顔に、部隊の者だけではなくどれだけ自分が救われた事か。
――この戦いが終わったら私、写真家になるんです!いやでも、音楽家も捨て難いですね…ソーマ先輩はどう思います?
絶望的な戦況の中、自分達が生き残る事を全く疑わなかった少女。目の前で何度も仲間が死んで、精神的に参っていたであろう彼女はいつでも笑顔を絶やさず、未来の話を想真にしてくれたものだ。だからか、想真は彼女に惹かれていった。
――またリンドウ隊長ったらお酒飲んで!朔夜さんに言いつけちゃいますからね!
勘弁してくれ、と笑って返す隊長。副隊長である朔夜がそれを目が笑っていない笑顔で窘め、想真は一歩離れた所で見ている。それを無理やり仲間の輪の中に入れてくれたのは彼女だった。
――え、あ…わ、私を選ぶなんていいセンスしてますよ先輩は!えと、その…不束か者ですが、よ、よろしくお願いします…
だから想いを伝えた。絶対に生き残る為に、絶対に守り切る為に、自分と彼女に誓いを立てた。見据えるのは幸せな未来。化け物を駆逐して、どこか静かな所で彼女と自分、もし叶うのなら子供と余生を過ごしたい。そう願った。願っていた。だが、それすらも世界は赦してくれなかった。
――ちょっと、やらかしちゃいました…お願いです、ソーマ君…私を殺してして下さい。あんな化け物になるの、死んでも嫌なんです。死ぬなら、大好きなあなたに殺されたい。いつもワガママでゴメンなさい。これが最期だから…叶えてくれると、嬉しいなぁ…!
何度世界を呪ったか分からない。自分達が何をした?2人で幸せな未来を想う事すら許されないのか?ただ2人一緒に居て、笑い合えるだけで充分だったのに。たったそれだけの、ちっぽけな望みすら叶えては貰えなかった。
君を殺したくない。だけど、君の願いなら叶えない訳にはいかなかった。
だ
か
ら
俺
は
君
の
心
臓
に
刃
を
突
き
刺
し
て
俺は愛する君を喰らったんだ
「――クソッタレが…」
また悪夢を見た。当然目覚めは最悪で、叫んで跳ね起きなくなっただけまだマシになった方だろう。この悪夢を見始めた頃は何度も跳ね起きて、床に頭を叩き付けた事か。
自傷行為を防ぐ為に自発的に着けている手錠を外す。枕元に常備してある精神安定剤を乱雑に瓶から掌に出すと、ベッドから立ち上がってコップに水を汲んで飲み下す。窓の外を見ればまだ外は暗く、スマホの電源を点けて時間を見ると、まだ早朝というより深夜と呼ぶべき時間だった。
寝汗でグショグショに濡れているシャツを脱ぎ、気分を変える為にシャワーを浴びる。伸びたままにしている髪を纏めているゴムを適当に取ると、真っ白な髪の毛がバサリと広がる。元は黒かった髪が白くなったのは、確かあの時からだったか。
シャワーヘッドからお湯を出して、ただ立ってお湯を浴びる。心地良い、人肌の様な温かさが身体を包む。
「おっ…ごぶぇっ…!!」
それがかつて浴びた仲間の血に、彼女の血に思えて、彼は嘔吐する。何も食べていないからだろう、胃液が床を汚す。シャワーを浴びているお陰で湯に流され、掃除の手間が省けたが気分は良くならない。直ぐ様シャワーを止めて適当に身体を拭くと服を着て、ベッドに潜り込んだ。
目を閉じても一向に眠気は来ない。他の事なら思考を簡単に断ち切れる想真も、今の事に関しては断ち切れない。それでも彼は目を瞑り、ただただ時間が過ぎ去って朝になるのを待つのだった。
田園に囲まれたのどかで自然豊かな村と言えば聞こえは良いが、つまりそれは単純に何も無い田舎という事だ。
千景は特別休暇を利用して、自分の故郷へ帰郷していた。その向かい側に座っているのは想真、彼は単純に千景の護衛だ。彼からすれば千景の帰郷は度し難く、彼自身大社から指示を受けなければ帰ってくる気など更々無かった。
「……なぁ」
「…なに?」
「どうしてお前が帰郷する?…あのクソッタレな村に」
「…どうしてでしょうね」
「…………」
会話は続かず、再びバスの中は静寂に包まれる。彼女が帰省した理由は結局分からないが、別に構わない。想真の足元に置かれた巨大なケースの中には神機が収納されている。アタッシュケースの中ではかなり大きいが、それ故の威圧感は有る。これを使う事になりそうだ、そう想真は予感して大社支給の黒いコートのフードを目深に被った。
(…アイツの母親は天恐だったか。父親はマトモだが、未だ村八分と…)
【天空恐怖症】、通称天恐。バーテックス襲来時、それらは天空から落ちてくる様に現れた。目の前で人が喰われたり、何らかのバーテックスが絡んだ要因で人が死んだのを目撃した事による恐怖症が天恐だ。天恐にはステージと呼ばれる進行段階が4段階あり、千景の母親はステージ3。ステージ3とは記憶のフラッシュバックや幻覚に苛まれ、薬が手放せなくなる段階だ。手遅れとされるステージ4まで秒読みとも言われるその段階は、どんな薬物療法やカウンセリングを施しても治った前例は無い。
数年ぶりに帰ってきた村は多少変わっていた。恐らくバーテックスに壊されでもしたのだろう。何軒か見覚えの無い家が建っていたり、建て替えられている家が有った。それでもおおよその雰囲気は分かる。
(勇者様の凱旋、か…どうせご機嫌取りに群がるんだろうが…)
千景の恨みを買えば守って貰えないかも知れない。それもそうだろう。勇者はたったの5人しかおらず、その中の1人に恨まれでもしたらこの村は守って貰えず、それどころか粛清される事すら有り得るのだから。そうなる前に予防線を張るしかない。村人は千景にトラウマを植え付けている。だから、きっと恨んでないと言わせるのは簡単だ。言わせさえすれば後は刷り込みでどうにかなる。それ程までに千景は弱い。生き残っている人類は誤解しているのだ。彼女達勇者はこの窮地に陥った人類を護る為に生み出された存在ではあるが、創り出された存在ではない。勇者というベールを引き剥がせば、ただの人間だという事を考えていないのだ。
(家から出たか…どこに行く気だ?)
想真の存在は出来るだけ秘匿しておくべき存在だ。だから彼は人目につかない様に少し離れた家の屋根に登り、双眼鏡を用いて監視している。その気になれば即座に詰められる距離なので護衛任務には何の支障もない。
団欒など期待してはいなかったが、事実居心地が悪かったのか荷物を持って家の中から出て来た千景。どこに行くのか想真には分からないが、千景はどこかへ向かって歩き出す。
(…高嶋と接して、それでこの村のクソと接する気が残ってるとはな。ヤツ程善い人間はそうそう居ないだろうに)
想真の見立て通りなら友奈の性質は正に勇者と言える、善性を突き詰めた様な人間だ。裏表と分け隔ても無く、近くに居るだけで心が暖かくなるような、そんな人間。それを経験しておいて尚、この村の人間と関わる事が出来るとは思えない。推測ではあるが、今の千景は友奈に会いたい。ひいては今すぐ帰りたいとすら思っているだろう。それ程までに千景に与えられた
そんな存在は想真にも在った筈だ。忘れる事など有る訳が無い。彼はそれを護る事も共に死ぬ事も出来なかった。単純に弱かった、だから失った。ただそれだけ、言葉にすればたったそれだけの話なのだ。
(群がったか…そろそろ出番だな)
少し離れた所に降りる。ここからでも村人が千景に群がっている事が分かる程度には人だかりが出来ていた。虐げられた記憶が蘇る。殺す事は容易いが、それをした所でメリットは無い。この小さな村なら大社が情報統制をすれば人死になど隠蔽出来るだろうが、それをした所で気が晴れる事は無い。それで満足する程、想真は短絡的ではないのだ。
「……皆さんに、訊きたい事があります……」
聴こえてくる千景の声、その次に紡ぐ言葉は分かり切っている。だから想真は珍しく焦る。それだけは駄目だ、それをしたら
「私は、価値のある存在ですか…?」
怪訝そうな顔をする村人達。その中に彼は着地する。変な事を言われる前に、予想が正しければ村人が言うであろう言葉を言われる前に、想真はこう言った。
「千景さん、時間です。行きましょう」
「ぇ、あ…!」
「待ちなさいよ!」
無理やり千景の手を引いて連れ出す想真。そこに立ち塞がるのは村の主婦だ。数人が徒党を組んで想真を通さまいと、千景を逃さない様にと現れる。これが普通の大社職員なら迂闊には手を出せずに面倒な事になるのだろう。だが、想真は大社所属ではあっても職員ではない。それ以前に、大社にどう迷惑が掛かろうと彼には関係ない。だから想真は、自分が持っているアタッシュケースを落とすとケースを蹴り開け、中から神機を取り出して主婦に向けた。
「邪魔だ、退け」
「なっ…?!あ、アンタ!!市民にそんなモノ向けて良いの!?」
「アンタ1人殺した所で困る事は無い。むしろ資源が1人分浮いて万々歳だろう。これが脅しか、試してみるか?」
主婦達から想真の目は目深に被ったフードのせいで見えない。だが、そのドスの利いた声と素人でも解る刃に乗せられた殺気に当てられ、数歩後退る。それを見ると想真は神機を仕舞うと千景を連れて歩き出す。
ちょうどバスの時間に合っていたらしく、タイミング良く到着したバスに千景を押し込むと彼も座る。来た時と同じように無言が続くのかと千景が思った時、想真が口を開いた。
「…なぁ、
「…!な、なに…?」
「自分に自信を持てとは言わない。誰かに頼るなとも言わない。だが、お前を【郡千景】として見てくれるヤツに価値の証明をしてもらえ。…少なくとも、あの村の連中には、絶対に頼るな。アイツらはお前を郡千景として見てはくれないぞ」
そう言うと彼は俯いて黙る。千景は今想真が自分を千景と呼んだ理由、そして言っている事の重さをひたすら考えるのだった。