神喰らいは人造勇者である   作:たぴぃ

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 ――やっと分かった。好きな人の為なら強くなれるって言葉の本当の意味が。しかも俺の好きな人は2人居るから、強さも2倍だな!
 …2人とも、大好きだ

               ――小川タツミ


守護

 「ハァッ、ハァッ…っ」

 「うたのん、しっかり!」

 「しっかりしろ、歌野…そろそろ、通信の時間だろ…?ぐっ!!」

 「タツミさん!?」

 「大丈夫、ちょっと腹が痛むだけだ…休めば、治る!」

 

 フラフラと通信機の有る本宮へと歩いていく歌野。その背を追い掛ける水都の脳裏にある光景が浮かぶ。蹂躙される大地と住民、そして人の営みが消えた諏訪の光景が。

 

 (あ…神託だ…)

 

 既に滅びは確定している。それを歌野もタツミも知っているから、敢えて水都は何も言わない事にした。

 

 「やっべ…流石に限界か…?偏食因子ももう残り少ないし…」

 

 神機を握る右腕には、少し前から疼痛が走り続けていた。これはゴッドイーターの任務に就いていた時――所謂【戦役時代】に聴いていた、ゴッドイーターの限界を教える1つの指標だ。この痛みは細胞が徐々に神機に喰われている痛みであり、このまま戦い続ければ神機に身体が喰われ、バーテックスへと成り下がる。

 まだそうなる訳にはいかない。タツミはポケットから注射器を取り出すと、身体に注入する。疼痛は消えたハズだが、ずっと痛みを感じていたからか幻痛が残っている。

 バーテックスに喰われた数ヶ所は回復錠を飲んで治す。ただ、ゴッドイーターの戦闘は短期決戦が基本だ。それ故に、怪我を治す事だけに注力した回復錠は傷を即座に治す事は出来ても身体への負担は大きい。服の中で傷が治っていく事を感じながら地面に神機を刺し、ソレに寄り掛かってぼうっと前を見つめる。

 

 (あの白が夜明けの光なら、最高なんだけどな…ハッ、総攻撃って言うだけあってとんでもないな。地平線の向こうまでビッシリだ)

 

 地平線の向こうまで続く、蠢く白色。米粒のように見えるそれら1つ1つが星屑だ。律儀に仲間でも待っているのだろうか。昔よくニュースで見た、行列の出来る名店とやらをタツミは思い出した。随分と呑気な事を考えていると、自分でも思う。だが、そんなしょうもない事を考えていなければ、もう戦えなくなるのも現実だった。

 タツミは、後ろを歩いてきた歌野と水都に声を掛ける。

 

 「なぁ、2人の将来の夢、聴かせてくれよ」

 「…私は農業を極める事ね!そしていつか農業を広めて、いずれは食料自給率を100%以上にしてみせるわ!!」

 「そりゃあ凄い。眩しい夢だ。…水都ちゃんは?」

 

 歌野の将来の夢は分かっている。と言うより、昔から歌野はそう謳っていた。だが、水都の夢だけは聴いた事が無かった。そもそも引っ込み思案な性格だから、仕方無いのかも知れないが。

 水都はゆっくり、確かに夢を語り始めた。

 

 「うたのんは、日本の国民みんなに農業を広めるのが夢なんだよね?」

 「えぇ、そうね」

 「なら私は…私は、世界中の人にうたのんの野菜を届けるんだ。お金持ちの人も、貧乏な人も。大人も子供もうたのんの野菜を食べて、みんなに笑顔を届けたい。…それが、私の夢」

 「…ビューティフォーね」

 「あぁ。とても綺麗で…尊い夢だ。なら、それを守らなきゃな。さて、そろそろ――」

 「――待って、タツミの夢はなんなの?私達だけ言って、タツミが言わないのは不公平ってものじゃない?」

 「…それもそうか。襲撃にもまだ少し猶予が有るしな…よし分かった、俺の家まで来てくれ」

 「分かりました」

 

 タツミの家は幸いにもここから近い。と言うのも、彼の家は本宮の裏に有る小さな小屋だからだ。そこを増築して、調味料を作る為のスペースを確保していた。

 タツミは家の戸を開け、醤油樽や味噌樽の横をすり抜け、地下室への戸を開ける。まるで隠されているかのような、樽と樽の間にひっそりと有る小さな戸だ。

 少し長めの階段を下り、防火扉のような扉をボタンを押して開ける。タツミはボタンを押したまま横に退けると、2人に中に入るように促した。

 

 「これ…全部食べ物なの…?」

 「野菜にお肉、お魚まで…これがタツミさんの夢なんですか?食品加工とか、そんな感じ…?」

 「…違う。コレは、夢への努力とか結果じゃない。コレはな、()()()()()()()()()()()()

 

 ガシャン!!という大きな音が響く。咄嗟に歌野と水都が後ろを振り向くと、あの大きな扉が閉ざされていた。

 

 「タツミさん!?」

 「悪いな、2人とも。俺の夢は、俺の好きな人に生きてもらう事なんだ」

 「そんなの認めないわ、あなたも生きるのよ!だからここを開けて、あなたも中に――」

 「――駄目だ。…俺はもう生きれない。中に入ったとして、2人を殺しちゃうのがオチだ。俺はそんな結末、耐えられない」

 「なら、こんな扉…!」

 「無駄だ。歌野も知ってるだろ?神機の装甲はお前の鞭も無効化する。やるだけ無駄だ、やめておけ」

 「なんで…どうしてこんな…!」

 

 タツミは自分の顔に温かい雫が伝うのを感じながら、極力声に感情を宿らせないようにして言った。

 

 「…なぁ、2人とも。俺さ、2人の事が好きなんだ。あぁ、恋愛的な意味でな?こんな時に告白するなんてイカれてると思う。だけどさ…俺は好きな人に生きてて欲しい」

 「だからってこんな事!!」

 「分かってる、歌野の言う『こんな事』は間違ってるってな。だけど、俺はもう長くは生きられない。…ゴッドイーターには寿命が有る。延命は不可能なんだよ」

 「そんな…!」

 「だから、生きてくれ。この願いが呪いに変わってしまう時が来るかも知れないけど…でも、やっぱり覚えていて欲しいからさ。置いてかれるのは慣れちゃったけど、忘れられるのは流石に寂しいからさ。大丈夫、その扉は外からなら開けられるし、1年経てば勝手に開く。医療品もあるし、食べ物と水は2年分。トイレの為のスペースだって確保してある。それに――」

 「――そんな過ごしやすさなんて訊いてないです!!私は、私達はタツミさんと一緒に…!!」

 「…あぁ、そろそろ時間だ」

 「時間!?タツミ、私を出しなさい!!早く、今なら怒らないから!」

 「…悪い。今2人の顔見たら、覚悟が揺らいじゃうからさ。最後に2人の顔見たいとこだけど、もう行くよ。…本当にごめん、愛してたよ」

 「タツミさん!!!!」

 「くっ、こんな扉…!」

 

 階段を登る最中も、2人が扉を叩く音がずっと響いていた。地下室から遠ざかるに連れて声も叩く音も小さくなり、登り終えた時にはもう何も聞こえなくなった。

 地下室は扉だけではなく、外壁も神機の装甲(アラガミ装甲)で作られている為突破される不安は無い。そうでなければ、こうまでして2人を閉じ込めた意味が無い。タツミは家の外に出ると、結界の間際まで迫るバーテックスの軍勢が目に飛び込んできた。

 

 「……………」

 

 畑に向かい、まだ生っているトマトをもぎ取る。そのまま思い切りかぶりつくと、2つ3つと食べ進める。味はしないハズだ。既にタツミの味覚は死んでいるのだから。だが、憶えている。頭が、心が、魂が、かつて味わったその思い出を憶えている。

 酸味と甘味とバランスが調和している気がする。タツミの妹はトマトが苦手だったが、きっと諏訪のトマトなら喜んで食べるのではなかろうか。それに、母親は料理が得意だった。だからオリジナル料理を度々作っては家族は勿論、自分の友達やタツミの友人にも振る舞っていた。みんな笑顔で、美味しかったと言っていた。タツミもその1人だ。

 人類が滅亡寸前に追い込まれ、ゴッドイーターになってしまった。絶望していたタツミにまた1つの光をくれたのは仲間と、その仲間と囲む食卓だった。大社から配給される味の無いレーションとゼリー飲料ではない。身の回りにある自然から野草を採って動物を狩り、自分達で捌いて下処理をして食べる。バーテックス襲来前なら考えられない程の手間を掛けて仲間と食べるその食事は、とても美味しかったのだ。

 家族と仲間と囲んだ食卓。残念ながら好きな人とは食卓を囲めなかったが、今なら自信を持って言える。このトマトは絶品だと。どんな腕の良い料理人がどれだけ最高の食材を使って料理を作ろうと、今食べているトマトより美味しい料理は作れないと。タツミはそう断言できる。

 

 「…ご馳走さまでした。すごく美味しかったぞ、みんな」

 

 タツミはトマトの蔕を捨て、神機を抜いた。

 

 「俺はゴッドイーター第一部隊…いや、今は違うな」

 

 そう言って言葉を切り、タツミは笑って鬨の声を上げた。たった1人で無数のバーテックスに立ち向かう、無謀な戦いに挑む為に。

 

 「俺は諏訪の調味料番長にして諏訪の護り手、小川タツミだ!!来いよバーテックス、俺の命が続く限りお前らと殺し合ってやる!!!」

 

 星屑の1体を捕食してバーストし、次々とバーテックスを屠っていく。終わりなど勿論見えず、励まし合って戦おうにもタツミは歌野を置いてきた。1人きりの戦いは久しぶりだが、何度やっても慣れないものだ。心が折れそうになる。

 

 「護る…!」

 

 夜が明けた。とうの昔に疲労はピークに達しているが、バーストし続ける事で疲労を誤魔化している。きっと、バーストが解ければ掛かり続けた過負荷と疲労で倒れてしまうだろう。だから戦い続けなくてはならない。

 横から飛び出してきた小さな星屑に、左の二の腕が喰われる。激痛と共に神機を振り払ってバーテックスを遠ざけ、回復錠を噛み砕く。ゆっくりと傷が癒える様を眺める暇は無い。タツミは傷が治る事を前提に戦っていた。例え傷が癒えている最中でも動き続け、休みなど無い。休めば休む程状況は悪くなっていく。それはどんな面倒事も須らく同じ性質を持っている。だからタツミは休まない。

 

 「護り抜く…!」

 

 また夜が明けた。まだ身体が動く事を身体を動かして再確認して、まだ戦う。何度か腕と脚の筋が切れていたが、それは回復錠を飲んで無理やり治していた。偏食因子は戦いの中で投与して、まだ人として生きる事ができる事を自覚して戦っている。脳裏に浮かぶのは歌野と水都の未来。2人が笑って、世界に笑顔になれる野菜を届ける姿だ。そこに自分の姿を描けないのはとても残念だが、きっと彼女達は自分の事を憶えていてくれる。タツミの名前を、憶えていてくれるハズだから。

 

 「リンドウさん達も、想真達も踏ん張ったんだ…!俺だってここで踏ん張らなきゃ、笑われちまう!!」

 

 愛する人を護りたい、隊長と同期はそう言っていた。その為ならどこまでも強くなれるとも。それを聞いたタツミは正直2人の事を馬鹿にしていた。たったそれだけで強くなれるのなら、とっくの昔にバーテックスを駆逐できているハズだろうと。だが、それは違った。【強くなれる】の意味合いが違うのだ。それは際限無く強くなれるという事ではない。ずっと強いままでいられる。好きな人に情けない姿を見せる訳にはいかない。泣かせる訳にはいかないから、強く在る事ができるのだ。

 

 「そろそろ流石にタイムリミットか…?いや、関係ねえ!ねじ伏せてやらぁ!!!」

 

 神機を握る右腕が白く硬質化し始めている。その感触は慣れてしまったバーテックスのソレと全く同じで、始まってしまったのだろうと直感する。対抗策を打とうにも、既に偏食因子は尽きている。だが、タツミには聞き覚えがあった。バーテックスを殺し続ければ人でいられると。それは偏食因子を自力で生み出しているという事だろうか?あまりの信憑性の無さに笑いたくなる。眉唾物も眉唾物、民間療法の代表格と呼んでも、第一部隊の誰も否定しないだろう。だが、縋るしかない。そうでなければ、護り続ける事は出来ないのだから。また気持ちを奮い立たせる為に、タツミは叫んだ。

 

 「化け物の癖に、人間1人殺せねぇのかぁ!?殺してみせろよ、諏訪の魂見せてやるッ!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「…………………」

 

 バーテックスは去った。諏訪の民は地下室に閉じ込められた2人以外は全員食い尽くされ、人の営みは全て破壊された。諏訪は滅んだのだ。これで、人類の生存圏は四国のみとなった。

 だが、たった1つだけ例外があった。跡形も無く破壊され、朽ち果てた社の裏の家。それだけは壁が所々破壊されているものの、家としての原型は残していた。その玄関の前には人影が1つ。

 巨大な剣を構えてはいるが、身動き1つしない。呼吸すらしていないその人の右腕は白く硬質化しており、既に人ではないのかも知れない。頭には角のようなものが生えており、身体の所々から棘のような形をした甲殻のように見える何かが服を突き破っているのが見える。

 身体中には大小様々、打撲痕から裂傷、喰われたような傷があった。見ただけで分かる激戦の痕跡。それは周りの地形にも見て取れた。

 楽しい訳もない戦い。だが、その人影は。その戦士の表情は、きっと――

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