神喰らいは人造勇者である   作:魔王タピオカ

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 神機:2

 本来は神樹由来の武器ではなく、力のルーツ的にはバーテックス側の武器。捕食すれば常人より多少強い程度のゴッドイーターの能力を勇者と同等に跳ね上げる代わりに、様々な制約が課せられる。
 ゴッドイーターはこれ以上造れない。正確にはまだ造れはするが、それをする理由が無い。
 現在人間が造った中で、唯一バーテックスに通用する武器でもある。


誤解

 ゴッドイーターは既に壊滅している。それはどう取り繕っても隠しようの無い事実だ。だが、勘違いされているのは、彼らの戦いが初めから劣勢だった訳では無いという事だ。

 始まりのゴッドイーターは1000人弱居た。ゴッドイーター候補は数万人居たが、適合して生き残ったのは1000人程度。その中でも【新型神機】に適合したのは想真ともう1人のみだ。今でも強い想真と同じゴッドイーターが1000人居たのだ。優勢で居られるのも頷ける。

 だが、それがある時期を境に半数以下まで減ってしまった。それは必然で、だが手を尽くせば防げた問題だったかも知れない。どれだけ優勢だとしても、戦況はたった1度のミスで覆る事も有る。それが戦いというものなのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「…今回は初めから進化体が居るのか。あのフォルムなら高機動低耐久がテーマか…?」

 

 3度目の襲撃。それは以前とは違い、初めから進化体が投入されていた。高機動低耐久、ゴッドイーターの戦いでは1度だけ投入されたバーテックスだが、想真達は遠距離からの飽和射撃で鏖殺した事で2度と見る事は無かった。が、この勇者達ではそうもいかない。

 遠距離攻撃なら杏のクロスボウが有るが、アレは遠距離を『点』で射抜くもので、『面』制圧は出来ない。球子の旋刃盤も一応遠距離に対応出来ない事も無いが、旋刃盤も面制圧ではない上に、何より手放す時間が増えれば球子自身が危険に晒される。ならば対処は想真がやる事になるだろう。

 そう思案していた時、想真の耳に球子の笑い声と不穏な言葉が聞こえた。

 

 「ふっふっふ…今回は秘密兵器を持ってきたんだ。……タマだけに、うどんタマだぁぁぁ!!」

 

 そう言って球子が掲げたのは『最高級!打ちたて!』と書かれたうどんの袋だった。

 

 「それを…どうするつもりなの…?」

 「大社の人が言うにはバーテックスには知性があるんだろ?そしてあの、人間の下半身みたいな姿…アイツはもしかしたら、人間に近いのかも知れない!」

 「そっか!それならうどんに反応して隙が出来るかも知れないね!」

 「その通りだ友奈!この最高級讃岐うどんの前では、人なら冷静ではいられない!よしっ、文字通り喰らえぇぇぇっ!!」

 

 球子は大きく腕を振りかぶり、うどんを投げた。うどんは狙い通りに進化体の進路上に落ちるが、二足歩行バーテックスはうどんに目もくれず、速度を少しも緩める事無く通り過ぎていった。そして、うどんに反応しなかった事に対する驚愕で未だに動けない勇者達に向かって突進していく。

 

 「…な、にしてやがる馬鹿野郎共がッ!!」

 

 戦闘中に仲間と喧嘩するより、何よりもしてはいけない事を、勇者達はしてしまっていた。ゴッドイーターも同じ事をした。自分達が常人より優秀であると驕り、バーテックスに『知性』が有ると勘違いしたゴッドイーターの半数はバーテックスとの対話を試みた。それによりゴッドイーターの半数以上が死亡、辛い戦況を強いられる事となった。

 それは同じ単語でも意味合いが違う。それに勇者は気付けず、大社も自分達が知る意味以外に捉えようが無いと思っていたのだ。謂わば認識の相違と言えるだろう。バーテックスには確かに知性が有るが、それは対話の様な平和的に使えるものではない。バーテックスの知性とは殺す為の知性だ。立ち塞がる敵を殺す為に自分達を最適化し、効率的に殺す為の冷徹な機械的な知性。そこに平和的な使い方をする余地など微塵も存在しない。

 勇者達とバーテックスの間に滑り込むと、想真は装甲を展開して真正面から受け止める。今回の組み合わせは刀身がショートで装甲がバックラー、つまり回避重視で防御など殆ど考えていない組み合わせだ。バックラーは展開速度こそ速いものの、その防御性能は装甲3種の中でも最低クラスだ。タワーシールドならまだしも、バックラーではバーテックスの巨体を抑え込めない。

 

 「――何を、ボケっとしてる…!ここは戦場だ、気を抜くな」

 「あ、あぁ!今助けるぞ、想真!」

 

 球子の旋刃盤が弧を描いて二足歩行バーテックスに向かうが、それを察知したのか後ろに跳んで回避される。その周りから扇状に進攻してくる星屑に、想真は隠す事無く舌打ちを打つ。受け止めていた両腕がビリビリと痺れ、震える。これでは照準をつける事は難しいだろう。

 

 「…不味いな」

 「済まない、気を抜いていた。それで、何が不味いんだ?」

 「お前は自分達の使命を忘れたのか、乃木。お前達は…いや、俺も含むのか。俺達は人類を守らなければならないらしい。だから後ろの神樹が倒されれば終わり、無条件で敗北だ」

 「それは解っているが…」

 「…あの二足歩行のバーテックス…星屑が時間稼ぎに徹して、アレだけが突出されたら仕留める手段が無いわ…」

 「その通りだ。あの速度にはどうしても追い付けない」

 「ソーマ君の銃は?あとあの金色に光るのとか」

 「弾が当たったとしても殺し切れないだろうな。神機解放(バースト)は確かに機動力は上がるが、アレに追い付ける程上がり幅は大きくない。…もし殺れるとするなら…」

 「タマっち先輩…じゃないですか?」

 「…そうだ」

 「え、タマか!?」

 「俺では殺し切れるか怪しいし、伊予島では点での攻撃な上に機動力も奪い切れない。なら、線で攻撃出来る上に足の片方でも切断出来る可能性が有るお前が適任だろう」

 

 だが、旋刃盤の速度ではあのバーテックスには追い付けない。勇者が共通して持つ『切り札』が有るとはいえ、球子の切り札がどんなものなのか未だに解らない以上、使用は極力避けるべきだろう。しかもどんなデメリットを抱えているか分からないソレを使うとなると、もし気絶でもされれば戦況は一気に劣勢に傾く。余裕が有る時ならまだしも、今のこの状況で不確定要素に賭ける程想真はギャンブラーではない。

 

 「…やるか」

 「どうするつもりですか?」

 「星屑の処理は乃木と高嶋と郡に任せる。俺は…死ぬ気であの二足歩行を足止めするから、お前ら2人はどうにかしてあの二足歩行を仕留めろ。…処理役の3人には全力で足止めして貰う。1匹も通すなよ」

 「難しい指示だな」

 「私達ならやれるよ若葉ちゃん!ぐんちゃんも居るし、ね!」

 「本来は俺じゃなくてお前らの誰かが指示を出すんだ。…いつ死ぬか分からない俺に頼るな」

 「想真は死なせないぞ!タマが守る、言ったろ?」

 「…先ずは自分を守れるようになってから言うんだな」

 

 想真はピルケースから錠剤を取り出し、更に注射器も取り出す。錠剤は口に放り込んで噛み砕き、注射器は首に当てて押し込む。薬剤が注入され、神機を構成する細胞の全てが励起していくのが解る。それと同時に過負荷による身体の破壊も知覚する。

 

 「っ、オオォォォアアア!!」

 

 方向転換など考えない、ただ愚直なロケットスタート。地面すら踏み砕くソレは想真の骨を軋ませ、その代わりに二足歩行バーテックスにすら肉薄する程の速度を与える。だが、無理やりその速度を出している想真とは対極に、進化体はその巨大な脚を用いて速度を出している。方向転換は勿論、急制動すらお手のものだ。

 しかし、その程度の事が解らない想真ではない。速度を出し過ぎた、それ故に方向が変えられない。ならばどうするか?簡単な話だ。勇者達に出来るかどうかは分からない。だが、こうやって形振り構わずやれるのなら、想真には出来るやり方が有った。

 

 「グゥッ…!!」

 

 跳躍して、進みたい方向とは反対に変形した神機の弾を撃つ。ゴッドイーターが撃つ弾は全てゴッドイーターには無痛という、変わった性質を持つ。だが、弾が齎す反動や衝撃はそのままである。だから、想真は爆発の勢いを使った。その反動と爆発の勢い、更に即座に剣形態に変形させて装甲を展開し、初陣の時の様な事をする。

 

 「こっちを、見ろォォォ!!」

 

 そんな言葉が、普通は通じる訳が無い。だが、進化体はしっかりと想真を見た。先程まで破壊しようとしていた神樹ではなく、想真に向かって走り始めた。それと同時に星屑の攻撃も激化する。取り逃した数匹は杏の援護射撃でしっかりと回収し、事無きを得る。

 

 (流石の効力だな…!)

 

 さっき飲んだ錠剤は回復錠ではなく、ゴッドイーターに支給されていた【挑発フェロモン】だ。効果はその名の通り、バーテックスを挑発して自分に注意を向ける。聞くだけなら、ただ死にたがりが使う薬としか思えないだろう。

 正直な所、想真はこの錠剤を使いたくはない。まだ実力が発展途上の勇者では激化する攻撃に耐えられるか分からない上に、もし防衛戦を突破されればこの戦場のバーテックスは想真に群がる。それだけなら良いが、勇者が想真を守ろうとして怪我をする、最悪死んでしまう可能性すら有る。それだけは回避しなければならない未来だ。だが、そうでもしなければ進化体の足を止める事が叶わない。

 だが、張り付ければこちらのものだ。進化体の身体の上に乗った想真は神機を突き刺してしがみつく。レバーで進行方向を決める様に、神機に体重を掛けて傾ける。二足歩行とは本来高度な行為で、絶妙な体重移動により成り立っている。それを急激に乱された進化体は転倒こそしないものの、速度を急に落とす事を強いられる。

 

 「今だっ!!」

 

 速度が落ちた瞬間に球子が旋刃盤を投擲するが、それは進化体が跳躍する事で躱される。何度も投げるが、速度が落ちたにも関わらず全て回避され、徒労に終わる。

 

 「がっ!!げほっ…」

 

 それで被害を被るのは想真だ。受け身を取ろうにも取れず、進化体が着地する衝撃が全てダイレクトに伝わると流石に堪える。とうの昔にバーストは切れており、回避される度に身体中の骨という骨と内臓が悲鳴を上げる。神機を握り、意識を失わないようにする事だけで精一杯で、こうして進化体の速度を落とし続けている事は奇跡に近いだろう。

 ゴッドイーターはバースト状態になる事で勇者と同等クラスの身体能力を手に入れる。つまり、バーストが切れている想真はかなり身体を鍛えている人間と大して変わらない。トラックに追突され続けている様な衝撃に、耐え続ける事が出来る訳が無いのだ。

 

 「このままじゃ想真が!」

 「…タマっち先輩、もう1回だけ旋刃盤を投げて」

 「でも、外れたら想真が…!」

 「大丈夫。タマっち先輩の攻撃、絶対に当たるから」

 「あんずがそう言うなら、信じる。……とりゃあああぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

 渾身の力で投げられた旋刃盤は弧を描いて進化体へと飛んでゆく。このままでは先程までの二の舞で、また回避される。だが、それをやらせる程杏は愚かではない。

 

 (想真さんは私達に仕留めろって言った。なら、やり遂げないと信頼なんて勝ち取れない…!)

 

 あの想真が、誰かに何かを任せた。それが嬉しかった。例えそれが信頼から来るものではなく、戦術的見地による消去法だとしても、任せられたという事実だけで嬉しかった。きっとそれは杏だけではない。球子の焦りもそこから来るもので、今星屑を足止めしている3人もプラスの感情を抱いている筈だ。

 だから、これだけは失敗してはならない。深呼吸を1つ、息を止めてクロスボウを構える。訓練通りにやれば良い。想いを籠めれば良い。そうすれば、願いは力と成る。

 

 「――ここ!」

 

 放たれた一矢は旋刃盤に着いているワイヤーを撃ち抜く。が、ワイヤーは貫かれる事は無く不自然な軌道を描いて旋刃盤は急に曲がる。それに対応し切れなかった進化体は片足を斬り飛ばされ、膝を突く。

 

 「あとは…任せろっ!!」

 

 球子の旋刃盤が巨大化し、進化体を両断する。それだけではなく、球子は力任せに旋刃盤を振り回して円を描かせる。巨大さ故の質量と、それによる遠心力。それが加算され巻き込まれた星屑は粉々に粉砕され、骸を重ねていった。

 

 「終わった…」

 「想真さん、大丈夫ですか!?」

 

 バーテックスが死んだ後は真っ白な灰になり、直ぐに散る。進化体はその巨体故に大量の灰を出すのだが、今回はそれが功を奏したらしい。灰の山に倒れている想真を杏が抱き起こす。

 

 「……これが、大丈夫に見えるか…?」

 「待ってて下さい!今すぐ医務室に運びますから!」

 「…勝手に、しろ…」

 「私だけじゃ辛いかな…タマっち先輩、手伝って貰えるかな?」

 「おー!タマに任せタマえ!」

 

 2人に抱き上げられた想真は医務室へと運ばれていく。身体中に激痛が走り、気分も悪い。いつだって戦いが終わればこんな状態だが、未だに慣れる事は無い。前までなら肩を貸し合って歩いていたものだが、他人に運ばれるという事は殆ど無かった。緊張はしている筈だが、身体は正直なもので想真は簡単に意識を手放した。


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