橘想真の活躍と勇者2人の死により、橘想真の戦略的価値を見直した大社は幹部を総入れ替えする事となった。その原因には元々ゴッドイーター設立の経緯が後暗い所が多々あるという弱みを突いたという点もある。
本来は橘想真を表舞台に立たせ、ゴッドイーターという存在を勇者と近しい──つまり、誇り高いものとして民衆に知らしめるつもりだったが、そんな折に橘想真が殺人事件が起きた事によりゴッドイーターは本格的に大社の機密として情報の流出が恐れられる事となった。
神託が外れる事は無い。それは今までの神託が全てそうだった事に裏打ちされる事実であり、きっとこれからもそれは変わらないだろう。……今日世界が滅びなければ、ではあるが。
「友奈、身体は大丈夫か?」
「…うん、多分大丈夫!それに、危なくなったら皆が助けてくれるでしょ?」
「あぁ、当たり前だ。だって私達は──」
「──仲間だから、かしら…?」
「そうだ。…千景に台詞を取られてしまったな」
「…悪いわね。たまにはそういうのも悪くないでしょ?」
「ぐんちゃんも若葉ちゃんも、前よりずっっと仲良くなったんだね!これなら負ける気がしないよ!!」
「どうやら、楽しいお喋りもここまでらしい。…来たぞ」
それは余りにも多かった。真っ白なキャンバスの表面が蠢くかのようなソレの進軍はとても歪で、そして何の意思も感じさせない。ただ人を滅ぼす為だけの存在は無機質に歩みを進める。
それを止める為に立ち塞がるのはたった4人の少年少女。それぞれ、その歳には似つかわしくない武器を携え、自らの命をとして無慈悲な神の遣いに抗うのだ。
「行くぞ、義経!!」
【源義経】の力を借り、戦場を縦横無尽に駆けるのは日本刀を扱う少女。その少女はポニーテールを靡かせ、群がる星屑を全て蹴散らしていく。彼女はただ人を護る勇者として戦っている。そこに迷いは無い。10代とは思えない、完成された勇者としての資質はどの勇者よりも高い。
彼女は独りで戦っていた。友達をバーテックスに殺され、その憎悪を人々の祈りに重ね、その怒りをバーテックスにぶつけていた。だが、彼女はやっと理解したのだ。人には弱い者も、怒りを力に変えられない者も居ると。そんな『弱い人達』の為に戦っているのだ。
「やろう、一目連ッ!!」
妖怪【一目連】の力を従え、風と共に敵を薙ぎ払う少女。その少女は拳を振るい、愛する人間を護る為に戦う。底抜けの優しさと明るさを持つ、戦いなど似合わない少女は選ばれたから戦う。神様が何故自分を選んだのか、未だに分かりはしない。戦う理由も受動的なもので、能動的な理由は無い。
だが、分かっている事もある。それはこのまま自分が戦わなければ人類が滅んでしまう事。そして、人類が滅びれば大好きで大事な友達が死んでしまう事。たったそれだけの理由だが、彼女にとっては何よりも大事な戦う理由だった。
「来なさい、七人御先…!!」
7人で1人の精霊【七人御先】を使うのは大鎌を難無く振り回す少女。その少女は紅い旋風と化してバーテックスを切り刻み、次々と敵を処理していた。勇者でありながら最も人間らしい少女は、正直な話人類が滅びようがどうでも良かった。戦う理由は、自分を護ってくれた人を次は自分が護る為。
今までのように自分の価値を証明する為に戦うのではない。自分を認めてくれる、かけがえの無い友達の為に戦う。他人の事は人一倍心配する癖に、自分の事は誰よりも無頓着な少年を、今度は自分が護る為に。
「力を貸してくれ、球子、杏」
神機が変形する。刃の先端に旋刃盤が装着され、まるでチェーンソーのように変形──否、変異した武器を操るのは1度は全てを失った少年。仲間も、恋人も、信頼出来る人間を全て失った彼は、また護りたいと願える存在を得た。口下手で不器用だからいつも不格好な形でしか何かを成せない彼は、それでも必死に戦うのだ。
何度も失った。何度も傷つき、護れなかった事は数え切れない。約束、仲間、無辜の人々。それらを護れず、悔やんだ事を忘れた事は1度も無い。だから、その辛さを背負うのは自分だけで良いのだ。自分が味わった狂いそうな程の哀しみと苦しみは自分だけのもので良い、それが戦う理由になるのだから。
「キリが無いな、これは…!!」
何時間戦ったか、何体倒したか、もう数えてはいない。今までの襲撃とは格が違う、圧倒的な質量。1体倒したかと思えば3体が押し寄せる。今までのようなローテーションを組む余裕すら無い。4人で処理しなければあっという間にすり潰されて負けている。
地平線の彼方まで続くバーテックスの軍勢は未だに尽きる事は無い。いつもは問題なく振るえる自分の武器が、今では普通に重く感じる。よく見れば想真の腕の筋肉は痙攣を起こしている。【スタミナ増強薬】と呼ばれる筋疲労を一時的に誤魔化す薬を服用し、どうにか戦ってはいるがバースト状態が切れればもう動けないのは間違い無い。
「──まだ、来るの…っ!?」
「おかわりはまだまだ有るという事か…!」
「若葉ちゃん、こんな時にジョークは要らないよ!」
「まだ喋る余裕があるなら大丈夫だな、来るぞッ!!」
神機を変形させ、銃形態にすると変異させる。神機が巨大なクロスボウへと変異を遂げると、そのまま引き金を引く。周りに居るだけで凍えてしまう程の冷気を放出しながら飛んでいく矢は複数のバーテックスを巻き込んで凍結させ、貫いていく。連射して多数のバーテックスを撃破した筈だが、倒した数よりも遥かに多いバーテックスが更に押し寄せてくる。
抑え切れない、そう考えて後ろに下がると目の前を風が薙ぎ払う。友奈の百目連によるものだ。
「ソーマ君、大丈夫!?」
目の前のバーテックスを捕食し、バースト状態を持続させてから叫ぶように応える。
「まだ、どうにか…な!!」
「高嶋さん、後ろ!!」
千景の大声に反応し、後ろを向いた友奈。直後に感じたのは強い衝撃と引っ張られるような感覚──いや、引っ張られているのだ。
「友奈ッ!!」
地面に放り出され、ゴロゴロと転がる。惚けている暇は無い、直ぐに身体を起こして周囲を確認すると、視界に広がるのは頭上も含めた360°に広がる純白だった。この場に白いモノなど限られる。この目の前のソレは何度も殴り、砕いてきた『白』と全く同一のものだった。
バーテックスの大群の中へ引きずり込まれた。いつも明るい友奈の表情を焦りと恐怖で歪ませるには充分過ぎる状況だった。
「一目連ッ!!」
風を巻き起こし、バーテックスを吹き飛ばすが全く意味が無い。正確に言えば、意味は有るがそれを物量で上書きされているのだ。バーテックスで形作られたドームは徐々に縮小している。文字通り『すり潰す』つもりなのだろう。友奈は躍起になってドームの壁を殴り付けるが、何も起こらない。
「──させるかぁぁぁぁぁぁ!!!」
想真がドームの壁を突き破る。友菜の手を掴むと、自分が開いた突破口に向けて友菜を投げる。友奈はどうにかドームから脱出できたが、中には想真が取り残される。友菜は手を伸ばすが、想真は笑ってドームに残る。
ドームがある程度まで縮んたその時、上から巨大な影が墜ちてくる。その姿は何度も見てきた。巨大な、マントを羽織った虎。ヴァジュラだ。ヴァジュラは天を仰ぎ、力強く咆哮する。すると、想真の足元を中心に暗い青のドームが広がる。その大きさはちょうどバーテックスのドームと全く同じ大きさだ。
このドームはヴァジュラ特有の攻撃である【雷槌】の予備動作だ。一定時間後にこのドームの中に人間を殺すには充分過ぎる強さの電気が発生する。ゴッドイーターと言えど、当たれば容易く死んでしまう。そして何が厄介なのかと言えば、この攻撃を阻止する手段が無い事だ。
耐えられない攻撃を前に、想真は笑って死ぬ覚悟を決めた。
「──そんな事、させないわッ!!」
「なっ!?」
想真の後ろのバーテックスの包囲網をブチ抜き、千景は想真の腕を掴んだ。そのまま想真を後ろに投げる。バーテックスの壁に無理やり隙間を空けていた6人の千景は想真が通過するとバーテックスにすり潰されて1人、また1人と死んでいく。想真が雷槌の範囲外に出たその瞬間、千景は笑った。
「やめろぉぉぉぉぉぉ!!!」
バーテックスの包囲網ごと焼き尽くす程の、凄まじい電撃。受け流す事も出来ず、受ければ死は免れない。千景はそれをマトモに受ける。身体に走る痛みと熱さで頭の中が掻き回され、叫び声を上げているのかどうかすら分からなくなる。それでも千景は膝をつかない。想真はいつもそうしてきたのだ、自分もそうありたい。
バーテックスの包囲網が消え、その場にはヴァジュラと千景が残った。鎌を構え、まだ手足が動く事を確認すると千景は想真に向かって叫んだ。
「…そ、想真…戦うわよ。まだ、私は戦えるわ!」
先陣を切る。鎌を振るうと、いつもより武器が軽く感じた。精霊の力は疲れているからか使えないが、そんな事は気にならない程に動けた。
「千景、お前…怪我は無いのか?」
「さあ、私にも分からないわ…でも1つ、確かな事があるわ」
「…なんだ?」
「まだ私は戦えてるって事よ。…さぁ、片付けましょう」
「…分かった。じゃあ、さっさと片付けるぞ!!」
そう言って、勇者達はバーテックスの大群に向かって反撃を開始する──
──そして、世界は暗転する
「……終わったよ、千景」
そう話し掛けても、彼女は動かない。大鎌を持ち、立ったまま動かない。まだ来るバーテックスに警戒するかのように、一切動かない。
「…ぐんちゃん、もう良いんだよ?戦いは終わったの。私達の勝ち、これで終わりなんだよ?」
「千景…頼む、応えてくれ…!私は、私達はそんな事実を受け入れたくないんだ…!」
それでも彼女は応えない。3人が黙っていると、彼女はグラリと膝から崩れ落ちる。想真はそれを受け止め、彼女の顔を見た。
「…なんで、なんでだよ…っ!痛かっただろ、苦しかっただろ…?なのに、なのにどうしてお前はっ!!」
「そんな、安らかな顔で死んだんだよ…っ!!」
もう言葉は交わせない。もう想真の過去を知る者は居ない。想真と過去の傷を隠し合い、互いを守り合う事も出来ない。もう彼女は物言わぬ骸なのだ。彼女の口は言葉を紡がず、彼女の手はもうゲームをする事は無い。体温も無い。ただの、肉の塊に過ぎない。
「…お前の遺志は、力は、俺が連れていく…!」
千景だったモノの指を優しく開かせ、右手に握っていた大鎌を喰らう。以前と同じ、神機が芯から変わるような感覚がする。だが、やはり嬉しくはない。ただ、感情と呼ぶ事すら烏滸がましい空虚さが胸を包むだけだ。
残りの勇者は、あと2人