14歳。使用武器は大鎌で中距離から近距離を得意とする。最も『勇者でありたい』という意思を強く持っており、それ故に強い。が、かつて複雑な環境で育ってきたが故のトラウマや固定観念から精神面では脆い。
友奈とは仲が良いが、それ以外の勇者とは交流が薄い。本来の性格が内向的な事も相まって1人の時は趣味のゲームをずっとしている。昔に想真との交流が有ったらしく、彼のゴッドイーター以前の過去を知る唯一の人。そのお陰か、あまり関わりには行かないが彼を信頼している。
授業中の休み時間、球子と杏は1つのイヤホンを片耳ずつ着けてスマホで音楽を聴いていた。
「…どーよ、この曲は?」
「う〜ん…私はこっちの方が良いかな」
そう言うと杏は自分のスマホを取り出し、イヤホンを接続して音楽を流す。杏が流しているのは静かな曲調の、謂わばラブソングやバラードと言われるもの。球子が流していたのは曲調が激しいパンクロックに分類されるものだ。
「…む〜…悪かない、悪かないけど…もっとこう、勢いとノリが欲しいな…やっぱ音楽はパンクロックだ!」
「そんな事無いよ。音楽はバラード、ラブソングが1番じゃないかな」
「いーや!青春の叫び、情熱の発露!パンクロックだっ!」
「染み入る曲調、心を揺さぶる恋情!ラブソング!」
2人が言い争っていると、チャイムが鳴り響いて教師が入ってくる。球子と杏は急いでスマホとイヤホンを仕舞うと、席に戻る前に球子は耳打ちをした。
「さっき言ってたオススメの曲、後で名前教えてくれ。もしかしたらまだ気付けてない魅力が有るかも知れないしな」
「うん。じゃあ、タマっち先輩のオススメも教えてね。私も聴いてみるから」
「本当にタマちゃんとアンちゃんって仲良しさんだよね」
「そうだろ!だってタマ達はほとんど姉妹みたいなもんだしな!いっその事一緒に住んじゃうか!?」
友奈の言葉に満面の笑みで応え、杏を抱き締める球子。ただ、身長が杏より低い為球子が抱き着いている様に見えるのはご愛嬌だ。
「えへへ…嬉しいけど、タマっち先輩と一緒に住むと大変そう。色んな道具とか自転車とか、いっぱい有るし」
「アレはただの自転車じゃないんだぞ!?アレはロードバイクって言って、錆びない様に屋内に置いてるんだ!それに、キャンプ道具は最近使ったんだぞ?」
「それって前の休養日の時?タマちゃん、1人キャンプでもしてたの?」
「チッチッチ…1人じゃないんだなぁ〜それが!」
「じゃあ、誰と行ったんだ?勇者ではなさそうだが…」
1人では行っていないという言葉が気になったのか、勇者全員が寄ってくる(放課後だから千景は自主練をしたかった様だが、友奈に引っ張られて来ていた)。
会話に入らない為、案外気付かれていないが教室内に居た想真は嫌な予感がしたので逃げようとする。が、実行が遅かったようだ。
「それはな…想真だ!!」
「…逃さんぞ、想真さん。今回は詳細を訊かねばならんからな」
「…別に、大した事はしていない。単純に誘われたから行っただけだ。予定も無かったからな、断る理由も無いだろう」
「そうだぞ。色々な話もしたけど、特に何も無かったな。強いて言うなら転んだ時に受け止めて貰ったぐらいかな」
「…その人は
「あ、そっか!ぐんちゃんは昔ソーマ君と友達だったんだっけ!それなら安心だね!」
「想真さんはどんな人だったんだ?差し障りの無いくらいまで教えてくれ、千景」
「そうね…ぶっきらぼうで無愛想で最低限しか言わない…それでも優しい人、とでも言えば良いのかしら」
「それなら今でもじゃん!何だかんだ付き合いは良いんだぞ、想真は!」
「…暇だったからだ。忙しければ行かなかった」
「照れ屋なんだからな〜想真は!」
終始ポジティブな球子に、どれだけ否定しても意味は無いと察した想真は頬杖を突いて「そうだな」とだけ肯定する。そして、一言だけ呟いた。
「――少し、踏み込み過ぎてるか」
「珍しいな。化け物を議会に召集するとは」
「私語は許していない。口を慎め」
今、想真が来ているのは大社の中枢。今の世界を牛耳る、と言えば聞こえは悪いが、言ってしまえばこの方舟の進退を会議する場所だ。通常は大社の極一部の幹部しか入室は許されない、通称【議場】。そこに想真は召集されていた。
中央に用意された椅子に手錠を掛けられたまま座る。目の前には大社の代表が中央に座り、代表の他に4人が扇状に座っていた。彼らは大社の各部門の代表であり、情報統制と資源運用、治安維持と法の運用を司る者達だ。
「今回は何の用だ?ここは息が詰まる、さっさと終わらせろ」
「貴様、自分の役割を覚えているのか?」
「…なに?」
「貴方が勇者に近付きすぎていると言っているのよ。私達が想定しているラインより遥かに、ね」
「それなら俺がアイツらと接さない様にすれば良いだろうがそっちが無能なお陰で、こっちとしても面倒を被っている」
「貴様、化け物の分際で意見するか!?」
「その化け物の力に頼ってるのはどこの誰だ?正直な話、期待外れだ。そっちが無能な事は百も承知だったが、まさかあれ程連携が取れてないとはな。そっちが言う『切り札』の教育すら満足に出来ない無能に、意見される筋合いは無い」
その言葉に二の句を詰まらせる4人だが、中央の大社を統括する大社の総帥が言った。
「黙って命令を聴き給え。偏食因子の配給が断たれれば困るのは君だろう?」
偏食因子。それはゴッドイーターが人としての命を繋ぐ為に必要なものだ。それの配給が無くなれば想真はバーテックスになり、殺されるかも知れない。だが、想真は嗤っていた。そう、嘲笑っていたのだ。自信満々に交渉の切り札をチラつかせた大社を。
「1つ、教えてやる」
「…ほう?」
「ゴッドイーターのアラガミ化…あぁ、バーテックス化の方が今は一般的な言い方か。まぁ良いか。ゴッドイーターがバーテックス化した場合、今の勇者じゃ倒せない」
「フン、強がりを。それは勇者様が1人で対抗した場合だろう?5人で掛かれば――」
「――無理だ。ゴッドイーターが成り果てたバーテックスには、その本人の記憶が遺る。つまり、その本人の経験を十全に生かして、それを最大限に引き出せるバーテックスが産まれる」
「貴方がどれだけ強かろうと、勇者には『切り札』が有るでしょう。たかが人類の負の遺産が勝てるとは思えないけど」
「ハッ、色んな情報に触れたせいで頭が悪くなったか?」
「なっ…!」
「そっちが名付けたんだ、意味を知らない訳じゃないだろう?俺は
かも知れない、そんな可能性の話ではないのだ。想真は断言した。彼女達勇者を
何故なら、彼らの目の前に座るこの青年はゴッドイーターだから。バーテックスへの対抗策もロクに練られておらず、勇者の力も殆ど知られていなかった時期に壊滅したとされるゴッドイーター。その最後の生き残りにして、戦闘能力が更に高い【新型神機】を操る者。万が一彼がバーテックス化すれば止められるかは解らない。止められても大きな被害を受ける事は免れないだろう。それを、人類を守るという目標を掲げている大社は容認出来ないのだ。
「偏食因子の供給を無理にやられても、俺がその気を起こせばバーテックス化は起こせる事を忘れるな。俺の手綱はそっちじゃない、俺が自分自身で握っているという事も覚えておけ」
この場でも彼は世界を滅ぼす為の一手を打つ事が出来る。何も腕輪を粉々に破壊しなければならない訳ではない。ただ偏食因子を投与する機能さえ止められれば良いのだから、いざとなれば拳でもバーテックス化は起こす事が出来る。
「俺に指図したいならもっと役立つ事をする事だ。…まぁ、俺達の戦いから目を逸し続けた貴様らに出来るとは思わんが」
そう言って無断で議場を出る。これで大社は嫌でも自分を粗末に扱えはしないだろう、そう思いながら廊下を歩いていると気配を感じる。廊下の曲がり角、死角になる植木鉢の陰を覗き込むと、しゃがんで隠れようとしているひなたを見付けた。
「…何をしている、上里」
「あはは…バレちゃいましたか?」
「大方、俺の過去を知れるとでも思ったか?…残念だが、お前にそういう事を話す事は無い」
「…因みに、理由とかって有るんですか?」
「俺はお前みたいな、何を考えてるか分からんタイプが嫌いだ。ただそれだけだ」
歯に衣着せぬ言い方でひなたを突き放した想真は去っていく。その背中が見えなくなった時、ひなたはスマホを握り締めて言った。
「私の考えなんて単純ですよ…私はいつでも若葉ちゃんの、勇者の皆さんの為に…」