神喰らいは人造勇者である   作:たぴぃ

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 ――アリサの事は守りたい。だけど、アイツはもう壊れてる。他人が感じる心と身体の痛みを感じ過ぎて、感じる事をやめてしまった。だから、俺が止めてやらないとな。
 もういっそ、俺も壊れられれば良いのにな

                 ――橘想真


遺志

 「数が、多過ぎる…!」

 「でも…ハッ、ハッ…でも、ひとまずは追い払えたわね」

 「…行くのか?」

 「ええ。ちょっと遅れちゃってるけど…」

 「駄目だようたのん!まず、傷の治療が先だよ!」

 「大丈夫よ、みーちゃん。この程度、なんて事無いから」

 「でも――」

 「それに、この四国との通信もかけがえの無い『日常』なの。ちゃんと、守っていかないと…」

 

 そう言って、肩の傷を押さえながら通信機がある本宮へと歩いていく歌野。それを見届けているタツミに、水都は言う。

 

 「止めて下さいよ、タツミさんも!うたのんが、うたのんが!!」

 「止められないよ、悪いけど。言って止まる程、歌野は簡単に自分を曲げない。俺だって――!!」

 「た、タツミさん!?」

 

 音として形容するとしたら、ゴボェッという音だろうか。タツミは咄嗟に右手で口を押さえようとするが間に合わず、口から吐瀉物が溢れる。若干赤が混じっている所を見ると、血も含んでいるらしい。胃酸が喉を灼くような感覚と、微かに血の鉄臭さを感じる。

 

 「ふっ、ふっ、ふうっ……ぁあ、大丈夫。ちょっと、疲れてるんだろ。ごめん、汚いものを見せたな」

 「私は大丈夫ですけど、タツミさんは…!」

 「さっきも言ったけど…ただの、疲労だと思う…から、休めば大丈夫だ」

 

 途中で持ち直したが、それでも辛そうな事には変わらない。土を掛けて吐き出したモノを隠し、神機の整備をやりに家へ戻ろうとする。が、腰の辺りに衝撃が走り、後ろを振り向く。

 

 「水都ちゃん…?」

 「…神託が、見えたんです」

 「それは、どんな?」

 「…凄く、大規模な襲撃が来ます。今までに無い程の襲撃で――」

 「――結界が、突破される?」

 「………はい」

 

 それはつまり、その神託が成す意味は――

 

 「諏訪は、滅びるのか」

 

 そういう事だ。結界が突破されれば、今諏訪を護っているモノは消える。そうなればバーテックスの侵攻を阻んでいた要素は消え、諏訪の民は皆喰い尽くされる。それが結末だ。神託は決して外れない。少なくとも、タツミは神託が外れたという事例は聞き覚えが無いし、身に覚えも無い。

 

 「でも――」

 「――皆まで言うな。大丈夫、安心してくれ、水都ちゃん。絶対に死なせない。神樹が滅びを予言しようが、俺が繋ぐ。今度こそ、絶対に繋いでみせる」

 

 そう言うとタツミは家路に就く。もう残り少ない時間を、未来に繋ぐ為に。

 

 「もう限界だよ、神樹様…!諏訪もタツミさんも、うたのんも…これ以上は無理だよ…!」

 

 押し殺した水都の言葉が、空気を震わせた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 歌野は変わらない。例年通り、いつも通りに畑に実った野菜を見ながら、歌野は嬉しそうに言う。

 

 「カボチャ、ジャガイモ、とうもろこし。うん、グッドなグローイング具合。そろそろ次に植えるものも考えないとね…ねぇ、みーちゃん。本宮に保管してある種、何が残ってたかな」

 「……色々残ってると思う。ソバとか、ダイコンとか…」

 

 声を震わせないように必死な水都を横に、楽しそうに歌野は言う。

 

 「ああ、良いわね。今ならソバもダイコンも蒔くのにジャストな季節だし。そうよね、タツミ?」

 「今種を蒔けば冬前には収穫できるだろ。そろそろ蒔いても良い頃だと思うけどな」

 「――うたのんも、タツミさんも…!!」

 

 終わりが来ると解っているハズの2人に、い()()()()()()()()2人に、水都は問い掛ける。

 

 「どうしてそんなにいつも通りなの…?2人は、怖くないの!?だって私達は、もう、明日…!」

 

 殺される。10代の少女が抱えるには大き過ぎる恐怖故か、その言葉は詰まってしまった。だが、やはり異常に見えるのだろう。それもそうだ。「明日、お前は必ず死ぬ」と言われて冷静でいられる者は居ないし、冷静でいるよりも難しいであろう【いつも通り】でいられる歌野は、常人に過ぎない水都からすれば異常にしか見えない。タツミも、傷を負って戦いの後に吐瀉物をブチまけてもここまでいつも通りなのだ。しかも、諏訪が滅ぶという神託が下ったと既に知っているというのに。

 だが、歌野とタツミはいつも通りの笑顔を浮かべ、言った。

 

 「怖いよ。本当は、凄く怖い」

 「怖くない訳が無いさ。…怖いよ」

 「え…」

 

 タツミと歌野はアイコンタクトを取ると、タツミから話し始めた。

 

 「俺は、何もせずに死ぬより無謀でも何かを成して死んだ方が遥かにマシだって教わった。それで遺した跡は、きっと何かの形で誰かが拾ってくれる。だから俺は戦うんだ、俺達が生きた証を遺す為に」

 「私はね、みーちゃん。怖くても、何もしない事だけは絶対に嫌。怯えて何もしないで、目の前で誰かが死んでいくのは、もっと怖いから…」

 

 護る者と、護られる者。歌野とタツミ、水都の間にはとても深い溝が有る。どれだけ仲良くしようとも、どれだけ心を通わせようとも埋められない、決定的な溝が。

 だが、水都には解った。2人の顔に、隠そうとしても隠せない恐怖が浮かんでいる事を。勇者と神喰いは恐怖をまた隠して、勇者は言った。

 

 「ねぇ、私達がここに居た証を…想いを、いつかここに来る人の為に、遺しておきたいの」

 「タイムカプセルみたいな?」

 「えぇ、そんな感じね!」

 「箱とかは用意できるのか?」

 「本宮に有るのは確認済みよ!!」

 「ナイス!じゃあ俺はスコップを持ってくるよ。…あぁ、水都ちゃんも箱に入れたい物を持ってくると良い。3人で埋めようぜ」

 

 そう言って3人は畑の片隅に箱を埋める。明日にはもう無くなってしまうこの時間を遺す為に。例え明日死んだとして、自分達が諏訪に在ったという証を刻む為に。涼しくなってきたとは言え、身体を動かせばそれなりに汗をかく。だが、決して不快ではない。戦闘の際にかく汗と比べれば何倍も気持ちいい汗だ。

 箱を埋めると土を戻し、水都が箱の上に木片を突き立てる。それは目印の代わりに立てたものだが、墓標のようにも見えた。

 いや、ある意味では墓標と同じなのかも知れない。遺体を埋める代わりに自分の遺したい物を埋めた、3人だけの墓標だ。

 

 「ふう…日も暮れてきたわね」

 「…うん…」

 「よし、それじゃあ()()()()だな」

 

 敢えて「また明日」と口にしたタツミ。2人は一瞬呆気に取られたが、どうにか口角を上げて言った。隠し切れない恐怖を内側に隠したまま。

 

 「はい、また明日」

 「また明日ね!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

     そして、明日。諏訪が、終わる。

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