神喰らいは人造勇者である   作:たぴぃ

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 旧型神機

 『新型神機』の登場を受け、従来の神機を指す時に使用されるようになった呼称。近距離型と遠距離型が存在する。
 想真が使う新型神機とは違い、変形機構を持たない。近距離型は装甲を装備できるが、遠距離型は構造の関係上装甲を持たず、回避主体にならざるを得ない。
 遠距離型は『オラクル細胞』を射出する事で銃撃をするのだが、射出する事で減少するオラクル細胞を回収する機能を持たないので神機の自己修復を待つ間は攻撃出来ないデメリットを持つ。自己修復にも限界は有る為、長期の連続運用が見込まれる際は携帯用のオラクル細胞を携行するのが一般的である。


賢愚

 それは、勇者達が丸亀城に帰還してから約半月の事だった。前々から神樹が予言していたバーテックスの襲撃。それが起こったのだ。

 

 「これは、数が多過ぎますね…」

 「…今までの10倍、いえ…もっとかも知れないわ…」

 

 スマホに搭載されているレーダーアプリで敵の数を見ると、夥しい数の赤い光点が輝いていた。その光点1つ1つがバーテックスで、それら全てが融合すればどんな進化体が完成するか判らない。

 神樹の恩恵による樹海化で時間が止まっているとは言え、長過ぎる樹海化は勇者にとってもジリ貧になる上に神樹の負担も大きい。これは流石に連携が必須になる。そう思った時、想真の横を堂々と若葉が通り抜けた。

 抜刀し、徐々に速度を上げて走っていく若葉。若葉が横を通り抜けた瞬間に嫌な予感はしていたが、それは見事に的中していたらしい。戦いの時に関しては決して外れない嫌な予感を、この時は恨んでいる。

 

 「数が多いなら…私達が今までの倍以上に倒せば良いだけだッ!!」

 

 威勢よく飛び出した若葉はすれ違いざまにバーテックスを3体斬り捨て、群がるバーテックスの中へと突撃していく。

 

 「若葉ちゃん!!」

 「っ、馬鹿が!!バーテックスは()鹿()()()()()()()()!!」

 

 半円状の陣形を取り進軍していたバーテックスは、その陣形の右端と左端を急速に移動させ、陣形を円状にした。それはつまり、若葉が閉じ込められたという事に他ならない。

 暴走している若葉はそんな事に気付かず、襲い掛かってくるバーテックスを片っ端から斬り捨て、戦い続けている。今はその卓越した剣技と才能、体力で補えてはいるが、ジリ貧になるのは火を見るより明らかだ。

 

 「想真、あれじゃ若葉がっ!!」 

 「やはり目を付けられていたか…!クソ、ヤツらは若葉を先に殺すつもりだ!!」

 

 そして厄介なのが、敵は若葉に向けている星屑の数よりも多くの星屑を神樹への侵攻に向けている事だ。勇者は確かに死なせてはならないが、その神樹と勇者の優先度を比べると確実に神樹の方が大事なのだ。

 勇者が1人死んだとして、その枠は次の勇者が務めるだろう。だが、神樹が倒されてしまえばそれも叶わない。勇者は神樹が選定し、そして今の人類の生存圏は神樹によって保たれている。つまり、神樹が倒れれば世界は終わり。ゲームオーバー、ジ・エンドだ。

 だから若葉を助けに行こうとしても難しい。侵攻ルートは限られているとは言っても無限にも思えるその物量は、勇者4人とゴッドイーターの戦力を分散させて捌き切れるか解らない程の物量だ。ここで若葉を助けに行きましたが神樹が倒されました、では済まない。勘違いしてはならないのは、勇者は互いを守る事が使命ではない事だ。あくまで勇者は人類の守護者、時には見捨てるという選択も必要になる。

 だが――

 

 「想真さん、あのままじゃ若葉さんが…!」

 「…友奈、着いてこれるか?」

 「え、私!?」

 「あの中での戦闘領域はかなり狭い。ここで杏を連れて行くのは論外、球子は武器を投擲した時にカバーする余裕が無い。千景は至近距離では鎌の取り回しが悪くなる。ここはお前を連れて行くのがベストだが、強制はしない。俺の命を賭けてでも若葉は連れ戻すから、ここで神樹防衛に専念してくれても――」

 「――行くよ、勿論。若葉ちゃんは勿論だけど、ソーマ君も死なせたくないから!」

 「…了解した。なら行くぞ。あの包囲網を最短で突っ切る!!」

 「うん!」

 

 敢えて残る3人に何も言わないのは、ある意味信頼の表れとも言える。何も言わずとも3人は全力を尽くして、神樹を守ってくれるだろうという信頼の表れだ。

 なら、自分は絶対に若葉を生きて帰さねばならないと覚悟を改める。神機を銃に変形させ、オラクル(エネルギー)の残量を確認する。突っ切る分には充分だろうと断定すると、後ろを向いて友奈に言った。

 

 「俺の背中にしがみついてろ。あの中で離れたらリカバリーは無理だからな、嫌かも知れないが我慢しろ」

 「ううん、嫌じゃないよ?ソーマ君だしね」

 「…そうか」

 

 背中に友奈を背負うと、バレットを付け替える。今回の突破力が必要となる戦場では都合が良く、今回の銃身はブラストだ。継戦能力は他の2つの銃身に劣るものの突破力と範囲破壊力に関しては右に出る銃身は無いだろう。そして今付けたバレットは【エミッター】と呼ばれる、射程こそワーストクラスながらもバレットが破壊力を発揮する時間と破壊力はトップクラスだ。

 

 「行・く・ぞォォォォォォオオオッ!!」

 

 先ずは剣形態に変形し直し、手頃な所に居るバーテックスを捕食してバーストする。そして銃形態に戻すと、躊躇なくその引き金を引いた。銃身の先に紫色の焔が灯り、想真は駆け出す。

 エミッターに灼かれたバーテックスは尽くが灰となり、一瞬だけ道を空ける。だが、速度を落とせば即座に空けた道は新たなバーテックスで閉ざされ、エミッターが使用不可になればまた剣でオラクルを稼ぐ必要が出てくる。それをこの敵陣のド真ん中でこなす自信が無い訳ではないが、背中に背負う友奈や今も戦っている若葉が無事でいる保証は無い。故に、速度を落とす事無く突破しなければならないのだ。

 

 「っ、ぐッ…!」

 「ソーマ君!?」

 「気にするな…!それよりも前を向いて若葉を見ていろ。アイツがピンチになったらお前を投げるから、しっかり助けて来いよ」

 「…うん、分かった!」

 「…良い返事だ」

 

 想真が倒しているのは自分達の進路を塞ぐバーテックスだけだ。周りに群がるバーテックスを倒していないから、想真は喰い付かれて負傷を余儀なくされる。身体を反らしたりしてどうにか負傷を軽減しているとは言え、痛いものは痛いし怪我はする。回復錠を噛み砕いて間に合わせにはするが、それもその場凌ぎにしかならない。疲労と失血は蓄積していくだろう。

 

 「ぐっ、ううぅぅ!!」

 「頭に血が上ってるな…!友奈、投げるぞ!」

 「いつでも良いよ!!」

 「よし…行って、来いッ!!!」

 

 全力で友奈を右手で投げ飛ばす。後の救助は友奈に任せるとして、今の状況は最悪だ。

 

 「飽きもせずにうじゃうじゃと…目障りだ」

 

 四方を囲む無数のバーテックス。ソレらは想真を円形に取り囲み、そして徐々に徐々にその空白を埋めていく。単純な物量で擦り潰すつもりなのだろう。普段は表情を浮かべない怪物だが、今だけはその巨大な口を愉悦に浮かべている様に見えたのは錯覚だろうか。

 ピルケースから挑発フェロモンの錠剤を取り出して噛み砕く。視覚的には何の変化も無いが、これでかなりの注意を向けられるハズだ。少なくとも気休め程度には2人の負担は軽くなるだろう。

 近付いてきた星屑を斬り捨てる。更に倍以上の星屑が迫り、それを殺す。星屑を斬りながら銃に変形させ、跳んで空中で直下に爆撃を撃ち下ろす。滞空している途中に周囲を見回してバーテックスの数を確認しようとしたが、軽く1000を超えているのは間違いないとアタリを付けると戦いに意識を戻す。ここで変に敵の数を数えると、その予想が外れていた時に意気消沈してしまう。そうなれば動きは鈍り、その鈍りは命取りとなる。だから、目の前の敵を殺す事だけに専念する。

 

 「……殺し尽くす」

 

 神機を構え直し、想真はバーテックスの群れへと飛び掛かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 実に9時間、それが今回の襲撃を退けるのに掛かった時間だ。9時間もの間、勇者達は絶え間なく襲い来るバーテックスを倒し続け、そして夜を越えて朝になったこの時間に勝利を掴んだのだ。

 

 「終わっ、た…のか?」

 「若葉さんと、友奈さんは無事…みたいです。2人で、歩いてきてますね…」

 「あなた達…想真が、どこに居るのか…分からない?」

 

 若葉と友奈が傷だらけで歩いてくる中、千景はそう言った。周囲を見回すと、一際うず高く積み上がる白い灰の山を見付けた。その上に立っているのは見覚えのある少年で、その姿は一見無事な様に見える。

 

 「想…真…?」

 「ぅァ…たまこ…か…」

 「お、オイ!しっかりしろ、想真!!」

 「…ケガ、してる…じゃねぇ、か…むり、するな…」

 「想真さんが言える事じゃないですよ!!千景さん、大社に電話して下さい!」

 「分かってるわ…!」

 

 逆光で影しか見えない時は無事に見えたが、近くに寄るとそれは間違いだった事に気付いた。現に、勇者達はそうだった。身体中から出血し、着ていた服はそこかしこが破れて血が滲んでいる。ふくらはぎの肉は円形に抉られ、左手はおかしな方向に折れ曲がっていて、右手は破った服の切れ端で神機と結んである。見る限り、神機を死んでも手放さない様にしていたらしい。

 この負傷は凄まじい量のバーテックスを単身で請け負っていたからだ。幾ら単体としての性能が特化していても、圧倒的な物量の前では意味を成さないのだ。今の想真が良い例だろう。単体なら勇者よりも強い彼ですら、こうして瀕死になっているのだから。

 

 「わ、私が…私のせいで…」

 「ちが…きに、やむな…よ…」

 「想真さん!!」

 

 前のめりに倒れ、転げ落ちる想真。勇者の装束を血に濡らしながら想真を受け止めた杏は、飛んできた大社のヘリコプターの着陸地点へ急ぐ。神機には直接触れないので神機を引き摺りながらにはなるが、流石にその程度では壊れないだろう。

 友奈もヘリコプターに乗せ、病院へと向かって貰う。残された4人の間には気まずい沈黙が広がり、自分の足で病院に入るまであの球子でさえ1言も発さなかった。そして、あまりの疲労に全員倒れ伏すのだった。

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