神喰らいは人造勇者である   作:たぴぃ

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 回収

 ゴッドイーターの隊長に課せられる任務の1つ。介錯と回収を合わせた2つの任務は【特務】と呼ばれる。基本的に一般隊員には秘匿され、隊長にのみ公開される。
 回収の内容とは進化体バーテックスの中に有るコアを摘出し、大社へと持ち帰る事である。新たな神機を作る為にはバーテックスのコアが必須な為、この任務が課せられた。
 しかし、ある時を境に進化体バーテックスの体内からコアが無くなり、回収は名ばかりの任務となり、特務は実質介錯のみとなった。
 今ではその特務すら無いも同然なのだが。


Ep5 託されたバトン
現実


 駅の近くにある地下道の入り口。そこに作られたバリケードは無惨に破壊され、その中も酷い有様だ。商品が並んでいたであろう棚は倒れ、道にはゴミや白い棒のようなものが散乱している。それが人の骨の残骸だという事を想真は既に知っていた。

 ――この道を先に行くと噴水が有って、そこには…

 

 「な、なぁ想真」

 「…どうした?疲れたなら休むか?」

 「いや、そういう事じゃなくてさ…」

 「…あなた、どうしてこんなスムーズに…道を進めるの…?ここに来た事が、有るように見えるわ…」

 

 確かに、若葉達は地図を見て進もうとしていたが想真は地図を一切見ず、黙々と先頭を進んで先導している。あまりのスムーズさに、6人は驚いていた。千景の言う事も尤もだろう。

 

 「来た事は有る。…知ってるよ、粗方の事はな」

 「子供の頃にですか?でもそれにしては随分と歩くのが速いような…?」

 「…それは無いわ、伊予島さん…想真は、そんな一般的な生い立ちをしてないもの…」

 「…ハハ、良く分かってるな」

 

 それだけ言うと想真は歩く。そして噴水を見つけると、後ろの勇者達に向けて漸く口を開いた。

 

 「ここは澱みだ」

 「澱みだと?それはどういう意味だ?」

 「人間の最も汚い欲、ソレの集まった場所だ。俺は…俺達ゴッドイーターは、それを知ってしまった。ある者は何も信じられなくなり、ある者は見て見ぬ振りをした。そこに日記帳があるハズだ。覚悟が出来たら見ろ。…お前達は、それを見なきゃならないんだからな」

 

 そう言って想真は崩れたバリケードの場所へと歩く。外を警戒する為だ。6人は顔を見合わせると、若葉が先頭になって噴水の場所へと歩いていく。その噴水の中を見て、息を呑んだ気配がした。

 それも当然だ。あの中には骨が大量に入っている。水ではなく、真っ白な骨が。腕の骨や大腿骨などならまだ衝撃は少ないだろうが、残念ながらあの中には髑髏(しゃれこうべ)も転がっている。初めて見るであろう、形としての人間の『死』。それを10代の少女が目にしたなら、驚かない方がおかしいだろう。

 

 ――○月✕日

  今日、化け物が空から降ってきた。

 

 そんな言葉からあの日記は始まる。バーテックスに襲われ、命からがら逃げ込んだこの地下での生活と、人間の本性が書かれている。

 人には個性がある。性格的に暴力が苦手な人も居れば、暴力を積極的に振るう者も居るし仕方無いなら暴力も辞さない者も居る。この地下街のような閉鎖された場所では、自然とカースト制が出来上がりやすい。頂点は20代から30代までの暴力が振るえる男性になりやすく、次にその男が気に入る女性。3番目に自分より下の者には強く出られる者が入り、それ以下には老人や子供が入る。

 

 ――モバイルバッテリーや手回し発電機などは一部の人が独占している。スマホは充電出来ないけど、充電したとしてもここに電波は無い。日付けの確認くらいしか出来ないけど、時間感覚が狂わないようにする為にも今日から日記を書こうと思う。

 

 初めの方はまだ良かった。とは言えこの時点でカースト制の完成する未来は見えていたが、まだ上の者は統制しようと頑張っていた。独占していると書いてあるが、ここではない場所にある男性の手記には配給していたと書いてある。

 だがそれは直ぐに瓦解する事は目に見えていた。どれだけ平等にしようと心掛けても、カースト制が生じた以上は優越感が存在してしまう。そうなれば、いずれ追い詰められた時に全てが瓦解する。人の最も汚く、そしてどんな聖人君子にも存在する【生存欲】が人を狂わせるからだ。

 

 ――〇月△月

  今日もケンカが起こった。地下街で暮らす人の中で、ケンカは毎日起こる。食糧や生活するスペース、薬とかを奪い合って…みんなあの化け物から逃げているのに、馬鹿らしい!

  一部の正義感の強い大人の人がルールを作ってくれている。その人達が居なければ、私達は生きていけないだろう。

 

 ――〇月□日

  今日起こったケンカで、人が死んでしまったらしい。でも、人が死ぬような争いはもう何回か起きている。大人達がルールを作ってからは減っていたけど…

  バリケードが出来た頃の方はもっと酷かった。食糧も限られているから独り占めしようと、乱暴なヤツらが暴力を振るって…私の目の前で赤ん坊を連れた女の人が殺されるのも見た。ただ赤ちゃんの為にミルクを貰おうとしただけなのに!

  死体は噴水の所に置いている。でも、ずっと置いておくとニオイも出るし、衛生的にも精神的にもよろしくない。私達みたいな立場の弱い人は生活する場所が死体に近くなりがちだから、妹の為にも何とかしなきゃ。

  …あれ?私、死体の事を物みたいに考えてる。私の感覚も、おかしくなり始めてるのかも知れない。

 

 ――○月▽日

  妹が泣き出した。家に帰りたいとわんわん泣いた。普段は大人しくてワガママも言わない子だけど、もう限界なのかも知れない。

  妹の泣き声に苛ついた大人が外に出すか殺すかしろと言ってきたけど、そんな事して堪るものか!妹は私が守るんだ。

  大体、外になんて出られない。バリケードで塞いであるんだ。バリケードを解いたら化け物が入り込んで来るに違いない。

 

 ――○月§日

  今日のご飯はブロック型の栄養補助食品2個とスナック菓子半袋だけ。しかも、これは1食分じゃなくて1日分のご飯だ。私が思っているより食糧不足は深刻らしい。

  昨日から引き続き、食糧問題をどうするか大人達が話し合っている。老人や病人はどうせ長く生きられないから、早く殺して食糧を節約すべきだと言う人も居る。もちろん、そんな意見は殆どの人が受け入れられない。私もだ。

  バリケードを解いて外に出るべきだと言う人も居る。ここに逃げ込んで長い時間が経ったのだから、化け物達ももう居なくなっているだろうと。けど、本当に地上が安全かなんて誰にも解らないから、反対する人が多い。

  今日も、結論は出ない。

 

 (いずれ、人間は人間同士で互いを喰い尽くすのかもな。そもそも、この国は()()()()()()()()()()。自前で資源も用意出来ない癖に技術力だけ身に着けて、下手に恵みを与えたから追い詰められた時にボロが出る。…過ぎた恵みは身を滅ぼす典型例だ)

 

 日本は国土が狭い。しかも石油や石炭も今ではもあまり採れない。食糧の自給もままならないこの国は、他の国に頼る事で技術を磨き、先進国としての立場を手に入れた。かつて鎖国していた時代は争いが有りながら、横の繋がりが強かった。それは決して恵まれていなかったからだ。

 だが、現代は恵まれている。恵まれ過ぎたから、今まで充分な幸福を享受していた事実に気付けず、それ以上の幸せを求めてしまう。1度辛い目に遭わないと、分からないのだ。

 

 ――○月∃日

  妹に元気が無い。呼び掛けると返事はするけど常にボーッとしている。逃げ込んできた人の中に医者が居たから診て貰ったけど、検査器具が無いから病気かも分からないし原因も特定できないらしい。

  取り敢えずドラッグストアにあった栄養剤を飲ませる。それくらいしか、やれる事は無い。

 

 ――○月〽日

  今日も妹は元気が無い。このままじゃきっと命が危ない。でも、どうする事もできない。

 

 ――○月〒日

  早く病院に連れて行かないと…

 

 ――○月〰日

  妹が返事をしなくなった。どうしようどうしようどうしようどうしようどうしようどうしようどうしようどうしようどうしようどうしようどうしようどうしよう…

 

 「うっ…!」

 

 目を背ける杏。この日記は日を重ねるに連れて段々と切羽詰まり、人間の汚い面が見えてくる。それを感受性が強く、優しい彼女達が見ればこうなるのは解っていた。だが、その上で想真は勇者達の元へ行き、声を荒げた。

 

 「目を反らすな!!」

 「そ、想真…でも、こんな――」

 「――答えろ。お前ら勇者の使命は何だ?」

 「…人を、護る事…」

 「そうだ若葉。勇者は人を護らなきゃならない。それがどんな人間のクズだとしても、人間がどれだけ汚い面を抱えていたとしてもだ。だから、お前らは見なきゃいけない。その日記は人間の暗黒面が分かりやすく綴られている。見ろ、そしてどうするか決めろ」

 「…どうするか、決める?それってどういう事?何を決めるの?」

 「人が護るに値するかどうか、だ。お前らが身を削るに値するか、人間の歴史を未来に繋げるか否か…俺達(ゴッドイーター)はその決断から目を背けた。だから、お前らはそうなるな。自分で結論を出すんだ。そうしなきゃ、きっと潰れてしまうから」

 

 そう言うと想真はまた崩れたバリケードの元へ戻り、外の警戒を再開する。ここからあの日記の内容はエスカレートしていく事を知りながら、無理な決断を強いる。

 

 ――○月¶日

  ひどい争いが起こった。以前から食糧節約の為に人を殺すべきだと言っていた人達が、勝手にそれをやり始めた。老人と病人が何人も殺された。

  妹も殺された。許せない!許せない!!許せない!!!

  でも、それをやった強硬派の人達も、反対派の人達に直ぐに殺された。

  訳が分からない。どうして協力しようとしないの!?このままじゃ全滅だ!

  妹は噴水近くの死体置き場に運ばれた。私ももう、死んでも良いかも知れない。

 

 ――○月Å日

  久し振りに日記を開いた。妹が死んでから何もする気が起きず、日記すら書いていなかった。

  地下街に居る人も随分と減ってしまった。あの事件でかなりの人が殺されたし、あんな事が有ったのに争いは絶えない。病気で死ぬ人や、自殺する人も居る。

  人が居なくなっても、未だに食糧は足りない。

 

 ――○月✼日

  またケンカが起こった。次は地上に出ようとする人達と、それに反対する人達のケンカだ。私は別にどっちでも良い。…いや、どちらかと言うとどうでも良い。

  結局、ここに逃げ込んでも何の意味も無かったのかも知れない。人間同士で殺し合うか、化け物に喰われて死ぬかの違いだった。

  人間同士で殺し合うくらいなら、化け物に喰われた方が何倍もマシだった。

 

 ――○月‰日

  地上へ出ようと訴えていた人達が、バリケードを壊してしまった。前と全く同じパターン。もうどうしようも無い。

  化け物はまだ地上に残っていた。壊されたバリケードから、次々と入り込んできた。防火シャッターを下ろしても、机や椅子を積み重ねても、アイツらは簡単に壊してしまう。

  …馬鹿らしい。きっとアイツらは簡単にバリケードなんて壊せたんだろう。やろうと思えばこんな子供騙しみたいなバリケードを喰い破って、今みたいに地下に逃げた人を喰い殺せたんだ。

  ただ、地上をメチャクチャにする事を優先していただけだろう。…いや、アイツらは解ってたのかも知れない。人間はお互いにお互いを傷付け合う事を。どうせ人間は醜く争って、自滅する事を。さっき馬鹿らしいと言ったけど、訂正したい。馬鹿らしいのは私達、人間だ。地下街に逃げ込んでから、嫌という程分からされた。

  私は今、死体置き場に居る。最期は妹と迎えたいと思う。自由も平等も無かったこの地下生活だが、最期のワガママくらいなら許してくれるだろう。

 

 「これが…その結末か…!!」

 

 死体の山を前に若葉は呟く。もしこの中に勇者が居れば、助けられたかも知れない命。どうしようも無い事とは言え、悔恨の念が胸を襲った。

 

 「解ったか?」

 「…人の汚い所…想像を絶するものでしたね…」

 「…この言い方は少しキツいが、言わせて貰う。ひなたの心情なんてどうでも良い」

 「なっ、想真!?そんな言い方は無いだろ!」

 「ひなた、球子、悪い。けどな、事実なんだよ。巫女は神樹からの声を届けはするが、人を護らない。間接的に護っているかも知れないが、直接的に人を救うのは勇者だ。巫女の代わりは居るが、勇者の代わりは今の所見つかってない。…だから、勇者は決めなきゃいけない」

 「……決める、ね……」

 「そうだ。人の全てを受け容れるか、それとも逃げるか。戦う理由を決めなきゃならない」

 「…戦う、理由…」

 「どんな些細な事でも良い。自分にとって大事なら、それが辛い時に自分を支える柱になる。…その柱が有れば絶対に死なないなんて言えない。強くなれるとも言えない。だが、それが無ければ肝心な時に戦えない。俺はそれを間近で見てきた」

 「ソーマ君達はどうしたの?目を背けたって言ってたけど…」

 「…ゴッドイーターの死に様は惨い。死体なんて基本残らないからな。その点隊長と副隊長、アイツは幸いだったのかもな。でも、俺達はここで形として残された【死】を直視した」

 

 勇者達の後ろにうず高く積まれた骨の山を想真は見る。

 

 「俺は他に戦う理由が有ったからな。それに必死で、他のものなんて見てる暇は無かった。…他のヤツらは違う。死に怯えてしまった。戦っても死ぬかも知れないし、戦わなくてもこうなる。そんな死への恐れが判断を鈍らせた。徐々に、手足の先から壊死してくように…死んでいった」

 

 撤退戦に持ち込んだ――そう言えば聞こえは良い。だが、その実態は違う。持ち込んだのではなく、持ち込まざるを得なかったのだ。そうしなければゴッドイーターはバーテックスに鏖殺され、想真も生き残る事は出来なかった。イタチの最後っ屁の、苦し紛れの策。それが撤退戦だった。

 

 「ここで結論を出せとは言わない。でも――ッ!?」

 

 ズン、という音と共に強い震動が足元を震わせる。その揺れは地震にしては一瞬で、建物が崩壊したにしては長過ぎた。ならば、この時代とこの場所で思い付く理由はただ1つ。

 

 「バーテックスか…!」

 「ここから離脱する!崩落に巻き込まれたら死ぬぞ!」

 「あ、あぁ!」

 

 若葉がひなたを抱え、急いで地下街から出る。襲い掛かってきた数体のバーテックスは想真に斬り捨てられ、後続は遠距離攻撃が出来る杏と球子により撃破された。

 大阪の街にはもう命は残されてはいない。バーテックスを倒しながら、勇者達はそれを思い知らされた。残っているのは空虚な箱(壊されたビル群)と人の営みの残滓だけ。その中にあるべき人の動きは何も無い。信号機からは明かりが消え、車は原型がどうにか分かる程度になるまで破壊され、電柱は折れている物や傾いている物が殆どだ。

 

 

 

 大阪に続き、勇者達は名古屋へと向かう。だが、あの勇者達ですら「次こそは」とは誰も言わなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 やがて若葉達は名古屋へと辿り着く。名古屋駅の前にある、全体を良く見渡せる高層ビルの屋上へと勇者達は降り立った。

 しかし、見える光景はひび割れた道路や打ち捨てられた車などの、今までの荒廃した街で見てきたものと何も変わらない。そう思った時、球子が見つけた。見つけてしまった。

 

 「おいおい、なんだよあれ…?」

 

 想真は目を凝らす。身体能力自体は勇者に劣るものの、五感の鋭さに関してはゴッドイーターの方が上だ。*1

 その視線の先で見えたものは白い何か。それらは蠢き、脈動し、その殻の奥で何かが動いていた。生理的嫌悪感を催させるソレは【卵】だった。中に入っているのは鶏や蛇なんて生易しいものではなく、バーテックスなのだが。

 

 「うっ……!」

 

 杏が吐き気を催すのも不思議ではない。むしろ杏は勇者の中では感受性が高い方に入る。嫌悪感を覚えて当然とすら言える。目だけ動かして顔が見える範囲に居るのは若葉と友奈だけだが、この2人も顔が真っ青になっている。

 

 (…まさか、こうして増えていたとは。卵か…胎性じゃない辺り、どこまでも人間とは異なる存在だな)

 「私達の四国も…いつか、こんな風に…!?」

 「ならない!!タマが、タマ達がそうさせない!その為にタマ達勇者は居るんだ!!」

 

 途切れ途切れに紡いだ杏の弱気な言葉を、力強い球子の言葉が断ち切る。だが、その言葉を放った球子の顔には恐怖が見え隠れしている。普通に見るだけなら判らないのだろうが、想真には分かる。あの言葉は杏に掛けたものではあるが、それだけではない。

 先程の言葉は自分にも語り掛けているのだ。怖気づいた自分を叱咤する為に、大きな声で虚勢を張っている。未だ10代の少女が背負うには大きいモノを背負う為に。

 

 「そうだ、タマ達が守るんだ。四国の皆を、世界を守る!その為なら――」

 「――やめろ、球子!」

 「なんだってやってやる!来い、【輪入道】!!!」

 

 若葉の静止など聞く耳を持たず、球子は切り札である【輪入道】をその身に降ろす。巨大化した旋刃盤に炎を纏わせると、卵に向けて思い切り投げるがそれは無数の星屑による決死の突撃でコースを逸らされ、不発に終わった。

 

 「囲まれていたからまだ良かったな…これが突破口になる」

 「タマちゃんの所に行こう!あの状態だと小回り利かないと思うから、タマちゃんが危ないかも!!」

 「……いえ、その必要は無さそうね……」

 

 球子は旋刃盤を自分の元へ戻すと、旋刃盤の上に乗って突っ込む。速度を増した旋刃盤は周囲に群がるバーテックス諸共卵を消し飛ばし、残ったバーテックスも直ぐに球子が倒した。

 凄まじい成長具合だ、と想真は思う。今まで飛ばすだけだった旋刃盤に乗る事を覚え、更に近付いてくる星屑は肉弾戦でしっかりと撃退していた。未だ粗い所は有るが、今までの戦闘と比べれば何倍も危なげなく終わっている。

 戻ってきた球子は呼気を1つ吐き出すと、皆に向けて言った。

 

 「どうせだし、コレに乗って見て回らないか?空から探した方が手っ取り早いだろ」

 「…そうだな、そうしよう」

 

 若葉が1番先に乗ると、全員それに続く。結果は分かりきっているというのに。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――そして名古屋でも生存者が見つかる事は無かった。卵状のもので覆われた場所には生存者が居るとは到底思えなかった為、捜索は短時間で終わった。

 駅前のビルに戻ると、球子達はビルの屋上に飛び移る。流石の球子も体力が切れたのか、直ぐに旋刃盤は元の大きさに戻った。

 

 「あー…やっぱキッツいな、切り札使うのって」

 

 しみじみと呟く球子に、若葉が言った。

 

 「今回は結果的に良くなったから良いが、これからは切り札の使用は控えてくれ。どんな影響が有るか判らないのだからな」

 「分かってるって。若葉はタマのお母さんか?」 

 

 そう苦笑して答える球子だが、何故か黙り込み、考え込むようにして旋刃盤を見つめていた。

 

 「タマっち先輩、どうかしたの?」

 

 心配して杏は球子に声を掛ける。声を掛けられた本人はその一瞬後にハッとして、

 

 「あ、あぁ、何でもない!ちょっとボーッとしてた。さてっと……予定では今日中に諏訪まで辿り着かなきゃいけないんだろ?休んでる場合じゃないな!」

 

 球子はひなたの方を向いて問い掛けた。

 

 「え、ええ…そうですが、球子さんが疲れてるなら予定を伸ばしても――」

 

 ひなた自身、先程見せた球子の表情が気になっていた。ただでさえどんな影響が有るのか判らない切り札だ、それを使った後の変調と来れば慎重になって損は無い。

 

 「必要なーし!そんなの、タマが足引っ張ってるみたいでごめんだ!さぁ、さっさと行こう!諏訪は確かあっちだったな!」

 

 ビルから飛び降りようとする球子を、想真の声が引き止める。

 

 「球子!」

 「なんだよ想真。想真までタマを止めるつもりか?だけど残念、タマは誰にも止められな――」

 「――いや、そっちは諏訪と反対だからな」

 「…………なるほどな」

 

 球子は反対方向に向き直り、勇者達一行は諏訪へと向かう。白鳥歌野が守っているという、諏訪の地へ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そこに、何が待ち受けているとも知らずに。

*1
想真の五感が戦場の中で磨かれてきた部分が大きい。

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