神喰らいは人造勇者である   作:たぴぃ

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 天空恐怖症

 バーテックス初襲来の際の生き残りがなってしまう可能性のある精神疾患。特に目の前で家族や友達、恋人を喰われた者がなりやすいとされる。
 通称【天恐】と呼ばれ、その症状により4つのステージに分類される。

 ステージⅠ 外を出歩く際に空が見られない。
 
 ステージⅡ 外が出歩けない。

 ステージⅢ 寝ている事が多くなる。ほぼ手遅れ。

 ステージⅣ 発狂し、何らかの手段で自死する。

 今はステージⅢ後半に差し掛かると安楽死させる選択をする人が殆ど。ステージⅢに上がってから天恐が治ったという事例は無い。
 その特異さから、空からバーテックスが毒電波を放出しているのではないか、という見解を示す研究者も居る。


陣形

 大社は常に2つの事を危惧している。1つは勇者達のコンディションの事だ。これは乱してはならないものであり、これが不安定になり続ければ容易く人類は滅んでしまう。人類の最後の砦である勇者を、どうにかして戦ってくれる様にしている。

 次がバーテックスの総攻撃だ。襲撃を重ねるに連れて激化していく攻勢に、勇者達は徐々に削られている。確かに最初よりも練度や信頼度が上がって戦いは優勢に進められてはいるものの、それでも増え続ける数に耐える事は難しい。

 戦場に於いて数とは、最も簡単にアドバンテージを取る手段であり、実力の差を埋める手段である。ゴッドイーターも個としての戦闘能力は非常に高かった。特に新型はそれが顕著だった。が、それでも敗けたのは数が足りないからだ。倒しても倒しても沸き続けるバーテックスに、想真達ゴッドイーターは無様な敗北を晒してしまったのだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「比喩ではなく、本当に『無数』といったところか…」

 

 険しい表情で若葉が呟く。神託や緊迫感で前回よりも遥かに厳しく戦いになる事は分かっていたが、こうして敵を前にすると緊張するのは仕方の無い事だろう。

 そんな険しい表情の若葉の頬を、横から伸ばされた指がつつく。

 

 「若葉ちゃん、眉間に皺寄っちゃってるよ。そんなに怖い顔しなくても大丈夫!今回も、みんな無事に帰れるよ!」

 「…そうだな」

 

 あまりにも呑気に聞こえる友奈のその言葉が、今の若葉には有り難かった。地平線に見える白は全てバーテックスの身体の色で、凹凸は進化体の身体の大きさ故だろう。今まで見た事が無いフォルムも遠巻きに見える。それでも大丈夫だと言葉に出してくれる友奈は、若葉だけではなく全員にとって有り難い存在に違いなかった。

 

 「そうだ!アレやろうよ!」

 「アレ?」

 

 唐突に友奈が言った言葉に球子は首を傾げる。

 

 「みんなで肩を組んでやるぞー!って言うヤツ!」

 「円陣ですね。確か、球技大会の時にやってる人達も居ました」

 「…良いかも知れないな」

 

 球子、若葉、友奈、杏が肩を組む。千景はどうしようか視線を彷徨わせていたが、そんな千景に友奈が手を差し伸べた。

 

 「ほら、ぐんちゃんも!」

 「……はい」

 

 そして未だに警戒を続ける想真を杏と球子が無理やり連れ込んでいた。

 

 「想真さんもやるんですよ!」

 「抵抗しても無駄だからなー!?」

 「…分かった。やるさ、やるから離してくれ」

 

 抵抗する事を諦め、肩を組む想真。若葉は全員の目を1度しっかり見ると、号令を掛けた。

 

 「ファイト!」

 「「「「「「オー!!!!!」」」」」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 今回の襲撃にあたり、杏が出した案は陣形(フォーメーション)を使うというものだ。陣形の中心となるのは丸亀城、丸亀城周辺は樹海化しても完全に植物に覆われず、ある程度見渡せるからだ。丸亀城を中心とした時に正面・東・西に勇者を3人配備し、その後ろに杏を置く。その後ろには休憩を兼ねて1人待機させるのだ。今までの戦いは勇者5人を全員投入してバーテックスを全員の全力で潰すというものだったが、長期戦が予想される今回の戦いでは1人を常に休ませておく事で交代制とし、長く戦う事に重きを置いている。

 

 「…でも、想真さんの負担がこれじゃあ…」

 「気にするな、これが最善だからな。杏が気に病む必要は無い」

 

 だが、想真は違う。勇者5人がローテーションを組む中、想真は単身で遊撃として前に出て、常に戦わなければならない。勇者達の武器はそれぞれに特徴がある。故に1つの事に関しては誰の追随も許さないが、自分の武器で出来ない事はとことんやれないのだ。そんな中で即応性に富み、更に実力が高いのが想真だ。言ってしまえば想真はひたすら前線を維持しつつも勇者が危なくなれば手助けする、普通よりも負担が大きい戦い方を強いられているのだ。

 だが、想真は構わないと言う。むしろ、その程度で良いのかと言わんばかりの表情だ。

 

 「遠慮なく俺を使え。この程度の戦場なら幾らでも経験してきたし、もっと危険な戦場も有った。…それに、だ」

 「それに、どうしました?」

 「勿論助けてくれるんだろう?そう信じてるから、安心して戦える。…信頼してるからな、杏。頼んだぞ」

 「え〜、アンちゃんだけなの?」

 「…さて、どうだろうな。そろそろ持ち場についておけ。…来るぞ、敵が」

 

 視線を戻すと白の波が更に迫っていた。想真は歩き出すと、数回神機を変形させると構えた。正に駆け出そうと脚に力を込めた瞬間、自分の胸を満たす感覚に気付いた。いつもとは違い、心地良いその感覚。何故そんなモノを抱いているのかと思案したその時、想真は気付いた。

 

 (…そうか、これが信頼か。アイツの言う通り、確かに心強い)

 

 『彼女』が良く言っていた【信頼】というモノを想真は信じていなかった。戦いが始まれば頼れるのは自分の力と積み重ねてきた技術だけ。そう信じて疑わず、『彼女』と自分の命を守れるように強さを磨き続けてきた。

 だが、今は違う。自分が全て殺さずとも、万が一バーテックスを取り逃がそうとも、後ろで構えているであろう勇者達が倒してくれる。自分のミスを補ってくれる。自分が勇者のミスを補える。絶対にミスをしてはいけないというプレッシャーが無い事で、身体が軽く感じるのだ。

 

 「…来い、バケモノども。1匹残らず()()()殺してやる」

 

 襲ってきた星屑を捕食すると、死体をそのまま放り投げる。そのままバースト状態へと移行した想真は以前の様に敵の群れには決して突っ込まず、1番前を走ってくる星屑を殺し続ける。

 

 『想真さん、進化体です!少しラインを下げても良いので、出来るだけダメージを与えて下さい!』

 「っ、了解した!!」

 

 バーストの時間が切れる前に星屑を捕食すると、うって変わって敵の真っ只中へと飛び込む。足元に蠢く星屑を足場にして、進化体に肉薄するとバスターブレードの重い一撃を叩き込む。だが、その剣は甲高い音を立てて弾かれてしまう。体勢を崩しかけるがどうにか立て直し、バーテックスの群れから離れたビルに着地する。

 

 (あの手応え…対破砕だな。クソ、ショートを使ってない時に限って…!)

 

 バーテックスの装甲には幾つか種類が有る。だがそれは大社が定めたものではなく、ゴッドイーターが戦場の中で見つけてきたものだ。故に信頼出来る。

 剣形態の神機には貫通、切断、破砕と呼ばれる攻撃の種類がある。ショートブレードは貫通力、バスターブレードは破砕力が強いという特徴であり、切断はどのブレードも含んでいるがロングブレードが最も強い。

 それにバーテックスは自分達の身体の組成を変える事で対抗し、対破砕や対貫通というメタを張ってきたのだ。今回の想真は敵を一撃で撃破する事を重視している為、一撃が重いバスターブレードを使っている。そんな時に対破砕のバーテックスが来れば面倒臭く感じるのは仕方の無い事だろう。

 

 (レーザーを使えば良いが…アレは燃費が悪い。今回はオラクルの回収効率も悪いから、出来れば避けたい所だが…)

 

 今使っている銃身はブラスト、つまり爆発系のバレットに特化している。別に貫通系のバレットであるレーザーを撃てない訳ではないが、燃費が悪い上に威力の低下が著しい。本来はここで杏に援護射撃を頼むべきなのだが、彼女の武器は神機ではなく神器であり、遠距離武器と言ってもクロスボウだ。今想真の居る位置まで届くとは思えない上に、届いても威力はお察しだろう。

 ならば、やりたくなくてもやるしかない。それが悪手だとしても、やらなければ任された役割を全う出来ないのだから。

 

 「…背に腹は代えられないからな!!!」

 

 星屑を足場にして跳び上がり、3回引き金を引く。紫紺の閃光は進化体を確実に貫くと、その後ろに居る数体の星屑と進化体の身体を貫いて消える。

 視線だけを動かして状況を見ると、想真は今居る場所から離脱して友奈の元へ向かう。そのまま襲われ掛けていた友奈を装甲で庇うと、そのまま盾で殴り付けながら斬り上げる。

 

 「消し飛べ!!!」

 「ありがと、ソーマ君!」

 「気にするな!」

 

 今使った防御から攻撃へ切り替える技術は【パリングアッパー】と想真が呼ぶ技術だ。これは想真が実戦の中で見出した技術であり、だから誰も知らない。この技を見出した時には既にゴッドイーターは壊滅しかけていたからだ。

 この技術は単身で戦うのにも便利だが、本来の使い方は今の使い方――つまり、味方を庇う使い方だ。味方を庇い、そこから即座に反撃に転じる事で危険を排除する。それがパリングアッパーの本来の目的なのだ。

 

 「杏、友奈を特に観察しておけ。友奈は他の勇者よりも戦う距離が近いから、アイツが1番危険だしピンチになる可能性も高い。俺は友奈と球子を優先的に見ておくから、若葉と千景は頼む」

 『了解しました!想真さんに消耗は有りますか?』

 「許容範囲内だ、安心しろ。…第二波、来るぞ!!」

 

 まるで津波の様に襲い来るバーテックスの群れを見据え、想真は叫んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「悪い、少し休む…!」

 「了解です!タマっち先輩、休んでる所悪いけど――」

 「――分かってる!タマに任せタマえ!」

 

 戦いが始まって3時間程が経過した辺りで、流石の想真も限界が訪れた。勇者と比べれば圧倒的なまでに長い時間を戦っていたが、だからこそ消耗も激しい。常に気を張っていたせいで頭は疲れているし、身体のそこかしこには小さな傷が多く刻まれている。激しい息切れと動悸、頭痛も重なって、つい膝を着いてしまう。普通なら再度戦うなど有り得ないコンディションだが、そうも言ってはいられない。

 

 (想真があんなに頑張ったんだ。タマも頑張んなきゃな!)

 

 旋刃盤を投げてバーテックスを屠りながら、飛んできた金色の矢を見ると球子は後ろに居る杏に叫んだ。

 

 「あんず!タマより友奈の事を頼む!こっちはそんなに厳しくないからさ!」

 「…分かった!」

 

 そんなに厳しくないなど、嘘だ。確かにここは若葉と千景が担当している中央や、友奈が担当する東側と比べれば数は若干少ない。それでも少ない訳が無く、捌けているのは中距離と近距離のどちらもこなせる球子だからこそだろう。

 

 (ちょっと見栄張っちゃったけど、許してくれよな、あんず…!)

 

 旋刃盤を投げ、キャッチしては接近してきた星屑を殴り付けてラインを維持する。だが、旋刃盤と呼んでこそいるが球子の武器は旋刃盤になるだけで、本来の在り方は楯だ。球子単体で戦い続けるなど言語道断、そんな事をすればいずれガタが来てしまう。

 

 「あ、マズ…!」

 

 眼前の進化体に気を取られ、背後から忍び寄っていた星屑に球子は気付けなかった。進化体に向けて旋刃盤を投げていた球子は丸腰で、直ぐに戻そうとしてもワイヤーで繋がっている都合上どうしてもタイムラグが発生する。片腕くらいなら、と覚悟を決めた球子だが、その星屑は叩き砕かれて灰となる。そこには、先程までグロッキーだった想真が立っていた。

 

 「気を付けろ…そもそも、お前は単体で戦うタイプじゃないだろうが」

 

 その想真は疲労からかフラ付き、神機を持ち上げる事すら辛そうだ。下がって欲しい一心の球子は想真よりも前に出て、想真を庇うように立つ。

 

 「下がっててくれ、想真。今ここを受け持ってるのはタマだろ?だから、休んでてくれ」

 「だけど、お前は――」

 「こういう時の為の切り札だろ?…それに、見てくれ。あの進化体を倒せる武器は今のタマ達には無い。想真の銃でもあのデカいのは消し飛ばせないだろうし、ここでタマが切り札を使うのが1番良いと思うんだ」

 

 球子は有無を言わせない迫力を出していた。

 

 「若葉ァ!!【切り札】を使うぞ!!」

 「…!?待て球子、それなら――」

 「――いいや、待たない!それなら自分が使うとかも無しっ!!タマにはタマも活躍させろ!!!」

 

 球子は目を閉じ、自分の身体に宿る神樹の力を感じ取り、手繰り寄せる。神樹と自らの繋がりを意識し、それを媒介として神樹が持つ万物の概念的記録にアクセス。そこに宿っている【精霊】の力を引っ張り出す。

 球子が引き出した精霊は――【輪入道】

 直後、球子の旋刃盤の形状が劇的に変化していく。

 

 「え!?ちょっとタマっち先輩、それは大き過ぎるでしょ!?」

 

 後ろで見ていた杏が驚くのも無理の無い話だ。今の旋刃盤は持ち主である球子の身長をゆうに超え、その大きさは球子の数倍に巨大化していた。

 

 「それじゃ投げられないんじゃ…」

 「いいや、投げる。根性で投げる!!見てろよ、あ〜〜ん〜〜ず〜〜〜!!!!」

 「…っ!?危ないな…」

 

 ワイヤーを伸ばし、ハンマー投げのようにグルグルと回転して遠心力をつける球子。凄まじい速度のワイヤーに首を刈られそうになった想真は咄嗟に地面に寝そべる事でワイヤーを回避し、嘆息する。周りが見えていないな、と。

 

   「うううおおおおぉぉぉぉぉぉ〜〜〜〜〜りゃああああぁぁぁぁぁぁあ!!!!!」

 

 雄叫びと共に投げられた旋刃盤は()()()()()()()()()()()飛んでいく。その様を見ていた友奈は驚きの声を上げる。

 

 「ええぇぇ!?タマちゃん、ワイヤー千切れちゃってるよ!?大丈夫なの!?」

 「ふぅ…大丈夫、これがあの武器の使い方なんだ」

 

 巨大な旋刃盤は外縁部の刃を凄まじい速度で回転させながら、蛇型バーテックスへと向かっていく。しかも途中から刃が赤色に――炎に包まれながら。

 燃え盛る旋刃盤は刀を振るって戦う若葉の横を掠めるように通り過ぎ、蛇型バーテックスに襲い掛かる。そして蛇型バーテックスの身体を切り裂き、分裂しようとする身体を焼き尽くすと他の2体に襲い掛かり、同じように焼き尽くす。

 

 「…す、凄いな…」

 

 その凶悪なまでの破壊力に若葉は目を見張る。球子の方を見ると球子が親指を立てていた。若葉は口元に笑みを浮かべ、親指を立てて返す。

 

 (…球子のコントロールが悪かったら、私も危なかったな)

 

 若葉は心の中で苦笑する。

 今もバーテックスの軍勢を焼き払う旋刃盤の威力もだが、最も凄いのは球子のコントロールと読みだろう。前線で戦う若葉達に当てる事なく、スレスレで通過させるそのコントロールと勇者達の行動を読んで旋刃盤を操作するその精密性は球子の才能だろう。少なくとも自分には無理な芸当だと若葉は思う。

 蛇を片付けた旋刃盤は星屑の軍勢を焼き払う。進化体ですら抗えない『破壊』に星屑程度が為す術を持つ訳も無く、バーテックスの数はみるみる内に減っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 このまま行ければ戦いも終わっただろう。だが、事態がそう上手くいく訳が無い。それが戦いなら、尚更だ。

 

 「ぐっ…!」

 

 突然、崩れ落ちるように球子が膝を突く。

 

 「球子!」

 

 想真が支えるが、掌に感じる冷や汗の量は凄まじいものだった。顔色は白く、明らかに負担が掛かり過ぎているのは目に見えていた。

 

 「だ、大丈夫…ちょっとクラっとしただけだからさ」

 「だが…」

 

 後ろに居る杏からも声が響く。

 

 「タマっち先輩、大丈夫!?やっぱり精霊の力は負担が大き過ぎるよ!!」

 「いいや、あんず…そんな事言ってる場合じゃないんだ…前を見ろっ!」

 「!?」

 

 球子の声で、全員はバーテックスの群れへと目を向ける――

 球子の火炎旋刃盤に為す術無く蹂躙されていたバーテックスは再び集合し、先程の進化体よりも更に大きい個体を形成し始めていた。

 

 「デカイな…!」

 

 想真は球子を抱えて跳び、本来の休息地点である丸亀城城郭に退避していた。その城郭からでも見上げる程の巨体を形成しているのだ。丸亀城と同じか、未だに形成途中という事を鑑みるとそれ以上に大きいかも知れない。少なくとも、想真が記憶する限りの記憶を探っても前例の無い大きさだった。

 恐らく、というより確実に球子に対してのメタだろう。現時点で勇者が持つ最強の火力と破壊力、それを真正面から防いで叩き潰せる程の巨体と頑丈さを兼ね備えた文字通りの『化け物』、それを四国に攻めてきた残りのバーテックスを束ねて作ろうと言うのだ。敵にとっても最後の手段である事は疑いようも無い。

 だが、球子の気力がどれだけ強かでも当初程の勢いは見込めない。友奈の切り札【一目連】の単体に対する火力は目を見張るものがあるが、あの巨体ではソレすら不十分だろう。想真もあの巨体の装甲には剣の効果が薄い事が考えられる以上、銃でしか対抗策は無い。しかし、今使っているのが射程の乏しいブラストである以上、接近しなければならないが巨体を取り巻く護衛のバーテックスを突破するのは流石に分が悪い。正直な所、想真にはお手上げだ。

 

 「乃木さん…流石にあれ以上はどうしようも無いわよ…!」

 

 柄にも無く焦る千景の声を聞く若葉は、見ている限りでは冷静だ。恐らく、彼女には何かが見えているのだろう。

 

 (…俺にもあれぐらいの機転が有れば、殺さずに済んだのかもな)

 

 ふと、そう思った。それは想真が感じた事が無い羨望で、故に想真は戸惑った。この感情は何なのだろうと。だが、そんな戸惑いは直ぐに捨てた。(戦いで)は不要なモノだと、切り捨てた。

 

 「コイツの身体には脆い部分がある!ヤツの身体が完成する前にそこを叩けば、今なら倒せるかも知れない!!」

 「脆い部分…?けど…!」

 「タマの輪入道なら…行ける!!」

 

 話は纏まったらしい。フラつく身体で巨大な旋刃盤に飛び乗ろうとする球子を抱え、想真は旋刃盤に飛び乗った。

 

 「想真…!」

 「目標は分かった。だが、俺はその脆弱部に辿り着いたとして破壊出来る自信が無い。だから、護衛は任せろ。絶対に道は切り拓く」

 「…分かった。じゃあ行こう!」

 

 2人を乗せた旋刃盤が巨大バーテックスに向かって飛行する――

 

 「タマっち先輩、私も行くよ!」

 

 総力戦になる以上、ここは後ろで戦うのではなく自分も前線に行くべきだと判断した杏が旋刃盤に飛び乗る。

 更に、球子の旋刃盤に飛び乗ったのは1人ではなかった。

 

 「タマちゃんとソーマ君、アンちゃんだけに危ない事はさせられないよ!」

 「一和同心。共に行かせて貰うぞ」

 

 友奈と若葉。

 

 「あの巨体は…私が倒す」

 

 そして千景も。

 旋刃盤の上に集まった仲間達を見て、球子は一瞬キョトンとしたような表情を浮かべ――やがて笑みを浮かべた。

 

 「そうだよな…よし、みんなで行くか!!」

 

 巨大バーテックスは下腹部から砲弾のような物を発射して勇者を止めようとするが、球子の旋刃盤はソレを躱し、回避出来ないものは想真が斬り捨てる。球子の肉体的な疲労はとうに限界を超えているが、根性で意識を保っていた。

 

 (ありがとう…友奈。球子。杏。千景。…そして、想真さん)

 

 仲間達が居てくれる事に、若葉は心の中で深く感謝した。

 自分の隣に仲間が居て、一緒に戦ってくれる。それがどれたけ有り難い事か。1人だったなら、勇者の重責と戦いへの恐怖で既に潰れていたかも知れない。

 巨大バーテックスの脆弱部は複数ある。若葉1人ではそれら全ての破壊はとても困難だっただろう。だが、仲間達と一緒ならば、それも可能になる。

 

 「球子は前方正面!杏は右上方2時の方向!友奈は下方5時の方向!千景は左斜め後方!私は上方を叩く!想真さんは足止めを頼む!」

 

 若葉と友奈以外の勇者も、ある程度の場所を伝えられれば敵の脆弱な部分を見つける事ができた。

 

 「行くぞ!!」

 

 若葉の号令で4人は旋刃盤から跳躍し、想真と球子の2人は旋刃盤に乗ったまま、それぞれ巨大バーテックスの脆弱部へと向かう。

 

 「球子、お前は前だけ見て進め。道は俺が開く。だから躊躇うな!!」

 「…あぁ、分かった!!」

 

 想真は空中に留まる球体を撃ちながら、減ったオラクルを星屑を斬る事で補給する。その球体は赤、青、青紫、紫の4色で、撃たれた瞬間に静止する物や数秒落ちてから静止する物、横に飛んでから静止する物があった。

 球体を一通り撃ち終えると想真は旋刃盤の進行方向側へと向かう。そして力を溜め、神機の刃に黒いオーラを纏わせると前方を薙ぎ払う。1回だけではなく、数回薙ぎ払うと球子の進行を阻むものは消えていた。

 

 「あとは大丈夫だろう。俺は他の所を助けに行く、良いな!?」

 「あぁ、行ってやってくれ!」

 

 想真は旋刃盤から飛び降りる。その辺を飛び回る星屑を捕食し、星屑を乗り継ぎながら若葉の元へと辿り着くとエミッターをブッ放し、そのまま再び球体を乱射しながら墜ちていく。

 

 「衝撃に備えろッ!!」

 

 通信を介し、想真は叫ぶ。そのまま引き金を引き、何の威力も無ければ特別な効果も無い、【バニラ】と呼ばれるカスタムバレットを撃つ。そのバレットは空中に留まる赤色の球体に触れた瞬間、凄まじい熱風と炎を上げて爆裂した。青は冷風と氷が、青紫は雷が、紫はいつも通りの爆風が立ち上る。

 あの球体は単純なカスタムバレットで、想真のオリジナルだ。その効果は単純て、ゴッドイーターの攻撃が触れれば爆裂する。取り回しはすこぶる悪く、下手をすれば自分ごと敵を葬り去るという点から滅多に使用する事は無かったが、やっと日の目を見たのだ。

 まだ勇者を阻もうとする星屑を撃ち抜き、斬り捨て、全力で妨害する。自分の責務を、責任を果たす為に。

 

 「おおおおお!!!!」

 

 人間離れした速度で跳ぶ――否、飛ぶ若葉が見えた。生憎ながら、想真には若葉に宿った精霊の名前は解らない。だが、想真は思った。

 

 (…その速さは、きっとお前が求めてたものなんだろうな、若葉。速く、()く速く、自分の護りたいものに手を伸ばせる速さが、お前には欲しかったんだろう。…俺も、そうだからな)

 

 想真が減らした星屑を若葉が殲滅して道が開けた。その好機を見逃す訳が無く、勇者達は自分達が持てる最高火力を以て巨大バーテックスを攻撃した。

 容赦無く脆弱部を攻撃された巨大バーテックスは、その巨体を崩壊させながら断末魔の様な奇妙な悲鳴を上げながら消滅した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 巨大バーテックスの崩壊を見届けながら、想真は墜ちていく。

 

 (あー…身体、動かないな)

 

 極度の疲労と長い間緊張に晒されていたからだろう、想真の身体は全く言う事を聞かなかった。何をどうしても動かない身体に、想真は目を閉じた。どうやら瞼は言う事を聞いてくれるらしい。

 

 (リンドウ隊長が言ってたのって、こういう事か…まさか、実感する時が来るとは。無痛症でもない、この身体で)

 

 痛みを感じない身体では限界に気付けない。ある時を境に身体が突然動かなくなる。そう言っていた。自分は引き際を間違えないと思っていた想真は、まさか自分がその症状に見舞われるとは思っていなかった。

 対処法なんて知らないし、そもそもリンドウの身体が動かなくなる閾値を知る朔夜に退却のタイミングを任せていたので、そもそも対処法など無いのだろう。

 

 「想真ァァァァァ!!!」

 

 墜ちていく中、想真の耳に球子の声が響いた気がした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして――後世に【丸亀城の戦い】と呼ばれる事となる激戦は趨勢を決した。

 前例の無い超大型バーテックスは形成途中で崩壊。侵攻してきたバーテックスの殆どを使っての融合だった為、残りのバーテックスの殲滅は残った勇者達だけでも容易だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「やっと…会えました」

 「…あぁ。それで、俺を連れて行くのか?」

 

 夢なのか、それとも三途の川を渡る直前なのか、想真には解らない。だが、今目の前に居る『彼女』の声が頭に響かないのは確かだ。しっかりと、声に輪郭を保っている。

 

 「違います」

 「なら、どうして現れた?」

 「あなたを、解放する為に」

 「解放…?」

 

 段々と、声が夢心地ではなく現実に近くなっていく。『彼女』との距離も近くなっていく。

 

 「あなたはもう(未来)に向かってます。その中に、もう『私』は要りませんから」

 「お前は俺の夢だ!赦すとか解放とか、そんな事は出来ないだろう!?」

 「えぇ。でも、『私』はあなたの願望です。あなたの願望を投影した虚像、それが『私』。つまり私がこういう事を言っているという事は…どういう意味か、解らない訳じゃありませんよね」

 

 夢なのは解っている。覚めて欲しい、だが覚めて欲しくない。訳が分からなかった。頭の中がグチャグチャで、整理なんて出来なかった。

 

 「『私』はあなたを許します。だから、もう――」

 「――俺は何も報えてない!!まだ、お前を殺した罪を贖えていない…!」

 「…なら『私』から2つ、お願いをします。それで、手打ちにして下さい」

 

 俯く想真の頬を両手で挟んで持ち上げ、無理やり目を合わせる。その行為は、『彼女』がよく昔の想真にしていた行為だ。

 

 「生きて下さい。必死に足掻いて、醜くても良いので生き延びて下さい。それが1つ目です」

 「あぁ…分かった」

 「それじゃあ2つ目です。そうですね――」

 

 『彼女』はイタズラっぽく笑み、言った。その表情は無理なお願いをする『彼女』そのもので、とても懐かしく、故に涙が出てくるものだった。

 

 「――名前を呼んで下さい。それで『終わり』です」

 

 ――そうだった。失った時から、俺は名前を呼んでいなかった。口になんて出さなかったし、夢の中でも、心の中でも呼んだ事は無かったな。

 そう思った想真は呼んだ。記憶を探るまでもない、ずっと、今まで心の中で凝りになっていた『彼女』の名前を。『彼女』の事から吹っ切れて、安心して眠ってもらえるように。

 

 「分かった、もう終わりにしよう。…ゆっくりお休み、『アリサ』」

 

 ――もう、悪夢は終わりだ。夢から覚めて、現実に戻らなきゃいけない。もう愛した人の幻影に縋るのはやめた。これからは守ってやりたいヤツらの為に、俺は神機を使おう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「――!……ま!…う、ま!想真!!」

 「……たま、こ…?」

 「良かった…想真が無事で。あんな高い所から落ちたからさ、心配したんだぞ!?」

 「…悪い」

 

 想真は空を見上げ、答えは分かっているが問う。

 

 「戦いは…終わったのか?」

 「あぁ!タマ達の大勝利、犠牲は何も無しだ!みんな無事だぞ!…まぁ、怪我はそれなりにあるけども」

 「そうか」

 

 突然、視界が滲む。頬を熱い何かが通り過ぎ、しかもそれが止まらない。手で確認しようとしても、残念ながら身体は動かない。だが、その熱い何かの正体は傍らに居る球子の口から明らかになった。

 

 「な…想真、なんで泣いてんだよ!?」

 「泣いて…?そうか、これが――」

 

 ――涙か。

 『彼女』――アリサを殺した時から枯れて、どんな時も流れなかった涙が、今流れていた。今までの悲しい出来事全てを雪ぐように、とめどなく想真の両目から涙が溢れて止まらない。

 

 「悪い…止まらなくてな…情けない所を見せる…!」

 「……しょうがねーなぁ」

 

 球子は怠い身体に鞭を打って正座すると、想真の頭を太ももに乗せる。所謂、膝枕と呼ばれるものだ。

 

 「あんずから借りた本に、こういう時はこうしてやるもんだって書いてたんだ!だからやってるだけで、変な意味は無いぞ!」

 「あぁ…分かってるさ」

 

 それでも涙は止まらない。時たま球子が指で涙を掬ってくれるが、それでも止まる事は無い。

 

 「…気を失ってる時、夢を見た」

 「どんな夢だったんだ?」

 

 想真は笑った。泣きながら笑って、こう言った。

 

 「…長くて、苦しい、とびっきりの悪夢だったよ」

 「…そっか」

 「でも、みんなのお陰で目が覚めた」

 「え、それって――」

 

 球子が聞き返そうとしたその時、聞き覚えのある声が聞こえてきて、それは遮られた。

 

 「あ、居ましたよ!…え!?」

 「元気そうで良かったな。…む?」

 「あの人がそう簡単に死ぬ訳が無いわよ……は?」

 「私達勝ったんだよ、ソーマ君!!…あ、お邪魔だったかな?」

 「ちがーう!!これはそういうのじゃない!!」

 

 顔を赤くして反論する球子だが、4人から詰め寄られ、たじたじだ。想真にも何か聞いてくるが、それを受け流す。球子もどうにかして受け流そうとしてはいるが、きっと白状する羽目になるのだろう。

 騒がしい、だが耳障りではない喧騒の中で、想真は呟いた。

 

 「…見てるか、お前ら。コイツらが、俺の仲間だよ」




 お久しぶりです、いや本当に。テストやら模試やらが重なり、1月ほど空いてしまいました。本当に申し訳無いです。
 ここでお知らせなのですが、作者はこれから就活であります。つまり、定期投稿が難しくなります。どうにかして1月に1話は更新するので、緩く待ってて頂けたら幸いです。
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