ゴッドイーターの隊長に課せられる、2つの使命の1つ。内容は腕輪の破損や他の理由によってバーテックス化したゴッドイーターを殺す事である。
隊長が既に死亡している場合は、隊の中で最も階級が高い者が介錯を行う。となっていたが、途中からはバーテックス化の兆しが見えた瞬間に近くに居る隊員が行っていた。厳しくなっていく戦いの中で、規則が形骸化していた事の何よりの証明である。
若葉達勇者5人と巫女のひなた、そして想真の7人は瀬戸大橋記念公園に立っていた。
勇者達はバーテックスと戦う際の勇者装束、ひなたは巫女服を着用している。想真はいつも通りの服装ではあるが、神機をアタッシュケースに収納し、背中に複数のパーツを背負っている。更に勇者達も背負っている背嚢にはキャンプ用品、食料、着替えの服、医薬品、水質・地質調査のサンプル採取器具などが収納されていた。
「にしてもさ、四国の外に出るなんて何年ぶりだろうな」
そう言う球子の声音と表情からは遠足に出掛ける直前の子供のような、楽しげな雰囲気が滲み出ている。
「私はバーテックスが出てきた時に本州から移ってきたから、3年半ぶりになるのかな〜」
「あまり遠出した時が無いので、私は四国を出るのは初めてですね」
「私も……そうね…」
「タマは4年半ぶりくらいかな!家族で広島に行った時以来だ」
想真を除く6人はワイワイと話す。
これから若葉達は結界の外へ調査遠征に行く事になっていた。四国から出発し、諏訪の勇者が護っていた諏訪や人類生存の可能性が見いだされた北方を目指す。ヘリや船を使った移送はバーテックスを引き寄せる可能性があるので、移動は徒歩のみだ。
別に、勇者達と想真には問題は無いが、ひなたの身体能力は人間そのものだ。その為、荷物が比較的少ない勇者がひなたを背負って移動する事になっていた(大社からすれば想真は未だに危険人物なので、虎の子の巫女であるひなたを預けたくないのが本音なのだろうが)。
「すみません、皆さん」
「気にする事なんて無いよ!いつもヒナちゃんには私達が出来ない巫女のお仕事をして貰ってるんだから!」
「ありがとうございます、友奈さん」
「じゃあ、まず誰がひなたを背負ってくかジャンケンで決め――」
球子がそう言っている横で、若葉はとても自然な動作でスッとひなたを抱きかかえた。
「では、行くか」
「「「「………………」」」」
ごく自然にひなたを抱きかかえた若葉に、他の勇者達は一瞬呆気に取られる。
「…背負うっていうか、お姫様抱っこですし」
「見てるこっちが恥ずかしくなる!!」
杏と球子は顔を赤くする。
「…?何かおかしいか?」
周囲の反応の意味が分からず、若葉は怪訝そうな表情を浮かべた。
「……まぁ、あなたがおかしいと思わないんなら、良いんじゃないかしら……」
「お姫様と王子様みたいだね!ねっ、ソーマ君?」
やや呆れたような表情の千景と、感心したように目を輝かせる友奈。そして、突然話を振られた想真は少し驚いたような返事をする。
「…!あ、あぁ、すまん。何の話だ?」
「ヒナちゃんと若葉ちゃんがお姫様と王子様みたいだねって話!」
「…まぁ、そう見えなくもないんじゃないか?」
無難な返しをする想真だが、ひなたは想真の異変に気付いていた。
「想真さん、さっきから何を考えているんですか?何かを言おうとしてるように見えましたが」
「流石にバレるか。…いや、でもこれは…」
「言ってくれ、想真。私達は仲間だろう?」
仲間、その言葉を出されると弱い。それでも想真は迷う。彼女達を仲間だと思っているからこそ、自分が知る事実を教えたくはない。それは未だに希望を見ている彼女達に、ほぼ確定された絶望を伝えるのと同義だからだ。
だが、その事実は遅かれ早かれ知らなければならない事だ。もし敵襲の直前にソレを知り、動揺して危険に曝されるくらいなら今伝えた方が良いのも事実だ。だから、と想真は口を開いた。
――危険な目に遭わせるくらいなら。だけどこれは、アイツら自分達で見なければならない事だ。…外界で起きた事と、有るかも知れない結末は。
「…この旅で、お前らは避けようの無い事実を知る。それは確定だ。でも、負けないでくれ。受け止めて、前に進んでくれ。…時間だ、そろそろ行こう」
瀬戸大橋を渡り、本州へと向かう。後ろでは、友奈と球子が雰囲気を戻そうと頑張っている。申し訳無い事をした。そう思いながらも、想真は自らの記憶を探り始めていた。
――ゴッドイーターの主な目的は、確かにバーテックスの駆逐だった。でも、それ以外にも課せられた任務…というか、サブミッションは有った。それが生存者の発見と、その発見した生存者を四国まで護衛する事。万が一、バーテックスに襲われても生き残っている人が居れば助けて、護送しなきゃいけなかった。
まぁ、結果から言うと俺がゴッドイーターになって戦い始めてから1度もその任務が遂行された事は無い。収監される前の僅かな時間でゴッドイーター全体の任務の成功可否を見たが、そもそも可否どころの話じゃない。だって、元々そんな任務が発行されてなかったんだからな。確かに、元々の任務が無ければ成功率もクソもあったもんじゃない。
俺が所属していた第一部隊は本州の北側、つまり東北から関東までが任務の範囲だった。都会は勿論、山奥にある集落にまで足を伸ばしたが、結局生き残りなんて居なかった。全員残らず、死亡だ。死体なんて有れば良い方で、殆どが地面や床に血痕をブチまけているだけ。運が良くて片腕とかのパーツが落ちてる感じだ。俺の経験談ではあるが、完全な状態の死体は見た事が無かった。
そんな酷い状況だった。だから、今更四国以外で人類が生存している可能性が有るとは毛頭思っちゃいない。あの時から数年経っている。人間はキノコじゃあるまいし、自然と発生するものじゃない。
「………大社の目的は、恐らく……」
この世界の現状を、調査という名目を与えて見させるつもりなんだろう。恐らくだが、もう諏訪は滅んでいる。つまり、四国が人類最後の生存圏となる。滅んでいった場所と、消え去った過去の人の営み。それらを見せて、勇者としての使命感を強める事。それが狙いだとすれば、随分と回りくどい事をする。
「…受け止めてくれよ、勇者」