神喰らいは人造勇者である   作:たぴぃ

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 藤木アリサ

 使用神機:ロングブレード・ブラスト(新型神機)

 享年14歳、戦闘中に腕輪が破損。侵食によるバーテックス化を防ぐ為に死亡、KIA(戦死)となった。

 想真と同じく新型神機を割り当てられた少女にして、想真の恋人。当時は新型神機の動作が不安定であり、それ故に2人纏めて生存率が最も高い第一部隊へと配属された。
 性格はとても社交的でありながら礼儀正しく、常に敬語だった。面倒見も良く、基本的に1人で行動していた想真を部隊の輪の中に引き込んだのも彼女。配属された順的には想真の方が早い為、想真を『ソーマ先輩』と呼んでいた。
 徐々に厳しくなっていく戦況の中でも絶やさずに笑顔を浮かべ、戦っていた彼女の姿勢に惹かれた想真は告白、晴れて恋人の関係となった。
 だが、リンドウと朔夜の死から壊れていき、ゴッドイーター壊滅直前には精神を病み、泣く事が出来なくなり、更に推測ではあるが無痛症も発症していたとの事。その為、常に最前線で戦い続けたが為に疲労が蓄積し、その疲労に気付けず腕輪が破損するに至ったと思われる。
 腕輪の破損によるバーテックス化を防ぐ為にアリサは想真に自らの介錯を要求、それを受け入れた想真により短い人生に幕を閉じた。

 その願いにより数年の間幻影として想真の夢に現れ、想真を苦しめていたがアリサの名前を呼ぶ事で決別。形式的に小さな墓を勇者達と丸亀城の一角に作り、定期的に墓参りをしているらしい。


決別

 「使いやすくても、稼働率は低いか…やっぱり、アイツの神機パーツは間に合わせとして使うしかないな」

 

 アリサが遺した神機パーツを装備し、仮想敵に向かって神機を振るうが、威力は低い。

 

 「…確か、コレは実験的に造られた神機だったな…それを考慮すれば俺の神機より稼働率が悪いのは当然か。そもそも俺の神機パーツではないしな…」

 「想真さん、ここに居たんですか。…と言うより、こんな所有ったんですね、初めて知りました」

 「杏か。大社のヤツらに訊いたのか?」

 「はい。まだ安静の指示が出ているハズなのに脱走してる人を捜す為に訊きました」

 「…病室は暇なんだ、察してくれ」

 「まぁ良いです。でも、今日は神機を振るのは禁止ですよ?あと、想真さんの事を聞かせて下さい」

 「俺の事?」

 「はい。ゴッドイーターの人が戦っていた時の事、聴きたいんです。嫌なら良いんですけど…」

 

 想真は神機を片付けると、持ってきていたタオルで汗を拭き、乱雑に置かれていた長椅子を引っ張り出す。殆ど使っていなかった為、埃が薄っすらと積もっている。その上に座らせるのも座るのも流石に嫌なので、手で埃を払うとタオルで手を拭き、杏を呼んで長椅子を指で示した。

 

 「ほら、ここに座れ」

 「え?」

 「長くなるからな、立ち話も辛いから座ろう。嫌なら嫌で別に――」

 「――嫌じゃないですよ。…じゃあ、聴かせて下さい」

 「分かった。まず、どこから話そうか――」

 

 たった数年分の話だ。ゴッドイーターが組織され、戦い続けて壊滅するまで3年にも満たない、短い話。これから更に激化していくであろうバーテックスとの戦争の事を考えると、たった3年しか稼げなかったのだ。

 とても無様で、滑稽な話だ。勇者なんて頼らず、自分達で人類を守ろうとして戦った。そんな中、進化していく事で知性を示したバーテックスに半数のゴッドイーターが和平の道が有ると謳い、そして喰われた。それから、崩壊が始まった。

 先ずは部隊の1人が死んだ。人数が少なくなり、自然と休憩の時間が少なくなった。疲労の余り不意討ちに気付けなかった隊員は、上半身を喰われて死んだ。

 

 「徐々に死んでいった。まるで四肢の先端から壊死していくように、ゆっくりとな」

 「でも、想真さんは戦い続けてたんですね」

 「あぁ。…逃げ出せれば良かったのにな。でも、俺達(ゴッドイーター)は戦わないと人で居られない。今も昔も、俺達の命は大社に握られてるからな」

 

 それまでは日本中で戦っていたゴッドイーターだが、段々と四国に集まっていった。その中で死んだのは隊長と副隊長、つまりリンドウと朔夜だった。

 リンドウは無痛症の身体を活かして誰よりも戦ってきたが、誰よりも早く限界に近付いているのもリンドウだった。身体が段々と言う事を聞かなくなり、戦える時間も少なくなっていった。だからリンドウは残る事を覚悟したのだ。足手まといになる前に、どうにかバーテックスの侵攻を止めて部隊を逃がす為に。

 

 「最初は隊長だけが残るって言ってたんだけどな。副隊長を止められなかった。そもそも、愛した人を喪っても戦えるなんてただの幻想だ。普通なら戦う心なんて折れて、自殺を選ぶ」

 「……やっぱり、物語のようにはいかないんですね」

 「あぁ。例えは悪いが、球子が死んだらお前も絶望するだろ?」

 「考えたくもないんですけど、多分そうです」

 「だろうな。死者からの祈りは、そんなつもりが無くても呪いに変わる。例えそれがどれだけ高潔な祈りでも、遺された人からすれば呪いにしかならないんだ」

 

 それからだ。アリサが自分の身を顧みない戦い方をやり始めたのは。常に戦闘の最前線に居て、最も多くのバーテックスを殺し続けた。その過程でアリサは心が壊れてしまった。泣けなくなってしまったのだ。

 

 「戦いは心を壊す、特に仲間が死んだ戦いは尚更な」

 「それは、まぁ…でも、泣けなくなるなんて…」

 「案外人間は死なないもんだ、外傷ではな。だけど、内側はそうもいかない。内側から壊されるのには弱いんだよ。少なくとも、俺はそう思ってる」

 

 想真も必死に戦った。恋人(アリサ)を死なせない為に自分も最前線に身を置き、敵の群れに特攻しようとするアリサを止めながら戦った。疲れを感じる暇もなく神機を振るい、攻撃を躱し、多少の傷は無視して戦い続けた。

 だが、それでも守れなかった。アリサは腕輪が壊され、バーテックスになってしまう所だった。だが、そうはならなかった。させなかった。想真はアリサの最期の願いを叶えたからだ。泣きながら、心を壊しながら、殺した。

 

 「え…」

 「友奈は知ってたんだけどな、この事。俺は人殺しなんだよ。大社はその事を知ってるから俺を恐れてる。…俺はいざとなれば簡単に人を殺せる。多分、今躊躇うのはお前らくらいだと思う」

 「私達を…?」

 「あぁ。今まで俺はずっとアイツの…アリサの願いに取り憑かれてた。バーテックスになる前に殺せっていう願いのな」

 「想真さんはただアリサさんのお願いを叶えただけじゃないですか!なのに、取り憑かれるなんて…」

 「確かにそうだ。話だけ聴けば、俺はアリサの人間としての尊厳を守る為にアリサを殺したヤツだ。…でもな、杏。そう単純じゃないんだよ、後悔ってのはな。あの時、俺がこうしていたらアリサは生きていたかも知れない。俺がもっと強ければ、俺が、俺が、俺が…ってなる。後悔しても仕方無い事は元から解ってる。でも、自分を責めずにはいられないもんさ。…それが、恋人なんて存在なら尚更な」

 

 殺してくれと言われた時、当然殺したくないと思った。死の淵に立っているにも関わらず、笑って想真を見つめてくるアリサに、自分がどんな顔をしていたか覚えていない。

 

 「……………」

 「何泣いてんだよ、杏。そんなに泣かれると…その、困る」

 「だって…想真さんが、どれだけ辛かったか…想像したらっ、涙が…!」

 

 泣いている杏にどうしたら良いか、想真には解らない。だが、泣いている誰かを慰めている姿を想真は見ていた。朔夜は泣いている隊員を抱き寄せ、頭を撫でていたものだ。流石に抱き寄せるのは色々な面から見てアウトなので、想真は右手を杏の頭に置き、ワシャワシャと撫でる。

 

 「…良いんだ。確かにアイツらはもう居ないけど、アイツらが遺してくれたモノは俺が覚えてる。だから、アイツらは死んでない。今は見えないけど、確かにココ()で生きている」

 

 そう言うと想真は自分の右手を自分の胸に置く。心がどこに宿っているかなんて想真には解らないが、きっと宿るならここだろうと思った。何故なら【心臓】と呼ばれる臓器がそこに有るからという、屁理屈の様な理由で、そう思っていた。それでも心なんて不確かなモノが信じられるのだ、充分だろう。

 

 「泣いてくれてありがとう。その涙で皆も浮かばれると思う。だから、笑ってくれ。アイツらはそういう辛気臭いのが苦手だったからな」

 「…………」

 「お、おい、どうして無言なんだ?何かおかしい事を言っちゃったか?」

 「そう簡単に、涙が引っ込む訳ないじゃないですかっ…こんなに哀しいのに…!」

 「…全く、世話が焼けるな」

 

 想真は杏の手を引いて立たせると、神機を目の前に持ってくる。近くに置いていた薄手のタオルを神機の表面に掛けると、杏の手を神機に当てた。まるで、心音を探る時のように。

 

 「…動いてる…」

 「そうだ、この武器は生きてる。犠牲になったゴッドイーターの命を喰らって、意志を継いでる。だから泣くな。コイツ(神機)、拗ねると面倒なんだよ。アリサみたいにな」

 

 そう言うと想真は笑い、杏の顔を見た。

 

 「ぷっ…なんですか、惚気ですか?」

 「…あぁ、そうかもな」

 

 杏は笑った。あの想真が自分を笑わせようとしている事に、驚きと喜びを感じながら。未だに涙に濡れた眼で、笑い返した。

 確かに神機は生きている。だが、ゴッドイーターの命云々の話は真っ赤な嘘だ。そんな事が出来るとは想真も思っていない。それでも、嘘も方便だと思いたい。目の前の少女を笑わせたかった、笑ってもらいたかった。それなら、その理由なら仲間も許してくれるだろう。そう思いながら、神機保管庫を杏と共に後にした。

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