神喰らいは人造勇者である   作:たぴぃ

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 ――大事なモノ?あー、そうだな…正直、俺の命なんて軽いもんだ。実際、ゴッドイーターの命なんて軽いもんだろ?
 だけどな、朔夜の命は重く感じちまう。…いや、お前らの命もだな。なんだよ、そんなにおかしいか?…まぁ良い。
 死ぬなよ、これは命令だ。死にそうになったら逃げろ、そんで隠れろ。隙を見つけたらブッ殺せ。これが至上命令だ、分かったな?

             ――楠木リンドウ


消耗

 神託により諏訪に下された使命は、ただ耐える事。四国で進められているという人類の反撃の準備が整うまで、ひたすらに耐え抜く事だ。そうすればバーテックスを圧倒し、人の時代を再び取り戻せると、神樹はそう神託を下した。

 それを信じ、歌野は戦っている。タツミも、戦っている。だが、解っている。薄々勘付いている。勇者になれるのは勇気を持つ穢れなき無垢なる少女で、巫女も同じ。たが、無垢というのは愚かであるという事とは全く違う。無垢と愚鈍は全く違う。だからこそ、聡明である歌野は気付きそうになりながらも目を背けていた。神託の裏に隠された、本当の意味に。

 

 「俺達は仕方無い。もう人間じゃないんだからな。…だけど、あの子達は違うだろうが…」

 

 徐々に生傷が増えていく歌野を見て、タツミはそう呟く。歌野は『日常』を大事にする。だから身体が痛くとも畑に行くし、率先して働く。その傷の痛みを笑顔に隠して、諏訪の人達に心配を掛けないように。

 ある諏訪の民は言った。歌野は諏訪の太陽だ、と。それは比喩に過ぎない。そのハズなのに、タツミはそれを真実のように感じてしまった。歌野は暗く閉ざされた諏訪を明るくした。水都とタツミも手伝ったが、主導は歌野だった。そして、未だに諏訪が照らされているのは歌野という太陽が照らし続けているからだ。

 太陽が沈めば、ある程度までなら人は耐えられる。夜明けが必ずあると知っているからだ。だが、その夜が永遠に続くとしたら?希望という芽は芽吹く事無く、希望を糧とする人間は死していく。水都を信じていない訳ではないが、水都では歌野の代わりを務める事は出来ない。それはタツミも同じだ。

 いや、もし歌野が死んだとして、歌野の代わりになれる者は絶対に居ないとタツミは断言する。言い方は悪いが、あの歌野の底抜けの明るさは異常だ。深い絶望の中に在っても希望の種を見つけ、それを大樹に育てる事が出来る者はそう居ない。彼女の農業好きがその気質から来ているのか、その農業好きだからそんな気質になったのか、その話は卵が先か鶏が先かの議論だ。少なくともタツミには分からない。

 

 「あっ、タツミ!あの燻製、みんなも大絶賛だったわ!!」

 「なら良かった。2人に山程味見して貰った甲斐が有ったな」

 「…何かあったの?」

 「ん?いきなりどうした?」

 「今私が鏡を持ってたら見せてあげたいわ。少なくとも、何も無かったらそんな顔してないと思うけど?」

 「…………」

 

 さっき考えていた事が顔に出てしまったのだろうか、タツミはそう思う。正直に話す訳にもいかないので、タツミは言い訳を口にする。

 

 「日差しにやられたのかな。思えば、朝から水飲んでないし。ちょっと家に戻って飲み物取ってくるわ」

 「熱中症になるかも知れないんだし、水分補給はマストよ。ちゃんと自分の身体、大事にしてね?」

 「…あぁ、分かってる」

 

 踵を返しながら、お前がそれを言うのか、と思う。自分の心配より他人の心配をする辺り、筋金入りというか何と言うか。呆れはしないが、尊敬はしない。むしろ心配している。

 

 (…う〜ん、何と言うか…我ながら優柔不断だよなぁ)

 

 端的に言えば、タツミは惚れている。だが、それは1人だけではない。歌野と水都の、2人にだ。何度も自分の中で考え、どちらか選ぼうとしたがそれは徒労に終わっていた。仕方が無い話、どちらも性格も魅力も違うのだ。その上でどっちの方が好きかと考えても選ぶのは難しい。故にタツミは、もう開き直っていた。

 2人とも好きで何が悪い。どうせ日本の政府など崩壊して久しい、むしろその古臭いルールに縛られている方が馬鹿らしい、と。

 想いを伝えたいとは思っている。だが、それも難しい。

 

 「…ハハ、流石にもう限界が近いか。クソ、笑えねー」

 

 タツミが人でいられる時間は、もう残り少ない。目の前の机に散らかっている錠剤と空になった袋を見て、そう理解する。

 ゴッドイーターの神機は、扱いを誤れば即座に持ち主にも牙を剥く。自分の武器に喰われない為に、ゴッドイーター達は大社から支給される【偏食因子】を摂取し、神機の食性を偏らせている。偏食因子を自分の身体で作れる者は存在しない。つまり、この小さな錠剤を飲み切った時、タツミの人としての命は正に秒読みを迎えてしまうのだ。

 だが、それよりも早く諏訪に限界が訪れるかも知れない。偏食因子が無くなり、バーテックス化してしまうなら自分で命を断つが、それまでは戦う。タツミと歌野の2人でやっと捌けている数だ、歌野1人では追い返す度に重傷を負ってしまうだろう。

 

 「諏訪は捨て駒だ。もう、どう足掻いても保たない。俺が先か諏訪が先か…ある意味、賭けだな」

 

 徐々に諏訪は限界を迎えている。住民は気付いていないが、結界の範囲が段々と縮まっている事が何よりの証明だ。広い範囲の結界を保てないから結界を狭め、少しでも長く保たせようとしている。

 タツミが怖いのは死ぬ事ではない。常人より強い力を手に入れたのだ、この偏食因子が切れればいずれ早い内に死ぬ事は分かっている。怖いのは、迷惑を掛ける事だ。バーテックス化して諏訪を襲うなど以ての外だし、限界を迎えて自殺したとして、タツミが居ないせいで諏訪が滅びる、などという結末も怖い。

 

 「隊長、副隊長、アリサ、想真…みんなの気持ち、やっと理解できた。だから、まだ生きなきゃいけないんだよ俺は…!」

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