神喰らいは人造勇者である   作:たぴぃ

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 ゴッドイーターの成り立ち

 バーテックスの襲来に際し、神樹が現界した。神樹はその超常なる力を以て無垢なる少女を【勇者】とし、人類の守護の任を命じた。
 大社がしっかりとした形になる以前、神樹を信じなかった神喰らい派と呼ばれる一派が、当時は存在したバーテックスのコアを研究し造り上げたのが【神機】である。それによりゴッドイーター部隊は創設されたが、ゴッドイーター壊滅の数ヶ月前に神喰らい派は対立する勇者派に責任を追求され、処刑された。


慟哭

 ――何かを与えて欲しいなどと思った事は無い。ただ、奪わないで欲しかっただけ。尊厳も、仲間も、日常も、ただ失いたくなかった。奪われたくなかった。でも、そんなちっぽけな願いすら叶えてはくれなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「――タツミ…アリサ…朔夜、リンドウ…」

 

 大切な仲間だった。失わない為に戦い、挫けそうになっても励まし合い、泥まみれになりながらも生き残ってきた。でも、もう残っているのは想真だけだ。仲間も1人残らず死に、自分も命からがら生き延びて、やっと辿り着いた方舟。その中で得られたものは安息でも称賛でもない、侮蔑と嘲笑、化け物というレッテルだけだった。

 仲間殺しの汚名を着せられた。仕方の無い事だとどれだけ話しても、大社の職員に聴く耳は無かった。理不尽だと嘆き、備品を破壊した。それが悪手だと気付いたのは、危険性が認められた為に隔離すると言われ、地下に幽閉されてからだった。

 元から大社は想真を、想真達を人間として見ていないのだ。神樹を信じる事が出来なかった人類が造り上げた救世主は蓋を開ければ、自分達の天敵であるバーテックスへと成る可能性を秘めている爆弾だった。それ故に大社はゴッドイーターを捨て駒にした。勇者の資格を持つ少女を人類の守護者たる【勇者】に育て上げるまでの時間稼ぎ。元々抱えるのも嫌になる程の爆弾だ、死んでくれれば万々歳だったのだろう。 

 天守閣の頂上の欄干に体重を掛け、四国の地を眺めながら呟く。

 

 「…神は越えれぬ試練を与えない、か」

 「――あなた、神様なんて信じてたの?」

 「…白鳥歌野…」

 

 後ろに立っていたのは歌野だった。病人服を着ており、病室から抜け出したきたのだろう。想真は気まずさを感じながらも、先程の問いに答える。

 

 「そんな訳無いだろ。…そもそも、俺には神を信じる資格なんて無い」

 「…どうして?」

 「俺達はゴッドイーター(神を喰らう者)だぞ?信じるモノを喰う罰当たりなんざ、神も救いたくないだろうさ」

 「…………」

 

 歌野は黙り込む。それを見た想真は口を開いた。

 

 「それはそうと、なんでこんな所に来た?諏訪はどうか知らないが、四国(こっち)は煩いぞ。面倒な目に遭いたくないなら病室に――」

 「――タツミの事、どうして殺したの?」

 「っ、それは…」

 

 後ろに立っている歌野は病衣を着ている、ただのか弱い女子だ。だが、その細身から溢れるその気配は殺気そのものだ。返答次第では殺すと、言われなくてもその気持ちが伝わってくる。

 だが、その殺気は危うさの裏返しだ。今の歌野は想真の返答次第ではどう転ぶか解らない。バーテックスを殺す為に生きるかも知れないし、大社に向けて憎悪を燃やすかも知れない。想真は知っている。勇者の力は簡単に剥奪される事を。その行為は大社ではなく、力を与えた神樹から成される。言い訳もさせて貰えずに行われるその行為は、神樹から力を与えられた事を誇りに思う勇者にとってどれだけの衝撃か。今の歌野が力を失えばどうなるか、解らない。

 ならば、と想真は思った。

 

 「…言っただろう。()()()()()()()()()()()()、それだけだ。そうなればもう戻りはしない。被害が拡大する前に()()しなければならない」

 「あなた…!仲間だったんじゃないの!?」

 「あぁ、仲間だったな。だが、もう死んだ。アレはタ…ヤツの姿をしたバーテックスだ。殺す事に躊躇いは、無い」

 「あ、っ…アンタは!!!」

 

 胸倉を掴まれ、立たされる。

 

 「あの人はっ!!タツミは、アンタの事を大事な仲間だって!!頼りになる人だって言ってた!!それを、それをぉっ!!」

 

 それを想真は冷ややかな眼で見返す。睨みもしない。ただ見ているだけだ。

 

 「だからどうした。その程度の事で俺が泣くと、悔やむとでも思ったか?それなら残念だったな、とっくの昔に慣れた。仲間が死ぬのも、見殺しにするのも、この手で殺す事もな」

 「……な…」

 「なんだ?聴こえないぞ」

 「ふざけるなッ!!アンタは、タツミはアンタを――」

 「――くどい。頭を冷やしてから出直すんだな」

 

 胸倉を掴む手を振り払うと、想真は歌野に背を向けて歩き出す。トドメの一言を添えて。

 

 「弱かったから死んだ。それだけだろう?もっと強ければ、死ぬ事も無かったろうに」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「っ…これで良い、これで良いんだ。彼女が強く在る為には、これが手っ取り早いハズなんだ…!」

 

 想真は見てきた。戦いの中で最も人が強くなるのは黒いマイナスな感情に任せた時だという事を。そこで思考を放棄せず、憎悪のままに鍛錬を重ねる。そうすれば、過程はどうにせよ結果としては強くなった本人が残る。故に、精神的に不安定で戦えるかどうか判らない歌野を奮い立たせるには、これが最も効果的だ。

 そのハズなのだ。これが最適解。例え自身が恨まれたとしても、この選択がベスト。だが――

 

 「っ、ァァああぁァあアアア!!!」

 

 最適解の為に他人を虐げる。それは、想真が嫌った大社のやり方そのものではないだろうか?

 大社は方舟の維持の為に想真を虐げ、隠蔽しようとした。想真は歌野が強くなる為にタツミを貶し、その死に様を嗤った。どちらも一方を生かす為に一方を虐げた。それに何ら違いは無い。大社はゴッドイーター全体を、想真はタツミを。今の想真は大社と同じだ。

 想真はテーブルに上体全体を叩き付ける様に腕を振り下ろすと、そのまま横に身体ごと腕を振ってテーブルの上の物を全て床に落とす。テレビのディスプレイは殴って割った。窓ガラスには電気スタンドが投げられ、ガラスは割れていた。壁は殴り壊され、手元に有ったハサミによってシーツはズタズタに切り裂かれている。部屋の中の物を手当たり次第に破壊しても、想真の気は全く晴れなかった。むしろ暴力に走る自分に向けての嫌悪感が増して、更に気は重くなるばかりだ。

 

 「クソっ、クソクソクソクソクソクソ!!!俺はっ、俺はッ!!」

 「――…想真……?」

 「……ち、かげ…?」

 

 半開きのドアから小さく聴こえた呟き。それに反応して後ろを向くと、そこには千景が居た。黒のパジャマ姿なのは、今が既に0時を回る頃だからだろう。遠征帰りで疲れているであろう勇者が起きているとは思わなかった想真は固まる。自分の状況を省みると、精神に異常を来たしているとしか思えない。手遅れでも弁明をしなければ、そう思って頭の中で言葉を選んでいると、千景が部屋の中に入ってきた。

 千景は想真の手を掴むと、ベッドへと歩く。釣られて想真もその方向に歩いていく。そして千景はベッドに座って両手を広げ、「……ほら」と言った。

 

 「…………」

 「………本当は、こういう事は高嶋さんの方が…適任だと思うけど…」

 

 両手を広げているが、それがどういう事を意味するか解っていない想真はフリーズしている。それを見兼ねた千景はボヤキながら立ち上がり、想真の頭を抱き寄せて再び座った。頭を下に持っていかれた事で膝をついた想真は暖かさを感じていた。懐かしい、どれぐらいぶりかも分からない人肌の暖かさ。想真は栓が外れるような、そんな感覚を覚えた。

 

 「…軽蔑とか、しないのか…?」

 「…忘れたの?私は…ゴッドイーターになる前のあなたと暮らしてたのよ…あなたがどんな人か、どんな育ちをしてるか…覚えてるのは、私だけ…」

 「…それはそうだけど…だが、それが――」

 「――だから、私はあなたが溜め込む人だって知ってるわ」

 

 千景は言い切った。そのままの勢いで言葉を紡ぐ。千景にしては珍しく、一息で。

 

 「昔からそうだった。あなたは1人で負担を背負って、それで何かを失っても何も言わない。私を助けた時もそうだし、今でもそう。あなたは人に何かを与えても、誰かに与えられる事なんて滅多に無い!」

 

 普段物静かな千景の強い語調に、想真は何も言い返せない。が、次の瞬間には途端に口調は柔らかくなり、反対に抱き締める力は強くなった。

 

 「…あなたは私を助けてくれた…だから、恩返しをしたくて…でも、私にはあげられるものなんて何も無い…だから、私は、受け止めてあげるわ…」

 「…なに、を…?」

 「…あなたが溜め込んだ悪いもの全部…。大丈夫、他の人が残念に思っても、私は絶対にそんな事思わないわ…だから、安心して吐き出して……?」

 

 想真からすれば、溜め込んでいるという自覚は無かった。そもそも吐き出した事など無いのだから、溜めている事に気付ける訳が無いのだ。物心付いた頃から頼れる人は居なかった。父親は見た事は無いし、母親も都会で暮らしていた。頼れるかも知れなかった村からは村八分に遭っていたから村にも頼れず、だから誰にも頼れなかった。

 千景もその頃はただのか弱い女子で、トラウマを抱えていた。いや、それは今でも抱えているだろう。だから、千景に縋る事は出来なかった。それからゴッドイーターになってからも、頼れる仲間はいつ死ぬか分からない。やっと出来た恋人もいつしか壊れて、頼る事は出来なかった。

 誰にも縋れないこの10余年の人生で、初めて縋る事が出来る。その無意識で悟った事実は、想真の涙腺から涙を溢れさせるには充分過ぎた。両手を震わせながら持ち上げ、ゆっくりと千景の身体を優しく抱き締める。まるで硝子細工を触るように、壊れないように。

 

 「ぁあ…っ、ぐぅっ……!」

 

 小さく嗚咽を漏らす。死んでいった仲間達、見殺しにした命。この手で殺した命の数を思い出す。そして想真はたった一言だけ呟いた。

 

 「――すまない……ッ!」

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