神喰らいは人造勇者である   作:たぴぃ

25 / 62
 オラクル細胞

 バーテックスの出現により発見された、バーテックスを構成する『思考し、喰らう細胞』。バーテックスの活動が停止すると霧散し、オラクル細胞は消滅する。
 1つ1つの細胞ごとに生命活動が完結しており、その点では単細胞生物に近しいと言える。遺伝子としてDNAを保持しておらず、人類などのDNAと炭素をベースにした生物とは根本的に構造が異なる。
 【捕喰】に特化した極めて特異な器官を細胞壁状に所持しており、あらゆるモノを取り込んで【喰らう】事が出来る。


理由

 目を開けると、白い天井が広がっていた。身体を起こそうとすれば全身に激痛が走る。ベッドに付いているリモコンを操作し、リクライニング機能を使って身体を起こすと自分の身体を見る。シャツすら来ていない身体には包帯が巻かれ、左手はギプスでガチガチに固められて右手も包帯がきつく巻かれている。

 

 「…死んでないだけ御の字か」

 

 嗄れた声を絞り出す。右手側にあるサイドテーブルに置いてある瓶を傾けると、氷がガラスにぶつかる涼やかな音と共に水がコップに注がれる。一口水を飲むと携帯端末を使って現在地を確認する。病院の館内図を見るとこの病室は集中治療室の向かい側にあるらしい。この病院には病棟が3つ有り、その内2つが一般向けで残りの1つが勇者と想真専用の病棟になっている。一般向けの病棟よりも遥かに高度な医療機器と良質な医師が揃っており、この壊滅しかけた世界で言えば世界最高峰の医療施設と言えるだろう。

 そんな病院だが、変に広くても移動時間のロスが増えるだけだ。だからこの病棟はかなり小さく造られている。集中治療室の向かいに病室が有るのがその証左だ。

 

 (…横になってても痛いな…まぁ、あの数捌いてこの程度で済んだのは幸運と言うべきか)

 

 ゴッドイーターになってから、戦いに於いて数で劣勢ではなかった事は無い。いつでも多勢に無勢の状況下での戦いだった。だが、先の戦いは今までで最も孤軍奮闘したと言えるだろう。バーテックスの突進を防いだ左手はバキバキに折れ、右手の指の骨が砕けたから無理やり服の切れ端で固定して神機を持った。身体のそこかしこはバーテックスに喰われ、丸く抉られていた。

 

 (挑発フェロモンまで使って…全く、俺らしくはなかったか)

 

 言ってしまえば、自分で自分の首を絞めただけなのだろう。別に挑発フェロモンを使わずとも勇者達は切り抜けられただろうし、ただ自分の負担を増やしただけだったのかも知れない。

 

 (…あのバカの事、もうバカとは言えないな。俺もアイツと同類だ)

 

 ゴッドイーター第1部隊。隊長は楠木竜胆、副隊長は楠木朔夜。所属していたのは隊長と副隊長を含め5人、橘想真と『彼女』、そしてもう1人。旧型神機を使う彼は『彼女』と隊のムードメーカー、そして優秀なエンジニアとして第1部隊の活躍に大いに貢献した。が、その彼は助けられる人全員を助けようとする、想真からすればバカな男だった。それ故に彼を慕う者は多く、1度2つに別れたゴッドイーターがもう2度と分裂する事が無かったのは彼が居たからなのだろう。そしてその彼は、生存している可能性が有る唯一のゴッドイーターだ。

 

 (…諏訪、か。この香川以外に人類が生存しているかも知れない場所。あのバカなら生きているかも知れないが…)

 

 そろそろ寝ているのにも飽きてきた想真は、ピルケースから錠剤を1つ取り出す。

 

 (コレを使うのは避けたい所だが、仕方無いか)

 

 ガリっ、と噛み砕いて飲み込む。すると、身体から異音が響く。身体が無理やり怪我を治そうとしているのだ。断裂した筋肉を無理に繋ぎ直し、折れた骨を伸ばして繋げる。神機を使う為に投与されたオラクル細胞(バーテックスの因子)が身体を本来在るべき姿に戻そうとしているのだ。

 だが、それをするには凄まじい負荷が伴う。戦闘中、危機に陥っても使用を躊躇う程の負荷、それを伴う故にこの【回復錠S】は2錠しか携行を許されていないのだ。

 

 「…やはり使うものではないな。身体は重いし何より痛い」

 「――自分が周りの人間を危険に晒しても、気付きさえしない!!」

 

 突然、千景の声が病院の静寂を切り裂く。大方、若葉の独断専行を責めているのだろう。だが、流石に勇者が仲違いするのはよろしくない。途轍もなく重たい足を動かし、病室のドアを開ける。

 すると、右に居る杏に向けて左に居る千景が手を振り上げている所だった。自分の病室の、文字通り目と鼻の先でそんな修羅場が起こっているとは思っていなかった想真は一瞬固まりそうになるが、咄嗟に千景の手を握って止める事ができた。まさか唐突に手を挙げたくなった訳ではあるまい。このまま行けば千景は杏の事を()っていただろう。

 

 「…オイ、止めろ」

 「想真…!?もう、起きれるの…?」

 「まぁ、裏技を使ったんだがな。それより今、杏の事を打とうとしたな?」

 「…………えぇ」

 「別に、喧嘩をするなと言ってる訳じゃない。多分若葉の事で揉めてるんだろうが、確かにあの独断専行は容認できない。事実、その独断専行をカバーしたせいで友奈は大怪我をしている訳だ」

 「…………」

 

 誰も何も言わないのは、きっと全員心の中で若葉の異常なまでの突出を良く思っていないからだろう。現に、あの球子が若葉を庇っていないのがその証拠だ。友奈と球子は許容してしまうが、千景は違う。そんな人材が必要な事は解っている。だから止めないのだ。

 

 「リーダーの独断を止める為の意見を言えるのは誇れる事だ。どうしてもこういう役目を負っている以上、間違っている事は即座に直さなければ後々後悔する。戦いに絶対は無いし、次はどうなるか解らないんだからな。次は誰かがもっと重い怪我をするかも知れないし、下手すれば誰かが死ぬかも知れない。そのリスクを抑える為にも、その指摘は大事だ。だが、そこで杏を打つのは違うだろう?」

 「…えぇ、そうね……」

 「………済まない……」

 

 たった1言の謝罪を零し、俯いて黙りこくる若葉を見て後頭部をガシガシと掻き毟る。1度嘆息すると、自分が変わった事をしみじみと感じながら若葉に向けて口を開いた。

 

 「別に、友奈の怪我はまだしも俺の怪我には何も負い目を感じる必要は無い。だが、もしも俺が居なかったらどうするつもりだった?若葉」

 「…………」

 「まぁ、今回と同じだろうな。切り札すら使わずに戦って、その結果戦線は瓦解。最も強襲と離脱に向いている友奈がお前を助けに特攻、気力で繋いで勝とうとする。その過程で自分とその周りが傷付こうとも、正当な理由を盾に同じ事を繰り返す。違うか?」

 

 若葉の戦う理由は復讐だ。目の前でバーテックスに喰われたクラスメート、他にも無数に居るバーテックスに殺された無辜の人々。その痛みと怒りを背負い、まるで鬼の様に戦っている。間違ってなどいないだろう。大社が訂正などする訳が無いだろう。何故なら大社が勇者に望むのはバーテックスと戦い、人々を護り、そしてバーテックスを撃ち破る事。それさえして貰えば理由など何でも良いのだから。

 

 「…想真、怒ってるのか…?」

 「怒ってる、か…違うな、怒ってる訳じゃない。ただ、省みて欲しいだけだ」

 

 球子の問いにそう答えた想真は、踵を返して若葉に――いや、この場に居る全員に向けて言った。

 

 「俺みたいな戦い方にならない様に、な」

 

 その言葉は全員の胸に突き刺さる。そして若葉は解らなくなった。自分の戦う理由と、間違いなど有りはしない理由の正しさが。眠り続ける友奈を見て、自分はその傷の価値と釣り合うのだろうかと問い続けた。

 その問いは誰にも投げ掛けられない。ただ、それでも訊いてみたかった。どうなったのかも解らない、諏訪の勇者(友達)に。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。