使用武器:バスター(旧型神機)
ゴッドイーター第一部隊所属。旧型神機適合者で、使用する刀身はバスターが多かった。全ての刀身を上手く扱えるが、その腕前は特化した者には叶わない事が多かった。
お調子者な性格で、よく想真をからかっていた。戦時中のストレスから味覚に異常をきたし、味を感じなくなってしまった。
部隊が壊滅し、ボロボロになっている所を諏訪に保護され、戦う事となった。恋愛感情が解らなかったが、歌野と水都に恋愛感情を抱き、決戦に望む事を決意。全身ズタボロ、バーテックス化にも苛まれながら戦い、そして安否不明となった。
諏訪は長野県にある諏訪湖の周辺に存在する。昨年――とは言っても最近までは四国と同じく結界が存在し、白鳥という勇者が護っていた。四国を除いた人類の生存圏で唯一四国の大社が存在を確認出来た、唯一の地である。だが、通信が途絶してからは諏訪の状況が分からない為、その調査がこの遠征の本来の目的だ。
(恐らく大社は解っている。諏訪の結末はついでで、本来の目的は現在の日本がどうなっているか見せる為なんだろうな。使命感を持つ事を促す為と言えば聞こえは良いが…やり口は相変わらず狡辛いな)
もう諏訪湖は近い。結末がどうなっているかは判らない、見るまでは確定していない。正にシュレディンガーの猫状態だ。
ひなたが何かを喋りながら若葉の頬に触れている。きっとそれは厳しくも優しい言葉なのだろう。想真は胸に湧く嫌な予感を神機の入ったアタッシュケースを握る事で無理やり抑え込んだ。
諏訪湖の周辺に4つの社を持つ諏訪大社。その4社が要となって結界を作り、人の生活を護っていた。だが、時間を重ねるに連れてバーテックスの侵攻が激化していき、最後の方にはもう諏訪湖東南部にしか無事な地域は無かった。
勇者達は諏訪湖なら南下し、諏訪大社の上社本宮を目指す。その途中で見える長野の街並みも他の地域と同じく破壊され、もはやそこに人類を護っていた結界は存在しない。嫌な予感は既に確信へと変わっていった。
上社本宮へと辿り着く。だが、そこに『社』と呼べるものは存在しなかった。鳥居、神楽殿、社務所、参集殿…その全てが、木材と石の残骸へと姿を変えていた。全ての天災を一身に受けたような、そんな暴虐。徹底的に、まるで憎悪の対象であるかのように破壊され、人の営みの欠片すらも見る事は出来ない。
「…捜そう。生き残りが居ないかを」
上社本宮を中心に、手分けして探そうとした。だが、それは直ぐに終わる事となる。
「…アレ、家かな?」
「あの家、ボロボロですけど形は残っています!行ってみましょう!」
近付くに連れて、その家の形が明らかになる。恐らく倉庫だったであろう場所は破壊されているが、原型は判る。少なくとも、この家の近くに散らばっている木材と石を見て『社』と判別するよりかは数倍簡単だろう。
「人が立ってるよ!もしかしたら見回りの人かも!」
「……違う」
駆け出そうとする友奈が、想真の声で立ち止まった。想真は歩きながらアタッシュケースを開き、神機を取り出す。そのまま立っている人影に向かって話し掛ける。
「お前…タツミだろ?小川タツミ、第一部隊所属の旧型神機使い。俺だ、想真だ!」
だが、その人影は応えない。夕暮れ故に視界が悪く、こちらからは人影の状態は見えない。
「なぁ、タツミ!!普段お喋りな癖に、こんな時に――」
「み……うた…!!」
「……ッ!!」
咄嗟にポケットに入れていたライトを取り出し、光を人影に当てる。そして浮かび上がった姿は勇者達が驚くには充分で、想真が察するには充分過ぎた。
「何が…あったんだよ…!」
「……バーテックス化だ」
「……バーテックス化、ですって…?」
「あぁ。俺達ゴッドイーターだけの死に方だ。…そうか、タツミ」
想真の表情は勇者達からは窺えない。だが、想真の空気が変わった事は背中から見える情報だけで解った。
「残ったのは俺だけだ。…だから、タツミ。お前を止められるのは、俺だけだ!!!」
「…も…ふ、り…が…まも…!!」
一跳びで間合いを詰めてきたバーテックス――小川タツミは神機を振りかぶる。その神機は右腕と半分融合しており、人間ではない事を如実に示していた。
タツミは旧型神機を使う。この神機は近距離型であり、それ故に遠距離攻撃は不可能だ。それを知る想真は新型神機である利点を活かそうと距離を空けようとするが、タツミがそれを許さない。人間離れした、地面を陥没させる程の膂力を以て想真との距離を詰め続ける。
(クソ…こっちの手口は見えてるって事か!)
本当かどうかは不明だが、ゴッドイーターがバーテックス化すると本人の記憶と戦い方を受け継ぐという。そのゴッドイーターに最適化された身体へと変異し、意志を無くした元ゴッドイーターは仲間を喰らう。もしそれが本当なら、新型神機が持つ近距離と遠距離の両方に対応できるという利点は限りなく薄くなる。何故なら、タツミは想真と共に戦い続けた仲間であり、それ故に互いの持つ手札は見え透いている。
「やめろよ想真!!なんでっ、どうして仲間のお前が!!!」
呆けていた勇者達だが、球子が我を取り戻し、声を上げる。その声を聞きながらも想真は戦いを止めない。むしろ、神機を振る速さを更に加速させた。
「こうなればもう人には戻らない!だから、こうするしか無いんだ…!」
傷は負っていない。今のところは息切れも無く、体力的には余裕がある。にも関わらず、痛い。致命的に胸が痛む。理由は解る。だがそれを無視して、想真はタツミを殺さなければならない。ここで取り逃せばタツミは更に強くなり、まだ残っている人の形を捨てて勇者を傷付けるだろう。そうなる前に殺さなければならないのだ。
きっと、諏訪を守る為に戦ったのだろう。右手と思しき所には布の切れ端が巻き付けられており、利き手を負傷した時に結んだのだと解る。それはアリサやリンドウがよくやっていた戦闘を続ける為の方法だ。服も赤黒く染まっていない所の方が珍しく、どれ程の激戦を戦い抜いてきたか、想像は難くない。
「想真ぁ!!まだ、まだ何か方法が――」
「――やめなさい!!」
「ち、千景…?」
まだ駄々を捏ねる球子に、千景の鋭い声が飛ぶ。普段声を荒らげないどころか、自分から発言する事も珍しい千景の怒声は球子を黙らせるには充分過ぎた。
「…関わりが無い私達より、想真の方が辛い……その事実が、解らない訳じゃないでしょう…?」
「でも…!」
球子は胸が張り裂けそうだった。理性が無いとは言え、人の形をした存在を見つけて殺させたくないという心。だが、想真の言う事は正しく、バーテックスは殺さなければならないという心。その2つの心は相反しており、溶け合う事は決して無い。その事実が解っているからこそ、球子は訳が分からなくなっていた。
その点、想真はまだ良い。彼はバーテックス化の事を知っていてその末路を見てきたからこそ、神機を振るう事に躊躇いは無い。迷った末にかつての仲間を殺せず、部隊が壊滅した事例も有る。だから、目の前の
「っ、さっさと死んでくれよ…!」
「ま、る…ゆめ…み、らい…!」
唐突に前蹴りを繰り出すが、硬質化した左腕に阻まれる。金属を蹴った時のような痺れが右足を駆け上るが、それをどうにか無視して反動をつけて後ろへ跳ぶ。後方宙返りしながら神機を変形させると、引き金を引く。
その瞬間、砲身から紫紺の弾丸が放たれる。タツミは
「オオオオォォォッ!!」
「おれ…も、る…!ゆ、め…!!」
歴戦のゴッドイーターとしての直感か、はたまた人間を捨てた事で手に入れた超反応か。そのどちらか分からないが、タツミは装甲を展開したまま右腕を振ろうとしたが、それは叶わなかった。それは、何故かタツミの右腕が跳ね上がったからだ。急制動を掛けようとしたタツミだが、それを想真は許さない。右腕は肩口まで硬質化している事を見抜いた想真は、ガラ空きの左腕を斬り落とす。
「ま…だ……!しね、な…い…!」
「初見殺しに対応出来ないのはっ、昔と同じだな…!」
タツミの腕が跳ね上がった理由は【トルクボウ】と呼ばれる系統のバレットだ。その効果は着弾すると球となって着弾位置に貼り付き、指定した秒数が経過すると爆発するというもの。放物線状の軌道を描き、どこかに着弾すると即座に爆発する【モルター】より狙った位置を爆破出来る為扱いやすいが、その燃費は最悪だ。爆発系のバレットは総じて燃費が悪いが、これはその特徴が顕著に出ている。
最後にトルクボウを撃ち、タツミの右腕に貼り付けておく事で戦況を有利に持っていった。旧型神機はこれを複数人の緻密な連携で行わなければならないが、新型神機はソレを1人で行える。複数人と組みやすく、なおかつ単体で性能が完結している。これが新型神機のコンセプトだ。
「そ…ま…ふ、たり…まもっ…」
「もう良い、もう良いんだ。先に逝って待っててくれ」
剣戟が再び始まる。だが、先程の速さと比べるとその速さは雲泥の差だ。使っていないとは言え、左腕は重心を取るのに必要となる。それが突然無くなっては、どれだけ強い戦士でも適応するには時間が掛かる。それがバーテックスでも変わらない。
想真の使っている刀身はショート、タツミはバスターだ。手数と威力には大きな差がある。バーテックスには体力という概念は無く、人間だった時の技術が使えると言っても完全に使える訳ではない。徐々に想真が押していく。
「終わりだ、タツミ。…あの世でアリサに、よろしく言っておいてくれ」
一瞬だけバックラーを展開、その時に生じる衝撃でタツミの右腕を弾く。バックラーを収納するとほぼ同時にタツミの心臓に神機の刃を突き刺す。神機が肉を裂き、突き刺さる感覚。かつてアリサを殺した時の感覚が蘇る。
想真の左耳にノイズが掛かったような、震えた声が聞こえてくる。
「そうま…あと…は、たのん…だ…」
任せろ、そう言おうとしたが言葉が出なかった。バーテックス化した人間は決して元には戻らない。それは身体だけではなく、精神も例外ではない。そのハズなのに、目の前の
「そ、ソーマ君…?」
「…あの家の中を探索するぞ。何か有るかも知れない」
「想真さん、怪我とかは有りませんか?」
「有るには有るが、大した事は無い。それより真っ暗になる前に中を見よう。最悪この近くで野宿になるしな」
声だけは平静を装い、想真はアタッシュケースに神機を仕舞うと廃屋の中へと入る。それに続く勇者達と狭い屋内を漁る。
「あ、なんだここ?」
「…瓦礫で塞がれてるわね……」
「若葉ちゃん、どうするんですか?」
「どかそうにも、時間がな…」
「全員退け、危ないぞ」
想真は神機を取り出すと、銃に変形させてエミッターをブッ放す。最大出力と比べればかなり抑えている為、瓦礫が吹き飛ぶ事は無い。瓦礫を退かした先には階段が見える。幸いな事に、階段の内部まで瓦礫だらけという事は無かった。
「…降りてみよう。みんな、気を付けるんだぞ」
「流石にひなたを連れて行くのは危ない。そうだな…千景、球子、杏。ひなたとここに残ってくれるか?若葉と友奈は俺と下に行く。これで良いか?」
「……了解よ」
「想真、くれぐれも気を付けるんだぞ!」
「…分かってる。じゃあ行くぞ、2人とも。先頭は俺が行く」
「分かった!じゃあ私は真ん中に居るね。1番速く動けるのは私だし」
「ならば私は殿を務めよう。これで良いな?」
「あぁ、そうしてくれ。…崩落に気を付けろよ」
最悪、天井が崩落したとしても想真なら勝手が利く。勇者がもし閉じ込められたとしたら、普段の状態では瓦礫を退かすには力が無い。しかし切り札はどんな悪影響が有るか判らない上に威力の微調整が利きにくく、二次被害を起こす恐れすらある。その点想真の使う神機は融通が利く為、先陣を切るのに向いているのだ。
「…アレ、扉かな?かなり厳重だけど…」
「…斬るか?」
「馬鹿、少しは周りを見ろ。多分これはこのスイッチを押せば大丈夫だ。…そんなに複雑には作ってないハズだからな」
「なんでそんな事が分かるんだ?」
「この扉、俺達の使う盾と同じ素材で出来てる。そんな物を使えるのはゴッドイーターしか居ないからな。それにプロテクトを掛けようにも、ここにパソコンなんて物は無いだろうからな。単純に押すしか選択肢が無いだけだ」
「…つまり、消去法だよね?」
「それを言うな。…押すぞ」
懸念としては電気が通ってない事だが、それはそれでやりようは有る。そう思いながらボタンを押すと、ガゴッという音を立てて扉が開く。
「白鳥さん!?」
「…あなた、は…」
中には2人の少女が居た。怪我はしっかりと包帯とガーゼで手当てされ、痩せこけている訳でもない。中の2人は健康体そのもので、言い方は悪いが拍子抜けと言える程だった。
若葉は中に入ると中の2人に駆け寄り、膝をつく。
「乃木さん…」
「白鳥さん、無事か?助けに――」
「――タツミは、どうしました!?」
「た、タツミ…?」
「この辺に居ませんでしたか!?あの、大きな剣みたいなのを持ってるハズなんだけど…」
「あの人は…無理する人だから、ちゃんと見つけてあげないと…」
若葉は後ろに居る想真を見る。名前を呼んでいたから分かるが、既にタツミは想真が殺していた。想真は2人の前に歩み寄り、吐き捨てるように言った。
「俺が殺した」
「……え?」
「バーテックス化していた。ゴッドイーターの規定に従い、俺が介錯した」
淡々と告げる想真の表情は若葉達からは見えない。だが、それどころではないのは諏訪の2人だ。きっと大切な人だったのだろう。想真に縋りつくその表情は切羽詰まるを通り越して、一歩間違えれば想真を殺してしまいそうな、そんな危うさを孕んでいた。
「ふざけないで…あなたもゴッドイーターなら、タツミの仲間なんじゃないの!?」
「………」
「何か言いなさいよ…!何か、言いなさいよ!!!!」
「……恨むなら恨め」
想真は歌野の鳩尾に拳を叩き込む。その横に居る水都にも同じ事をすると、そのまま2人を担いで階段を再び上り始める。
「そ、ソーマ君…?」
「…生存者2名を確認。これから四国に戻る、良いな?」
「…あぁ、そうしよう」
口答えなど出来る訳が無かった。今の想真の顔は涙こそ流してはいないが、噛み締め過ぎたせいで流れた血が唇を濡らしている。今踏み込めば想真がその場で自殺してしまうような、そんな感覚。それを若葉だけではなく、友奈も。上にいる全員も感じたらしく、誰も逆らう事は無かった。会話も無かった。ただひたすら、想真は喋らずに唇を噛み締めていた。