神喰らいは人造勇者である   作:たぴぃ

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不必要可欠

 『橘想真』は必要とされない存在である。それは誰からも否定して貰えない確定事項であり、実の両親すら彼の事を必要としていないのだから。

 想真の本来の名前は『橘想真』ではない。本来の名前は『雨宮コウタ』という。名前の文字は彼も知らない。それを母親から聞かされたが、文字は教えて貰えなかったのだ。雨宮とは国内でも有数の大企業である【雨宮コーポレーション】の社長一族の名字であり、本来の想真はそこの跡取り――にはなれないが、一応血族には名を連ねる筈だったのだ。

 つまり、彼の母親は愛人だったのだ。それも元からではなく、彼の母親は父親の、社長の秘書だった。幾度となく身体を重ね、実を結んだ(デキてしまった)のが想真だ。妻が居るにも関わらずデキてしまった不実の子、そんなモノを作ったと世間が知れば会社の評判は落ちる。そう考えた社長(父親)が取った手段は何か。簡単な話、手切れ金を渡してこの田舎に送り込んだのだ。

 しかし、田舎というのは話題性に乏しくどこからか真実が漏れ出すものである。どこから漏れたのか今の想真には知る由もないが、『淫売の子』や『ろくでなし』などと揶揄され、()()()()()()が現れるまで虐げられる事となる。今でこそ無視に留まっているが、前までは酷いものだ。通りすがりの悪口だけならまだしも、路地や畑に引きずり込まれて殴る蹴るの暴行を受けたのは1度や2度では利かない。

 非公式の手切れ金なので法的には真っ黒なソレだ。だからなのか、今の想真の家の通帳には母と2人で暮らす程度なら有り余る程の金が毎月入ってくる。が、精神的に不安定になった母は肉体的な快楽に縋り、きっと都会で見知らぬ男と身体を重ねているのだろう。数年は母の顔を見ていないが、毎月父から振り込まれる金に加えて通帳に入金されている為、生きてはいると判る。

 だからといって、どうしたもこうしたもないのだが。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 朝、千景からすれば憂鬱な朝だ。ふかふかのベッドはとても寝心地が良かった。そのせいと言っては何だが、時計を見ればそろそろ学校に向かわねばならない時間だ。嫌々ランドセルを背負う千景に、ちょうどノックの音が部屋に響く。

 

 「…どうぞ」

 「ありがとう…お前、まさか学校に行くのか?」

 「…そうしなきゃ、怒られるから」

 「そうか、なら俺も行く」

 

 準備を進める千景に、想真は目を見開く。が、怒る親が居ない自分と違い、千景には一応親が居るのだと思い出す(とは言えろくでなしだった記憶しか無いが)。

 昨日に味方だと言った手前、いじめられる事が分かっている学校にみすみす見送る訳にもいかない。想真は自分の部屋に戻り、ランドセルを持ってきた。ボロボロの、汚れが取りきれていないランドセルを。

 

 「それ…」

 「まぁ、俺は男だしな。俺が乱暴な遊びをして壊したって言い訳が使えるんだ、壊さない理由が無いだろう。…そんな顔をするな。そろそろ行かないと遅刻するぞ?」

 「じゃあ…行かなきゃ」

 「待て、正面玄関からは出られない。()()()()()()()()()()()

 「罠、とか…?」

 「そんな所だ。とは言っても、簡単なブービートラップ程度のものだけどな。こっちだ、着いてこい」

 

 裏口を開け、そこから坂道を下っていく。想真の家は山際に建ててあり、道理でこの狭い田舎で千景が家を知らなかった訳だと納得する。幾ら田舎とは言え、こんな山の近くには来ないからだ。

 比較的家が多い地区に出る。この辺りに千景の家は有り、それ故に最も暴行に遭いやすい場所でもある。今も、路地から数人の男子が出てくる。遅刻しそうな時間にも関わらず、毎度毎度飽きないものだと諦観と感嘆が混ざった感情を千景は抱く。

 

 「随分と遅かったなぁ。そろそろ遅刻しちゃうぜ」

 「だから手早くボコボコにすりゃ良いじゃん!遅刻したらコイツのせいにすりゃ良いし!」

 「その手が有るか!マジ天才だろお前!」

 

 この男子達は中学生である。田舎故に、未だにヤンキーという風化しかけた存在が未だに幅を利かせている。遅刻を気にしている辺りどうにもワルにはなれていないのだが、それでも躊躇なく千景を殴ろうとする程度には()()()()いる。

 相手は3人がかり、歯向かっても無駄だ。それが解っている千景は抵抗を止め、出来るだけ歯を食い縛って声を漏らさない様に備える。が、男子の内1人が突然呻いて蹲る。その正面には想真が居て、足を振り上げているのでどこかを蹴った事が判る。それがどこか、男は想像したくない場所を。

 

 「あ…テ、テメェ!!」

 「失せろ」

 「あぁ!?ナメてんのかよテメェ!よくもコースケを!!」

 「俺に歯向かうのか?なら良いぜ、お前ら全員高校に進学出来なくなっても良いならな」

 「おま…まさか、テメェがあのろくでなしの…」

 「だからどうした。で、どうする?このまま無様に帰るか、向かってきて将来を棒に振るか。選べよ」

 「クッ…」

 「お、おい…リョータ、どうすんだ…?」

 「…チッ、帰るぞ!ショウ、コースケに肩貸して連れてくぞ!」

 

 男子達はすごすごと帰っていく。千景は、まるでアニメのヒーローを見るように想真の事を見詰めていた。その目は尊敬の中にどこか畏怖を抱いていて、向けられている想真はそこまで気分が良くなるものではなかった。

 

 「想真君は…一体…?」

 「…ハッタリだよ、俺本人には何も出来やしない。父親を嫌っておきながら、あの人の力を借りなきゃお前1人も守れやしない。ただの…ハリボテだ」

 

 そう言って目を伏せる想真。それを見た千景は口を開く。

 

 「でも…あなたは守ってくれた。だから、今はハリボテじゃなくて…私のヒーローよ…」

 「…そうか。っと、残念ながらもう遅刻確定だ。これから言ってもどうせイビられるだけだし、お前がこれからも俺の家に泊まるなら荷物やら家から持ってきた方が良いと思うが…どうする?」

 

 千景の中にはどこか脅迫的に日常を送らねばならないという観念があった。が、それは今一時的に麻痺している。本来なら暴行されていた所を助けて貰えた。そんな小さな、だが千景からすれば大きな出来事が今の千景の観念を麻痺させているのだ。なら、もっと大きな事も――学校をサボるという事もやれるかも知れない。千景はそう思った。

 

 「…今日は、やめるわ。だから私の家に…一緒に来て」

 「任せろ」

 

 また、この田舎にろくでなしが増えた。だが、それでも良いと2人は言うだろう。同族、同じ穴の狢、そんな『もう1人』が傍に居るのだから。

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