14歳。使用武器はクロスボウで武器と性格的に後方からの支援を得意とする。かつて病弱だった事も有り、運動は不得手。だが読書好き故の知識量の多さを活かし、最小の動きで最大の結果を出す。敵の弱点を見抜く能力にも長ける。
本は恋愛小説が好きで、勇者の中でもトップのロマンチスト。勇者の中でも特に仲が良い球子とは趣味が対局であり、それ故に噛み合っている所が多く見られる。基本的に表情が変わらない想真に少し苦手意識があるが、歩み寄ろうと努力している。
「今日の晩ご飯はうどんだぞ!」
「まさかとは思ったが、うどんしか持ってきてないとはな…」
「まぁ色々持ってきたし、現地調達だ現地調達!いや〜想真が居てくれて助かったよ!」
「とは言っても旬はもう過ぎてる。食えはするが味は旬のものと比べると落ちるぞ」
「2人で食べるんだ、美味しいに決まってるだろ?それに、旬のものが食べたいなら来年また春に来れば良いしな!」
「…来年、か」
携帯用ガスボンベに携帯コンロを繋ぎ、水を入れた鍋を火にかけて水を沸騰させる。鍋の底に水泡が出てきた辺りで球子はリュックの中から袋に入ったうどんを取り出した。パッケージには『最高級讃岐うどん!』と銘打たれており、それをとても嬉しそうに開ける球子は見ていて笑顔になりそうな程だ。
手伝えるなら想真も手伝おうと思ったが、球子本人から「タマに任せタマえ!」と言われたので、想真は魚を捌く事にした。かつて教わった通りに釣った魚の鱗を取って腹を開いて内臓を取り出し、軽く水で血を洗い流す。刺し身にしようかと思ったが、合わせるものがうどんという都合上、少し適していないと想真は感じた。球子が出しっぱなしにしていたリュックを物色すると天ぷらの材料が揃っていた為、独断で天ぷらにする事にした。
(…『アイツ』は料理が好きだったな。朔夜さんもアイツも、何だかんだ言って人間である事に拘って食事は大事にしていた)
油の中に放り込んだ切り身と山菜が揚がった所で皿を持って球子の所へ向かうと、球子はヘッドバンキングしていた。
「よいっ…しょおおぉぉぉぉ!!!」
「…何をしてる?」
「何って、湯切りだよ!うどんは湯切りが大事だからな!」
「…そうか。天ぷら、出来たぞ」
「お、良いね!それじゃ食べようか!椅子は確か…」
「もう出してる。あとはお前待ちだ」
「じゃあ今行くよ!ちょっと待っててくれ!」
「そう急ぐ必要は無い。慣れてないのにそんな早く歩くと――」
「――っとぉ!??!」
「こうなるって言いたかったんだがな…間に合って良かった」
「たはは…恥ずかしいとこ見せちゃったな。ごめん、ありがとう」
「気にするな」
転びかけた球子を受け止める想真。咄嗟に球子の身体に手を巻いてしまったが、伝わってくる温かさとその華奢さに驚く。筋肉量は一般的な女子中学生より多い筈だが、それを加味しても細いと解る身体。これで
うどんにつゆを掛け、天ぷらを載せる。天ぷらの幾つかは皿に取っておいて、後追いで載せるかそのまま食べるかは本人で決められる様にした。いただきます、と合掌しながら食べ始める。最高級と銘打っているだけあって、やはりかなり美味しいうどんだ。
「美味しいな、想真!」
「…あぁ、美味い」
「ぁ……」
「…何だ?何かおかしかったか?」
「いや…なんでもない!」
今、想真は初めて「美味い」と口にしたのだ。いつも昼食に誘っても味の感想は言わず、感想を訊いても返事はいつも「まあまあだ」、「悪くはないな」としか言わない想真が初めて美味いと言った。その言った料理が店や出来合いのものではなく、自分と想真が協力して作ったうどんだった事が、球子にとっては堪らなく嬉しかったのだ。
「早く食えて洗い物も少ない。…うどんはかなり合理的な食事かも知れん」
「お〜、そんな考え方も有るのか!」
「…こんな考え方をしなくて良いなら、したくはないもんだがな」
後片付けを終わらせ、川辺に座る球子と想真。手には淹れたての珈琲が握られていた(想真はブラック、球子はカフェオレだ)。
満天の星空の元、水面に映る星が見える光景は絶景だ。これはこの周辺に人工的な明かりが無いからこそ見える光景なのだが、その光景がバーテックスによって作られていると思うと複雑な気分になる。そんな中、想真は球子に問い掛けた
「…土居」
「なんだ?」
「お前は人間を守るって役目に誇りを持ってるのか?」
「勿論!…とは言っても、あんまり自覚は無いんだけどな。正直、そういうのは若葉の方が有ると思うぞ」
「…なら、伊予島の事はどう思ってる?」
「あんず?あんずは臆病なんだ。頭は良いけど考え過ぎて直ぐに悪い方に考えて…だから、タマが守ってやんなきゃって思ってる。それに、あんずとは姉妹になれそうなぐらい仲良いしな!戦いが終われば、大社に言って姉妹になっても良いかも知れないな…」
「守らなきゃ、か…」
想真は視線を落とすと珈琲を一口啜る。それから少しだけ黙ると、不意に言った。
「…これから言う事、他の勇者に内緒に出来るか?」
「ん?」
「出来るか、出来ないかで答えろ。出来るか?」
「…出来る。出来るさ」
「…なら、その言葉を信じるぞ」
勘違いされているが、想真は勇者を遠ざけているだけで仲違いをしたい訳ではない。本来、勇者は『切り札』でゴッドイーターはただの捨て石に過ぎない。玉砕する事が正しい使い方なのだ。だから、変に仲良くなるのは好ましくない。勇者の使命は護国、それ故に性根が清く正しい少女達が選ばれたとされている。そんな彼女達に想真という使い捨ての駒が接し過ぎれば、戦いに躊躇いが生まれる可能性が有り得る。だから遠ざけてきたのだ。
だが、こうして勇者から歩み寄られれば拒絶は出来ない。本来の橘想真という人間の性格は決して悪くない。ぶっきらぼうだが、本当は優しい性格だったのだ。
「ゴッドイーターが化け物呼ばわりされるのは、確かに蔑称の意味も含んではいる。だがな、実際問題俺達は化け物なんだよ」
「確かに何回も言ってるよな、化け物だって」
「あぁ。…ゴッドイーターの力、と言うよりも【神機】だな。神機は人間の科学で造られてはいるが、その源流は神樹じゃない。もっと別の力だ」
「どういう事だ?タマには全っ然意味が分からん!」
「…神機はな、改造したバーテックスなんだよ。そして俺はバーテックスに喰われない様に、バーテックスの因子を投与してる。そうしないと神機に喰われるからな。だから俺の身体の何割かは人間じゃなくて、バーテックスなんだ」
「え…」
「まだ勇者という存在が確認されて間もない頃、人類は勇者を信じ切れていない派閥が有ったらしい。その派閥がバーテックスを勇者に倒させて、その死体を色々弄くり回した結果出来たのが神機だったらしい。毒を以て毒を制す、単純明快なやり方だろう?」
「…それって、想真から志願してやったのか…?」
「…神機の適合試験ってのは、言ってしまえば人体実験だ。それに俺は【新型】だからもっと条件は厳しい。そんなモノに志願どうこうなんて当時の政府でも出来ないだろうな」
「じゃあ、それって無理やりにやったって事か…?」
「まぁ、端的に言えばそうだ。バーテックスの襲来で親類を亡くした、天涯孤独の身の20歳までの人間を集めて適合試験をやった。もう殆ど神機が造れないからゴッドイーターは恐らく出ないだろうが、前半の適合試験は暴走が多かったらしい。何人も死んだが、後半にはパッチテストの様なテストが生まれてな、それで大体の適性は測れる様になった。適合試験で死ぬヤツは減ったが、結局死人は増えるばかりだった」
「ゴッドイーターの戦死…」
「そうだ。そもそもゴッドイーターには人間本来の弱点はそのままな癖に、新しい弱点が増えやがったからな」
「その、神機ってヤツか?」
「アレ自体は外側は壊れても、内部の【コア】が壊れなければ幾らでも外装は追加出来る。…この腕輪だ、弱点はな」
想真は空に右手の紅い大きな腕輪を掲げて見せる。その腕輪にはよく見ると塗装で誤魔化された傷が入っていて、どれだけの期間戦ってきたのかが窺える。ファッションにしては不便そうな腕輪だが、それが弱点だとは露ほどにも思っていなかった球子はついまじまじと腕輪を見てしまう。
「これが壊れると神機に喰われる。食性を偏らせる因子…【偏食因子】って呼んでるんだがな、それを定期的に投与するのがこの腕輪だ。そもそも俺達ゴッドイーターは無理やりバーテックスの因子を宿してるせいで、この偏食因子が無いと神機を握らなくても死ぬ。身体の内側からバーテックスになる。…人として、死ぬ事すら出来ない」
「……………」
「何人も居たし、何回も見た。戦いの中で腕輪が壊れて、泣きながら化け物になってくヤツをな。せめてもの救いはバーテックスになると自我が直ぐに消える事だな。さっきまで仲間だったヤツが突然化け物になって、近くのヤツに襲い掛かるんだ。どうだ、地獄だろ?」
「………うん」
球子はつい想像してしまう。自分の仲間が突然、倒すべき
「…なぁ、想真」
「何だ?」
「…辛いだろ。想真は優しいんだから、絶対に辛い筈だ」
「辛い、か…」
悪夢すら見慣れ、嘔吐すら習慣と化し、最早薬の力に頼る事を是として当然の想真に、辛いという感情が有るのか怪しい。既に当人すらそれが当たり前と感じているのだ。例え他人から見て想真が辛かろうと、想真からすればそれが当然なのだから、辛いなんて感じる訳も無い。
「…そうだな、前線に居た時は辛かっただろうな。だが、今は大してそうでもない」
「…そう、なのか?」
「あぁ。もう辛いと感じる事すら麻痺したからな」
今日はこんな所だろう。そう言うと想真は立ち上がり、珈琲を飲み干す。未だに無言の球子を怪訝そうに見ていたが、球子はいきなり立ち上がると想真に詰め寄り、言った。
「決めた!タマが絶対にお前に辛いって言わせてみせるからな!困った事が有ったら、1番にタマを頼る様にしてやる!もう想真が1人にならない様に、タマは死なないから想真も死ぬなよ!良いな!?」
「…フン、勝手にしろ」
「…ぁ…」
想真は球子の頭に手を置いて、ワシャワシャと乱雑に撫でると振り向いて歩き出す。その撫でている時の想真の口角が僅かに上がっている様に見えたのは、夜闇のせいで目があまり利かないからか。笑っていたかどうか訊きたくはなったが、それがどうしても野暮な事に思えてついぞ球子が訊く事は無かった。