神喰らいは人造勇者である   作:たぴぃ

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同類

 少女――(こおり)千景(ちかげ)は被害者である。物心付いた頃には不必要なものとして扱われ、今では彼女に殆ど非が無いにも関わらず迫害されている。誰にも必要とされず、自分でも価値を見い出せない。きっと自分が死んでも誰も困らないだろう。村民は知らぬ存ぜぬを貫き通し、父親もきっと邪魔な足枷が無くなったと喜んでこの村から引っ越していくだろう。迷惑を掛けたいなら生きるしかない。それが、今の千景を生かしている理由だった。

 ここまで生きる理由を長々と連ねたがそもそも、死ぬ度胸なぞ有りはしないのだが。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 目を開けると、そこは知らない天井だった。使い古された表現だが、今の千景はそれしか考えられなかった。感じるのは背中から伝わる柔らかいベッドの感触と花のような香りだけ。顔を左右に動かすと安楽椅子に座る少年が千景を見詰めていた。

 

 「…起きたか?」

 「………」

 「そうか」

 

 突然掛けられた声に反応出来ず、ただ頭を上下に動かす。少年は安楽椅子から立ち上がって部屋を出ていく。少しすると再び少年が部屋に入ってきて、サイドテーブルに皿を幾つか並べる。そこには湯気を立てるスープと柔らかいパンが乗っていた。

 

 ――食べて良い…のかしら。

 

 そう思うのも無理はない。今まで散々様々な方法で暴力を振られてきたのだ、疑わない方がどうかしている。そんな事を思いながらじっとしていると、横からまたぶっきらぼうな声がした。

 

 「食え、早く食わないと冷める」

 「い、いただきます」

 

 少しずつ食べ始める千景。いつもは父親が買ってくるスーパーの出来合いの惣菜や料理のイロハも解らない自分が作る取り敢えず食べられるだけの物しか食べていない為、1度食べると止まらない。とは言ってもまだ少年の方を見て警戒をやめない千景に、少年は何かを察したのか言葉を発した。

 

 「安心しろ、()()()()()()()()

 「ぇ…」

 

 つまり、それは村八分に遭っているという事だ。だが千景は自分以外にそんな目に遭っている者は知らなかったし見た事すら無かった。信じたいが、どうしても信じ切れない。揺れ動く千景の心情をまた察したのか、次は苦笑する様に千景に言った。

 

 「説明はしてやる。だから先ずは食え。腹も減ってるみたいだしな、お代わりは要るか?」

 「…うん」

 

 パンは流石に断ったが、スープは3杯お代わりした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「…私、郡千景。あなたは?」

 「想真。…(たちばな)想真(そうま)だ。想真で良いぞ、郡」

 「なら私も…私も、千景で良い。…あの人と同じ名字、名乗りたくないし…」

 「分かった」

 「じゃあその…さっきの同じって意味…」

 「あぁ、まぁ教えるって程大した事じゃないんだけどな。意味はそのまま、俺はお前が()()()()前にやられてたって事だ」

 

 つまり、村全体からの肉体精神を問わない暴行に晒されていたという事だろう。今見えている範囲に怪我は無いが、それも当然。村民は狡賢く、決して見える範囲に大きな怪我を負わせる事は無い。千景も服の下には青痣や傷が多く刻まれているが、顔や手には全くそういった類のものはない。

 

 「聞いた事無いか?屋敷に住んでる問題児の話。今じゃ無視だが、前までは酷いもんだったよ。特に、()()()()にしていい男なんて躊躇する必要も無いしな」

 「キズモノ…?」

 「…まぁ、ロクでもない意味だ。その内教えてやる、気にするな」

 

 『キズモノ』という単語を口にした時の想真の渋面は、到底小学4年生が出来るとは思えない程のものだった。千景からすれば知らない単語を知る彼を凄く思い、『キズモノ』の意味をもう1度訊いてみようと思ったが彼の渋面を見れば本当にロクでもない事だと理解し、訊く事を止めた。

 だが千景は思う。何故彼が村八分に遭っているのか、その理由が解らないと。今居るこの部屋は大きく、千景が寝ていたベッドもかなりの高級品だろう。自分の家のリビングと同じくらいには広いこの部屋が幾つも有れば千景の家2軒分くらいには大きいのかも知れない。そんな金持ちが村八分に遭うなど、彼女には想像が出来なかったのだ。

 

 「…なんで、あなたはこんな風に…?」

 「…さぁ、どうしてだろうな」

 

 解っていない訳が無い。そう千景は直感する。明らかに彼はその話題をはぐらかし、隠している。追及しようか迷うが、千景は助けられた身であり更に夕飯を貰った身でもある。そんな彼女が、ここの住人である想真に追及出来る身分ではない事は解っている。故に追及も止めた。もし彼に嫌われれば、自分を正面から見て話してくれる人は居なくなってしまうのだから。

 

 「随分と眠そうだな、千景」

 「え、そんな事…」

 「仕方無いんだ、そう隠すな。俺は味方だ。少なくとも、言った事を簡単に翻す程クズじゃない。…アイツらとは、違う」

 

 アイツら、とは恐らく村の者の事だろう。確かに、千景をどうこうする目的なら、とっくに千景はボロボロになって外に叩き出されている筈だ。しかも村からすれば穢らわしいもの扱いされている千景の手当をし、更に正面から目を見て話してくれる想真が嘘を吐いているとは思えないし、千景は思いたくなかった。

 

 ――この人なら、信用出来るかも…?

 

 それでも信頼まで行かない限り、当然だが人を恐れているのだろう。恐る恐る布団に潜り込み、想真に背を向けて目を瞑る千景。それを確認した想真は椅子から立ち上がり、部屋の外へと出て行った。

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