神喰らいは人造勇者である   作:たぴぃ

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 高嶋友奈

 14歳。使用武器は篭手で、四国勇者の中でもきってのインファイター。彼女の趣味がプロレスやボクシングなどの格闘をテレビで観る事で、そもそもの身体能力が高い事もあり技を再現する事が出来るので戦闘能力は若葉と同等だと言われている。
 誰にでもフレンドリーで誰にでも優しい。話し掛けに行く事が多いが気付けば自分から多くの事を話している事から、巫女の上里ひなた曰く『究極の聞き上手』。現在の千景と想真の両方とコミュニケーションを取れる稀有な存在である。


悪夢

 良い夢とはどんなものだったか、想真はもう覚えていない。もう暫く夢は悪夢しか見ていない。だが、ある意味で幸いなのはこの夢が悪夢と解っている事だろう。明晰夢というヤツだ。前の様な記憶を追体験するよりはまだ精神的なダメージが少なく、何度も同じ夢を見ているお陰で終わりも大体察しが付く。

 彼は今真っ暗な空間の中に居る。標が無ければ自分がどんな体勢でいるのかが分からない程、真っ暗闇だ。だが、前方に光が有る。彼はそこに歩く以外の選択肢が無い事を知っているから歩く。どれだけ歩いたか、それすらも判らないがいずれ辿り着く事を知っている。光源に辿り着くと『彼女』が居る。想真の最愛の人にして、想真が殺した彼女が。

 

 「ソーマ君…」

 

 揺れて、掠れた声で自分の名前を呼ぶ彼女。元は金糸の様に輝いていた髪は戦いを重ねるに連れて色が抜けて白くなり、それでも「お揃いだね」と笑ってくれた彼女となんら変わらない、記憶の中の彼女と全く同じだ。

 だが、その彼女が紛い物である事は想真が1番良く知っている。だって、彼自身が殺したのだから。だから生きている訳が無い。そんな都合の良い事が有って良い筈が無い。彼は救われず、報われない。

 

 

 「…………」

 「こっち…来て…?」

 「…ああ」

 

 手を広げて笑い掛けてくれる彼女に、赦されたくなってしまう。この泡沫の夢に身を任せてしまいたくなる。この悪夢(ユメ)の中で眠れたらどれだけ幸せか、考えないと言えばそれは真っ赤な嘘になる。だが、それは赦されない。だから目覚めなければならないのだ。この、最高な悪夢から。

 右手を握れば、飽きる程握ってきた感覚が有る。神を喰らうその刃は、人に振るえばどうなるか想像に難くはない。彼は右手を突き出して、そのまま神機を突き出した。以前やったように、心臓に刃を貫かせた。

 

 「赦せとは言わない。死んでくれ」

 「ぁ、あぁあ…」

 

 刃が肉を裂いて貫く感触は、あの時の手応えと全く変わらない。1度も、1秒たりとも忘れた事は無い。化け物(バーテックス)喰らう(殺す)感覚とは全く違う、(人間)断ち切る(殺す)手応え。何度忘れようとしても忘れられず、そして忘れてはならない手応えだ。

 信じられないとばかりにか細い声を漏らす彼女だが、その表情はとてもミスマッチだ。儚げな微笑みに、少なからず昔の事を想起せずにはいられない。これから先の結末も分かり切っていた。

 ほら、彼女は腹を貫かれているにも関わらず前に倒れ込んでくる。そして想真を抱き締める様にすると、彼女は耳元でハッキリとこう言った。

 

 「 ひ と ご ろ し 」

 

 夢は深層心理で願う事が顕れるという。ならば、想真はコレを望んでいるのだろうか。

 

 「…解っているよ、そんな事」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 想真が起きて真っ先に感じたのは、消毒液特有の鼻に刺さる刺激臭だった。恐らくは大社の医務室だろう。何故ここに居るのか疑問に思うが、そう言えば先程の戦いで気を失ったと思い出す。矢に貫かれた手足を見れば、下手くそな巻き方で包帯がぐるぐる巻きになっていて、確実に大社の職員がやった訳ではない事が判る。

 

 「…馬鹿らしい」

 

 もう治っているだろう。そう思って包帯を外すと、本当に矢に貫かれたかと疑う程綺麗な肌が露わになる。人間離れした治癒速度もゴッドイーターの特徴だが、だからバケモノと揶揄される所以でもある。

 いつものパーカーを着ようと思ったが、中に着ているシャツが見つからない。ストックは有るので探すのも馬鹿らしく、包帯で覆われた身体の上にパーカーを羽織って医務室を出た。

 

 「…そうか、今は昼間か。…面倒な」

 

 勇者達に原則休日は無い。休息日は月に2日有れば良い方で、例え土日でも彼女達の学校は休みになる事は無い。そして今出た医務室から自室に帰るにはどのルートを通るにしても勇者達の居る教室を通らねばならず、廊下と教室は窓ガラスで隔てられているので屈まなければ隠れられない。が、流石に屈むと身体が痛く、勇者から隠れる為に痛みを許容するのも馬鹿馬鹿しい。だから彼は堂々と廊下を歩く事にした。

 

 「想真さん、怪我は大丈夫なのか!?」

 

 が、スルーされる事は無かった。予想通りと言えば予想通りだが、球子が教室から出てきたのだ。時間を見れば授業中の筈だが、教室のテレビに何かしらの映像が映っている事から映像資料を見ていた事が分かる。この映像資料が何かの役に立った事が無い事を未だに大社は知らないらしい。ハッキリ言って無駄だと言うのに。

 

 「…まあな。乃木と高嶋に怪我は?」

 「無いよ!ね、若葉ちゃん?」

 「ああ。あの時守ってくれて、本当にありがとうございました」

 「…お前達は勇者だ。こんな所で死なれても困るから助けただけだ、礼を言う必要は無い」

 「ですが、やはりお礼は大事ですから――」

 「――そんな下らない事を心掛けるより、お前は連携を取れ、乃木。今はあの戦い方でどうにかなってるが、直ぐに通用しなくなる。…次で高嶋辺りが怪我を負うだろうよ」

 「っ………」

 「今回は俺だったからまだ良い。俺はそう簡単には死なんからな。だが、お前らは違う。俺は使い捨てだが、お前らは生きなければならないんだ。それが勇者だろう」

 

 今の言葉は想真からすれば激励の言葉だった。死ぬのを避ける為に頑張れと。だが、球子からすればそうは聞こえなかったらしい。ズカズカと想真に詰め寄ると想真を睨み付ける。が、身長が想真より低いので上目遣いの様にしか見えないのだが。

 

 「それは、タマ達が勇者じゃなかったら死んでいいって事かよ」

 「は?そんな事は言ってないだろうが。いきなりなんだ」

 「それにその言い方じゃ、想真は死んでも良いって事かよ!!」

 

 声を荒げる球子に、想真は少し驚く。ヒートアップしたせいで呼び捨てになっている事はどうでも良いのだが、想真の死を看過しない様な言い方に驚いたのだ。確かにもうゴッドイーターの替えは無いが、だからといって彼が勇者の紛い物である事に変わりはない。

 勇者の身体能力や『切り札』の様な異能を無理やり再現しているに過ぎないゴッドイーターでは、このまま激化する戦いに付いていけるか分からない。だから彼の役目は切り札ではなく、当て馬なのだ。死んだ所で多少の損害は有れど簡単に埋められる程度のもの。その認識で間違い無い筈なのに、球子は違うと言う。それが想真にとっては驚くべき事で、そして腹立たしいものだった。

 

 「あぁ、俺は死んでも良い。むしろ死ぬべきだろうが。お前らは互いに弱点を補完しないとマトモに戦えない。だがな、俺は違う。俺は1人で完結してる。だから俺は独りで戦って独りで死ぬ。それが俺の正しい使()()()だ。今のお前らにはまだ分からないだろうが――」

 「――そんな誰かを犠牲にするやり方なんて分かんなくて良い!!タマ達は勇者だ!みんなを、想真を守るのが役目だ」

 「お前の役割は人間を守る事だろう。俺は守られる必要は無い。…俺はバケモノだからな」

 「人間だ!!」

 「…っ!」

 

 その目に偽りの光など無かった。本当に想真を人間だと、勇者(自分)が守るべき存在と思っている目をしている。そう、球子からすれば想真すら守るべきモノなのだ。どれだけ想真が自分達より強くても、それでも想真は勇者ではない。ならば、それは球子にとって想真を守る理由足り得る。たったそれだけの、単純なものだ。

 だが、それで凝り固まった想真の価値観が解れると思うのは大間違いだ。想真は苛ついていた。散々バケモノと罵られてきた彼にとって、ぽっと出のロクに想真を知らない少女に自らの価値観を真っ向から全否定されるのは我慢ならないものだったのだ。

 

 「…()()の事を何も知らない癖に、綺麗事を語るなッ!!」

 

 そう叫ぶと想真は自室へと早足で戻る。まだ治りきっていない怪我が痛む。だが、怪我をしていない筈の胸が痛むのは痛すぎて胸も痛いと錯覚しているのか、それとも別の要因なのか、想真には解らなかった。

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