神喰らいは人造勇者である   作:魔王タピオカ

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 予告していた新作です。やっぱり新作は筆の乗りが良いですな。まずは控えめな量を、どうぞ。


乃木若葉は勇者である Ep1 人類の末路
村八分


 田舎の人は温かく、都会の人は冷たい。それが世間で良く言われている、田舎と都会の差だ。だが、彼はそう思ってはいない。むしろ田舎の方が性質(タチ)が悪いと思っている程だ。

 田舎は狭い。それはつまり、コミュニティが閉鎖的になりやすいという事だ。閉鎖的なコミュニティで生まれやすいモノ、それが所謂『暗黙の了解』というものだ。暗黙の了解に従わない者は異端として迫害され、従う者は安寧と迫害する権利を得る。田舎の会社では転勤が比較的少なく、暗黙の了解を知る者が残りやすいのもその一因なのだ。

 対する都会は広い。広く、引っ越しや転勤が田舎に比べて多い都合上コミュニティは形成しやすく、解散しやすい。故に暗黙の了解は作られにくく、よっぽどの事をやらかさなければ迫害される事は殆ど無い。

 そもそも、昔の村八分と今の村八分は恐らく根底が異なる。昔のソレは自分達への戒めと村民への見せしめだ。「掟を破れば自分達もああなるぞ」という。だが今のソレはきっと、不安定な経済状況の八つ当たりなのだ。田舎に大企業が来る事は少ない。故にいつ倒産するか分からないという不安をぶつけている。だから終わる事は無い。不安の芽が摘まれぬ限り、その理不尽な暴力は終わらないのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「おー!抜けた抜けた!みんな見ろよ!」

 「止めろこっちに近付けんなよ!きったねーなぁ!」

 「わりぃわりぃ、ギャハハハハ!!」

 「いだっ…!やめっ、やめて!」

 

 目の前で、長い黒髪を掴まれている少女が居た。彼女の服は泥に汚れ、ランドセルの中に入れられていたであろう荷物が周りに散らばっている。しかも少女を暴行しているのは大人ではなく子供で、それ故に無邪気に暴力を振るう。一欠片も慈悲の情が無いのは少女が人として見られていないからだろう。悪しき『暗黙の了解』によって。

 

 「あ、そろそろ俺帰んねーと怒られる!」

 「マジ?…あー、オレもだ。帰るわ!」

 「んじゃ終わりにしよーぜ!…っおら!!」

 「がふっ!…あ、ぎぃ…!」

 

 この村八分が無ければ少年達もただの少年には変わりない。帰り際に一撃蹴りを少女に入れると、帰っていった。鳩尾にマトモに入ってしまったのだろう、少女は未だに慣れない激痛と吐き気に喘いでいた。

 

 「ぁ…なん、でわた、しが…?」

 

 口から漏れるのは何度も言い続けた言葉だ。自分は何もしていない。気付けば暴力を振られ、人格を否定されている。無視されるならば、と非行に走ろうとした事も有った。だが、それをすればここぞとばかりに問い詰められ、更に酷い暴力を振られる事は既に経験していた。最近ではやっていない事ですら容疑を掛けられる様になり、そうなればほぼ確実に彼女のせいにされる。大人からは言葉の暴力を振られ、子供からは単純な暴力を振られる。もう懲り懲りだった。

 

 「……おい」

 「ぇ、ぁ…?」

 「俺の家に来い。手当ならしてやれる」

 「う…」

 「…動けないのか。なら…よっ、とと」

 

 突然現れた少年はぶっきらぼうな口調で自分の家に来いと言い、あまりの痛みに歩けないでいると肩を貸してくる。今までの暴行で刻まれた青痣が痛むが、今までのソレと比べれば耐えるのは容易かった。

 もう覚えていない、人の温もり。余りにも心地良いソレに少女は眠気を覚えてしまう。それもそうだ、まだ年端もいかない少女が同年代とは言え男子から集団で暴行を加えられたのだ。更に言えば大人からも、実の親さえも彼女に厳しいのだ。それで寝てしまったとして、誰が責める事が出来るだろうか。

 

 「痛くないか?」

 「……………」

 「…寝てるのか。まぁ、良いけど」

 

 少年は肩を貸していた少女を背負い、そのまま自分の家へと歩いていく。年の割には細い足で、しっかりと道を踏み締めて。そっと揺らさない様にして歩いている所を見る限り、ぶっきらぼうでも心根は優しいのだろうか。少なくとも背負われている少女の表情は、少しだけ緩んでいる様な気がした。


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