神喰らいは人造勇者である   作:たぴぃ

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 偏食因子

 腕輪から投与される物質。ゴッドイーターを人間足らしめるモノであり、投与を怠ればバーテックス化する。
 オラクル細胞には【偏食】と呼ばれる特性が存在する。偏食因子はそれを利用しており、原理的にはゴッドイーターの身体を神機に自分の一部と誤認させ、オラクル細胞に自身の肉体を喰われないようにしている。
 生成の方法は秘匿されており、大社はこの物質の存在でゴッドイーターに首輪を掛けている。無くなればどうなるか、想像には難くない。


激昂

 「フン、化け物もやっともう1体か」

 

 初老に差し掛かるであろう男性はそう言った。男性の視線の先には想真が居る。警察が使う手錠を掛けられ、無言を貫いている想真。足元にアタッシュケースが置かれている事から遠征から帰ってきたばかりだという事が分かる。

 

 「と言うより、生きていたんですね。もうこの者しか生きてないと思ってましたが」

 「結局の所、ゴッドイーターはバーテックスだ。化け物は化け物、意地汚く生き残るのは得意だろう」

 「……………」

 

 大社のトップにとって、ゴッドイーターは隠蔽したい存在そのもの。存在価値など無いし、むしろ想真は彼らにとって死んで欲しい存在だ。それ故に言動に遠慮は無い。何故なら、大社が想真の人間としての生命線を握っているのだから。

 

 「さて、神機を回収した事は称賛に値する。忌まわしい武器だが、利用価値は幾らでもある。下がって――」

 「――待て、お前は元とは言え人を殺したな。ならば、罰が必要だろう?」

 

 滅茶苦茶な言い分だ。真っ当な要素など1つとして見当たらない。曲がりなりにも想真は人間の為に戦ってきた者のハズなのに、そんな恩など知らぬとばかりにこの者達は想真に罰を与えようとしていた。マトモな感性をしている人間100人に聴けば「それはおかしい」と100人が答えるであろうこの状況に、マトモな感性を持つ人間など想真以外存在しなかった。

 それも仕方の無い話かも知れない。彼らとて、元からこうだった訳ではないのだから。バーテックスという化け物から逃げ、漸く得た安息の地を保つのに彼らは必要なものを捨てすぎた。そうでもしなければ、この方舟は壊れてしまう。大社が不都合と判断したものは隠蔽し、都合の良い事実を作り出し、虚偽の楽園を創り上げる。そうするしか生き残る道は無かった、だからこそ想真は邪魔なのだ。

 

 「流石に身体的苦痛を伴う罰は下さんさ。そうだな…あぁ、貴様の手で()()()()()()()()()()()()()()()。書類は焼き、データは消す。私達は私達の手を汚さずに済み、忌まわしい存在の証拠は消える。Win-Winの関係、とやらだろう?」

 「………よ」

 「は?」

 「っざけんなよ…!!」

 

 想真の怒りは既に頂点を突破していた。口元はまた血に濡れている。最初の散々な言いようは、唇を噛み締める事で我慢していたらしい。だが、既に限界を迎えていたらしい。

 手錠を力任せに引き千切り、跳ぶように走ると机に飛び乗り、思い切り右足を振り抜く。靴越しに何かを砕く感覚と椅子からひっくり返る目の前の男性。横からカチャッ、という音が聴こえた為、反射的に目の前に転がる男性を盾にする。音のした方向に構えた一瞬後に、乾いた発砲音が2度響く。隣に座っていた女性が撃ったらしい。流石にこれ以上撃たれるのは面倒なので、男性から奪い取った拳銃で腕ごと撃ち抜く。

 戦った事など全く無い、言ってしまえば偉いだけの女だ。腕を撃たれても銃を保持し続ける事など出来ず、落としてしまう。

 

 「し、正体を…!正体を現しおったな!!」

 「ああ、そうだな。お前らが化け物である事を望んだんだ。本望だろ?」

 

 想真が人間だと、勇者達は言った。それはある意味、人間でいて欲しいという願いだった。化け物と呼ばれていた想真に触れて、想真の心を感じ取った。勇者達は想真がバーテックスの因子を保有している事を知りながら、彼女達は想真が人間だと言い張っていたのだ。

 だが、大社は違う。姿形は人間でも、化け物で居て貰わなければ困る。そうでなければ自分達が作り出したのは対バーテックスの人間兵器であり、やってきた行いは非人道的極まりない。その後の想真の扱いも人間にするものとしては最低最悪を極めている。だが、想真が化け物だとすれば話は違う。危険な存在を作り上げたからこそ、管理するのは責任が伴う。勇者が大成する為の捨て駒として扱うのなら、人間よりも化け物の方が都合が良い。

 想真が人間である事を望んだのが勇者なら、化け物である事を望んだのは大社だ。当然、見せる一面は全く違うものとなる。

 

 「な、何故だ!?何故扉が開かん!」

 「……クッ、冗談だろ?そこまで行くとただの道化だな、老いぼれ」

 

 どれだけ扉を押しても開く訳が無い。別に、想真が神通力に目覚めて扉を固定している訳ではない。単純な話、彼らはこの扉が内側から引いて開ける事を覚えていないだけだ。開閉は自分より下の者にやらせ、ただ会議が終わるまでこの席に座る。そして会議が終われば開けられた扉から出るだけの彼らに、この扉の開き方など覚えている訳が無いのだ。無理やり扉を壊す程の膂力などあるとは思えない。

 少なくとも、今扉に張り付いている農林水産部門代表のでっぷりとしたビール腹を見れば代表達の身体能力は察する事が出来る。

 

 「俺が化け物、ね…俺をこうしたのはどこのどいつだか、覚えて無さそうなその頭に思い出させてやるよ。俺がお前ら(大社)に何の因子を体内にブチ込まれたのか…そして、死の恐怖をな」

 

 アタッシュケースを蹴り開ける。中から神機を取り出すと、捕食形態に変形させる。神機本来の姿、人間にとって都合の良い形にされたバーテックスがその姿を現す。巨大なアギトだけの存在、ただ『喰らう』という行為にのみ特化させたその姿は、ただの人間に死を幻視させるには充分過ぎる程の圧力を放っていた。

 

 「ひっ…ぐっ、う、ああぁぁぁぁぁぁ…!!」

 「随分と腰抜けになったなぁ。さっきまでの上から目線はどうした?あ?」

 

 後退ろうとするが、身体が動かない。極度の恐怖と緊張により、筋肉が硬直しているのだ。逃げたい、だが身体が動かない。経験した事の無い状態に陥り、あたふたしている間に想真は既に総代表の身体を跨いでいた。

 

 「ゆ、ゆるし…殺さないで…!」

 「ガキの命乞いじゃあるまいし、そもそも許すとでも?今まで散々な扱いされて、仲間を貶されて…許せる訳が無いだろ?お前もそう思うだろ、なぁ!!」

 「っづ、アアアァァァァ!!!」

 「あぁ、痛そうだ。それはそれは痛そうだなぁ。だけど、こんなので許されると思ってるのか?俺達が受けた痛みはこんなもんじゃねえんだよ!!!」

 

 まだ逃げようとする農林水産代表の膝を銃で撃ち、崩れ落ちた所で腹部を思い切り蹴り飛ばす。が、その重さのせいかボールのように小気味良く弾まない。そもそも人間がそんな弾み方をする訳が無いと解ってはいるが、今の想真にはそんな事は関係無かった。

 

 「人の為に戦って、帰ってきたら化け物扱いか!?随分と偉いもんだな、アァ!?テメーらは後ろからふんぞり返って命令を出すだけ。たったそれだけのクズ共が、どうして俺を虐げる!?」

 「い、痛い…医務室、医者を…!」

 「この程度で大の大人が泣いてんじゃねえ!!!」

 

 左手に持つ拳銃の引き金を2回引く。泣いていた情報部門代表の女性は静かになった。命が危ないかも知れない。だが、その程度では1度爆発した想真の怒りは治まらない。

 リンドウ隊長はもっと怖かったハズだ。身体では感じなくとも、心は痛かったハズだ。朔夜はもっと辛かっただろう。大切な人の無理を止めなければならず、無理するリンドウを見るのは辛かっただろう。アリサはもっと怖かったに違いない。周りの仲間が段々と少なくなっていく。その恐怖で壊れてしまったのだから。タツミも、生きたかったに違いない。あの2人を残してバーテックスと化した。尽きていく偏食因子は人としての命のカウントダウンだ。発狂していたとしてもおかしくない。

 殺してやる。仲間を侮辱し、その存在を、存在を示す証左を消し去ろうとするこのクズ共を、殺す。殺さなければならない。そうでもしないと、今にもおかしくなってしまう。

 

 「殺す。少なくとも、総代表のお前を殺せば溜飲は下がる。だからさ、死ねよ」

 「ふざけるな…!やっと、やっと権力を手にしたのだ!殺されてたまるものか!」

 「やっと本性を見せたな!!だが関係は無い、死ねッ!!」

 

 捕食形態の神機を解放する。そうすれば、エサ(人間)を前にお預けさせられていた神機は喜んで総代表を喰らうだろう。ただの人間では抗う術は無い。そのハズだ。

 しかし、喰らえない。扉を壊して飛来した円盤がつっかえて、喰らおうとしても喰らえない。バーテックスには人間の作った兵器は効かない。例外は神機と、神樹由来の力のみ。神機を使えるのはもう想真だけだ。ならば、答えは1つしか無い。

 

 「何のつもりだ…?どうして邪魔するんだ、球子!!」

 「そんなの簡単だ!!タマはお前を、人殺しにはしたくない!!」

 

 壊れた扉から、勇者の装束を纏った球子が入ってくる。いや、球子だけではない。他の勇者も一緒だ。

 

 「人殺しにしたくないだと…?ならもう手遅れだ!今更1人や2人増えた所で変わりゃしない!!だから、さっさとこの楯を退かせ!」

 「なら、タマごとやれば良い!タマは退けないぞ!!」

 「それなら、言葉通りに…!」

 

 捕食形態を解除し、剣に戻すと代表に向かって斬り掛かる。球子は退ける素振りを見せず、その顔に恐怖すら無い。なら球子ごと、そう思った瞬間、想真の刃は大鎌の柄に阻まれる。

 

 「…させないわ、想真……あなたは、私が止める…!」

 「邪魔だ、退けぇぇぇぇ!!!」

 

 刃渡りの長さ的にはどちらも似たり寄ったりだが、対人戦のやりやすさでは想真の方が上だ。そもそもの実力も想真の方が上だが、それは本気の殺し合いでの話だ。千景の目的は想真を傷付ける事では無く、止める事。暴走する想真の太刀筋は粗く、それ故に鍛錬を欠かさない千景なら捌く事は出来る。初めから反撃など頭に無く、ただ捌く事だけに集中する。

 しかし、その程度で止まるならここまで生きてこれる訳が無い。

 

 「殺す、殺す殺す殺す!!!」

 

 千景が想真の斬撃を捌こうとした瞬間、想真はステップを挟みそこから蹴りを繰り出す。突然の衝撃に大鎌は弾き飛ばされ、千景が突破される。

 これで殺せるとは思っていない。顔の直ぐ横を通り過ぎた矢を見て、想真は意識を切り替える。矢が飛来した方向には、今にも泣きそうな顔をしている杏が居る。杏に向けて、拳銃を向けて引き金を引く。

 

 「ッ…チィっ!!」

 

 当てるつもりだったが、照準をズラす。1発だけクロスボウに当てて杏の手からクロスボウを叩き落とし、目の前に立ち塞がる若葉に襲い掛かる。元々武道経験者という事と刀という対人戦に特化した武器である事が合わさり、正直な所千景の数倍厄介だ。

 だが、想真は知っている。武道経験や格闘技経験というアドバンテージを持つ者特有の弱点を。

 

 「ぐっ…!」

 

 想真は神機を斜め前に放り投げ、空いた両手で若葉を殴る。顔には手を出さないが、腹部と胸部を集中的に。人体の弱点なので、幾ら勇者と言えどもそのダメージに膝をつく。

 想真はジャンプし、空中で神機をキャッチすると着地。球子を飛び越え、その先の総代表へと走る。

 

 「これで…!」

 

 終わる。そう思った時、桃色の影が目の前に現れた。

 

 「ダメっ、ソーマ君ッ!!」

 「…………ッ!!」

 

 このまま神機を突き出せば良い。そうすればこの腐った老害は死に、想真は溜飲を飲み下す事が出来る。目の前の友奈の心臓を貫かないようにすれば良いだろう。勇者は身体を強化されている、生半可な怪我では死なないようになっている。少しリスクは有るが、その程度の問題だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 神機が友奈を貫く。その寸前想真は――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――かつて食べたうどんの味をふと思い出した

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「っ、クソッタレぇぇぇぇぇ!!!!」

 

 神機を横にぶん投げる。当然のごとく壁を貫き、神機の刃は半ばまで壁に埋まってしまった。未だに鎌首をもたげる殺意は総代表を殺せ殺せと絶え間なく叫んでいるが、もう保たない。人間だと言ってくれた勇者達の前で、人を殺す勇気は無い。

 未だに人間で在りたい想真には、今この場で再び勇者達に剣を向けるのはとても難しい。再び剣を取って総代表を殺せば、それは勇者達の願いを想真自らがブチ壊す事となる。それだけは出来ない。どうしようもなく、恐怖しているのだ。

 

 「…クソッ!!」

 

 神機を引き抜き、担ぐ。後ろを見る気にもなれず、大股の早歩きで去っていく想真。その後ろ姿を見て、よろよろと立ち上がった総代表は呟く。

 

 「覚えていろ化け物め…」

 「……1つ、言っておくわ…」

 

 いつの間にか首筋に添えられていた大鎌の刃に、総代表は戦慄する。目だけ動かして周りを見れば、他の勇者も他の代表に武器を突き付けているではないか。どうにか機嫌を取ろうと思考を必死に回すが、その前に勇者の冷たい言葉が耳朶を叩く。

 

 「……あなた達の想真に対する扱いは、これでやっと解ったわ……」

 「今回は想真さんに人殺しをさせない為に守りました」

 「だけど、こんな事をするのはこれっきりだぞ」

 「次は許さないよ。ソーマ君の事、悪く言うの」

 

 最後に、若葉の全力の殺気と共に宣告が叩き付けられる。

 

 「2度目は無い。次同じ事が有れば、あなた達の首が物理的に飛ぶと思え」

 

 勇者からのその言葉は、この世界(方舟)に於いては最強の効力を持つ。バーテックスに抗える力を持つ者、人類の守護者からの実質的な死刑宣告のようなものだ。

 勇者達は代表達を省みる事無く歩き去っていく。その背中を、恐れが隠れない目線で総代表はただ呆然と見つめていた。

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