更に就職して忙しくなった影響で執筆する時間が取れず、更新も週に1度出来たら良い方になってしまいます。楽しんで読んで下さる読者の皆様には申し訳無いのですが、更新が遅くなることをご了承下さい。
「千景、居ないのか?」
想真は千景の部屋のドアをノックしていた。だが、部屋から答えは返ってこない。寝ているのかも知れないが、万が一病気などで倒れていたら一大事だ。少し申し訳なく思いながらも想真はドアを開けた。
「──居ない!? 一体どこに……?」
出掛けるにしても今は大社から外出の許可を取る事は出来ない。どこに行ったのか、そのヒントを探しているとパソコンの電源がついている事に気付いた。スリープから復帰させると、その画面には匿名掲示板が表示されている。その内容は勇者に対するバッシング、ネガティブな評価ばかりだった。
やってしまった、想真は一瞬で気付いた。想真は今までネットというもう1つの世界とは無縁な環境に身を置いていたのだ。その方面に対する警戒が疎かになるのは仕方の無い話だろう。
想真は千景の部屋を出て大社の職員を探す。千景の行き先を聞く為だ。
「おい、郡千景はどこに居る?」
「彼女は確か……ご両親を迎えに行っているハズですね」
「両親を、迎えに……?」
「はい。ご両親に丸亀市に引っ越して頂く為に、娘である郡様に事情を説明しに行って頂いたのです」
「……不味い、不味い不味い不味い!! おいお前、俺は千景の所へ行く!」
「あなたの外出にはまだ許可が出ていないのです。どうか落ち着いて下さい」
「責任はいくらでも後で取ってやる! だから止めてくれるな、あとはもし何かあれば若葉を頼れ!!」
そう言って想真はアタッシュケースに入った神機を持ち、急いで大社を出る。人の行き交う街を見るのは久し振りだが、そんな感慨に浸っている余裕は無い。急がねばならない。千景の部屋には神器が無かった。それはつまり、今の千景は容易く人を傷付け、殺す事が出来るという事だ。今の精神的に不安定な千景ではどうなるか分からない。
だから想真は急ぐのだ。勇者である事を最も望んでいた彼女が、自分から勇者の肩書きを棄てる前に。今まで救って貰っていたのだから、今度は自分の番だと。
「……またここに来るとはな、クソッタレ」
想真はそう吐き捨てて、千景の故郷──自分の生まれた村へと帰ってきた。以前千景の付き添いで来た時と景色は殆ど変わってはいない。だが、決定的に雰囲気が異なる。以前の千景を称えるムードはどこにも無く、明らかに苛立っている。
「千景はどこに居るんだ……?」
千景の家へと向かうが、千景の気配は無い。敷地に入って家の中を見るが、そこにあるのは汚い部屋とそこに横たわる女性──千景の母親だけだった。机の上に乗っているのはコピー用紙だ。紙が置いてある事は分かるが内容は分からない。興味が無いと言えば嘘になるが、それよりも優先すべき事がある。
「早くバケモノ倒せよ!!それしか能がねーんだからさぁ!!」
若い女性、というより女子と言うべきか。女の叫び声がした。その内容的に責められているのは千景だろう。女の捲し立てる内容は酷いものだ。勇者の事を同じ人間だと思っていない、ただバーテックスと戦うだけの存在。そう決めつけている。酷い話だ。希望の象徴は象徴であるが故に、同じ人間と思っては貰えないのだ。
心無い言葉に負けないでくれと、想真はそう願った。
「千景!!」
「想……真……」
振り向いた千景の右手には抜き身の大鎌が握られている。その向こうには腹部を浅く切られ、血を流して腰を抜かしている女子が居た。恐らくは想真達と同じくらいの年齢だろう。だが、戦った事の無い者は立ち向かえない。あの女子が勇者の誰かなら、簡単に立ち向かえただろう。
想真は嘆息した。また間に合わなかった、と。だが、それと同時にこうも思う。まだ手の施しようはある、と。
「……やってしまったか、千景」
そう言うと、アタッシュケースを蹴り開けて神機を取り出す。本来はやりたくないが、千景を救う為には仕方の無い事だ。確かに想真も酷い育ち方をしてきた。バーテックスが現れる前は人間に虐げられ、バーテックスが現れてからはバーテックスと戦って育ってきた。だが、それでも救いはあった。
だが、千景はどうだ?虐げられ、それでも耐え抜いてきた。やっと勇者として輝かしい日々を過ごすハズだった。こんな村の人間に縛られる事も無かったのだ。それを、こんな下らない事で汚してはならない。
想真は神機を構え、振り上げると──
「…………ぅ、ぇ?」
腰を抜かしている女の腹部を、神機で貫いた。いきなりの事に、刺されている本人ですら腹を貫いている神機を眺めている。
「あっ……あああああああああぁぁああああぁぁぁああああぁぁぁ!?!???!?」
引き抜かれた穴からは大量の血液とピンク色の臓物、悪臭を放つものがぶちまけられる。その事態に気付いた本人の口からは激痛による絶叫が迸る。大量の出血により脳に送られる血液が足りなくなったのか、女は地面に倒れて静かになる。数回ピクピクと痙攣すると、呼吸による胸の動きも無くなった。
「……次は、お前だ」
「ヒっ…!!」
「なに、してるのよ…!想真!」
「…俺を誘い出す為に人を傷付けるとは、その覚悟には脱帽したぞ。この村の人間に目を付けていたのがバレるとはな」
「何を…?」
「俺を止めたいか?人々を護りたいか?ならば俺と戦え。そして俺を満足させて見せろォ!!」
想真は神機を構え、千景に襲い掛かる。状況に着いていけていない千景は想真の斬撃を受ける事しか出来ない。それを見兼ねた想真は鍔迫り合いに持っていくと、口を千景の耳元に近付けて囁く。
「俺を倒せ、千景。それでこの場は丸く収まる。少なくともお前が一方的に悪い事にはならないハズだ」
「そんな…!これは、私がやった事なのに…!」
「大丈夫、元々無かった事にされてたんだ、人殺しと騒がれようが構わない。…ほら、やるぞ。通報されてるからな、直ぐにでも若葉は来る。…仲直り、ちゃんとしろよ」
想真は1度自分から距離を取ると、再び千景に斬り掛かる。千景はそれを受けて切り返すが、未だに迷う千景の一閃など当たる訳が無い。想真は千景に本気だと教える為、神機を変形させると千景目掛けて放つ。撃ったバレットはモルターだ。重力に引かれて千景の足元に着弾し、爆発する。砕けた地面の破片が千景の頬を掠めて小さな傷を作る。
「なんだ、自分からは来ないのか?…もう何人か殺すか。そうすれば、俺が本気だと分かるだろう?」
村人の方向へ歩くと、想真が歩くのに合わせて村人が下がっていく。想真を見るその目は化け物を見る時の目と同じだ。それを見て想真は昔を思い出す。外の世界に人が生きていた頃の話。まだゴッドイーターとして日が浅く、形振り構わずに戦っていた頃の話だ。
(…助けに来た俺達がバーテックスを捕食して戦うって聞いたヤツらと同じ目をしてる。化け物を見る目だ。…懐かしいな)
「お前…橘想真か!?」
「…あ?」
「やっぱりそうだ…!俺達が憎いんだろ!だから殺しに来た、そうだろ!?」
きっと目の前で叫ぶ男はかつて想真を虐げた者の1人なのだろう。と言うより、関与していなかった者の方が稀だ。どこかしらで何かをされたのは確かなのだろうが、覚えてはいない。それに、想真はこの村の事をどうも思っていない。憎くもなければ怖くもない。本当にどうでも良いのだ。そんな事よりももっと酷い目に遭ってきたのだ、今更そんな事に頓着はしない。
だが、そう思ってくれるなら好都合だ。人を襲う理由が出来たと、想真は笑った。
「ああ、そうだ。昔は随分と世話になったな…人を傷付けておいて自分は傷付きたくないってのは不公平だと思わないか?」
「それはお前が──」
「確かにおれの親はロクデナシだった。だが、俺がお前らに何をした?少しでも楯突いたか?お前らを虐げたか?」
「それは…」
「10年ぶりの仕返しだ。精々ストレス解消には役立ってくれ…よ!!」
神機を振り下ろす想真と腰を抜かしている男の間に大鎌の刃が差し込まれる。2つの刃は耳障りな摩擦音を立て、男の目の前で止まった。
「させないわよ…!」
「へぇ…やる気を出したみたいだな!!」
想真と千景の間で激しい剣戟が繰り広げられる。それは常人の目からは何がどうなっているか理解に苦しむ程の速さであり、千景に対する分かりやすい畏怖を村人に伝えた。それは想真の思惑通り、千景が村人を襲いかけたという事実を帳消しにするものだ。
そしてもう1つ、想真の思惑が的中した。
「千景、想真!?」
大社から文字通り若葉が『飛んできた』のだ。想真と千景の剣戟を見た若葉は当然驚き、だが身体は反射的に刀を握って臨戦態勢となる。
「勇者がもう1人…!滾るな、俺を楽しませろォォォォ!!!」
村人からすれば恐怖の咆哮。だが、勇者からすれば大根芝居も大根芝居だ。余りにも分かりやすい茶番。だが、それ故に若葉は乗らなければならない。ここまで想真が悪役だとお膳立てされているのに、ここから村人を説得しようにも不可能な話だろう。既に人が死んでいるのだ、何がどうあってもこの構図は覆らない。
若葉と千景の攻撃に挟まれる。普通ならあっという間に制圧される程の攻撃の速さとさ手数だが、想真はそれでも抗う。身体には徐々に生傷が増えていく。それも想真がわざとそうしているのだ。むしろ若葉と千景の攻撃は想真を傷付けないようにしているのだが、わざと当たって傷を増やし、本当に敵同士だと思わせている。
「想真、一体どうしてこんな事を!?」
「…気まぐれだよ」
想真は背後から迫る千景の斬撃に対して後ろに跳び、直撃する。大鎌の刃が背中の肉を切裂き、鮮血が吹き出すのを激痛で察した。大量に出血したせいで意識が朦朧とする。だが、まだ死なないだろう。死んだ事は無いから確実とは言えないが、それでもきっと死なないだろう。大社が死なせないに決まっている。
「──これで満足しただろ、千景」
「……ぁ、想真…!」
意識がブラックアウトする寸前に感じたのは背中の激痛だ。見えたのは今にも泣きそうな千景の顔で、心配するなと言おうとした時には既に意識は泥中に沈んでいった。